メルカトルさんの登録情報
平均点:6.01点 採点数:802件

TOPプロフィール高評価と近い人書評を見る

採点傾向好きな作家

1 2 3 ... 27
No.802 6点 少女禁区- 伴名練 2017/11/18 22:05
表題作と『chocolate blood,biscuit hearts.』の少し長めの短編二作から編成される小品。

『少女禁区』は呪術などが横行する異世界で、「私」が少女からあらゆる屈辱的な行為でおもちゃにされる物語。やや古めかしいテーマを扱ったジャパニーズ・ホラーですが、文章はそれなりにこなれており、独自の雰囲気は感じ取ることができました。
中盤まで先行きの見えない不安定感が逆に読者をページを捲らせます。そして巫女が出現する辺りから面白さが倍増し、ややベタですがいかにもな世界観が広がります。ミステリ的な一捻りもあり、ラストまで飽きることなく楽しめます。
最後のオチについてはありだと思いました。評者の荒俣氏は甘口すぎるとのご意見でしたが、確かにそれまでに伏線らしきものがほとんどなかったため致し方ないのかもしれません。ですが、私は悪くないと感じましたね。

『chocolate blood,biscuit hearts.』はネット広告サービスから身を起こし、世界的な大財閥にまでのし上がった、今は亡き父親の呪縛から逃れるために、姉弟が決死の想いで脱出に成功するというストーリーです。
彼らはまず大金を手に入れるため、非倫理的な、今でいうユーチューバーのような映像を提供していきます。
これはホラーと言うよりも、SF系のミステリの趣が強いと思います。こちらも捻りが効いており、その意味でも意外性が感じられる好編です。

No.801 4点 パンドラ 猟奇犯罪検死官・石上妙子- 内藤了 2017/11/17 21:56
死神女史こと石上妙子の東大法医学研究室在籍時代。若き日の彼女は法医昆虫学者で客員教授のジョージと共に、少女連続失踪事件の謎に挑む。

「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズ」のスピンオフ作品です。シリーズを読破した読者にしか分からない、若き日の石上妙子のこれまで明らかにされていなかった謎の部分が公になり、コアなファンはスッキリしたと思います。が、作品の出来はイマイチと感じました。
本作の一番の読みどころは石上の生き様でしょうか。彼女の内面を鋭く抉る描写は確かに読み応えがあります。そして興味深いのは、人間の死体に群がるシデムシの生態ですね。シデムシの母虫は幼虫を給餌して子供を育てるが、餌が無くなると子供を食い殺してしまうという、なんとも無慈悲で合理的な自然の法則は、読んでいて辟易とします。
しかし、肝心の少女連続殺人の犯人は【主な登場人物】を見ればほぼ分かってしまいますし、動機が謎のまま残ります。これはいかんでしょう。そしてもう一つの謎も謎のままです。パンドラの甕を空けたら最後に残ったのは希望ではなく謎だったではシャレになりません。これでは消化不良に終わるのは当然です。なぜAmazonであれほど高評価なのか私には理解できませんでした。
畢竟この小説は、石上妙子というキャラの魅力を楽しむための本だということなのだと思います。

No.800 6点 崩れる脳を抱きしめて- 知念実希人 2017/11/14 22:03
医療ミステリとしても恋愛小説としても良作だと思います。思いますが、私にとっては若干低刺激と言いますか、もう一つ突き刺さるものがなかったのが残念です。あくまで個人的にですので、一般的にはもっと評価は高くなるのではないかと思いますが。

主人公の若き研修医、碓水蒼馬の初恋と脳腫瘍でいつ命が尽きてもおかしくないユカリの初々しくもほろ苦い交流。しかし、それを根底から揺るがす出来事が起こります。全般的に程よい起伏が感じられ、テンポよく物語は進行します。傷つきやすい蒼馬の揺れ動く内面を的確に捉える描写はさすがの手際ですね。

ラストにサプライズが待っていますが、ミステリ的にはありがちな趣向なので、ある程度ミステリを読み込んでいる人なら、容易に想像がつくでしょう。それをうまく隠しきれていないのと、やり方によってはもっと世界が反転する様を衝撃的に表現できたのではないかと思うと、やや不満が残ります。
ですが、一現役医師としての知識は勿論間違いないと思いますし、作家としての手腕を認めないわけにはいきませんね。

No.799 7点 人間椅子 乱歩奇譚- 黒史郎 2017/11/11 22:07
始業前の教室。中学生の小林少年は目が覚めると、教壇の上に担任教師の死体が胡坐をかいて座っているのを目撃する。しかし、その死体には頭部が欠損しており、その姿はまるで椅子のようであった。
やがて容疑者として身柄を拘束された小林少年は、高校生で名探偵の明智に「自分の力でこの事件を解決して見せろ」と言われるが・・・。

本作はアニメのノベライズ作品です。原案は江戸川乱歩、原作は乱歩奇譚倶楽部だそうです。私もその辺りの事情には疎いので何とも言えませんが。いえ、ちょっと待ってください、そこの貴方。「所詮アニメだろう?そんなもの読めるかい」そう思われるのも分かりますが、これが意外と面白いのです。
乱歩とは方向性が違いますが、その変態的なスピリットは脈々と受け継がれています。人間でもない、椅子でもない、まさにそれは「人間椅子」であります。
ミステリとしては小粒に違いないですが、主にフーダニット、ホワイダニットに特化した優れた作品だと私は思います。少ない登場人物の中から果たして小林少年は誰を犯人として指摘するのか、そこにはしっかりと伏線が張られているのも高評価。
担任教師の心理状態、真犯人の心の闇なども克明に描かれており、単なる『人間椅子』をモチーフにしただけの紛い物とは事を異にします。

No.798 6点 優しい死神の飼い方- 知念実希人 2017/11/09 22:12
ホスピス「丘の上病院」に余命幾ばくもない患者たちの未練を断ち切り、地縛霊とならないように派遣された死神。彼はなぜかゴールデンレトリバーの姿となり「仕事」に向かおうとするが、あまりの寒さのため死にかけのところを若い看護師菜穂に救われる。そしてホスピスに入り込むことに成功した死神は、患者の未練をその能力で探っていくが・・・。

第4章まではいわゆる日常の謎系ですが、それ以降物語はそれまでのハートフルな「いい話」から死神と菜穂の冒険活劇の様相を呈します。死神が救った三人の患者を始め、菜穂の父親である院長や彼女が憧れる医師の名城ら、個性的な登場人物はかなり上手く描き分けられており好感が持てます。
現状、このような口当たりの良い、まろやかで感動できるミステリが持て囃される時代なのでしょうが、まあ良し悪しは別として本サイトの本格好きなマニアには、間違ってもお薦めは出来ません。
しかし、悪食の私にとっては決して見逃すことのできない作品ではありました。エピローグは涙なくして読むことができません。
ただ、多産系の作家にありがちな文章の「軽さ」だけはいかんともしがたいものがあります。読みやすければ何でもいいという訳ではないと思いますので。さすがの私も。しかし、本作が一般読者に受けている理由は私なりに理解できる気がします。


【ネタバレ】


第1章に一点だけ、心理的に矛盾していると思われる箇所があります。命がけで好きな男を戦争から守るために駆け落ちしようとしている女が、大事なものを忘れるはずがないということです。

No.797 6点 奇偶- 山口雅也 2017/11/08 22:34
一部では『匣の中の失楽』に次ぐ第五の奇書と呼ばれいているようですが、これは版元である講談社発信であり、一般には単なる奇書と呼称されるべき作品だと思います。
本格ミステリかどうかは意見の分かれるところだと思いますが、あまりに不確定性原理、確率論、人間原理などの衒学が溢れかえっており、その辺りが奇書と言われる所以なのでしょう。少なくともミステリであるのは間違いないですが、本格かどうかは疑問です。
奇偶とは奇数と偶数から転じて、丁半博打のことも意味します。そのタイトル通り、カジノのクラップスで4回連続六のゾロ目の奇跡に立ち会う主人公の火渡は、その4回すべてに賭けて勝ち続ける小人に取材したり、逆に負け続けた太極柄のネクタイの男がサイコロ型の電飾の落下により圧死したりするストーリーの流れは非常に興味深く読みました。
その夜、偶然眼の疾患により右目の視力を失う火渡は、偶然に次ぐ偶然に何らかの意味を見出そうと、新興宗教にのめり込んでいきます。
その後は面白いとか面白くないとかの次元を超えた奇書ぶりを発揮して、個人的には訳の分からなさが勝って、どう評価してよいのかすら判断できない状態です。

本作は山口雅也が残した、唯一の超異色作であり、ある意味氏最大のアダ花と言っても良い作品だと思います。

No.796 7点 がらくた少女と人喰い煙突- 矢樹純 2017/11/06 22:17
がらくた集めが生きがいの中学三年生の少女、陶子。その前に現れた心理カウンセラーを名乗る桜木静流。彼は陶子の病名を強迫性貯蔵症と診断するが、実は彼も人に言えぬ神経性の疾患を抱えていた。
二人は治療と称して狗島という孤島に渡るが、到着したその日に陶子の伯父が首なし死体となって発見される。さらに彼らの前に四肢を切断された死体が・・・。

どことなく横溝正史ワールドを彷彿とさせる本作は、人を食ったようなタイトルとは裏腹に骨格のしっかりした本格ミステリです。それにしてもこのタイトルはミステリ読みの心をくすぐるかなりの吸引力を持ってはいませんか?
勿論、がらくた集めが事件の解決に有機的に結びつています。というのは大げさかもしれませんが、それなりの役割を果たしているのは確かです。また、桜木の相当風変わりな異常嗜好も大いに事件に関わってきます。そのため、余計な誤解を招いて混乱を引き起こす引き金にもなっていますが。
首なし死体の謎(なぜ切断されたのか)は、現実的に可能かどうかは別として、新たな切り口と言っても良いと思います。斬新かどうかは分かりませんが、少なくとも私のつたない読書経験上では初めてです。
二人目の死体の四肢切断の理由については、あまり期待を寄せないほうが賢明です。探偵である桜木自身もあまりそのことを重視していない雰囲気は感じましたので、まあそうだろうなと。

この作者の本業は漫画の原作らしいですが、そんなことしている場合じゃないでしょうよ。もっとミステリを書かなきゃダメでしょう。ちなみに本作がミステリは二作目のようです。

No.795 4点 二階の王- 名梁和泉 2017/11/03 22:18
第二十二回日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作。

東京郊外に両親と暮らす朋子には大きな悩みがあった。二階の自室に何年もひきこもって家族に姿すら見せない兄の存在だ。そんな朋子は職場の加東に惹かれるが、兄のことを話せずにいた。
同じ頃、考古学者砂原の残した予言をもとに、『悪因研』を名乗るひきこもり経験を持つ男女六人は<悪因>の探索をおこなっていた。<悪果>の存在を嗅覚で知ることのできる掛井は、同じショッピングモールで働く朋子に心を寄せていた。

冒頭、兄のひきこもり具合を描く辺りは興味深いものがありましたが、そこからなかなか話が進展しません。ホラーと言っても、ファンタジーの要素が色濃く、どちらとも付かない中途半端さが目立ちます。そして、全然怖くありません。
同じような描写が何度も繰り返されるのも鼻につきますし、全般的に底が浅いと感じました。もっと部分的にでも良いので、深く掘り下げるプラスアルファがほしかったですね。ストーリー的にも面白みに欠けますし、一向に盛り上がりません。盛り上がるはずのラストも後日談的に終わらせてしまっており、何がどうなったか詳らかにするのを放棄しているようにしか思えませんでした。
残念ながら、最後までさしたる捻りもなく、平坦な文章に終始し、私を震撼とさせるような小説には程遠かったです。

No.794 7点 陽気な死体は、ぼくの知らない空を見ていた- 田中静人 2017/10/30 22:24
「明日雨が降ったら、お父さんを殺す」。これがすべての始まりだった。
小学五年生の大地は幼馴染でクラスメイトの少女、空からそう告げられた。なぜという問いに「お父さんは、人間じゃなくなったから」という回答が。あくる日は雨で、空のお父さんが死体となって発見された。さらには別の雨の日、空の兄である悟が殺された。果たして本当に空が犯人なのか?そんな中、悟が「死体」として大地の前に現れる。悟は見える人にしか見えないことや、壁を通り抜けられることを利用して、なぜ自分が殺されたのかを探り始める。一方、クラスの美少女光の下着が盗まれたり、チャボが猫に襲われたりの事件が起きる。

途中までは大地、空、光の歪な三角関係を中心にした、ややダークな青春ミステリくらいにしか思いませんでした。物語半ばで誰が陰で糸を引いているのかが明確になります。ということは、残る謎は悟が殺された理由だけかな、などとのほほんと読んでいましたが、後半それまでの風景が一変します。そこにはあまりに痛々しい青春ミステリと呼ぶには残酷すぎる現実が待っています。呑気に読んでいた自分を叱りたくなりました。
すべての登場人物にちゃんとした役割が割り振られ、余計なエピソードなどは限りなくカットされているにも拘らず、しっかりとした人物造形がなされています。特に大地、空、悟の心理描写は細部に至るまで描かれており、その場その時々の心理状態が手に取るようにわかります。
正直あまり期待していませんでしたが、かなりの拾い物、いや秀作と言っても過言ではないと思います。

No.793 7点 ずうのめ人形- 澤村伊智 2017/10/28 22:05
随分と仰々しいタイトルに、ドロドロとしたイメージを抱いていましたが、意外と纏まりのある現代的なホラーでした。しかし、あまりに綺麗に纏まり過ぎていて、衝撃度という点では物足りなさを感じました。ただしじわじわと迫ってくるタイムリミットなサスペンスは、読んでいて独特の世界観に引き込まれます。さらに、ミステリ的な謎解き要素も盛り込まれており、そうした側面でも楽しめます。
これは仕方ないのかもしれませんが、人間関係の絡み方に不自然さというか、偶然に頼りすぎな面があるのが気にならないでもありませんでしたね。しかし予測不能のラストは想像外の展開に、おっとそう来たかと思わずニヤリとさせられました。まさかのトリックを駆使して意外性を押し出してきたのも、この作者は只者ではないと思わせます。
全体的によくできたホラーだと思います。ですが、肝心のホワイの部分にやや弱さを感じたというか、恨みを向ける方向性が間違っているのではないかと思わないでもありませんでした。

No.792 7点 ぼっけえ、きょうてえ- 岩井志麻子 2017/10/25 22:12
岡山県の遊女が寝物語で客に自身の半生を語る表題作『ぼっけえ、きょうてえ』は、この短編集の中でダントツに怖いです。すべて口語体で岡山弁で描かれていますが、幸い私は学生時代岡山県出身の友人がいましたので、まったく違和感を覚えませんでした。まあしかし、岡山弁に馴染みのない方でも十分理解しやすい内容だと思いますので、それ自体が弊害になることはないでしょう。
ほかの短編はまさにジャパニーズ・ホラーと呼ぶに相応しい、土着色の濃い過疎の村を舞台にした怪談に近い物語です。しかも細やかな描写は時に心に突き刺さり、時に心に染み入ります。最早これは文学ですよ、文学。中身が中身だけにそうはいきませんが、文章だけ取ってみれば高校の現国の教科書に載ってもおかしくないような、素晴らしいリーダビリティを誇っています。
いずれも岩井氏の故郷である岡山を舞台にしており、因習深い村特有の陰惨な雰囲気が何とも言えません。ちなみに時代は明治辺りだと思います。
なお、表題作の意味は「とても、怖い」という意味です。このタイトルはなかなか秀逸ではないでしょうか。

No.791 4点 シャーロック・ホームズ対伊藤博文- 松岡圭祐 2017/10/22 07:46
モリアーティ教授と共にライヘンバッハの滝つぼに落下し死んでしまったと思われていたシャーロック・ホームズが、日本に密入国し伊藤博文と再び邂逅し、合見えるという設定は魅力的ではあります。しかし、ミステリに政治や外交が絡むと、そちらに神経が持っていかれて、肝心のミステリ部分の魅力を感じることが難しくなります。
しかも大津事件は日露関係に大きな影響を及ぼすものではあっても、事件そのものは単純で、さして惹きつけられる謎めいた雰囲気を私は感じ取ることができませんでした。そういう意味で、日露の政治的駆け引きを差し引くと、残ったのは歴史的な意味では大事件でも、読者にとっては大した魅力を感じないわずかな謎のみであります。
タイトルからはホームズと伊藤が推理対決するように思われますが、せいぜいホームズが妻子ある伊藤の女遊びを諫める一方、伊藤がホームズにコカインの使用を止めさせる程度の「対決」にとどまっています。あくまで主役はホームズであり、伊藤はワトソン役ですので、その点は心して読まれた方がよいと思います。

それにしてもAmazonのレビュアーにやられました。数多くのレビューが寄せられているし、しかも平均得点が高い。これは想像ですが松岡圭祐フリークスが寄って集って高得点に押し上げた結果のような気がします。どうやら森博嗣と同様、松岡圭祐にも多くの熱狂的ファンが存在するようですね。他の作品を見てもほぼ高得点ばかりですから。その意味で、私としては言葉は悪いですが「騙され」ました。もっと期待していたのに・・・。

No.790 5点 Mの女- 浦賀和宏 2017/10/17 22:29
それぞれ一人が生き残った鈴木家殺人事件と白石家の放火事件。作家の西野冴子はある人物からの手紙により、両殺人事件は交換殺人ではないかと疑いを持つ。一方友人の篠亜美が付き合い始めたタケルが、鈴木家殺人事件の生き残りではないかという疑惑を抱く。手紙の送り主である白石唯は一向に正体を現さず、謎はますます混迷を深める。
かなり複雑な人間関係なのに、あまりに急ぎ足で進むため、頭の中を整理するのに一苦労でした。しかもそっけない文章でストーリーがすんなり頭に入ってこない印象で、短い作品なのに話に付いてくのがやっとのありさま。もちろん私の集中力が足らないのも一つの要因ではありますが。
しかし、終盤世界が反転します。その辺りの手際は見事だと思います。突然のことで驚きますが、そのいきなりな感じがそれまでのそっけなさと相まって、余計に衝撃を受けることになります。ただ、取材用のレコーダーによる証言は、実名はともかくどのように事件と関わり合いがある人物なのかをはっきりさせて欲しかったと思いますね。文脈から想像しなさいってことでしょうが、やや不親切ではないですかね。
結末はやや不透明感があり、いったい本当の真実はどこにあるのだろうと首を傾げたくなるもので、何とも言えないモヤモヤとした余韻を残します。

No.789 7点 フェノメノ 美鶴木夜石は怖がらない- 一肇 2017/10/14 22:35
此岸と彼岸の境界を軽々超えてしまう謎の美少女、美鶴木夜石。オカルトサイト『異界ヶ淵』の管理人にして、20歳で童顔、巨乳のクリシュナ。二人の美女に挟まれるように次々に怪異に見舞われる主人公の凪人。この三人を中心に進行する青春+怪談の物語。
凪人の東京での新たな住まい「願いの叶う家」では謎のラップ音や迫りくるカウントダウンに悩まされ、曰くつきの廃病院では思わず持ち帰ってしまったノートに呪われ、終いには夢の中にまで怪異に追い込まれるという、憑依体質の凪人は様々な災厄に襲われます。
ところで星海社ってなんですか。見たことも聞いたこともありませんが。講談社の子会社のようですが、一見普通の文庫本ですねえ・・・。いや、一つだけ大きな特徴が。それは今時新潮文庫くらいしかついていないと思っていたスピン(栞替わりのひものこと)、しかも異様に幅の広く青いのが付いているじゃないですか。お世辞にもコスパが良いとは言えない星海社、こんなところで無駄にコストを使っているとは、侮れません。
本作はホラーと青春小説が丁度いい具合に融合した、読み応えのある一冊だと思います。個性豊かな登場人物たちも生き生きしていますし、起伏のあるストーリーも怖さはほどほどに抑えてありますが、物語に入り込みやすい構造になっています。怖いというより面白い、心に残るという作品だと思います。

No.788 5点 さよなら妖精- 米澤穂信 2017/10/11 22:10
異国の少女との出会いと別れ、いやー切ないですね。
青春ミステリというか、どちらかというと日常の謎系に属する作品だと思います。ただ、途中の誰でも予想の付く軽めの謎は大したことありません。それよりも、帰国したマーヤの行方を必死に探す主人公守屋のくだりは心に残るものがあります。でも、どうしても守屋の言動で理解できないところがあり、またマーヤも異邦人らしさがあまり感じられず、感情移入はできませんでした。いきなり「俺をユーゴスラビアに一緒に連れて行ってくれ」と告白されてもねえ、そこに至るまでの伏線らしきものもないため、突然何を言い出すんだろうくらいにしか思われません。
ラストの守屋と太刀洗の「対決」は読み応えがありますが、それ以外はさして盛り上がりもなく、なんとなくストーリーが進行してしまう感じで、ボーイミーツガールの物語としては物足りませんね。恋愛小説みたいな甘いものではなくても、もう少し男女のふれ合いの描き様があったように思います。
個人的には残念ながら期待外れに終わりました。先述の切なさはあくまで最後まで読み終わってほのかに感じることで、全体的なトーンとしては淡さや透明性を体感できるものではありませんでした。

No.787 6点 臨床真実士ユイカの論理 ABX殺人事件- 古野まほろ 2017/10/08 22:14
相手の発言に対してそれが客観的事実か否か、またそれを相手が正直に答えているか否かを瞬時に判別できる能力(障害)を持つ臨床真実士という肩書の探偵唯花が連続殺人事件に挑む、ミッシングリンク物。
タイトルからも分かるように、最初の被害者は名前が芦屋雄次、赤坂で殺害され、血液型がA型。次は勿論Bに由来する殺人事件が・・・。なぜこのような関連付けがされたか、唯花に対して殺害予告が一々届くからです。また現場にはA、B、O、AとBを象ったキャンドルが残されます。なぜ犯人はこのような殺人を行ったのかというのが第一の命題です。
ABCでもなく、ABOでもなく、ABXなところがミソです。解答編の前に「読者への挑戦状」が挿入されているように、一応理詰めで犯人を指摘することはおろか、ミッシングリンクを推理することも可能となっています。あくまでフェアに情報は読者の前に提示されますので、頭を振り絞れば解が得られるとは思います。が、これが結構難題ですので、読まれる方は覚悟して臨んでいただきたいと思います。
まあそれなりの面白さ楽しさは維持していますが、探偵役のヒロインの口癖が鼻に付いたり、個人的にあまり好感がもてなかったりしたのでこの点数にしましたが、内容的には7点でもよかったように思います。

No.786 8点 少女キネマ- 一肇 2017/10/05 22:13
どん兵衛消失事件に端を発する、奇妙でロマンチックなボーイミーツガールの物語。大学生の主人公十倉と女子高生さちの淡く、静かで激しいストーリーが始まります。二人きりで食べるお弁当、十倉が自力で再生させたベスパで二人乗りの大冒険など読みどころがぎっしり詰まっております。
しかし、主題はそちらではなく、あくまでタイトルにあるように自主製作映画『少女キネマ』にまつわる男たちの丁々発止のやり取りや奮闘を描くものです。そこにヒロインさちがどのように絡んでくるのかと興味は尽きないところです。最初はもっと十倉とさちのふれ合いが中心に描かれるものと思っていましたが、要所にさちが登場するだけなので読んでいる身としてはやきもきさせられます。が、これも作者の計算通りということなのでしょう。
では肝心のミステリはどうなっているのかというと、これが最後の最後意外な手法で種明かしされる趣向となっています。果たしてこれがミステリなのか、いや、一つのミステリと言えるのではないか、筆者は悩み煩悶します。しかし、これだけの傑作を読みながら、そんな些細なことはどうでもいいんじゃないかとすら思わせる底力を有している作品に違いはないのです。
最後に一言言わせてもらえるなら、およそ作家には何でもないようなことを実に面白おかしく書ける人とそうでない人がいると思いますが、この作者は明らかに前者だということです。一作しか読んでいませんが、ほかの作品でもそうであってほしいと願っています。

No.785 5点 だいじな本のみつけ方- 大崎梢 2017/09/30 22:14
中学二年生の中井野々香はある日放課後、手洗い場の角にまだ書店に並んでいないはずの文庫本を見つける。書店のカバーを頼りに、行きつけのゆめみ書店に早速駆けつけた野々香だったが、まだ発売前の本を見つけられるはずもなかった。
という日常の謎から始まり、ささやかな謎を経ながら中学生たちがPOP作りや小学生への読み聞かせなどを経験してく、ほのぼのとした物語です。ジュニア向けのせいなのか、易しい文章が逆に慣れなくて読みづらかったりします。ですが、元書店員という職歴を存分に生かした作品には違いありません。
ミステリとしてはやはり弱いと言わざるを得ませんが、いわゆる「いい話」に終始して、いけ好かない人間も出てきませんし、読み物としては悪くないと思います。ただ、中にはハッとするようなトリックも飛び出して、それはタブーだろうなどと心の中で突っ込んだりしながらも、それなりに楽しい読書になりました。
まあお勧めするなら中学生くらいまでですかね。しかし、こうした優しく救いのある小説が好きな人もいるでしょうから、あまり夢を壊すようなことは言わないほうがいいんでしょうか。

No.784 6点 少女は夜を綴らない- 逸木裕 2017/09/28 22:11
主人公は加害恐怖を患う中学3年の少女、理子。他に主要登場人物は、理子の目の前で死なせてしまった幼馴染の加奈子、加奈子の弟で何か良からぬことを企む悠人、その父で借金取りに追われる龍馬、理子の友人でボードゲーム研究会部長のマキ、同じく部員で気の強い後輩の薫、ホームレスのハナコさんら多数。
理子は半ば強引に悠人にある計画の実行を手伝わされるのだが、そのうち彼女のほうがその計画を一から練っていくのに夢中になっていく。その間にも様々な事件が勃発し物語は紆余曲折を経る。一方、周辺ではホームレスの殺害事件が相次ぐ。
横溝正史賞受賞後第一作は、どこか混沌としながら展開する青春ミステリです。期待が大きすぎたせいか、やや食い足りない感じを受けはしましたが、二作目としてはまずまず合格点を上げてよいように思います。もう少しプロットを整理できていたら、もっと読みやすいエンターテインメントに仕上がっていたのではないですかね。
ただ、エピローグは素晴らしいと思います。何がとは言えませんが、さすがにただでは終わらない感じですか。
蛇足ですが、極上の装丁だった前作と同じスタッフで作られた表紙は、これまた称賛に値する見事な情景を表現した一つの「作品」に仕上がっています。

No.783 6点 安楽探偵- 小林泰三 2017/09/24 22:18
「先生」と呼ばれる私立探偵に、依頼人たちが一風変わった悩み事を持ち掛け、その場で探偵が解決するという異色の連作短編集。
ホラー出身の作者だけに、本格というよりブラックコメディ色の強い、ホラーに近い作品集となっています。勿論「先生」は理詰めで推理し解決に導くわけですが、その落としどころはほとんどが反転する形を採っています。つまり結末はほぼ想像の斜め上を行くので、意外性のあるものや予想外のラストが待っています。
しかし依頼者の持ち込む事件は、探偵よりも心理カウンセラーに行くべきなのでは?と思わせるようなものばかりなので、その意味では本格ミステリとは言い難く、先述したような異色な作品と言えると思います。
最終話の『モリアーティ』は毎度お馴染みの全短編を総括するような形式を採用しています。記述者の「わたし」がある事柄に疑問を抱き、「先生」を問い詰めるという対決姿勢を見せています。これがなかなか興味深く面白い趣向だと私は思いました。
どちらかというと地味な作品なので、多くの読者に忘れ去られがち、或いは気づいてもらえないようですが、内容的に物足りなさは感じるものの、一読の価値はあると思います。

No.782 6点 ドローン探偵と世界の終わりの館- 早坂吝 2017/09/21 22:31
身長130cm体重30kgの新名探偵登場。勿論これには訳があります。物語の中盤で、安っぽい漫画のようなエピソードが挿入されますが、ここに関わってきます。それよりももっと重要なポイントにもなるわけですが、それはここでは書きません。ご自身で確認していただきたいと思います。
そして冒頭にトリックを見破ってみろとばかり「読者への挑戦状」がいきなり炸裂します。しかしねえ、これは看破できませんよ。真相が明らかになった瞬間、唖然としてしまいました。そして僅かな腹立たしさを抑えることができませんでした。読者によっては壁に叩き付けたくなるかもしれません。あまりの出来事に、だまされたカタルシスを覚えるどころではなくなります。これを見破るにはちょっと伏線が少なすぎる気がしないでもないですね、後出しじゃんけんみたいなね。
また、名探偵ジャパンさんがおっしゃるように、全体的に気合が入っていないような感覚を覚えました。作者らしいノリノリな感じが全くないんですよ。まあ、作風に合わせたのかもしれませんが、やや物足りないように思いました。
結構破天荒な物語なのに、面白さがダイレクトに伝わってこない、ちょっと残念な作品の印象を受けました。

No.781 6点 7人の名探偵- アンソロジー(出版社編) 2017/09/19 22:17
新本格ミステリ誕生30年を記念して編まれたアンソロジー競作。
顔ぶれは新本格第一世代の綾辻、法月、我孫子、歌野の講談社ノベルズ出身作家と第三世代の麻耶に創元社から有栖川、最後は山口雅也となっています。ですが、有栖川と山口は果たして新本格のカテゴリーに入るべきなのかどうか。まあそれだけ生き残りが少ないということでしょうか。なんだかなあ。
それぞれ個性を出していますが、やはり一番面白かったのは本格でもミステリでもないけれど、綾辻でした。ネタバレになりそうなので内容については触れませんが、ほのぼのした感じと不安感を煽るような書きっぷりはさすがだなと思います。群を抜いているとは言いませんが、格の違いを見せつけた感じですかね。
他では個人的に歌野が気に入っています。将来的な名探偵像というんでしょうか、SF仕立てでありながら本格ミステリの精神を忘れていない辺りはらしいなと思います。あとは意外に山口雅也も良かったです。落語のネタを発展させたアイディアはちょっとこれまでになかったものじゃないでしょうか。最も異色な作品です。有栖川は己のスタンスを貫いた、なかなかの逸品ですね。その他はまあそれなりといった感じですか。まあしかし、全体的にそこそこのレベルだとは思いました。下手に肩に力が入らない感じはみなさんもうベテランゆえでしょうかね。

No.780 7点 QJKJQ- 佐藤究 2017/09/15 22:13
「そいつはやめとけ、ヤバいやつだ」己の内なる声が囁く。しかし、私は自身の欲望に抗うことができず、書店の棚からそれをそっと引き抜く。本当にそれでいいのか、自分。これでいいんだ、買わずに後悔するより買って後悔しよう・・・。

そして私はこの本を読み始めました。両親と兄が殺人鬼で、高校生の主人公亜李亜自身も猟奇殺人鬼なのです。そんな設定のミステリが面白いわけがないじゃないかと思いつつも、なぜか引き込まれます。導入部から言いようのない緊張感を読む者に強います。ところが物語は予想外の展開に発展していきます。面白いとか面白くないとかの次元を超えた、秘められた何かがこの小説には息づいているように、私には思われて仕方ありません。平成の『ドグラ・マグラ』とかではなく、何かこれまでにない新機軸を目指しているというか。
本書を評価する人もしない人も、気持ちはなんとなくわかる気がします。選考委員の間でも意見が分かれたのも無理からぬものがあったようですし。私が思うに、本作を評価するにあたってこれを理解できるかどうかが問題なのではなく、容認できるかどうかで評価が決まる気がします。
奇書であるのは間違いないでしょう。私はこれが嫌いではないですし、その完成された文章や使い古されたと言ってもよい幻想と現実の狭間の物語を含めて、どうしても低い点を付けるわけにはいかない気分にさせてくれる作品なのです。

No.779 5点 探偵ファミリーズ- 天祢涼 2017/09/12 22:28
帯に「このシェアハウスに集まる『家族』は全員、探偵。」とあるように、シェアハウスに入居する老若男女は全員探偵で、事件が起こる度に推理を戦わせる・・・わけではありません。つまり看板に大いに偽りありですよ。勿論これは出版社の陰謀で作者が悪いわけではないでしょうけどね。
チロリアンハウスというシェアハウスの大家という名前の大家さんが探偵役で、第一話から第四話までを彼が担当し、第五話は主人公で語り手のリオが務めます。一話ごとに増える他の住人達は最終話で漸くダミーの推理を披露するだけで、特に何かの役に立っていません。
それまでほのぼのとした雰囲気で進行していた連作短編が、第五話に至り突然死体が現れ驚きますが、これは巧妙に仕組まれた企みです。そして最終話である人物の秘密が明かされ、やや意表を突かれますが、まあこれも連作短編集にはよくある仕掛けです。
登場人物の描き分けはしっかりと出来ていますし、それぞれの事件はそれなりにバラエティに富んでいますので、評価としてはまずまずですが、トリックにいま一つ妙味がないのが残念です。特に先に述べたダミーの推理は思い付き程度であまり感心しません。

No.778 8点 冤罪者- 折原一 2017/09/10 22:07
これは凄い。文庫で600ページを超える長尺にもかかわらず、ダレることなく最後まで緊迫感を維持する、サスペンス小説の一級品になっています。まさしく折原一の代表作の一つと呼んで差し支えない傑作だと断言できます。
タイトルから受ける印象は、もしかして社会派?と思う人もおられるかもしれませんが、そうした一面もあるものの、それを逆手に取った反転劇と言えるでしょう。確かに登場人物は多めですが、決して混乱するような構成にはなっていないと思います。少なくとも私は頭の中できちんと整理できました。
果たして真相はいかなるものなのか、そして真犯人は誰なのかといった興味を抱きながら読み進めましたが、結局見事に騙されました。真相が明かされた時、久しぶりに寒気がしました。最初はこんなことがあっていいのかと思いましたが、よくよく考えても矛盾するところはなく、全体的に霧がかかったような物語の流れが、一気に晴れて雲一つない青空が広がるような感覚を覚えました。


【ネタバレ】


あとから思えば、真犯人はどことなく影が薄く、疑おうと思えば疑える人物でした。
また、動機の点で疑問に思った部分がありましたが、やや弱いかなという気がしないでもないですね。まあしかし、これだけの傑作の前では些事と言わざるを得ません。

No.777 5点 死者に捧げるプロ野球- 吉村達也 2017/09/08 22:32
のちに文庫化された際に『「巨人-阪神」殺人事件』と改題された実験的な作品です。アイディアマンの吉村氏はこれくらいのことは朝飯前だったんでしょうね。まず、作者はこの小説を一般的な読者が大体2時間30分前後で読み終わると想定し、物語全体がそれと同じ時間で推移し、ちょうど2時間30分でストーリー全体が完結するように描かれています。ですので、読者にそれくらいの時間で読了できるように、あらかじめ時間を取って読み終わることを作者は最初に勧告しています。それを読んだ読者は嫌でも挑戦するように仕向けられるという仕組みです。
時は1992年5月20日、物語の舞台は東京ドーム、まさに巨人対阪神の試合が行われている最中に事件は起きます。殺人が起こった場所は地下駐車場で、勿論メインはそちらの殺人事件なのですが、試合の実況が要所要所で差し込まれます。一見無関係に思える試合が、事件を解決する上での重要なポイントとなっていますので、要注意です。
実際事件のあらましは特筆すべき点はあまりなく、トリックも驚くようなものではありません。しかし、一気に読ませる文章力はさすがに読みやすさでは定評のある吉村氏です。こんな私でも一所懸命読んで2時間45分ほどで読み終えることができました。
ちなみにこの日の先発は巨人が桑田、阪神が湯舟でした。オールドファンには懐かしい名前ではないでしょうか。当然他にも有名どころの名前が続々登場しますので、プロ野球ファンにとっても楽しい一作だと思います。

今さらですが、吉村達也氏のご冥福を心よりお祈りいたします。

No.776 5点 きよしこ- 重松清 2017/09/07 22:30
主人公の少年きよしはカ行とタ行から始まる言葉が上手く出てきません。つまり吃音、昔で言う「どもり」のことです。彼は父親の仕事の関係で、全国各地を引っ越しで転々とします。名前がきから始まるため、自己紹介さえ思うように出来なくて、読んでいる身としては結構切ないものがあります。ですが、落ち込んだり、時に暴れたりしますが悲壮感はありません。彼が常に前向きな気持ちを持った、ごく普通の少年だからです。言葉に詰まる時は反省もしますし、周りの人達と何とかコミュニケーションを取ろうとしたりもします。
実は作者自身も幼少時代、吃音に悩まされており、当時の辛かったり悲しかったりした思い出をこの小説に投影しているようです。
きよしはいじめられたりしていたわけではありませんが、言葉が詰まることでからかわれたり、笑われたりして、孤独な少年ではありました。そんなハンディを背負った彼は年上の女性に上手く言葉が出てこない時に助けられたり、吃音矯正プログラムに通ったりしながら着実に成長していきます。ですが、作者は決して主人公に肩入れしたりはせず、付かず離れず一つひとつのエピソードを紡いでいきます。あまり感情移入は出来ませんが、程よい距離感を持って描かれるため、読み心地は悪くありません。
タイトルの『きよしこ』ですが、「きよし、この夜」を「きよしこの、夜」と勘違いしていて、きよしこという架空の友達がいつか訪ねてきてくれると信じていたことから付けられました。

No.775 6点 本棚探偵の冒険- 喜国雅彦 2017/09/05 22:49
エッセイ集、本棚探偵シリーズの記念すべき第一巻です。
『冒険』とうたっているだけあって、それにふさわしい内容となっています。例えば「ポケミスマラソン」。ハヤカワ・ポケット・ミステリを古書店を廻って、一日に何冊見つけられるかに挑戦するという、真に馬鹿馬鹿しい企画だが、その疾走感と奇跡的なオチは楽しい以外の感想が思い浮かびません。他にも「小説『兄嫁の寝室』」など、実に怪しげなタイトルのものなど様々なエッセイの域を超えたエッセイのラインナップが楽しめます。
さらには、京極夏彦、二階堂黎人、山口雅也、我孫子武丸、北村薫らが登場し、それぞれの人間性を発揮しております。口絵で描かれた彼らは本物そっくりで笑えます。これは面白くないわけがありません。みなさん古本が大好きなんですね、喜国氏だけでなくミステリ作家の本に対する狂おしいまでの偏愛ぶりが垣間見えます。
本来第二巻『回想』第三巻『生還』が間に挟まっているんですが、これらは現在入手困難な状態です。勿論古本なら手に入りますが、私は彼らのような「古本者」ではありませんので、残念ながらそこまでしてそれらを読もうとは、今のところ思っていません。悪しからず。

No.774 6点 地獄の道化師- 江戸川乱歩 2017/09/03 22:28
小学生の時に「少年探偵団シリーズ」の一作として読みましたが、非常に感動しました。一応図書室にあったものは全巻読破していますが本作がシリーズ中では最高傑作だと思いました。しかし何せ小学生でしたから、顔のない死体などには全く慣れておらず(多分初めての体験だったと思いますが)、意外な犯人という観点からも一読者としてまだまだ未熟でした。
当然大人になってからあらすじなどほぼ忘れてしまっていましたので再読してみましたが、乱歩としては本格ミステリの色合いが濃いとは言え、分かりやすい犯人像や比較的すんなりとしたプロットに違和感を覚えました。「あれ?こんなんだったっけ」みたいな感覚でしたね。つまり拍子抜けですか。やはりミステリばかり読みすぎて免疫ができてしまったせいか、この程度では驚きや感銘を受けないような体質になっていたんですね。
子供の頃の感動は薄れ、擦れた一ミステリファンとしての私が、この作品を素晴らしいと絶賛することを許しませんでした。さすがに読まなければよかったとは思いませんでしたが、夢のような体験が苦い思い出に変わるのをどうしても避けることができないという、辛い経験をしました。

No.773 4点 人生相談。- 真梨幸子 2017/09/01 22:18
目次を見てみると「居候している女性が出て行ってくれません」「大金を拾いました。どうしたらいいでしょうか」とか、中には「西城秀樹が好きでたまりません」などふざけたタイトルが並んでいます。これらは要するにある新聞に投稿された人生相談の内容を表したものです。9タイトルありますが、作者の目論見としてはこれらを短編扱いとし、最終的には一気にひとまとめに収束させるというもののようです。
狙いは分からないでもないですが、とにかく登場人物が多すぎるし、その上人間関係が複雑に絡み合っているため、一読しただけでは全てに理解が及びません。読者は必ずやカオスの渦に放り込まれることでしょう。だからといって二度読みするほど面白くもなく、なんともツマラナイ小説に仕上がってしまっています。確かに私の読解力は人並み以下ですので、一概にこれを非難するわけにはいきませんが、もう少しわかりやすく人間関係を整理してもらうことはできなかったものかと思います。
殺人も起きたのか起きてないのか判然とせず、大筋は飲み込めたものの、はっきり言って何がどうなっているのか最後までよく分かりませんでした。Amazonでは意外と高評価を与えている方もおられ、この小説をよく細部まで理解できるものだと感心せざるを得ないという感想しか思い浮かびません。
まあしかし、これだけの複雑な事件やらなんやらを考え付くのも一つの才能なのは間違いないでしょう。個人的には低評価ですが、読む人が読めばちゃんとした評価が得られるのかもしれませんね。

1 2 3 ... 27