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平均点:6.07点 採点数:1469件

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採点傾向好きな作家

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No.1469 7点 赤い博物館- 大山誠一郎 2018/09/11 21:16
~警視庁付属犯罪資料館、通称「赤い博物館」の館長・緋色冴子はコミュニケーション能力皆無だが、ずば抜けた推理力を持つ美女。そんな冴子の手足となって捜査を行うのは部下の寺田聡。過去の事件の遺留品や資料を元に難事件に挑む~
2015年に単行本として出版された本作が、地上波ドラマ化、改稿を経た文庫版にて読了。

①「パンの身代金」=グリコ・森永事件を彷彿させる企業恐喝事件。身代金を運んだ社長が入った廃屋から忽然として姿を消し、翌日全く別の場所で死体として発見された。真犯人はまさかの人物・・・なのだが、そこに至る過程というか動機もかなり特殊(悪く言えばこじつけ)。
②「復讐日記」=真犯人(と目された人物)が残した「手記」が問題となる本作。「手記」といえば、作者の仕掛けや欺瞞が間違いなく施されている、というわけで本作も例外ではない。プロットとしては既視感がきついし、フーダニットは想定内なんだけど、仕掛けそのものはなかなかよく出来ている。
③「死が共犯者を別つまで」=J.Dカー「死が二人をわかつまで」を想起させるタイトルの本作。テーマはずばり「交換殺人」。このテーマも数多のミステリー作家が挑んできたテーマなのだが、さすが作者は「そこ!」っていう部分を捻ってきている。伏線が巧妙に効いてるのもニクいけど、まぁ力技といえば力技だし無理矢理といえば無理矢理。でもよく出来てると思う。
④「炎」=これは“子供視点”がうまい具合に処理されているのがミソだろう。しかし、現実的に可能かといえばかなり懐疑的にならざるを得ない・・・(だって、一緒にお風呂に入ってるし、子供とはいえそこで気付くでしょう!)
⑤「死に至る問い」=他の方も書かれているとおり、かなりの問題作がコレ。もちろん「動機」である。動機を抜きにしても、真犯人特定に至るロジックはちょっと飛躍しすぎだろ。(①が飛躍レベル3としたら、これはレベル6くらいだ)

以上5編。
上記のとおりで、突っ込み所もかなり多い作品。
でもいいではないか! そこを変に「丸め」てしまうと、作者らしさがなくなってしまう。
文庫版の帯には「超ハイレベルで奇想天外」と書かれてるけど、いい意味でも悪い意味でも「奇想天外」な作風を貫いてもらいたい。

でもひとつ気になったのは「○れ○○り」がトリックのポイントになってる作品が多いこと。
何回も書いてるけど、人間の目ってそこまで節穴じゃないって!
そこは納得感が得られるだけの理由付けが欲しい。続編もありそうだね。
(個人的ベストは③かな。以下、②④①⑤の順)

No.1468 6点 大統領に知らせますか?- ジェフリー・アーチャー 2018/09/11 21:15
処女長編「百万ドルをとり返せ!」に続いて発表された第二長編作品。
作者といえば長編のポリティカル・スリラーor切れ味鋭い短篇集というイメージだが・・・
1978年の発表。

~1981年、ジミー・カーターの後を継いでエドワード・ケネディ上院議員が合衆国大統領に就任した。二年後、FBIワシントン支局は、大統領暗殺の情報を得て極秘捜査を開始するが、その直後、新米捜査官のマークは情報提供者と同僚二名を喪った。暗殺の日まであと一週間、捜査は一向に進展しなかった・・・~

米国大統領・・・
ちょうど最近、某新聞で現大統領を貶めようと暗躍する勢力とそれを何とかして排除しようとする現大統領の記事を読んだけど、現実の世界ではそれこそ魑魅魍魎が跋扈する世界なんだろうねぇーいや怖い怖い

ということで、実は本作「旧版」と「新版」があることを全く知らず、今回手にとったのは「旧版」の方。
もちろん主なプロットは同じなので、どちらを読んでも差し支えないんだろうけど、こういうケースも珍しいような気がする。
本作がF.フォーサイスの「ジャッカルの日」を意識して執筆されたことが巻末解説で触れられているけど、確かにプロットの方向性は似ている。(どちらも大統領暗殺の話だしね)

ただ、本作の場合、雰囲気がかなり緩い。
いきなりFBIの捜査官二名を含む四名が惨殺されるという衝撃的な前半だったのに、中盤以降、なぜかFBIの長官も大統領が暗殺されようとしている割にはのんびりしていて、読んでて「こんなんでいいんかい?」と思ってしまうほど。
主役となるマークのラブストーリーが脇筋で結構なボリュームで書かれてるのもなぁー、なんか緊張感に欠ける気がしてしまう。
もちろん、ストーリーテラーとしての作者の腕前は確かだし、面白いことは面白いんだけど、まだ二作目だけあってアラも目立つ感じだ。

というわけで、作者の作品としてはやや下位という評価。
もしかしたら、「新版」の方はそこら辺が改善されているのかも・・・(だったら選択を間違えたな)

No.1467 5点 侵入者- 折原一 2018/09/11 21:13
かれこれ二十年以上続いている「○○者」シリーズ。
実際にあった事件を元にしている本シリーズだが、今回はあの超有名未解決事件「世田谷一家殺人事件」がモチーフ。
2014年の発表。

~クリスマスの朝、発見された一家四人の惨殺死体。迷宮入りが囁かれるなか、遺族は“自称小説家”の塚田慎也に調査を依頼する。彼が書いた同じく未解決の資産家夫婦殺人事件のルポを読んだという遺族。ふたつの事件の奇妙な共通点が浮かび上がり、塚田は「真相」に近づくため、遺族を出演者とした再現劇の脚本を書き始めるのだが・・・~

う~ん。
「これは随分とっちらかってるなぁー」って思いながら読んでいた。
最近の作者の作品にまま見られるんだけど、登場人物たちが作品のなかで自分勝手に動き出して、それを作者も黙認しているとでも表現すればいいのか・・・
作者も妄想してるし、登場人物も妄想してるしで、こうなると読者は「一体、今って地の文なのか、妄想世界なのか、どっち?」って、ふわふわしてしまうのだ。

ちょっと前までの作品なら、それでもラストが近づくとそれなりに現実感のある解決に向かっていたのだが、本作はただ曖昧なままラストを迎えることになる。
こうなると、もはや「これはなに?」っていう感覚だ。
(「ピエロ」も「百舌の早贄」も引っ張りすぎ!)

現実の事件をベースにルポライターが事件を追いながら、徐々に現実と虚構の境目を捻じ曲げていく・・・という本シリーズの基本プロットももうそろそろ限界ということか。
よく読めば、今までの作品のプロットの寄せ集めということもできるし。
(「再現劇」も過去にあったしなぁ)
まぁとにかく駄作ということだ。
せっかく「世田谷一家殺人事件」という破格の大物を出してきたんだから、もうちょっとやりようがあったのではないか?
それでもファンとしては、出ればまた手に取るんだろうね・・・

No.1466 5点 ユートピア- 湊かなえ 2018/08/25 16:39
2014年より「小説すばる」誌に順次掲載されたものを2015年に単行本化した本作。
海辺の小さな田舎町・鼻崎町を舞台とした作者らしいテイスト溢れる作品。

~太平洋を望む美しい景観の港町・鼻崎町。先祖代々からの住人と新たな入居者が混在するその町で生まれ育った久美香は、幼稚園の頃に交通事故に遭い、小学生になっても車椅子生活を送っている。一方、陶芸家のすみれは、久美香を広告塔に車椅子利用者を支援するブランドの立ち上げを思い付く。出だしは上々だったが、ある噂がネット上で流れ、徐々に歯車が狂い始め・・・。緊迫の心理ミステリー~

点数を付けるとするなら、67点くらいになるかな・・・
何となくそれだけで作品の出来不出来を察することができるのではないか。
でも売れているのである。文庫落ちになって、ランキング上位を賑わしている本作。
これはやはり、湊かなえという作家に対する信任度or信頼度なんだろう。

確かにそれほどハズレはない。今までも、そして本作も。
というわけで本筋なのだが、要は「女はややこしい」という思いを更に強くさせられる話。
プライドやら疑いやら自信やら過信やら・・・
作者はそんな醜い人の心を容赦なく表現していくし、読んでる方としても「そうなんだろうな・・・」って思わされてしまう。
特に、子供が絡むと、女性は更にややこしくなる。
「子供」というフィルターを通しての意地とプライドのぶつかり合い、なんてどこにでもある光景だと思う。

ってことで、世の男性(特に夫)は、たいがい「やれやれ・・・」と思わされるのだ。
ただ、それが態度にあからさまだと、ものすごい反撃をどこかでくらうことになる。
でもこういう平和な環境だと、どうしても女性中心に世の中が回ってしまうのは致し方ないところ。
一方的に攻撃されないよう、常に反撃できる準備はしておかねば・・・

で? 本筋は?
うーーん。結局、「雨降って地固まる」というお話・・・かな?
地球のどこにもユートピアはないけど、どこでもユートピアにできる・・・ということかもしれない。(なんて曖昧・・・)

No.1465 7点 九人と死で十人だ- カーター・ディクスン 2018/08/25 16:38
H・M卿を探偵役とするシリーズ第十一作目。
作中でも戦時中の緊張感が漂ってくる作品(H・Mだけは別ですが・・・)
1940年発表。原題“Nine and Death makes Ten”

~第二次大戦初期、エドワーディック号は英国の某港へ軍需品を輸送すべくNYの埠頭に停泊していた。一般人の利用を許さない船に、なぜか乗客が九人。危険を顧みず最速で英国入りをしたいとは、訳ありの人物なのか。航海二日目の晩、妖艶な美女が船室で喉を掻き切られた。右の肩に血染めの指紋。現場は海の上で容疑者は限られる。全員の指紋を採って調べたが、何と該当者なし。信じがたい展開に頭を抱えた船長は、H・M卿に事態収拾を依頼する~

読後の印象をひとことで表すと、カーらしからぬ“実にきれいな”ミステリー・・・という感じ。
カーというと、どうしても仰々しいほどの不可能趣味や物理トリック、オカルティズムという側面が強調されるけれど、解説をされている横井某氏が触れているとおり、第三期(「貴婦人として死す」や本作など40年代)らしい作品と言えそう。

本作の場合、まずは紹介文にあるとおり「指紋」の問題がクローズアップされる。
これは他の方も触れられているとおり、やや腰砕けの真相ではある。
もちろん真犯人は”狙って”策を弄したわけだけど、あえてこんなことしなくてもというふうに取れる。
(実際、これが真犯人にとっての致命傷になるわけだから・・・)

そして、もうひとつの鍵が例の○れ○○り。
本サイトの書評で、この○れ○○りについては、常にネガティブな意見を書いてきた。本作でも「危険な賭け」的トリックなのは同様だけど、ただ、そこはさすがにカー。「危険な賭け」を行うべく、さまざまな準備&策を巡らしてきたことがきちんと書かれていて、ある程度納得感が得られるようにはなっていた。(ガスマスクの件など)

最初にも書いたけど、カーらしからぬ端正な本格ミステリー。
最終章の真相解明で、あらゆる伏線がきちんと回収される仕組みになっていて、すっきりした気分になれる。
コンパクトだし、笑いもあるし・・・(HMと理容師のやり取りなんかね)。
お勧めできる良作という評価。

No.1464 6点 日本列島殺意の旅-西村京太郎自選集(4)- 西村京太郎 2018/08/25 16:37
世間的には夏休み(らしい)。
仕事でどこにも行けない憂さ晴らしをすべく、せめて読書で旅をというわけで本作をセレクト。
トラベルミステリーといえばやはり“西村京太郎”を置いて他になし! 徳間書店で編まれた自選集パート4。

①「恐怖の橋 つなぎ大橋」=舞台は盛岡の奥座敷・繋温泉。そしてそこに架かる「つなぎ大橋」。この地を訪れたふたりの男女が、幽霊を探しにつなぎ大橋へ出掛け、帰らぬ人なる・・・。ミッシングリンクがプロットの軸。
②「十津川警部の休暇」=奥さんとともに伊豆・伊東温泉を訪れた十津川警部(珍しい設定だ!)。泊まった温泉宿で遭遇したのは何と“殺猫事件”。まさかこの真相を解明するのかと思いきや、本筋は殺人事件の発生を未然に防ぐという、これまた珍しいプロット。
③「LAより愛をこめて」=もちろんLAも登場するのだが、メインの舞台は飛騨高山。いかにも作者が好きそうな街だ。で、本作だけは十津川警部ではなく、雑誌記者の寺内亜木子が探偵役を務める。人探しがメインだったのが、やがて奥に潜んでいたある事件が白日のもとに・・・という展開。
④「南紀 夏の終わりの殺人」=ずばり南紀白浜が舞台。これはラストにきて事件の構図が見事にひっくり返される。まぁありきたりと言えばそうかもしれないが・・・。
⑤「越前殺意の岬」=これぞトラベルミステリーというようなタイトルだね。永平寺に東尋坊、越前岬と近くの温泉まで、まさにガイドブックのごとく名所旧跡をご紹介してます。そして本作も②と同様、ある事件を防ぐために十津川警部が奔走する。

以上5編。
数多い作者の短編から選ばれるだけあって、①~⑤とも手堅い作品が並んでます。
もちろんすごいトリックやら切れ味鋭いプロットとは無縁なのですが、百戦錬磨の味わいとでも言うべき安定感!
これこそが作者の凄みなんだろうと思います。
十津川警部をはじめ亀井刑事、西本刑事や日下刑事などお馴染みのバイプレイヤーも登場。
これはもう、いわゆるひとつの「様式美」というヤツでしょう。

とりあえず、これを読んで旅に出た気に・・・なるわけない!
やっぱりどこか行くべきだな。時間と金があれば!

No.1463 5点 完璧な犯罪- 鮎川哲也 2018/08/12 21:14
数多い作者の短編の中から、“倒叙もの”を集めた作品集。
光文社からは同じく倒叙ものの「崩れた偽装」に続いて刊行されたのが本作。
もちろん「アリバイトリック」がメイン。

①「小さな孔」=夫の愛人が子を身籠る自体に憤慨した妻はついに夫を殺すことに。完璧だったアリバイトリックが瓦解するきっかけとなったのは、まさに小さな「孔」だった・・・。こんなこといくらでも誤魔化せる気がするけど・・・
②「ある誤算」=まさに一つの「誤算」から犯行が暴露される刹那・・・。推理小説を何冊も読み、必死で組み上げたトリックが“あんなことで”崩れるとは・・・ご愁傷さまです。
③「錯誤」=誤算のつぎは「錯誤」ですが、誤算というよりは「不運」と呼んだ方がいいと思う。几帳面な性格が裏目に出ることってあるよなぁー。ご愁傷さまです。
④「憎い風」=これもなぁー、ご愁傷さまとしか言いようがなんいだけど、こんな適当なトリックで通用すると思う方がどうかしている。
⑤「わらべは見たり」=うーん。ここまでくるとワンパターンすぎて飽きてきた。準備に時間をかけ、練りに練った殺人計画がほんのちょっとの偶然で瓦解する・・・。①~④と同様。
⑥「自負のアリバイ」=典型的な倒叙もの。犯人役の夫が典型的なナルシストなのが鼻につく。最後は実にあっけなくトリックが瓦解することに・・・。お気の毒。
他に文庫未収録の「ライバル」「夜の演出」の2編を併録。

犯人役がかなりマヌケなのが物悲しさを誘う。
ああでもないこうでもないと、苦労して作り上げた犯行計画が、いとも簡単に見抜かれてしまうのだから・・・
作者も人が悪い!
もう少し勞ってあげればいいのに・・・
こんなチンケなアリバイトリックで何とかしようなんて、そもそも虫が良すぎるということか。

いずれにしても小粒&小品。
作者のアリバイトリックを堪能するなら、やっぱり鬼貫警部シリーズの長編に限る。
(どれも似たような水準。敢えて言うなら①かな)

No.1462 5点 水時計- ジム・ケリー 2018/08/12 21:10
五作目まで続いている新聞記者フィリップ・ドライデンを探偵役とするシリーズの第一作目。
作者のジム・ケリーも同じく元新聞記者(らしい)。
2002年の発表。

~痺れるような寒さの11月、イギリス東部の町イーリーで凍った川から車が引き揚げられた。トランクには銃で撃たれ、死後に首を折られた死体が入っていた。犯人は何故これほど念入りな殺し方をしたのか? さらに翌日、大聖堂の屋根の上で白骨死体が見つかる。ふたつの事件が前後して起きたのは偶然か? 疑問を感じた敏腕記者ドライデンは調査を始めるが・・・。粘り強い取材の果てに彼がたどり着いた驚愕の真相とは?~

何とも純正な現代英国ミステリーという雰囲気。
アメリカでも日本でも、今どきこんな重苦しくて重厚なミステリーにはなかなかお目にかかれない。
それはつまり、“いい意味でも”、“悪い意味でも”ということだ。

“いい意味で”言うなら、他の方もご指摘のとおり、丁寧な伏線の張り方だったり、徐々に高まるサスペンス感だったり、意外性のあるフーダニットだったり、というところ。
うん。まさに純正本格ミステリーという感じだ。
で、“悪い意味で”言うなら、あまりにも冗長すぎる中盤だったり、いちいち長すぎる説明文(場面に関する風景描写や説明があまりに多すぎ!)だったり、ずいぶん引っ張ったにしては予想範囲内の真相だったり、というところ。

ストーリーは、ふたつの殺人事件を捜査する過程で、過去の強盗殺人未遂事件がクローズアップされてくる展開。
現代と過去の事件がどのように関係してくるのかがプロットの軸となる。
これ自体はありきたりなプロットだし、恐らく現代の登場人物のなかに過去の事件の犯罪者が紛れ込んでいるのだろうという推測がついてしまうところがややツラい。
こういう題材に正攻法で挑んでくるあたりが、やはり「英国」ということなのか。
まぁ処女作品だしね。最初からそんなに変化球でこないところはむしろ好感が持てる。
・・・ということにしておこう。でも、結構長いよ。

No.1461 6点 敗者の告白- 深木章子 2018/08/12 21:09
2014年発表の長編。
弁護士・睦木怜(むつぎれい)シリーズの一作目に当たる(とのこと)。

~とある山荘で会社経営者の妻と八歳の息子が転落死した。夫は無実を主張するも、容疑者として拘束される。しかし、関係者の発言が食い違い、事件は思いもよらない顔を見せ始める。残された妻の手記と息子の救援メール。事件前夜に食事をともにした友人夫婦や生前に妻と関係のあった男たちの証言。容疑者の弁護人である睦木怜が最後にたどり着く衝撃の真相とは? 関係者の告白だけで構成された衝撃の大逆転ミステリー~

作者の初読みになる。
先日、某○屋書店に立ち寄った際、店員のポップ付きでお勧め本として紹介されていたのが本作。
前々から気になっていた作家だったのと、前述の紹介文に惹かれて手に取った次第なのだが・・・予想していたのとはやや違う方向性の作品だった。

紹介文の最後に“大逆転”なんていう言葉あるくらいだから、てっきりそれまでの世界観がひっくり返されるような叙述系トリックを考えていたんだけど、そういう一発逆転大トリックではなく、どちらかというと細かすぎるくらいに積み重ねられた伏線を丁寧に回収していくプロットとでも言えばいいのか、とにかく「生真面目さ」が目立つ印象。
確かにちょっと重たいし、回りクドイところは無きにしも非ずなんだけど、なんて言えばいいか、「読ませる」力は十分に感じられる作品ではあった。
特に「旨い」と思ったのは、主人公のちょっとした経歴がある事実に繋がっていく伏線。こういう仕掛けを施していける作者なら、今後も注目に値すると思う。

本作はもうひとつ「法廷ミステリー」としての顔も持つ。
作者の深木氏は東京大学卒の元弁護士ということで、本作は裁判が持つ特徴というか、現在の裁判制度が孕んでいる矛盾というものが大きく関わってくる。
この辺りはさすがの経歴というべき。
生真面目すぎて退屈と取る読者もいるかもしれないけど、作者の力量は伺える作品だと思う。
他の作品も是非読んでみたい。

No.1460 7点 幻夜- 東野圭吾 2018/07/28 08:55
あの名作「白夜行」が蘇る!!
文庫版で800頁を超える大作は、再び、ある男とある女の哀しい物語・・・
2007年の発表。

~阪神淡路大震災の混乱のなかで、衝動的に殺人を犯してしまった男。それを目撃した女。ふたりは手を組み、東京へ出る。女を愛しているがゆえに、彼女の指示のまま、悪事に手を染めてゆく男。やがて成功を極めた女の思いもかけない真の姿が浮かび上がってくる。彼女はいったい何者なのか? 名作「白夜行」の興奮が蘇る傑作長編~

いきなりネタバレで申し訳ないが、新海美冬=唐沢雪穂である。
作中では確かに明示されてはいない。明示されてはいないが、十二分に仄めかされている。
(ネタバレサイトでも確認したが、明らかにそれと分かるヒントが作者によってそこかしこに撒かれている)

物語はまさに「白夜行」と相似形のごとく進んでいく。
誰をも虜にする美女にして、稀代の悪女・・・それが新海美冬。そして、彼女の下僕にして「影」となり働く水原雅也。
これは「白夜行」での雪穂=亮司の関係と完全に被る。
ただ、「影」である亮司サイドからは一切描かれなかった前作に比べ、本作では「影」=雅也サイドからの描写がむしろメイン。
そこが大きく異なる点。
美冬のため徐々に悪事に手を染めていく過程やそれでも美冬を手放したくないという雅也の苦悩が読み手の心に嫌でも突き刺さる。

やっぱり只者ではない。東野圭吾という作家は!
中盤から終盤、章が進むごと、美冬の強烈な悪意が読者の頭の中で膨らんでいく仕掛け、そして、美冬という存在が、自然に雪穂と一体化していくように計算された仕掛け。
このプロットはもう「秀逸」のひとこと。
こんな大作を息もつかせず読了させるなんて、並みの作家にはできない芸当だ。
巻末解説には第三部を構想中とのコメントもあるが、是非とも実現させて欲しい。
いかん! これでは雅也と同じで、美冬の虜にされているようだ・・・
(ラストについては、評価の是否が分かれるだろうね・・・。呆気なさすぎと言えば、確かにそうだから・・・)

No.1459 6点 暗闇にひと突き- ローレンス・ブロック 2018/07/28 08:53
アル中探偵マッド・スカダーシリーズの四作目。
シリーズ最高傑作と言われる次作「八百万の死にざま」への橋渡しとなる作品。
原題“A Stab in the Dark”。1981年の発表。

~若い女性ばかりを狙った九年前の連続刺殺事件はNYを震撼させた。犠牲者はみな、アイスピックで両眼をひと突きされたいたのだ。ブルックリンで殺されたバーバラも、当時その犠牲者のひとりと考えられていた。が、数週間前に偶然逮捕された犯人は、バーバラ殺しだけを頑強に否定し、アリバイも立証されたという。父親から真犯人探しを依頼されたアル中の探偵スカダーが、困難な調査の結果に暴き出した驚くべき真相とは?~

普段、“シリーズ作品は順番に読む方がベター”と信じている私なのだが、なぜかバラバラに読んでしまっている本シリーズ。
最近は「お酒をやめたスカダー」の方に接する機会が多かっただけに、本作は逆に違和感を覚えた。
とにかく“呑む”のだ。
ビールは食前酒感覚、バーボン、スコッチ、果てはブランデーまで・・・(しかも基本ストレート)
本作ではシリーズ初期でのスカダーの相手役となるジャニスも登場。アル中に苦しむ彼女を前にして、自分自身の酒、そしてアル中に強い不安感を抱く彼の姿が印象的。
(しかし、ラストではまたしても酒に溺れることになる・・・)
『八百万・・・』以降、ストイックなほど禁酒生活を送る彼の姿を見ているだけに、何となく酒に溺れている彼が愛おしく感じてしまう。

さて、本筋はというと・・・
猟奇的な連続殺人という派手な設定の割に特段強調することはない。
いつものように、事件関係者たちに地道に聞き込みを続けるが、なかなか光明が見えてこない展開。
しかし、終盤、突然説明のつかない「齟齬」を発見してからは一直線。意外な真犯人が浮かび上がってくる。
今回はNYの地理が事件解決のヒントになるので、土地勘のない一般の日本人にはちょっと分かりにくいかも。
(動機は結構分かる気もするけど、う~ん、やっぱり分からん!)

シリーズ未読作はあと数作品を残すのみとなった。
できる限り、大切に、芳醇なワインを味わうように読んでいきたい。

No.1458 6点 ヨギ ガンジーの妖術- 泡坂妻夫 2018/07/28 08:51
後の「~心霊術」、「~透視術」に続くヨギ ガンジー・シリーズの一作目に当たる本作。
数々の超常現象をに対して現実的な解決を付けていく作品集。
1984年の発表。

①「王たちの恵み」(心霊術)=うん。これが一番ロジカルというか、まともな解法に思えた。『あるはずのものがない』ということは、実は・・・というのが逆説的でいかにもミステリーっぽい。佳作だろう。
②「隼の贄」(遠隔殺人術)=これ以降ガンジーのパートナーとなる参王不動丸が初登場。妖術で遠隔殺人を実演するという、何とも胡散臭い設定なのだが、もちろん最終的には現実的な解決が付けられる。ただし結構ショボイ・・・
③「心魂平の怪光」(念力術)=この辺りからますますオカルティックに、そして胡散臭さが増していく・・・。これも「怪光」自体は何のことはないトリック。
④「ヨギ ガンジーの予言」(予言術)=一家全員に向けられた不吉な予言。その予言を避けるために全員でハワイにやって来た家族に対するガンジーと不動丸、という設定。問題の予言については、よくある「手」で解決が付けられる。でもプロットそのものは面白い。
⑤「帰りた銀杏」(枯木術)=“枯木術”ってなんだ? 本筋は・・・あまり面白くない。
⑥「釈尊と悪魔」(読心術)=ある旅芸人一座に雇われることとなったガンジーと不動丸。その一座に所属する絶世の美男をめぐる事件に巻き込まれることに・・・。
⑦「蘭と幽霊」(分身術)=いわゆるドッペルゲンガー現象をテーマとする一編。ドッペルゲンガーに関するトリックは現実的だし面白いと感じたけど・・・

以上7編。
さすがに達者である。やっぱり短編は名人芸ともいえる出来栄えだ。
本作も一見、超常現象に見えるものをお得意のマジックを流用したトリックで解決してしまう。
マジックと同様、読者の目を本筋とは別の方向に向けさせ、そのうちにトリック仕掛ける。そして、最後には鮮やかなオチを見せられるんだから、これはもう「さすが泡坂」っていう感想しかない。

ただ、手放しで褒めてるけど、作品ごとのレベル差はある。
どちらかというと後にいくほど出来が落ちてる感はあるので、全体としての評価はまぁこんなものかな。
でも、まぁ必読の作品集といっても差し支えはない。
(上記のとおり、①が断トツ)

No.1457 6点 我が家のヒミツ- 奥田英朗 2018/07/13 22:19
2013年以降、小説「すばる」誌に断続的に掲載されてきた短編をまとめた作品集。
日頃の何気ない家族の姿を切り取った名短編集「我が家の問題」の続編的位置づけの作品。
2018年の発表。

①「虫歯とピアニスト」=確かに、プランBの人生でもプランCの人生でも、自分が納得して幸せだったらNo Problem。間違いない! でも何かと他人と比較してしまう弱い自分がいる。
②「正雄の秋」=ライバルとの出世競争に負け、子会社に都落ちすることとなった正雄。よくある話、世間にはこういう男性は吐いて捨てるほどいる(に違いない)。そんなとき、なぐさめてくれるのが何と奥さん!(我が家だったら有り得ない!)
③「アンナの十二月」=幼い頃に別れて顔も知らない実の父親が著名人! しかもかっこよくて金持ち・・・当然心動くよなぁー。で、心は動いたんだけど、よ~く考えてみたら・・・って話。
④「手紙に乗せて」=今度は妻に先立たれて猛烈にふさぎ込んでしまった悲しき中年男の話。息子の上司が同じ経験をしたとのことで、いろんな心使いをするうちに・・・。もし自分の身に同じことが起こったら、ここまで悲しむか?(決して・・・)
⑤「妊婦と隣人」=妊婦になってずっと家にこもっている主人公。隣に引っ越してきたいかにも怪しい夫婦。時間を持て余した主人公の想像力はどんどん膨らんで・・・ついに!っていう展開。既視感ありあり。
⑥「妻と選挙」=シリーズ前作(「我が家の問題」)、前々作(「家日和」)にも登場したある直木賞作家の物語。今度はついに市会議員選挙に出ることになった妻と、妻にまたまた振り回される某直木賞作家。でも意外な展開に・・・

以上6編。
読んでてしみじみ感じたけど、「作者も老成したねぇ・・・」
もちろん旨い。日常の何気ないヒトコマっていうか、どこにでもありそうだけど実はない、っていう絶妙なストーリーテリング振り。
これはもう他の作家の追随を許さないほど。
でも、老成したよね・・・
本作はどれも最終的にはハッピーエンドというか、どれも後味がよい作品ばかり。
「毒」らしきものは何一つなし!
それぞれが小さな幸せを得て、明るい希望を抱いて終了してしまうのだ。

それの何が悪い!って言われればそのとおり。皆さんも本作を読んで、何とも言えないほのぼのとした幸福感を味わってください。
(好みで言えば⑥。次点は②かな)

No.1456 7点 月明かりの男- ヘレン・マクロイ 2018/07/13 22:17
「死の舞踏」に続いて発表された、精神科医ヴェイジル・ウィリング博士シリーズの二作目。
創元文庫にて続々と刊行される同シリーズだが、順番が滅茶苦茶なのがいいのか悪いのか?
1940年の発表。原題は“The Man in the Moonlight”

~ヨークヴィル大学を訪れたフォイル次長警視正は、構内で風が運んできた紙片を拾う。そこには「殺人計画」と書かれていた。決行は今夜8時。犯行現場に指定された建物に赴いたところ、心理学の実験に用いた拳銃の紛失騒ぎに立ち会う。言い知れぬ不安を覚え、八時に再度大学を訪れたフォイルは死体の発見者となる。被害者は亡命者のコンラディ博士。月明かりの中を逃げる不審人物が三人の男に目撃されていたが、彼らの証言する外見はすべて異なっていた!~

冒頭に書いたとおり、最近読む機会がかなり増えてきたマクロイ作品。
違う作品の書評でも書いたと思うけど、作品ごとの出来不出来が少なくて、どれも一定水準以上と思わせる作品ばかり。
で、シリーズ第二作となる本作も期待にたがわぬ作品という評価。

物語は序盤から魅力的な展開を見せる。
「殺人計画」なる紙切れを拾い、誘われるように事件の渦中に飛び込むこととなるフォイル次席警視正とウィリング博士。
まずは紹介文にも書かれた、三人の男が逃げ去る犯人をすべて違う外見で捉えるという摩訶不思議な謎に遭遇する。
(この真相は他の方も書かれたとおりで、やや肩透かしなものだが・・・)

嘘発見器による実験や夜中誰もいないはずの部屋から響くタイプライターの音など、マクロイらしい道具立てが用意されている本作。
こんなに風呂敷を広げて大丈夫か?と若干の心配をしていたが、それを嘲笑うかのように終盤以降、ウィリングの頭脳によってひとつひとつ、真実が白日のもとにさらされていく。
最終章での真犯人とウィリングの対決がまさに物語のクライマックス。実に端正な本格ミステリーという満足感を得られる(だろう)。

動機の件(特に第三の殺人)は気にはなったし、ウィリングが真犯人を特定するきっかけとなった第一の事件現場での証言の齟齬については、せめて現場の見取り図を入れて欲しかったなど、細かな不満はあるけど、総合的に評価は高い。
けど、コレが一番かと問われると、YESという答えにはならないかな・・・
ちょっと未整理な部分も見え隠れするのが初期作品らしい。

No.1455 7点 さよならの手口- 若竹七海 2018/07/13 22:16
前作「悪いうさぎ」以来、十三年振りに“葉村晶”シリーズ新作として発表された本作。
作者あとがきでは、出版社や読者からせっつかれたけどどうしても書けなくて・・・というような嘆きの台詞が書かれてたりします。
2014年に文庫書き下ろしとして発表。

~探偵を休業し、ミステリー専門書店でバイト中の葉村晶は、古本引取りの際に白骨死体を発見して負傷。入院した病院で同室の元大女優・芦原吹雪から、二十年前に家出した娘の安否についての調査を依頼される。だが、かつて娘の行方を捜した探偵は失踪していた・・・。有能だが不運な女探偵・葉村晶が帰ってきた!~

やっぱいいわ! 葉村晶シリーズは。
前にも書いた気がするけど、作者の筆が乗っている様子が窺えてきて、読んでいる方もグイグイ頁をめくってしまう。
(本当は艱難辛苦しながら書いてるんだろうけど・・・)
晶をはじめ、シリーズキャラクターもそれぞれの役割(?)を全うして、とにかく作中で生き生きと活躍してくれてる。
そんな感覚なのだ。

で、本筋はというと・・・
メインテーマは「失踪人捜し」という、私立探偵小説の定番中の定番。(確かにロス・マク風プロット)
失踪人を捜している途中にも、彼女を困らせる数々の困難やら脇筋やらが待ち受けていて、特に今回は不運と不幸の連続。何回怪我するんだ?と心配になるほどの障壁が立ち塞がる。
「家族の悲劇」という、これまたロス・マク作品定番の背景が明らかになる終盤。
大方の謎にも道筋が付いたかと思いきや・・・ここから更なる闇と困難と怪我(!)が彼女に襲いかかる・・・
そして、ラストは怒涛の展開。ばら撒いてきたあらゆる謎や伏線をバッタバッタと回収していく!

前作ではまだ三十代前半の若さだった彼女も、はや四十路の独身女性。(十三年経ってるんだから・・・) 体力も気力も低下するなか、それでも地に足付けて踏ん張ってる姿は、性別の枠を超えてシンパシーを感じてしまう。
年代の進行とともに作中の登場人物も年齢を重ねていく本シリーズ。
平成の世も終りを告げようとするなか、次は何歳の彼女と会えるのだろうか?
とにかく、今後も大切に続けてくださいと切に願う。
(巻末の「富山店長のミステリ紹介」も実に楽しい・・・)

No.1454 5点 あぶない叔父さん- 麻耶雄嵩 2018/06/25 21:27
~寺の離れで「なんでも屋」を営む俺の叔父さん。家族には疎まれているが、高校生の俺はそんな叔父さんが大好きだった。鬱々とした霧に覆われた街でつぎつぎと発生する奇妙な殺人。事件の謎を持ちかけると、優しい叔父さんは鮮やかな推理で真相を解き明かしてくれる・・・~
2017年発表の連作短篇集。

①「失くした御守」=“失くしてしまったウサギの御守と心中事件”が描かれる第一作。ラストへ来て、いきなり訪れる衝撃! 『なんじゃ、この真相&結末は!?』
②「転校生と放火魔」=小学校時代に付き合っていた元カノが再び転校生として現れる第二作。放火魔に狙われる転校生を守ろうとする主人公なのだが、ここでも衝撃(?)の真相&結末が!
③「最後の海」=“海の絵と首吊り殺人”がテーマとなる第三作。密室からの被害者の脱出方法が問題となるのだが、何とも脱力系の真相・・・。そして、またしても○じようなカラクリが・・・
④「旧友」=“犬神の祟りと旧友”の第四作。これもある種の密室状況が懸案となるのだが、トリックっていうか真相は「そんなこと!」的なヤツ。そしてまたしても・・・。これは・・・どういう狙い?
⑤「あかずの扉」=“温泉の死体とあかずの扉”がテーマの第五作。これまた死体はあるが、誰も現場に入れなかったという密室状況が繰り返されるのだが、この真相には怒り出す人もいるのではないか? いくら温泉の湯煙があるといっても、見たら分かるだろ! そして④までと同じことが・・・
⑥「藁をも掴む」=“学校の七不思議と投身自殺”が描かれる最終譚。今回は違うのかと思っていたが、最後にはまさかの展開! またもやなのか! ラストも何の余韻もないまま唐突にFin。

以上6編。
これは・・・一体なに? 狙いは?
冒頭の紹介文では、叔父さんがまるでアームチェア・ディテクティブとして事件の謎を解き明かすかのように書いているが、実際には大きく違う!
ネタバレになってもいけないけど、こんなミステリーには今まで接したことがない。
何せ、探偵役が推理をしないのだから・・・

「貴族探偵」「神様ゲーム」はまだ十分にまともだったけど、「化石少女」といい本作といい、ミステリーという概念を大きく歪めるような作品だな・・・
別に非難しているわけではないんだけど、この試みが素晴らしいと賞賛する気持ちは一切起こらない。
作者の“遊び心”だということで、いい意味に解釈しておこう。

No.1453 6点 六人の超音波科学者- 森博嗣 2018/06/25 21:26
「恋恋蓮歩の演習」に続くVシリーズの第七弾。
2001年の発表。

~土井超音波研究所・・・山中深くに位置し、橋によってのみ外界と接する。隔絶された場所。所内で開かれたパーティーに瀬在丸紅子と阿漕荘の面々が出席中、死体が発見される。爆破予告を警察に送った何者かは実際に橋を爆破、現場は完全な陸の孤島と化す。真相究明に乗り出す紅子の怜悧な論理。美しいロジック溢れる推理長編~

同じ“流れ”の中にあった前作(「恋恋蓮歩の演習」)と前々作(「魔剣天翔」)から一転、今回の舞台は「陸の孤島」と化した超音波研究所という何とも怪しげな設定・・・
しかも、巻頭から思わせぶりな館見取り図が挿入され、中途には首切り死体も現れるなど、本格ファンの心をくすぐるガジェットに溢れた作品となっている。
Vシリーズも巻を重ねるごとに“超変化球”的な仕掛けが目立ってきたと思いきや、初期作品に近い直球の本格ミステリーに先祖返りしたかのような趣向?いう感覚だったが・・・

ただ、どうも、本作、作者が新しいアイデアを捻り出して・・・というわけではなく、自作や他作のトリックの焼き直し或いは流用っぽいものが目立つ気がする。
例えば、首切り+手首まで切られた死体っていうと、Why done it?⇒ 被害者の入れ替わり、というのは見え透いてるから、当然“捻り”があるんだろうと読者は予想するんだけど、今回のトリックはなぁ・・・作者としては安易すぎるのではないか?
Who done itも分かりやすすぎて、瀬在丸紅子もすぐに看破してしまったし・・・
どうもその辺り、敢えての安直さなのか、単なるネタ切れなのか、気になるところだ。

ド直球の本格ミステリー志向の作品にするんだったら、もうワンパンチもツーパンチも欲しかったなというのが偽らざる思い。
ただし、次作(「朽ちる散る落ちる」)も本作と同様、「土井超音波研修所」が舞台ということで、作者らしい仕掛けがあることを期待したい。
(いよいよVシリーズも佳境に入ってきたのかな?)

No.1452 5点 強盗プロフェッショナル- ドナルド・E・ウェストレイク 2018/06/25 21:24
一作目「ホット・ロック」、三作目「ジミー・ザ・キッド」と並ぶウェストレイク三部作のひとつが二作目の本作。
1972年発表。原題は“Bank Shot”

~天才的犯罪プランナー、ドートマンダーも近頃ではその仕事に少々嫌気がさしていた。ところが、そこへ親友のケルプがでっかい話を持ち込んできた。銀行強盗だ。しかもただの銀行強盗ではない。その銀行はトレーラーを使って目下仮営業中。そこで、そのトレーラー、すなわち銀行をそっくりそのまま盗もうというのだ。ドートマンダーのプロ根性がムラムラと頭をもたげるが・・・。タフでクールな泥棒ドートマンダー・シリーズの第二作~

さすがに手馴れている。
そんな作品だ。
作者が実際にトレーラーで営業している銀行の店舗を見かけたことが本作執筆のきっかけになっているとのこと。「銀行強盗」をテーマとする作品はたまに見かけるけど、「銀行」そのものを盗むというプロットは確かに斬新。
警備員や警察も、まさか盗まれるとは思ってないから、彼らの慌て振りも結構面白いことになっている。
ドートマンダーを中心とした強盗グループも、奪ったはいいけど、その後に起こるさまざまトラブルに右往左往させられることになる。
“奪った方”も“奪われた方”もどっちもドタバタする・・・そこが本作の読みどころなのだろう。
このシリーズらしくラストも旨いなという感じ。

評価かぁ・・・
本作、実際に強盗を実行するまでの前段が長いんだよねぇ
強盗に参加することになるメンバーひとりひとりを割と丁寧に紹介しているんだけど、いるかな?
なかなか本題に入らないんでちょっとイライラさせられた。
できれば本筋の強盗シーンをもうちょっと膨らまして書いたほうがよかったのではないか。
などと、職人的作家に対して失礼なことを考えたりした。
(あまり気付かかなかったけど、アメリカンジョークが作中結構あったみたい。分かりにくいからなぁアメリカンジョークは・・・)

No.1451 6点 怪盗ニック全仕事(1)- エドワード・D・ホック 2018/06/10 10:18
「サム・ホーソン」「サイモン・アーク」両シリーズ読破後、次に挑むのは「怪盗ニック」シリーズということで・・・
全八十七編からなる膨大なシリーズを十四~十五編ずつに分け、全六巻に渡っての刊行とのこと(スゲぇ・・・)
まずは第一巻に取り掛かろうか・・・

①「斑の虎を盗め」=まさに本シリーズの初っ端に相応しい一編。要は本シリーズのプロトタイプたる作品なのだろう。最初の依頼は動物園の虎を盗めという無理難題なのだが、盗んだあとでもう一捻りあるのがホックらしい。
②「プールの水を盗め」=今度は何とプールの水だ! これはhow done itを楽しむタイプの一編。確かに水だったらこうやって「盗む」よねぇー
③「おもちゃのネズミを盗め」=おもちゃのネズミを盗みにパリまでやって来たニック。これも単なる盗み以外に仕掛けが!っていうタイプ。
④「真鍮の文字を盗め」=とあるビルに掛かっている真鍮製の企業のロゴを盗めという依頼。本編ではニックの“天敵”としてウェストン警部補も登場。
⑤「邪悪な劇場切符を盗め」=上映が終わったはずの芝居の切符を盗めというかなり風変わりな依頼。半信半疑で依頼を受けたニックを待ち受けていたのは・・・っていうプロット。単純だけど、結構面白い。
⑦「弱小野球チームを盗め」=西村京太郎は長編「消えた巨人軍」で、新幹線の車中から巨人の全選手を誘拐してみせたが、今回作者はメジャーリーグの弱小チームを飛行機の中から盗む(=誘拐?)することに成功! でも終盤の捻りの方が本題。
⑧「シルヴァー湖の怪獣を盗め」=アレをアレに見せるのは相当無理があるんじゃない? お前の目は節穴か!って言いたくなる。バカミス的な面白さはあり。
⑩「囚人のカレンダーを盗め」=今回の依頼はかなりの難題。何せ牢獄の中からその壁にかかっているカレンダーを盗めというのだから・・・。それでも割合簡単に盗んでしまうニックって・・・
⑫「恐竜の尻尾を盗め」=なぜ恐竜の尻尾なんか?って、そう、まさにwhy done itがうまく嵌った一編。さすがに短編の名手だ。
⑬「陪審団を盗め」=ニックが怪盗ではなく、「名探偵」ばりの活躍をする一編。これは本格ミステリーだね。
⑮「七羽の大鴉を盗め」=「盗め」という依頼と「盗みを防げ」という依頼を同時に受けてしまったニック! さぁーどうする?っていうプロット。あんまりよろしくない。

以上全15編。
さすがに短編の名手という冠に相応しい。確かに似たようなプロット&趣向の作品は目につくけど、読者を飽きさせないように、どこかしらに工夫が凝らされているのが職人芸だ。
ということで、第二巻も楽しみ楽しみ・・・

No.1450 5点 残像に口紅を- 筒井康隆 2018/06/10 10:17
アメトークの「読書芸人」でオードリー若林(カズレーザーだったかな?)が取り上げたことでも有名となった本作。
作者らしい遊び心と壮大な実験的小説という解釈でよいのか?
「中央公論」誌に連載された後、1989年に単行本化。

~「あ」が使えなくなると、「愛」も「あなた」も消えてしまった。世界からひとつ、またひとつとことばが消えていく。愛するものを失うことは、とても哀しい・・・。言語が消滅するなかで、執事し飲食し、交情する小説家を描き、その後の著者自身の断筆状態を予感させる、究極の実験的長編小説~

まさに「実験的」小説なんだけど、市井の普通の一般的な読者にとっては、「だから何なんだ?」という感想しか残らないのでは?
以上、感想終わり!
ということでもよいのだが、雑感を追加すると・・・

まずは作者の多大なる労苦に経緯を評したくなる。
第三部開始時には(雑誌連載時は第二部までて終了していたとのこと)、
世界からすでに「あ」「ば」「せ」「ぬ」「ふ」「ゆ」「ぶ」「べ」「ほ」「め」「ご」「ぎ」「ち」「む」「ね」「ひ」「ぼ」「け」「へ」「ぽ」「ろ」「び」「ぐ」「べ」「え」「ぜ」「ヴ(本来ひらがな)」「す」「ぞ」「ぶ」「ず」「づ」「み」「ざ」「ど」「や」「じ」「ぢ」「き」「で」「そ」「ま」「よ」「も」「げ」「ば」「り」「ら」「る」が消えている状態(合ってるか?)。
そこから更に一字ずつ消していく第三部がハイライトというか何ていうか・・・

それまでにSFをはじめ、さまざまな作品を書いてきた作者がたどり着いた極北が本作ということなんだろうか。
泡坂妻夫の「ヨギガンジー」シリーズでも感じたことだけど、もっと創作の中身で勝負したいいのに、って思ってしまう。
でもまぁ、作家も煮詰まってきたら、いろんなことを考えるんだろうね。
「実験」としてなら、面白い趣向だと思う。
(今回ウィキペディアで作者のプロフィール&履歴を改めて確認したけど、やっぱりなかなかの人物ですなぁー)

No.1449 5点 イノセント・デイズ- 早見和真 2018/06/10 10:15
2015年に発表し、その年の日本推理作家協会賞を受賞した長編。
作者はもともとミステリー作家ではなく、本作以外にミステリーと呼べる作品は発表していない(のではないか?)

~田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と一歳の双子を殺めた罪で、彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか? 産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。幼馴染の弁護士たちが再審を求めて奔走するが、彼女は・・・。筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長編ミステリー~

「そうか、こういうストーリーだったのか・・・」
当たり前だけど、読後はこういう感想になった。
確かに、日本推理作家協会賞受賞作という惹句からだと違和感がある作品。

物語は、ひとりの女性を中心に、彼女に関わってきた人々の半生を綴りながら、過去そして現在へと進められていく。
なぜ、彼女はここまで不幸な人生を歩まねばならなかったのか、そして許されざる犯罪に手を染めねばならなかったのか?
いうならば「動機探し」が本作のメイン・プロットなのだろうと予想しつつ頁をめくることになる。
でもミステリーファンとしては、「もしかして他に真犯人がいるのでは?」という目線でどうしても見てしまうよねぇ・・・
で、その期待はかなり中途半端な感じで収束することになる。
そして、救いがあるのかないのか意見が分かれそうなラストシーンを迎えることに・・・

文庫版解説の辻村深月氏は、本作を「重い」とか「暗い」という言葉で評するのは違和感があるという趣旨のコメントを書かれているが、でもまぁー「暗い」し「重い」よねぇ・・・
「死ぬことに希望を持って生きている」なんてことを言うんだもんね・・・
ここまで不幸な主人公は久しぶりのような気がする。
もう少し何とかならなかったのか?何てことを小説の主人公に対して感じるんだから、結構のめりこんでいたのかもしれない。
でも、ミステリーとしては見るべきところはないし、面白いかと聞かれればネガティブな意見になってしまう。
そういう意味では不思議な作品かもしれない。

No.1448 6点 慈悲深い死- ローレンス・ブロック 2018/05/25 23:08
マット・スカダーシリーズ第七作目。
前作「聖なる酒場の挽歌」のラストシーンで明らかにされた“飲まなくなった男マット・スカダー”が描かれる本作。
原題“On the Cutting Edge”(=切っ先の上に立つ?)。1989年の発表。

~酒を絶ったスカダーは、安ホテルとアル中自主治療協会(AA)の集会とを往復する日々を送っていた。ある日スカダーは、女優を志してニューヨークへやって来た娘を行方を探すように依頼される。ホームレスとヤク中がたむろするマンハッタンの裏街を執念深く調査した末に彼が暴いた真相とは? 異彩を放つアル中探偵を通して、大都会ニューヨークの孤独を哀切に描く!~

前作「聖なる酒場の挽歌」では、まるでスカダーの酒に対する挽歌(エレジー)のようだと書評したが、本作では完全に酒を断ったはずのスカダーが、実は“on the cutting edge”=際どい切っ先の上に乗っているようなものと表現され、ちょっとした拍子に酒に溺れる生活に戻りかねないというあやうさが作品世界のひとつとなっている。

本作の物語は実に静謐で何とも哀愁に満ちたものだ。
とにかく、終盤も終盤を迎えるまで、さざ波のような静かな展開が続いていく。
事件はふたつ。ひとつは紹介文にある、田舎からNYに上京した女優志望の娘の失踪事件。そしてもうひとつが、AAの仲間の死亡事件。
ふたつともとにかく曖昧模糊としていて、このままでまともに解決するのだろうかと、思わず心配になるほど。
それが急転直下。特にふたつ目の事件については、結構なサプライズが用意されている。
そこで語られるのが、邦題である「慈悲深い死」・・・というもの。
これこそが大都会NYの闇ということなのか? マンハッタンに聳えたる摩天楼も実は“砂上の楼閣”であるということなのか?
いずれにしても、印象深いラストを迎えることになる。

本作では、後の作品でレギュラーとなるミッキー・バルーが初登場。スカダーと親交を深めることとなる。
名作「八百万の死にざま」以降、更なる進化を遂げることとなる本シリーズの重要な分岐点ともなる本作。
やはり必読の名シリーズだという思いを深くした。
残りの未読作品も楽しみ・・・
(読み順がバラバラになってるのが、いいのか悪いのか・・・)

No.1447 7点 真実の10メートル手前- 米澤穂信 2018/05/25 23:06
「さよなら妖精」に登場した大刀洗万智を探偵役に配した連作短篇集。
“ジャーナリストとしての矜持”というテーマも垣間見える作品が並ぶ。
2015年発表。第155回の直木賞候補作にも挙がった作品。

①「真実の10メートル手前」=表題作に相応しい冒頭の一編にして、本作で唯一新聞記者時代の太刀洗を描いた作品。電話での会話から推理を広げていくプロット自体はそれほどではないけど、タイトルどおり、真実の10メートル手前に迫った刹那・・・残酷なラストが待ち受ける。
②「正義感」=電車への飛び込み自殺騒ぎが、終盤鮮やかに反転するプロットが光る。実に短篇らしい一編。
③「恋累心中」=前評判どおり、コレが本作NO.1だろう。②と同様、高校生カップルの心中事件と思われた事件が、ラストに鮮やかに反転させられる。伏線も見事に嵌ってるあたりもなかなかの出来栄え。
④「名を刻む死」=これは・・・何とも痛々しい感じだ。男って生き物はこういうものに拘るところはあるんだけど、何もそこまでねぇ・・・。でも、こういう投書をしてる奴って多そうだ。
⑤「ナイフを失われた思い出の中に」=世界観がよく分からん!って思ってたら、これって「さよなら妖精」の続編的な作品だったのね・・・。「さよなら妖精」が未読なもんで、どうにも・・・。何か、七面倒臭いことやってるし、考えてるなぁーという感想しか思い浮かばない。
⑥「綱渡りの成功例」=いくら田舎町の年寄りだって、今どきコーンフレークの食べ方くらい分かるんじゃない? 人間、生きるか死ぬかの瀬戸際になったらこれくらいのことやるって・・・

以上6編。
「満願」の書評で、『このレベルの作品を出し続けられたら、作者は稀代のミステリー作家だ』って書いたんだけど、本作もまずまず高レベルの作品集だと思う。
「儚い羊たちの祝宴」や「満願」ほどの悪意や後味の悪さはないけど、本作の主人公・大刀洗万智もかなりのツワモノだし、彼女の冷徹でストレートな視点が作品に程よい緊張感を与えている。
何より、作者の短編ならきっと何かが仕掛けられてるっていう期待に応えられる引き出しの多さ、これこそが作者の腕前っていうことかな。
このあと、長編「王とサーカス」も文庫化されるみたいだから、楽しみにしておこう・・・(ついでに「さよなら妖精」も読んでみるか)
(ベストは前述のとおり③。あとは④か①)

No.1446 5点 悪いものが、来ませんように- 芦沢央 2018/05/25 23:05
デビュー作となる「罪の余白」に続いて刊行された第二長編がコレ。
2013年の発表。

~助産院に勤める紗英は、不妊と夫の浮気に悩んでいた。彼女の唯一の拠り所は、子供の頃から最も近しい存在の奈津子だった。そして育児中の奈津子も、母や夫、社会と馴染めず、紗英を心の支えとしていた。そんなふたりの関係が恐ろしい事件を呼ぶ。紗英の夫が他殺死体として発見されたのだ。「犯人」は逮捕されるが、それをきっかけにふたりの運命は大きく変わっていく。最後まで読んだらもう一度読み返したくなる傑作心理サスペンス~

先週に続けての「芦沢央」作品となった本作。
読了後に本サイトやamazonの評価をチラ見したけど、「まぁ、皆さんの言うとおりかな」という感じだ。
はっきり言うと、「何が書きたかったのか?」という感想に尽きる。

ミステリー的な観点からすると、ラストに判明するアノ仕掛けがやりたかった、ということなんだろうね・・・
ただ、それが仕掛けられたところで、「ヤラレタ」感にはつながらないのではないか。
冒頭から「どうも、登場人物の関係性がよく分からん・・・」という違和感を持つ読者は多そうだし、それは当然ワザとなんだけど、だったらそういうことだろうと、中途でどうしても察してしまうしなぁー

じゃぁ、紹介文のとおり「心理サスペンス」が主眼だったのかというと・・・サスペンス性は薄味気味だ。
主役級のふたりが徐々に深みに嵌っていく展開はいいんだけど、それほどシビアな展開が用意されている訳ではない。
などなど、あまり褒めるべきプロットとは思えない。

敢えて褒めるとすれば、ソツのなさというか、売れてる作家のいいとこ取り的な部分だろうか。
湊かなえ的なストーリテラー振りだし、一連のイヤミス作家風味でもあるし、ラストにはちょっとしたミステリー的なオチも用意してあるし・・・ということで、あらゆる読者のニーズを満たそうとしているところはニクイ。
地上波のドラマの原作としてはなかなか良いのではないかと思っていたけど、いや待て! 本作はダメだな・・・・あの仕掛けはさすがに映像化は無理だろう。前言撤回。

No.1445 5点 シャーロック・ホームズ絹の家- アンソニー・ホロヴィッツ 2018/05/13 10:37
シャーロック・ホームズもののパスティーシュは数多いが、コナン・ドイル財団から正式に「続編」として認められたのは本作が初めてとのこと。
『六十一番目のホームズ作品』として2011年に発表。

~ホームズのもとを相談に訪れた美術商の男。アメリカである事件に巻き込まれて以降、不審な男の影に怯えていると言う。ホームズは、ベイカー街別働隊の少年たちに捜査を手伝わせるが、その中のひとりが惨殺死体となって発見される。手掛かりは、死体の手首に巻き付けられた絹のリボンと捜査のうちに浮上する「絹の家(house of silk)」という言葉・・・。ワトスンが残した新たなホームズの活躍と、戦慄の事件の真相とは?~

パスティーシュは普段あまり読まないんだけど、「まぁこんなもんかなー」というような感想。
ホームズはともかく、ワトスンは原典の雰囲気をよく出しているとは思った。

本作のプロットの軸は、紹介文のとおり「絹の家」という言葉(というか存在)の謎なんだけど、ミステリー好きの読者なら中途で薄々察するだろうなという真相ではある。
まぁ、でもこれはやっぱり二十一世紀の現在目線で書かれた話だな・・・
十九世紀末のロンドンでもこういう世界は当然あったんだろうけど、ホームズ作品でまさかこういう世界が語られるとは思わなかった。

そしてもうひとつの読みどころが、“ホームズの大ピンチ!”
犯人グループの罠に嵌って、なんと郊外の堅牢な牢獄に収監されてしまうことに!
そこからまるでアルセーヌ・ルパンばりに脱獄してみせるのはご愛嬌、っていうやつか・・・
(相変わらず変装してるし、ワトスンはそれに全く気付かないし・・・)
兄・マイクロフトも登場して、いい味出してるところもファンサービスなのかな。

いずれにしても、ミステリーとしての観点では語るべきところは多くない。
本格ミステリーというよりは、まさに「冒険譚」という単語がピッタリ。
事件現場で拡大鏡を取り出したり、依頼人を観察するだけでその人となりをズバズバ言い当てる、なんていうホームズが堪らないという方なら読んで損はないでしょう。それ以外の方なら、特にスルーしていいかと・・・
(例の○○教授についての前フリもサラリと入れているけど、次作への布石なのか?)

No.1444 5点 今だけのあの子- 芦沢央 2018/05/13 10:36
「罪の余白」「悪いものが、来ませんように」など、ヒットを連発する若手女流作家・芦沢央(よう)。
初めて東京創元社から出版した短編集がコレ。(芦沢央も初読み。)
2014年発表。

①「届かない招待状」=一番仲の良かった親友の結婚式に呼んでもらえない女性・・・。考えたら、これほど不幸で居たたまれない女性もいないかもしれない。で、そこには当然理由があるわけで、こんな偶然ってドラマ以外有り得ないでしょう・・・
②「帰らない理由」=「親友」そして「彼女」を交通事故で失った女と男が主亡き部屋で対峙することに・・・。理由は「主」が書いていた日記だった。で、当然問題は日記の中身ということなのだが、それってそんなに隠さなくてはいけないことなのか?
③「答えない子ども」=長い不妊治療のうえやっと授かった我が子。その我が子を大切に大切に育てようとする母親・・・。我が子(娘)が一生懸命描いた絵が別の子ども(やんちゃな男!)に盗られたと知ったとき・・・。しかし、この旦那はスゲえな!我慢強さの極地だ!
④「願わない少女」=受験に失敗した余波で嘘をついてまでも設定した「漫画家になる」という夢。一緒に頑張ってきたはずの親友に裏切られたと知ったとき・・・。しかし、そこまで「他人」に合わすかねぇ・・・
⑤「正しくない言葉」=舞台は老人ホーム。そして今回の謎は「手土産のロールケーキに生えたカビ」だ!(すげぇ謎!)。「なぜカビが生えたのか?」・・・正直どうでもよい。ただし、最後はとってもいい話になる(と、フォローしておく)。

以上5編。
『女性脳は周りのみんなと同じ価値観を持ったり、同程度だと思うと安心感を得られる・・・』-最近見た地上波のバラエティ番組で女性評論家が話してたけど、本作を読んでるとまさにその通りだなと納得させられる。
本作の主人公はすべて女性。
例えば①の主人公は、「同じグループの他のみんなには招待状が届いているのに私には来ていない」ことに、④の主人公は、「クラスの他のみんなは仲の良いグループがあることに」・・・“自分だけ違う”ことに強いストレスを感じるわけだ。
うーん。メンドくさい・・・って思ってはいけないんだろうな。今のご時世では。
なにしろ主役は女性である。職場でも家庭でも・・・。男は黙って我慢するしかない!
(って・・・ついつい自分自身に置き換えてしまう)

作者の“旨さ”はそこそこ感じられた作品。①~⑤で世界観を緩やかに繋がらせる技巧もニクイ。
でも、こんな手の作品は結構多いから、どうも既視感が拭えなかったのも事実。
評価はこんなもんかな・・・

No.1443 6点 クビキリサイクル- 西尾維新 2018/05/13 10:35
第23回メフィスト賞受賞作にして、作者のデビュー長編。
「クビシメロマンチスト」などに続く『戯言』シリーズの一作目でもある本作。
2002年の発表。

~絶海の孤島に隠れ住む財閥令嬢が、「科学」「絵画」「料理」「占術」「工学」という五人の天才女性たちを招待した瞬間、“孤島×密室×首なし死体”の連鎖がスタートする。工学の天才美少女、“青色サヴァン”こと玖渚友とその冴えない友人、“戯言遣い”のいーちゃんは、天才の凶行を証明終了できるのか? 第二十三回メフィスト賞受賞作~

いまさら「西尾維新」初読みである。
前々から評判は耳にしていた本作。もちろん、ラノベ風文体や現実感の全くしないキャラや、「うにうに・・・」「僕様」などという張り倒したくなる台詞etcについてはいろいろ思うところもあるんだけど、敢えて触れないことにする。
(それほどアレルギーがあるわけではないんだけど・・・)

そういうスパイス(?)を剥がしてしまえば、紹介文のとおり、“孤島×密室×首切り”という新本格世代垂涎のミステリー、ということになる。
で、「首切り」については確かに衝撃的。
こんなこと横溝正史なんかがとっくに書いてるんじゃないかと思ってしまうんだけど、あまりにも基本的すぎて誰も書かなかったということなのか?
「首切り」の場合、どうしても「首」の方に目がいってしまうということを逆手に取った、ってことなんだろう。
(「いーちゃん」の電話ボックスの例え話はなかなか良い)
「密室」は添え物程度。特に二つ目の密室はかなり苦しい。

プロットはデビュー作としては異例の出来栄え。
孤島の連続殺人なんていう手垢のついたプロットなのに、「見せ方」さえ工夫すればまだまだいけることを示した作品。
こういうプロットだと警察不介入が大前提になるし、リアリテイ云々に触れるのは筋違い。
まぁ突っ込み所は満載なんだけど、それを言うのは野暮っていうことで・・・
今ではミステリーのフィールドからは大きく外れたらしいですが、さすがに売れっ子になる作家は違うということかな。

No.1442 7点 ラン迷宮- 二階堂黎人 2018/05/01 22:44
「ユリ迷宮」「バラ迷宮」に続く、二階堂蘭子シリーズの短篇集三作目。
今回は自身の名前どおり「ラン」にまつわる迷宮に挑戦ということで・・・
2014年の発表。

①「泥具根博士の悪夢」=作者自身の編んだアンソロジー「密室殺人大百科」(2000年)に収録された作品。雪密室+四重の扉が立ち塞がるという超強力な密室が登場。これはどんなトリック??って興味津々だったのだが・・・解法としては、蘭子のお決まりの台詞「困難は分割せよ」を地でいくトリック。読者でも十分解き明かせるという意味では、実によくできたトリックだと思う。因みに“泥具根博士”とは「鉄人28号」に登場する“ドラグネット博士”のもじりとのこと・・・(知らねぇ・・・)
②「蘭の家の殺人」=中編級のボリュームで本作の核となる作品。過去に起こった毒殺+密室殺人を蘭子が関係者の証言をもとに解き明かすというプロット。作中で触れているように、A.クリスティの「五匹の子豚」が作者の頭にあった模様(巻末解説者はE.クイーン「フォックス家の殺人」により近いと言及してますが)。密室トリックは「そんなこと!」っていう程度のものだし、フーダニットも「意外な犯人」の典型。そういう意味では大したことないとは言えるけど、雰囲気は好ましい。
③「青い魔物」=乱歩の世界をもじった“通俗風”スリラーの匂いがする作品。体全体が「青い」人間など、いかにも作者が仕掛けてきそうなプロットだなーっていう感想。分量も短くて小品。

以上3編。
超大作となった「人狼城ー」以降、作品レベルの劣化が目立つ作者。
前作「覇王の死」も酷くて、「もう終わったのか?」って思っていた矢先の作品集。
あまり期待せず読み始めたのだが・・・

マズマズの満足感という感じかな。
もちろん初期の佳作とは比べるべくもないんだけど、特に①なんかはいかにも「二階堂」という匂いが漂う作品。大げさなこけおどしや前時代的な舞台設定など、ファンにとっては「コレ、コレ!」っていうことになる。
蘭子は相変わらず高飛車&上から目線の極地なんだけど、今どきこんなクラシカルな探偵小説に挑戦するスピリット自体、ある意味国宝級かもしれない。
どんな批判にあっても、やっぱり「二階堂らしさ」は忘れずということで、次作にも期待します。

No.1441 6点 売国- 真山仁 2018/05/01 22:43
「ハゲタカ」シリーズでお馴染みの作者が贈る、硬派&社会派エンタメ作品。
2013年5月から2014年8月まで「週刊文春」(!)に連載され、後に単行本化された長編。
単行本は2014年刊行。

~気鋭の特捜検事・冨永真一。宇宙開発の最前線に飛び込んだ若き女性研究者・八反田遥。ある汚職事件と、親友の失踪がふたりをつなぐ。そしてあぶり出される、戦後政治の闇と巨悪の存在。正義を貫こうとする者を襲う運命とは? 雄渾な構想と圧倒的熱量で頁をめくる手が止まらない!~

『頁をめくる手が止まらない!』・・・かというと、確かに序盤から終盤に入る頃まではそのとおりだった。
東京地検特捜部に異動した途端、大物政治家の汚職事件を担当することとなった冨永パートと、宇宙開発の最前線で働くチャンスを得たものの、そこに大きな壁の存在を知った遥のパート。
ふたりのパートが順に語られる展開。
当然ながら、このふたつの潮流はどこかでクロスすることになるんだろう・・・と想像しながら読み進めていく。

そして、“売国奴”という存在が浮かび上がる終盤。ついにふたりの運命はクロスする!
これこそがプロットの妙! と言いたいところなんだけど、そこまで鮮やかなものではなかった。
正直にいって、終盤はトーンダウンしたように、それまでの迫力が落ちていった印象は拭えない。
「巨悪」の対象こそ明らかになったものの、「さあ、これからどういうふうに立ち向かっていくのか?」っていうところで、唐突にカットされたように思えた。
(もしかして、ノンフィクション的にどこかから横槍が入ったのか?)

「ハゲタカ」シリーズでは一企業内での権謀術数が語られていたが、本作は日本だけに留まらず、米国をも巻き込んだ権謀術数の世界へ突入。そこには当然ドロドロした争いや必殺仕事人orゴルゴ13のような闇の世界が広がっているのだ・・・
おおー怖!
一小市民でしかない私には想像もつかない世界。
ちょうど、朝鮮半島で歴史的な会談が行われた時節というのが何とも暗示的だ。あれも裏側には数限りないドロドロした人間の欲望が蠢いているんだろうな・・・

No.1440 6点 夜より暗き闇- マイクル・コナリー 2018/05/01 22:40
2001年発表。
作者のメインキャラクターであるハリー・ボッシュ。そして「わが心臓の痛み」の主役、テリー・マッケイレブ。ふたりがダブル主演を務めることとなった本作。
“ボッシュ・サーガ”の深化とともに、新たな展開を予感させるシリーズ七作目。

~心臓病で引退した元FBI心理分析官テリー・マッケイレブは、旧知の女性刑事から捜査協力の依頼を受ける。殺人の現場に残された言葉から、犯行は連続すると悟ったテリーは、被害者と因縁のあったハリー・ボッシュ刑事を訪ねる。だが、ボッシュは別の殺しの証人として全米が注目する裁判の渦中にあった。現代ミステリーの雄コナリーが、人の心の奥深くに巣食う闇をえぐる!~

ハリー・ボッシュとテリー・マッケイレブ。そして、『ザ・ポエット』(1996)の探偵役ジャック・マカボイまでもが顔を揃えた本作。
まさにオールスターキャストとでも表現すべき大作だ。
物語は当初、「マッケイレブ」パートと「ボッシュ」パートに分かれて進行する。
共に、真犯人や弁護人の策略に遭い、徐々に窮地に陥ってしまうふたり。
特にマッケイレブは、プロファイルを進めるうちに、何とボッシュ自身が真犯人ではないかという疑いすら抱いてしまうことに・・・

ボッシュが真犯人なのか?という、何とも刺激的でファンにとってはやきもきする展開。
その鍵となるのが、“ヒエロニムス・ボッシュ”という画家。
(ボッシュの名前がその画家に因んで名付けられていたということ、不覚にも忘れていた。)
講談社文庫表紙にはボッシュの作品である『最後の審判』と『快楽の園』が使われているのだが、これがルネサンス期の画家だとすれば実に先鋭的だし、「夜より暗き闇」というタイトルに妙にマッチしている。

で、総合的な評価はどうなんだっていうと、ひとことで言うと「ちょっと微妙」っていう感じ。
これまでのサプライズ感の強いどんでん返しやいわゆる“ジェットコースター”的要素はこれまでの作品に比べて薄くなっている。
終章近くで判明する真犯人や全体の構図にしても、それほどの大技ではなく地味な印象は拭えない。
そんなことよりも、ボッシュにまとわりつく「闇」が本作通じてのテーマ。
妻や子供に恵まれ、前向きに生きようとするマッケイレブとの対比もあって、ますますボッシュのダークサイドが気にかかってくる。
この何とも言えない「後味」は、次作に期待しろっていうことなんだろうね。

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