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平均点:5.51点 採点数:2026件

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採点傾向好きな作家

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No.2026 5点 藪に棲む悪魔- マシュー・ヘッド 2018/07/16 14:38
(ネタバレなしです) 米国のジョン・キャナディ(1907-1985)は大学で美術史を教えたり美術評論を書いたりしていますが、1940年代から1950年代にかけてマシュー・ヘッド名義で7作のミステリーを発表しており、その中で4作が女医のメアリー・フィニー博士シリーズです。1945年発表の本書がシリーズ第1作で舞台を(当時の)ベルギー領コンゴにしている本格派推理小説です。文章表現は非常に地味で、miniさんのご講評でも触れられているようにアフリカならではの雄大さを感じることができません。タイトルに使われている「悪魔」も演出不足です。また冒頭で農場で起きた殺人事件の謎解きであることが紹介されているものの第1の死亡事件は病死としか思えず、新たな事件はかなり後半になっての発生とミステリープロットとしては盛り上がりを欠いています。人物描写はしっかり描き分けられていますが、せっかくの個性もすっきり感のない重く暗い物語の中で埋没気味です。

No.2025 5点 オレンジ・ペコの奇妙なお茶会- ローラ・チャイルズ 2018/07/15 03:49
(ネタバレなしです) 2017年発表の「お茶と探偵」シリーズ第18作のコージー派ミステリーです。作家となる以前に作者は(規模は不明ですが)会社を設立して最高経営者を務めていた経歴があり、本書で被害者を殺す動機として財務上の不正疑惑や出資金の横領疑惑が可能性として浮かび上がるのは(真の動機かはネタバラシしませんけど)昔の経験を活かしたのかもしれません。そこがコージー派としては少し敷居が高い気もしますが、代わりに事件をいくつか発生させてこのシリーズとしてはサスペンスが高いです。セオドシアが犯人に気づく証拠を土壇場まで伏せていたり殺害機会について説明不足だったり本格派推理小説としては問題点も少なくありませんが、10章で重大な犯罪につながるおもな動機として「復讐、政治思想の違い、お金」と(CIAの専門家の記事の引用らしい)語っているのは興味深いですね。昔のミステリーでは恋愛のもつれが動機になり事件解決後に誰かさんと誰かさんが結婚してめでたしめでたしという締めくくりが珍しくなかったですが、最近のミステリーではほとんど見なくなったように思います。

No.2024 6点 赤い呪いの鎮魂花- 山村正夫 2018/07/12 23:04
(ネタバレなしです) 1983年発表の滝連太郎シリーズ第2作です。横溝正史の伝奇本格派推理小説を(作者の個性も織り込んで)継承した「湯殿山麓呪い村」(1980年)の成功のプレッシャーもあったと思いますが、本書は本書でなかなかの力作です。企業の吸収合併計画という社会派要素、バラバラ殺人に密室殺人、戦中戦後の悲劇、複雑な人間関係、そして沖縄を舞台にしたトラベルミステリー要素まで織り込まれています。トリックにはジョン・ディクスン・カーの某作品の影響も見られますが、全体としてはむしろアガサ・クリスティーの某作品を連想させる真相でした(複雑過ぎて読者が完全正解するのは難しいかも)。密室トリックも印象的です。

No.2023 5点 極夜の警官- ラグナル・ヨナソン 2018/07/08 21:19
(ネタバレなしです) 2014年発表のダーク・アイスランドシリーズ第4作の本格派推理小説ではありますが、(ネタバレにならないように説明するのは難しいのですけど)謎解きに関してはある配慮(決して難しい配慮ではない)が欠けているために読者に対してアンフェアではと思わせているのが残念です。上手いミスディレクションの技巧があって、事件捜査の中で浮かび上がる様々な人間ドラマもよく描けているだけに本当にもったいなく感じます。謎解きよりも物語性を重視する読者なら高く評価すると思います。シリーズ主人公のアリ=ソウルも単なる探偵役でなくドラマの中で苦悩しており、彼の未来はどうなるのだろうかと気になるエンディングを迎えます。人物描写に比べて自然描写は地味ですが太陽が昇らない極夜の季節の直前に起きた事件を扱い、いかにもダーク・アイスランドという雰囲気が濃厚です。

No.2022 6点 生れ変わった男- 大谷羊太郎 2018/07/07 22:43
(ネタバレなしです) 1989年発表の本書の冒頭で著者から読者へ「同一の主人公が犯人、被害者、探偵の三役を兼ねている」と通知されています。光文社文庫版の(松村喜夫による)巻末解説ではトリック重視の作者がその傾向をさらに強固にしたと評価していますが、個人的にはトリックよりプロットで勝負した作品という印象です。少なくとも中盤で明かされる1人3役の仕掛けの正体についてはトリックを期待すると肩透かしを味わうのではと思います。ちなみにタイトルの「生れ変わった」についても中盤で説明されます。前半の濃厚なサスペンス小説風展開からこの中盤を境に後半は本格派推理小説へと変身するプロット構成が本書の特徴です。それにしてもあの人物がああも都合よく心変わりしたのには微妙に釈然としませんが、これも前半のぎすぎすした人間関係との対照を作者がねらった効果かもしれません。

No.2021 6点 ホワイトコテージの殺人- マージェリー・アリンガム 2018/07/05 05:50
(ネタバレなしです) 英国のミステリー黄金時代の作家の中でドロシー・L・セイヤーズ(1893-1957)は文学的ミステリー作家として評価されていますが、マージェリー・アリンガム(1904-1966)もまた文学派と評価されています。代表作とされる作品が1930年代以降に発表されていることから黄金時代世代以降の作家(江戸川乱歩は新本格派に分類)と認識されていますが、実はデビュー作の冒険小説(但し作者自身はミステリーではないと主張してます)がセイヤーズのデビューと同じ1923年に出版されるという早熟な作家でした。ミステリー第1作が1928年出版の本書です(シリーズ探偵のアルバート・キャンピオンは登場しません)。文学的な要素はまだなく普通の本格派推理小説で読みやすいです。後半になると舞台がフランスに移りますが(最後はまた英国に戻ります)派手な演出のない展開で、探偵役の捜査難航ぶりの方が目立ちます。それだけに某米国作家の名作本格派推理小説を先取りしたかのようなアイデアが披露される最終章はなかなかの衝撃です。

No.2020 5点 珍プレー殺人事件- 川上健一 2018/07/03 08:48
(ネタバレなしです) スポーツ小説家の川上健一(1949年生まれ)が1987年に発表したユーモア本格派推理小説です。プロ野球の試合中に球団オーナーが監督室で死体となって発見されます。主人公である投手と捕手が探偵役となって事件を捜査します。試合の方も同時に進行していくところがスポーツ小説家ならではのプロットです。サスペンスよりはユーモア重視の展開ですが、通俗を通り越して卑猥に感じる文章表現が多々あるところは好き嫌いが大きく分かれるでしょう。意外と謎解きにしっかり取り組んではいますが推理ははったりだらけだし、事前に読者には知らされていない手掛かりが次々に披露されての決着という締めくくりは残念です。

No.2019 4点 眠りと死は兄弟- ピーター・ディキンスン 2018/07/01 20:14
(ネタバレなしです) 1971年発表のピブルシリーズ第4作の本格派推理小説ですが個人的にはこのシリーズ、新作が発表されるたびに難解になっていくような気がします(私の理解力が退化してるのではという疑問については考えないようにします)。キャシプニーという丸々と太って1日に20時間も眠り、特殊な治療を施さないと死んでしまう架空の病気にかかった子供たちの施設をピブル(警察を退職しています)が訪問するところから物語が始まります。子供たちはテレパシー能力を持っているらしく、ピブルに対して予言のような不安のようなメッセージを伝えます。とはいえ犯罪が起きそうな雰囲気がないまま終盤まで引っ張る展開なのでサスペンスが生まれにくく、謎解きの面白さもほとんど感じられません。ハヤカワポケットブック版の巻末解説によると作者は「資金難に苦しんでいた施設が突然裕福になったらどういう影響を及ぼすか」、「弱い立場にある人間をいかにようしゃなく利用するか」という問題を追及しているようですが、クリスティ再読さんのご講評にあるように「ミステリ的興味だけで読んだらちょっと辛い」作品です(いや、ちょっとどころか相当辛かったです)。

No.2018 6点 増加博士と目減卿- 二階堂黎人 2018/06/26 21:54
(ネタバレなしです) 「奇跡島の不思議」(1996年)には2つの版があって、王道的な本格派推理小説版とメタ・ミステリー版があるそうです。後者は紙の本でなく電子書籍版なので馴染みが薄いかもしれませんが(私も本書を読むまでは存在さえ知りませんでした)、そちらではジョン・ディクスン・カーの名探偵フェル博士を模倣した増加(ぞうか)博士が探偵役を務めています。2002年発表の本書はその増加博士が謎を解く中短編を3作収めたシリーズ第1短編集です。本格派推理小説でしかもメタ・ミステリーを狙っており、随所で「ミステリーの常識」を度外視したような仕掛けがあります。ただ「何でもあり」を標榜しながらも「この真相では読者が納得しないだろう」と節度を意識しているところもありますけど。メタ・ミステリーらしさが最も発揮されているのは「『Y』の悲劇-『Y』がふえる」(タイトルの最初のYは45度傾いています)で、とてつもない凶器に馬鹿馬鹿しい(と思う読者は少なくないでしょう)犯人と動機はインパクト十分です。個々の謎解きは化石のごとく保守的な私は感心するよりは呆れてしまったのですが、メタ・ミステリーとはどういうミステリーなのかが実にわかりやすく説明されているので1点おまけして評価しました。

No.2017 5点 罠は餌をほしがる- A・A・フェア 2018/06/24 18:05
(ネタバレなしです) 1967年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第28作の本格派推理小説です。偽証する証人を募集しているかのような新聞広告の謎解きが発端で、後には殺人事件にまで発展するプロットです。登場人物数はそれほど多くはありませんが人間関係が私の頭の中ではなかなか整理できませんでした。というのは保険会社、区画整理委員会、業務改善局、貸事務所経営など彼らが所属している組織がどういう利害関係があるのかわかりにくかったからです。文章はこの作者らしく平明でテンポも良く、何とドナルドがバーサにコンビ解消を持ちかけるなどはっとさせる場面もあるのですが私には難解な作品のイメージしか残りませんでした。

No.2016 5点 探偵は絹のトランクスをはく- ピーター・ラヴゼイ 2018/06/20 23:51
(ネタバレなしです) 1971年発表のクリップ&サッカレイシリーズ第2作です(私の読んだハヤカワポケットブック版ではなぜか「殺しはアブラカタブラ」(1972年)に続くシリーズ第3作と紹介されてますが)。「死の競歩」(1970年)では競歩の描写がいまひとつに感じられたのですが、本書では素手の拳闘(ボクシングでなくナックル・ファイトです)のトレーニングや試合の場面がなかなかの臨場感です。かなり後半になって起きた殺人事件はクリッブの推理による犯人当てがありますが、それまでは拳闘家に扮した若い巡査ジャゴの潜入捜査によって組織犯罪を暴こうとするスリラー小説的なプロットで、クリッブやサッカレイよりもジャゴの方が目立ってます。サスペンスが豊かのは本書の長所ですが、謎解きは本格派推理小説を期待する読者には物足りなく映るかもしれません。死体の首を切り落とす理由やそもそも被害者が殺される動機について(頭の悪い私でも理解できるよう)きちんと説明してほしかったです。

No.2015 6点 ポケットにライ麦を- アガサ・クリスティー 2018/06/18 01:04
(ネタバレなしです) 1953年発表のミス・マープルシリーズ第6作です。犯人の計画にかなり杜撰な部分があり、ミス・マープルの捜査と推理がなくともいずれは事実が発覚するものであったことが最後にわかります。仮に本書のネタで(犯人側の視点で)犯罪小説や倒叙本格派推理小説を書いていたらこのいい加減な計画に読者は早々と興醒めしたかもしれません。しかし本書は犯人当て本格派推理小説ですので私は最後まで問題を意識することなく謎解きを楽しめましたし、作者にうまく騙されたので犯人のことも頭がいいと思ったぐらいです(自分の頭のことは脇に置いときます)。犯人を指摘して最後の証拠を入手した時のミス・マープルの表情の変化には驚いたというかちょっと怖いものがありました。クリスティ再読さんのご講評にもある通り、作者がミス・マープルを「復讐の女神」として意識するきっかけになった作品だと思います。

No.2014 5点 ロシア幽霊軍艦事件- 島田荘司 2018/06/16 08:43
(ネタバレなしです) 御手洗潔シリーズ第7作の「アトポス」(1993年)の後、シリーズ番外編の「龍臥亭事件」(1996年)では御手洗とワトソン役の石岡和己の別れが描かれてこのシリーズはどうなるのだろうと気になった読者もいたと思いますがさらに月日が流れて2001年、シリーズ番外編の「ハリウッド・サーティフィケート」と共にシリーズ第8作である本書がようやく発表されました。色々な意味で意表を突かれた本格派推理小説です。それまでの大作主義から一転してかなりコンパクトです。作中時代は「龍臥亭事件」よりも前で、御手洗と石岡がまだコンビを組んでいます。そしてロマノフ王家の末裔である皇女アナスタシアにまつわる歴史の謎解きです。コナン・ドイルの「緋色の研究」(1887年)を髣髴させる、謎解きが終わった後に長い物語が続く構成も異色です。皇女アナスタシアがどうなったかについては研究が更に進んで本書の結論はもはやありえないことが判明してますが作者も最初から空想を交えた仮説に過ぎないことは認めていますし、史実と合わないことを批判するのは野暮でしょう。

No.2013 7点 こちら殺人課!- エドワード・D・ホック 2018/06/14 17:00
(ネタバレなしです) 数多くのシリーズ探偵を生み出したホックですがその中でもレオポルド警部シリーズが最も多く、100作を超す作品で活躍しています。それでいながら生前に米国で短編集としてまとめられたのが1985年出版の1冊のみ(但し19作も収められてますが)というのは意外です。国内では1981年に独自編集で8作を集めた本書が最初だと思います。2人の対照的な警察官の捜査が印象的な「サーカス」、無差別連続殺人の「港の死」、倒叙本格派にひねりを加えた「フリーチ事件」、観覧車からの人間消失の「ヴェルマが消えた」などが私のお気に入りです。死人の運転する自動車の「不可能犯罪」はホックは車を運転したことがあるのかと問いたいぐらい目茶苦茶なトリックに唖然としましたが(あのトリックでは普通はまともに走れないし奇跡的に走ったとしても目だってどうしようもない)、全般的には短編本格派推理小説としてプロットがしっかりしていてアイデア豊かな作品が多かったので十分満足できました。

No.2012 6点 空の幻像- アン・クリーヴス 2018/06/12 08:50
(ネタバレなしです) 2014年発表のジミー・ペレスシリーズ第6作の本格派推理小説です。過去のシリーズ作品を読んでいる読者にはペレスの回復具合がどう進んだかを興味を持って読めるでしょうし、そうでない読者でも楽しめる内容です。夏のシェトランドを舞台にしていますが雰囲気はひんやり感を伴っています。この作者らしく重厚な人間ドラマを描いていますが、そこに幽霊談を織り込んでいるのが本書の特徴です。幽霊談といってもジョン・ディクスン・カーやポール・アルテのオカルト演出とも少し毛色が違い、幽霊の正体についてもきちんと結末が用意されています。地味な展開ながら霧と闇の中で登場人物たちが様々な動きを見せる終盤はサスペンスをはらんでいます。謎解きとしては46章の最後で犯人を疑った理由についてのペレスの説明が曖昧なのがちょっと残念ではありますが。

No.2011 5点 醜聞の館-ゴア大佐第三の事件- リン・ブロック 2018/06/09 09:36
(ネタバレなしです) アイルランド人ですが第一次世界大戦では英国軍に在籍し戦後は英国に定住したリン・ブロック(1877-1943)は戦前から劇作家として活躍していましたが、戦後は小説にも手を染めるようになりました。非ミステリー作品もありますがミステリー作品ではゴア大佐シリーズ(全7作)の本格派推理小説が有名です。本書は1927年発表のシリーズ第3作です。英国初版は「ゴア大佐第三の事件」というそっけないタイトルで、「The Kink」(「醜聞の館」はかなりの意訳で第19章でゴアが語る「歪み」が直訳に近いです)というタイトルは米国版で付けられました。いきなりゴアが行方不明事件を捜査している場面で幕開けしますがこれはわずか2章で(すっきりしない部分もありますが)解決してしまいます。3章からは盗難事件の解決を依頼されます。地味な文章で地味な事件の捜査を描くので盛り上がりに乏しいプロットです。事件の背景にかなり乱れた人間関係があることが明らかになるのですが、あまりにも抑制された文章なので注意力の足りない私は一読では理解しきれませんでした。使用人階級の人物も(公平に?)容疑者にしたり殺人事件の謎解きをゴアが意図的に説明を避けたりと、同時代のミステリーと比べて作品個性は確かにありますがどちらかといえば通の読者向けではという気がします。

No.2010 4点 100人館の殺人- 山口芳宏 2018/06/05 05:50
(ネタバレなしです) 2010年発表の本格派推理小説ですがかなりの問題作で、読者の好き嫌いが分かれそうな気がします。登場人物リストに並んだ人数が実に118人!これでは何度本文とリストを(確認のために)往復することになるのやらと危惧しながら読みましたが、案外とすらすら読めました。主要な人物数はかなり限られていて、それどころか(きちんとチェックしたわけではありませんけど)リストのかなりの人物が作中では名前さえも紹介されない、「その他大勢」扱いです。まあ本当に全員をちゃんと描き分けしたら「水滸伝」(108人の英雄の冒険談)並みの大河小説になったでしょうけど。100人超えリストがある意味こけおどしだったのは個人的にはむしろ助かったのですが、問題は真相の方です。ネタバレにならないように紹介するのが難しいのですが、作中人物が「人間は似た種類の者同士で集まる傾向がある」と説明していますが、あまりにも特殊な種類があまりにも都合よく集まったという設定は私の乏しい想像力の範疇を越えていてすっきり納得できませんでした。

No.2009 5点 知っているのは死体だけ- 島久平 2018/06/03 22:27
(ネタバレなしです) イメージチェンジを狙ったか「そのとき一発!」(1965年)、「ダブルで二発!」(1966年)と(私は未読ですが)いかにも通俗サスペンス風な作品を発表した島久平(1911-1983)が続いて1967年に発表した伝法義太郎シリーズ第3作(そして多分シリーズ最終作)の本書は何とも言い難い怪作です。まずサブタイトルが凄いです、「女魔ドコ」。魔女ではありません、女魔です。そしてやはりというか作中で「ドコから来たのか」と駄洒落が炸裂(笑)、でもユーモアミステリーではありませんけど。しかしこのドコ、とんでもない女性です。登場人物から化け物呼ばわりされる面相、大の男の首や腕の骨を片手で折ってしまう怪力、そして何度も不可能状況下で出現と消失を繰り返して伝法や警察を翻弄、まさに女魔です。夜の世界の組織同士の対決を描いたスリラー系ミステリーですが、「第一の密室」、「第二の密室」、「第三の密室」という章があるように本格派推理小説の要素もあり、結構丁寧に推理しています。「十字架の前」の章で明かされるトリックはまじめな読者が怒りかねないようなとんでもない代物ですが、その一方で心情の描写や舞台となる神戸の風景描写など印象に残る場面もあります。読者を選ぶ作品ではありますが決していい加減に書かれた作品ではないと擁護しておきます。

No.2008 5点 阿蘇惨劇道路- 西東登 2018/06/03 21:03
(ネタバレなしです) この作者の作品はジャンル区分に悩むことが多いのですが1972年発表の本書も色々な要素が混じっており、社会派が一番強いかなと思います。ちなみに作者のトレードマークである動物ミステリーではありません。前半は手形をパクラれてしまい窮地に陥る中小企業の社長(何か松本清張の「眼の壁」(1957年)を連想しますね)、過去に保険金詐欺に加担した保険セールスマン、売上金横領をたくらむ男などあちこちに犯罪の火種がくすぶっていることが示唆され、ここまでは社会派と犯罪小説の色合いが濃いです。そして6章でついに死亡事件が発生して後半に突入します(タイトル通り阿蘇で起きますがトラベルミステリー要素はありません)。一応真相は最後まで伏せているので後半は犯罪小説から離脱します。読者に対して謎解き伏線を十分に張っている作品ではありませんが真相は予想の範疇ではないでしょうか。事件解決もそうですが犯罪に手を染めるに至った経緯も運命のいたずらに翻弄された感があるのが印象的です。

No.2007 5点 モリアーティ- アンソニー・ホロヴィッツ 2018/06/01 09:40
(ネタバレなしです) 2014年発表のコナン・ドイル財団公認シャーロック・ホームズシリーズ第2作ですが外伝的性格が強い作品です。なぜなら作中時代がドイル原作の「シャーロック・ホームズの回想」(1894年)の「最後の事件」の直後という設定なのですから。ホームズは会話の中にしか登場せず、代わって主役を演じるのはフレデリック・チェイス(米国のピンカートン探偵社の探偵という役柄)とアセルニー・ジョーンズ警部(こちらはドイルの「四人の署名」(1890年)に登場しています)です(ホームズが最後まで登場しないのかについてはここでは明言しません)。「四人の署名」ではホームズの引き立て役に過ぎなかったジョーンズが推理で頑張っているのが印象的です。ジョーンズ以外にもドイル原作の人物が何人か登場していますが第14章で登場した人物にはびっくりしました。アメリカの犯罪組織一味との対決を描いたプロットで、冒険スリラーとしてなかなか読ませます。角川文庫版の巻末解説で有栖川有栖がフェアプレイについてコメントしていますが、(第21章で伏線についての説明がありますが)読者に対してこの謎解けますかと要求する本格派推理小説ではないので、作者に騙されたかどうかという感覚はなかったです。

No.2006 4点 <稲妻>連鎖殺人- 吉岡道夫 2018/05/29 19:10
(ネタバレなしです) シナリオライターや劇画家として活躍していた吉岡道夫(1933年生まれ)がミステリー作家に転身して1990年発表したデビュー作の本格派推理小説です(当初のタイトルは「メビウスの魔魚」です)。発表時期は綾辻行人を筆頭とする新本格派推理小説全盛時代ですが、講談社文庫版の巻末解説はむしろ1960年代の「新本格派」と共通性があると評価しています。私は国内ミステリーをあまり読んでいないので2つの「新本格派」の違いもよくわからないのですが、本書は読者が犯人やトリックを自力で当てるパズル要素はほとんどない本格派です。錦鯉の愛好家の失踪と錦鯉の生産者の殺人事件、被害者が手塩にかけて育てた不世出の錦鯉「稲妻」と錦鯉を巡っての謎解きですが、多彩な人間関係描写や政治家の捜査への横槍など他にも色々な要素を詰め込んでいます。その割にすっきりして読みやすいのはよいのですが、それぞれの要素がメリハリなく並べられただけという印象が拭えません。通俗描写も好き嫌いが分かれそうです。

No.2005 5点 ロードシップ・レーンの館- A・E・W・メイスン 2018/05/26 23:08
(ネタバレなしです) 19世紀にデビューしたA・E・W・メイスン(1865-1948)の最後の作品となったのが1946年発表の本書でアノーシリーズ第5作でもあります。このシリーズで唯一イギリスを舞台にした作品でフランス人のアノーがとんちんかんな英語を何度も披露しているのが特徴の一つですが、都筑道夫の「キリオン・スレイの敗北と逆襲」(1983年)でのキリオンの怪しげな日本語と同じく度が過ぎて物語のテンポを悪くしてしまったように思います(論創社版でこれを再現しようとかなり苦労しているのは努力賞ものですけど)。失踪と出現を繰り返す謎の人物と殺人事件の関係が整理不十分で、会話も時に誰が話しているのかわかりにくく(私の読解力の弱さもいけないのですが)どうにも読みにくかったです。冒険スリラー風になったり終盤に犯人視点での事件再現場面を挿入しているところはこの作者らしいですが、本格派推理小説としては回りくどいと感じる読者もいるかもしれません。

No.2004 5点 キプロスに死す- M・M・ケイ 2018/05/26 21:57
(ネタバレなしです) インド生まれの英国の女性作家メアリー・マーガレット・ケイ(1908-2004)は歴史小説、児童書(何作かはイラストも自作です)、ラジオドラマ脚本なども書いていますが、軍人の夫に帯同して海外諸国で生活した経験を基に外国を舞台にしたミステリーを1953年から1960年の間に6作残しました。1956年発表の本書(英語原題は「Death Walked in Cyprus」)はミステリー第2作です(ハヤカワミステリ文庫版では1984年出版と記載されていますがこれは「Death In Cyprus」に改題出版された年です)。ロマンチック・サスペンスと本格派推理小説のジャンルミックスタイプです。人物描写や舞台描写は上手いし(個人的には主人公にいまひとつ共感しにくかったですけど)、謎解き伏線も意外と豊富に用意されていてなかなか楽しめました。とはいえ本格派推理小説としてはジュリア殺しのあまりにも残念なトリック(ピーター・ラヴゼイも使っていたと思う)に減点評価せざるを得ませんが。

No.2003 6点 吠える犬- E・S・ガードナー 2018/05/26 21:09
(ネタバレなしです) 1934年発表のペリイ・メイスンシリーズ第4作の本格派推理小説です。隣家の犬が吠えてうるさい、いや吠えていないというミステリーネタとして食指が動きそうにない問題で幕開けしますがメイスンは結構大真面目に取り組んでます。依頼人が駆け落ち(?)でいなくなってしまいメイスンは新たな依頼人を見つけてきますが、最初の依頼人の利益を損ねる可能性があるからと複数の依頼を引き受けるのに慎重な後年作品のメイスンとは少し違いますね。また弁護士の信条についてメイスンが何度も熱く語っているのが印象的ですが、依頼人を守るためとはいえ相当過激な手法をとってます。謎解きはかなり粗く、18章でメイスンが語る真相の一部には驚かされますが推理の根拠をほとんど説明していないので合理的とは言えても論理的とは言えないように思います。なお最後に生きるか死ぬかの問題を抱えているらしい女性の訪問で「奇妙な花嫁」(1934年)へ続くという幕切れにしていますがこの場面、新潮文庫版では読めますが創元推理文庫版とハヤカワポケットブック版では削除されています(創元推理文庫版ではその場面は「義眼殺人事件」(1935年)に挿入されています。でもそれだと出版順と矛盾してるんですけどね)。

No.2002 6点 人体密室の犯罪- 由良三郎 2018/05/21 09:05
(ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説で、病院を舞台にして登場人物の大半も医療関係者にしているところは医学者だった作者らしいですね。当初のタイトルは「円周率πの殺人」でしたが改題したのは正解だと思います。外傷は見つからないのに胃と腸が切り離されて死んでしまうという前代未聞のトリックに挑戦です。とても自然死では押し通せそうになく、実行可能な人間が絞られるなど犯人にデメリットしかなさそうなトリックですが作者の挑戦意欲を買いましょう。トリックが(当時としては)先進的なアイデアなのに対して動機が泥臭いまでに古典的(というか通俗的)なのが印象的です。犯人当てとしては自白便りになっているところが少々物足りないですが。

No.2001 5点 ムッシュウ・ジョンケルの事件簿- M・D・ポースト 2018/05/19 02:22
(ネタバレなしです) 1923年発表の本書は中編「異郷のコーンフラワー」(短編2作分の分量です)と11作の短編から成る短編集で、パリ警視総監のジョンケル氏が活躍します(もっとも警察官としての捜査描写はほとんどありませんが)。舞台はフランスだけでなくイギリス、スイス、ベルギー、そして真相が有名な「大暗号」(1921年)ではアフリカのコンゴと多岐に渡ります。舞台以上に多彩なのがプロットで、何が起きているのかさえわからない作品も少なくありません。本格派推理小説として明快な筋立ての多かったアンクル・アブナーシリーズとは対照的で、チェスタトンのブラウン神父シリーズほどではないにしろ回りくどくて読みにくさを覚える時がありました。何の伏線もなく真相が明らかになるので意外というより唐突感の方が強かったです。

No.2000 5点 人喰い- 笹沢左保 2018/05/15 00:57
(ネタバレなしです) 1960年発表の長編ミステリー第4作の本格派推理小説です。企業における労使の対立を描いたり、失踪して殺人容疑者となった姉の無実を証明しようとする妹を主人公にしたりと当時人気の高かった社会派推理小説の影響が色濃くにじみ出ています。この作者らしくトリックもありますが、アマチュア探偵となった主人公の推理が時にミスディレクションの役割を果たしているところが工夫になっていてトリックよりもプロットで勝負した作品だと思います。1960年の初期4作の中では謎解きの出来では劣るように感じますが、物語性では1番充実していると思います(主人公の不幸が強調された物語ですが)。

No.1999 5点 雪の夜は小さなホテルで謎解きを- ケイト・ミルフォード 2018/05/11 09:05
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ケイト・ミルフォードが2014年に発表した本書は創元推理文庫版の巻末解説で紹介されているように色々な要素を詰め込んでいますが、個人的には冒険小説とファンタジー小説の要素が強いように思います。アメリカ探偵作家クラブ賞のジュブナイル部門で最優秀賞を獲得したそうですが、雰囲気はライトながらどうもごちゃごちゃして読みにくかったです。主人公のマイロとメディがロールプレイイングゲームのキャラクター(ネグレとサイリン)を演じるのですが、4つの名前が入り乱れるのは無用な混乱を招いただけに感じました。ホテルの見取り図も欲しかったですね。ミステリーとしては小さな謎を小出しにされていて焦点が定めにくく、11章の終わりのマイロの推理説明はまずまず読ませますが12章での驚愕の事実の前に謎解き興味は吹っ飛びます。日本語タイトルから謎解きにあまり期待をかけるとがっかりするかもしれません(英語原題は「Greenglass House」です)。

No.1998 6点 卑弥呼の殺人- 篠田秀幸 2018/04/27 09:41
(ネタバレなしです) 2005年発表の弥生原公彦シリーズ第9作の本格派推理小説で、歴史の謎解きと現代事件の謎解きの二本立てというのは「法隆寺の殺人」(2001年)以来です。歴史の謎は高木彬光の「邪馬台国の秘密」(1973年)でも扱われていた「邪馬台国はどこにあったか」という謎で、高木説に松本清張説まで引用して考証しています。作中に20以上の図表が登場しますが現代事件に関する図表はわずか2つですので歴史の謎解きに相当力が入っていることがわかりますが、付随的に見える現代事件の謎解きもある意味「究極のミステリー」を狙った大胆な仕掛けが用意されていました。この仕掛けと「読者への挑戦状」が両立しているのか微妙な気もしますが、往々にして読者が馬鹿にされたと感じてしまうところを馬鹿にされたのはワトソン役であると感じさせるように工夫していてそれほど不満は覚えませんでした。但し弥生原が「究極の密室トリック」と自賛しているトリックが先輩作家トリックのもろパクリなのは許さん(笑)。

No.1997 5点 間に合わせの埋葬- C・デイリー・キング 2018/04/20 09:10
(ネタバレなしです) 1940年発表のABC三部作(出版はCABの順)の最終作となった本格派推理小説で、ミステリー作家としてのキング(1895-1963)はこの後は短編を散発的に発表したのみでした。英語原題が「Bermuda Burial」とあるように舞台は北大西洋のバミューダで、情景描写はそれほどでもありませんがプロットの中でバミューダを選んだ理由づけがしっかりしています。誘拐予告に端を発していますが事件がなかなか起きない展開はやや冗長に感じました。論創社版の巻末解説は不可能犯罪、フェアプレイ、多重解決を期待する読者には不満の残る内容と厳しい論調ですが、確かに殺人事件に関する説明があまりに短くて推理説明として不十分だったりしてますが「いい加減な遺骸」(1937年)のように(トリックの)ひどさが突出しているほどではありません。ロード警視が女性にめろめろになって捜査に冴えがないのが印象的で、探偵役の恋愛を絡めたミステリーの先駆的作品であるE・C・ベントリーの「トレント最後の事件」(1913年)が頭に浮かびました。

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