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平均点:6.31点 採点数:460件

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採点傾向好きな作家

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No.460 7点 暗い宿- 有栖川有栖 2017/09/24 14:37
 宿をテーマにした、火村&作家アリスシリーズの短編集。
 廃業する民宿の下から掘り出された白骨(「暗い宿」)、石垣島のホテルで開催される犯人当てゲーム「ミステリー・ナイト」に集った人たち(「ホテル・ラフレシア」)、鄙びた旅館に表れた、顔全体を包帯で包み、サングラスをかけた不気味な男(「異形の客」)、豪華ホテルで突然災難に巻き込まれた火村(「201号室の災厄」)と、様々な趣向が凝らされたオイシイ作品集。
 一番本格ミステリの色が濃いのはやはり「異形の客」か。ボリュームも本書では一番だが、それに見合う謎解きの面白さがあった。表題作「暗い宿」は、一種のジメジメ(?)した雰囲気がそれらしくてよかった。
 全作品を通じて、「落としきる」一歩手前で話を終わらせており、余韻があってよいと思う人もいれば、すっきりしないと感じる人もいるかもしれない。ただ「ホテル・ラフレシア」の終わり方はちょっと悲しすぎた。
 それにしても、(取材を兼ねているとはいっても)気ままに、時間に縛られない一人旅を堪能するアリスを見ていると羨ましい。きっと読んだ多くの人が、旅に出たくなる。

No.459 7点 殺人方程式- 綾辻行人 2017/09/24 14:10
 死体の切断理由、移動させられた理由など、猟奇的犯行と不可解な状況の「ホワイ」が納得のいく形、しかも丁寧な伏線の上で説明されていて、久しぶりにド直球の本格ミステリを楽しんだ。特に、死体移動の理由が秀逸な仕掛けに感じた。
 トリックは、スケールは大がかりで手口は細かい。詳細な仕掛け等は分かりようもない感じがしたが、大体「どこからどこへ」ということが看破できればまぁ満足、かな。何気ない描写にきちんと伏線がちりばめられていて、さすがだなと思った。
 犯人は分かったが、残っている最後の謎の真相にはちょっと面食らった。突発的で、脈絡のない偶然の犯行(?)という感じがして、あまりすっきりしなかった。探偵役が双子で、入れ替わって推理をすることも、特に必要な設定とは感じない。
 というように、やや不要な装飾がある感はするが、「謎解き」の魅力は十分。これぞ新本格、という作品だった。

No.458 8点 パレートの誤算- 柚月裕子 2017/09/24 13:41
 物語の題材は、「生活保護受給者」。市役所の福祉課に勤める牧野聡美は、ケースワーカーとして受給者の定期訪問をすることになる。心の底には、生活保護受給者に嫌悪を抱いているからだ。しかしそんな聡美に、頼れる上司の山川は、「やりがいのある仕事だよ」と励ましの言葉をかける。尊敬する上司の言葉に背中を押された聡美だったが、その直後に、その山川が訪問先のアパートで不審な死を遂げる―

 生活保護、という昨今話題になているテーマを取り上げ、切り口としたのは素直に面白かった。ケースワーカーとして訪問する件では、受給者たちの横顔も描かれていて興味深い。「貧困ビジネス」と言われる、暴力団が受給者と結託してお金を得ようとする不正受給のことなども書かれ、制度の裏表がよくわかる。
 終盤の真相に迫る急展開のくだりで真犯人はわかったが、明らかになった真相から、山川の不審な行動についての説明もきちんとつけられ(腕時計のこと以外は…)、納得のいくものだった。
 かなり面白かった。

No.457 6点 怪しい店- 有栖川有栖 2017/09/18 19:36
 火村&作家アリスシリーズの短編集。相変わらず、短編というサイズに程よい適度な仕掛けのパズラーで、安心して読める。
「古物の魔」…骨董屋の店主の撲殺事件を解くフーダニット。最後、犯人を追い詰めていく火村の推理が心地よい。無難に面白い。
「燈火堂の奇禍」…アリスが立ち寄った先で前日に起こった強盗事件の真相を解く。ちょっと日常の謎テイストの、面白い仕掛け&真相。
「ショーウィンドウを砕く」…倒叙モノ。喫茶店のくだりで、ほぼ看破できる。(これはどういう意味で「店」に関係する作品とされているのか?そっちのほうが謎だった(笑))
「潮騒理髪店」…火村が調査先で立ち寄った理髪店での、日常の謎。昭和の映画のようなシーンと、鄙びた村の雰囲気にほっこりする作品。
「怪しい店」…「みみや」と称して悩みある人の話を聞くことを生業としていた女性の殺害事件。本短編集ではもっとも本格的。

 有栖川氏の短編集なので、基本水準が下がることはなく、安心して読めます。

No.456 5点 わざわざゾンビを殺す人間なんていない- 小林泰三 2017/09/17 16:42
 人間が死後、活性化遺体=「ゾンビ」になるという現象がウイルスによって現実化し、蔓延しているという設定によるSFミステリ。
 ある企業の、研究成果発表の場に、担当となっていた社員が現れない。すると別室から悲鳴が聞こえ、駆けつけてみると当の社員は「ゾンビ」になっていた―。ゾンビになったということは、直前にその社員は死んだということ。事故なのか?それとも事件=殺人なのか?図々しく警察の捜査に自ら首を突っ込む謎の探偵・八つ頭瑠璃が、身を賭して謎の解明に挑む―。

 ・・・というように、虚構のSF世界を下敷きにしたフーダニット。真相・トリックがきちんと「ゾンビ世界」設定であるからこそ、になっているのはよかった。
 ただ、昨今「これまでにない仕掛けのミステリを・・・」という意気込みからか、こうした特殊設定を生かしたネタの作品は多くて、Amazonその他で絶賛されているほど衝撃はなかったのが正直なところ。(ちょっと前に、白〇智〇の「お〇す〇人面〇」を読んでいたから、なんとなくダブったというのもある)
 ちょっとズレた会話を含むテンポの良い展開には好感がもてた。個人的には「ゾンビイーター」のリーダー格の女がかっこよかった。
 描写はかなりグロいというか、気分悪くなるところもあるかも。

No.455 5点 真夜中の探偵- 有栖川有栖 2017/09/16 11:06
 北海道が「日ノ本共和国」となり日本と対立し、警察の締め付けの中、探偵行為が違法とされた世界設定での、空閑純(ソラ)シリーズ第2作。

 探偵行為により投獄された父親を案じながら、失踪した母親の行方を追うソラは、依頼者と探偵との仲介役を務めていた男、押井照雅に会う。押井のもとで母親の最後の依頼について情報を得、母親捜索に向かおうと考えていたソラだったが、そんな折に押井邸に出入りしていた元探偵・砂家兵司が殺害される事件が起こる。
 砂家は、水を満たした棺のような木箱に密封され、溺死させられていた。なんのためにそのような方法で殺害されたのか?犯人は誰なのか?探偵をめざすことを決意したソラは、推理を巡らせる―。

 有栖川作品らしい、トリック解明に主を置いたオーソドックスなミステリ。トリックは看破できたが、犯人・動機は後出しの感があったので、分かりようがないかなぁ。でもまあ、中編レベルの長さで、サクサク読めるのでそれほど重厚な仕掛けでなくても満足できた。

No.454 4点 失われた過去と未来の犯罪- 小林泰三 2017/09/16 10:47
 ある日突然、全人類の記憶が10分ともたなくなり、世界がパニックとなる。自分が誰であるか、などの基本的な情報は残っているが、10分おきに「あれ?今何してたんだっけ?」「ここはどこだ?」ということの繰り返しになる。そういう状況(短期記憶喪失)になったということの理解も毎回しなくてはいけないので、しばらく世界は麻痺するが、やがて少しずつ状況把握をし、対策が積み重ねられ、数年後には身体に挿し込む「外部記憶装置」が開発され、人々はそれに頼って生活するようになる。
 しかし、この身体に挿し込む「外部記憶装置」は、ある肉体に挿し込めば「その人」なれてしまう。例えば肉体が死を迎えても、「外部記憶装置」が破壊されず残されれば、他の人の体で「再生」することもできる。結局、人格とは、「人」とは、記憶なのか?魂というものは存在するのか?そもそも生とは、死とは、現実とは何なのか?・・・そんな感じの一種の哲学的(?)な内容に話が及んでいく。
 「大忘却」が起きてからのさまざまな場所でのエピソードが脈絡なく描かれる展開が続くので、正直ややこしい。いくつかのエピソードは、結局そのまま置き去りにされていると感じる(「あの話は何の意味があったの?」って感じで)何が描きたかったのかよくわからなかった。

No.453 7点 作家刑事毒島- 中山七里 2017/09/16 10:15
 犬養隼人の元先輩であった毒島は、ある事情でいったん退職し、なんとミステリ作家となったが、兼業という形で刑事として再雇用された。
 出版業界の人間が苦手な犬養は、業界にからんだ事件を相棒の高千穂と毒島にことごとく振る。本作はそんな毒島と高千穂を主とした連作短編になっている。

 一編ずつフーダニットのミステリになってはいるが、初めから容疑者は数名に絞られ「犯人はこの中の誰?」という、オーソドックスな展開。作品の面白さはそれ以上に、毒島のまさに「毒」のあるキャラと、出版界に関わる人々や人間模様の酷さにある。
 「中学生の作文」のような作品を大作と信じて疑わず、賞への応募作を落とす審査員を逆恨みする作家志望者。新人賞を獲ったはいいが、自身の文学観とやらをこねくりまわずだけで一向にその後の作品が出ない「巨匠病」の新人作家。作家への偏執的なストーカー・・・等々、そうした人たちを、笑みを浮かべながら飄々と糾弾する毒島の物言いが痛快で、笑わずにいられない。
(因みに、「いっぱしの書評家よろしく書評サイトに投稿するネット書評者」というのも登場するのでなかなか耳が痛い(笑))

 ミステリとしての書評なので、これでも抑えめの採点。読み物としてはサイコーに面白かった。

 最後の、奥付のページ(「この物語はフィクションです・・・」のくだり)を是非見てほしい。爆笑必至です。

No.452 2点 QJKJQ- 佐藤究 2017/09/03 22:26
 第62回江戸川乱歩賞受賞作。
 正直、よさがあまり理解できなかった。
 家族全員が猟奇殺人者、という設定で、主人公の市野亜李亜をはじめその母、兄、そして父の殺人者としての姿が描かれる序盤は確かに規格外で、その後への期待が高まる。しかしこんな展開は・・・私には合わなかった。簡単に言えば、「抽象的、観念的」。
 私の大好きな有栖川有栖、今野敏の両氏が絶賛しているのが釈然としなかった。池井戸潤の評に最も共感する(まぁ立場が同じなんだから当たり前か)。
 興味が沸いて諸サイトでの書評を見たが、絶賛といっていいぐらい評判がいいので、ますます自分の審美眼に自信がもてなくなった。

No.451 8点 乱鴉の島- 有栖川有栖 2017/09/03 21:09
 しばしの息抜きを、と下宿のばあちゃんに押され、知り合いが民宿を経営する島にアリスと行くことになった火村。ところが、目的の島の奥にある、別の島に着いてしまい、しかもしばらくは迎えが来ない。その島には著名な文学者とその取り巻きが滞在していたが、明らかに火村たちを部外者として煙たがっている。過剰なまでのその様子に、何かしらの秘密めいたものを感じる火村・アリス。するとそこにさらなる闖入者、今をときめく若き起業家が。火村たちへのもの以上に、はっきりと拒絶の意を示す滞在者たち。この島の集まりは何の集まりなのか、起業家はそこへ何をしに来たのか、不可解な雰囲気のまま過ごすうちに、第一の殺人が・・・
 ・・・というように、雰囲気たっぷりの序盤から前半。電話線が切られ、携帯も圏外で、迎えの日までは外部との連絡は不可、というお決まりのパターンもファンとしては「よしよし!」。「?」と感じる登場人物の言動のちりばめ方も上手く、興味が途切れることなくページを繰り続けることができた。

 犯人の取った行動の意味付けや、それを解き明かす火村の推理の筋道も私としては十分納得できたし、非常に面白かった。惜しむらくは、動機。完全に、物理的に犯行可能な人間を突き詰めるというロジックだったが、これだけの謎めいた人間関係を描く作品なので、動機もそこに絡んでくるものであってほしかった。完全に取って付けたあと説明だった。
 でも、やっぱり、有栖川有栖先生はいい!

No.450 6点 狩人の悪夢- 有栖川有栖 2017/09/03 20:47
 久しぶりの火村シリーズ長編、まずは楽しんだ。今まで通りの、純粋な王道のフーダニットが最近逆に希少な気がして、そんな中での有栖川作品はファンにとっての寄る辺になる。

 今回は、緻密に計算し、やり遂げた犯人の手口を読み解くのではなく、火村曰く「散らかっている」(だったか?)犯行の跡を読み解いていくというものだった。落雷をはじめとした不測の事態に右往左往したうえで、半ば場当たり的に弄した策の跡をたどっていく道筋となる(だった)ので、精緻なロジックを好む読者が正面突破しようとすると難しかっただろう。かくいう私も、はっきりいって各事象を全く結び付けられず、ただただ火村の推理を追うだけだった。

 不測の事態に応急的に、場当たり的に対応するということは、実際の犯罪では大いにありそうなことで、そう思うと面白く読み応えがある作品だと感じた。(ただ小説のような綿密な「トリック」を犯人が計画するようなことはまずないだろうが)

No.449 7点 虹果て村の秘密- 有栖川有栖 2017/08/20 19:11
 そうなのかなーと思ってて、先行書評をみてやっぱり。ジュヴェナイルなんですね。でもそれだからシンプルで、非常にオーソドックスなフーダニット。安心して読めるし、普通に面白かった。
 最近複雑な事件様相・人間関係での物語展開がスタンダードみたいになってるから、こういう分かりやすくて推理しやすい、適度な長さの話を久しぶりに読むとホッとする。
 真相に迫る前の間(要は読者に考えさせる時間帯)もこうであってほしいし、それまでの手がかりの示し方も過剰にあざとくなく自然で(でもわかったけど)、いいね。

 変に「今の流れについていかないと…」ってなって、「今までにない何かを…!」とやっきになっていくよりも、ファンが求めているとおりのものを揺るがずに示してくれる。やっぱり有栖川有栖はいいなぁ。

No.448 4点 東尋坊マジック- 二階堂黎人 2017/08/20 18:19
 彼の短編では何度も読んでいると思うのだが、長編の一作品を読むのは今回が初めて。正直、簡単だった。

 おそらくメインとなる東尋坊での銃殺事件だが、わざわざ衆人環視のもとで実行されることや、撃たれた人物がすぐには発見されないくだりから、早々から大体のトリックは見当がついてしまった。

 にしても、未解決事件「冥妖星」とのリンクは、あまりにも偶然が過ぎるだろう。まぁ物語なんだからあんまり口うるさく言いたくはないのだが。

 ただ、サイトでの他の投稿者の方の評価もかなり厳しいので、二階堂氏の作品中でももともとキビシイものだったと考えて、これに懲りずに機会があれば他作品も読んでみようとは思う。

No.447 6点 バーニング・ワイヤー- ジェフリー・ディーヴァー 2017/08/20 17:09
 今回の凶器は「電気」。目に見えないながら、一瞬にして命を奪う威力をもつ凶器に相対するシーンは読んでいるこちらも緊張する。いつもながら、それぞれの作品にはっきりした題材というか、テーマのようなものをもたせる作者の腕は秀逸だと思う。

 物語は電力会社へのテロともいえる犯行に立ち向かう本筋と、メキシコに逃亡を図った「ウォッチメイカー」を逮捕するという複線との二本立てで進められている。ウォッチメイカーはやはり特別な作品らしく、ちょいちょいこうやって「その後」がストーリーに出てくるので、そういう点ではこのシリーズ作品(ライムシリーズの方)は順番通りに読んだ方がよいのかも。

 リーダビリティの高さは相変わらずで、またそれもチープな感じではないので、今回も十分楽しく読めた。ただイマイチ得点が上がらなかったのは、私は今回の「どんでん返し」がちょっと飛び道具というか、奇を衒ったものに感じてしまったので…。ちょっと読者の予想を超えることに行き過ぎてないかな?

No.446 4点 迷路荘の惨劇- 横溝正史 2017/08/20 16:48
没落した華族が盛期に建てた、抜け道やからくりが仕掛けられた通称「迷路荘」に、関係者が一堂に集まる機会がもたれ、そこで連続殺人の惨劇が起こる。
 客人が来る前日に、怪しげな片腕の来訪者があり、そのことに不穏さを感じた館の主人は金田一を呼び寄せるが、案の定、ついたその日から殺人劇が繰り広げられる。

 横溝らしい舞台設定ではあるのだが、何故か期待するおどろおどろしい雰囲気に欠けた。なぜかなぁと考えてみると、関係者一人一人を呼んでの事情聴取があまりに冗長でちょっとうんざりしてくる上に、そこでやけにアリバイが検討される割には、結構真相ではそのへんはざっくりしていたから、余計に無駄に感じたことかなぁ。
 事件自体も、第一の殺人は不可解な謎が多くあり、「らしい」感じがしたが、第二以降はそうでもなく、お決まりの洞窟やらなんやらでごちゃごちゃしてきて、何となく尻すぼみの展開に感じた。(結局、抜け道のはしごにやすりをかける細工をしたのは誰だったの???)
 一言で言えば「無駄に長い」印象があり、読み進めるのがちょっと面倒になった。
 ただラストは好きなタイプのひっくり返し方だった。

No.445 5点 三つ首塔- 横溝正史 2017/08/18 21:14
 題名に世間が(私も)イメージする横溝作品らしさを感じて、期待して手に取ったのだが、ミステリとしてはいま一つかもしれない。
 胸糞が悪くなるような愛憎劇と濡れ場の連続、その合間にサクサク起こる殺人劇と、そういうテイストは十分「らしい」のだが、真相がちょっと一足飛び過ぎ。
 雰囲気的に「そうなんじゃないの」とは推測できても推理はできない。そもそもミスリードとなる「真犯人以外の人物」についてはアリバイが検討されていたのに、最後にいきなりの種明かしで出てきた真犯人は、どうやって、どのように犯行を重ねていたのか?の検討や説明、さらにはそれまでの伏線もほとんどないと感じる。

 一方で、当初ダントツで怪しい主人公格の男性が、良い印象に変貌していくさまこそ、意外に感じてうまくだまされた。「騙し」だと思ったら「騙し」じゃなくて本当だった、という逆の意味で。

No.444 6点 夜歩く- 横溝正史 2017/08/18 20:57
 話題になっているように、海外某作品で物議を醸した「あの手法」を横溝正史が使うとは… 良くも悪くも、イメージではなかったので驚いた。

 ただ、先行の海外某作品は、はっきりと一か所、そのために記述をごまかしている部分があるのに対して、この作品ではそれはない(よね?)。そもそも創作文章の体なので、そういう部分を描いていないというだけのことだが。よって、後発であったこともあって、最後の種明かしでそれほどアンフェアという印象はないのかもしれない。しかし考えようによっては、海外某作品はその「ごまかし」の部分がある意味読者にとってのフェアな(?)手がかりになっているともいえるのだが(とはいえ何といっても最初の試みなので、そんな可能性は一顧だにせず読んでいる読者にとってはやはりアンフェアに感じたこともあるだろう)。

 刀の密閉状況のトリック、首の部分の発見のトリックなどは、その場のちょっとしたことの流れでいくらでも破たんする、綱渡りのような(運に頼る部分の大きい)もののように感じるが、猟奇的な事件、複雑に絡み合う親族関係など、横溝テイストがこれでもかと凝縮されており、全体的には満足できた。

 

No.443 7点 家蝿とカナリア- ヘレン・マクロイ 2017/08/18 20:14
 劇中に舞台上で殺人事件が起こるという、まさに「劇的」な展開は古典的な作品にでありながら読者を引き込む。
 時代や国が違うため、情景を思い描いて読むのが難しいとは感じるが、文章としては仰々しさや余計な虚飾がないので抵抗感なく読めた。
 タイトルが謎解きのキーそのものなのだが、それがどう真実への筋道になるのか容易にはわからないという自信がなす業だろう。
 真相、そこに至る推理過程も十分面白い。やはりマクロイは手練れである。

No.442 5点 ウツボカズラの甘い息- 柚月裕子 2017/07/24 21:16
 異なる時系列の二つのストーリーが交互に展開され、後半に一致をしていくというパターンだが、「どうつながるか(つまりどういう仕組みなのか)」は前半でたいだい見当がつき、実際思った通りだった。
 そもそも偶然昔の同級生に出会い、そこから化粧品セールスの看板にあっという間に上り詰める展開から胡散臭すぎる。顔も覚えていないような同級生(実際、同級生じゃなかったわけだが)の誘いに、なんの疑いももたずに乗っていくことなんてあるのか?(現実の詐欺を見ていると、いや、あるのだろう、とも思うが…)ただ少なくとも、場所を変え、乗り継いで乗り継いで成功し続けることなどないだろう。
 また、細い細い線をたどって真相に行きつく捜査が、ちょっとご都合主義すぎるかな(かといってリアルに、辿って、間違えて、また辿って…を繰り返していても小説にならないとは思うが)。

 まぁ要するに、発想がまずあり、それを限られた紙面で形にしたらこういう話になった、ということかな。読んでいて退屈はしなかったし、少なくとも楽しめたのは間違いない。

No.441 7点 朽ちないサクラ- 柚月裕子 2017/07/24 21:05
 米崎県警広報部に勤めて4年の森口泉。県警は今、世の批判にさらされていた。生安課に再三ストーカー被害を訴えてきていた女性の被害届を受理せず、先延ばしにしていたところ、その女性がストーカーに殺害される事件が起きたのだ。さらには、その時期に生安課担当を含めた県警の面々が、慰安旅行に行っていたことが新聞にすっぱ抜かれ、世間の反応は炎上した。
 県警では、事件の衝撃はもとより、それ以上に「慰安旅行の件を誰が新聞社にリークしたのか」が最大の関心事となった。森口泉はその雰囲気に背筋が凍る。実は親友の新聞記者・千佳についうっかり、慰安旅行が分かるような言葉を漏らしてしまっていたのだ。
 「絶対秘密にしてね—」そうお願いし、千佳は固く約束してくれたはずなのに…。それを千佳に問いただすと、千佳は「私じゃない。信じて」という。それでも疑いの晴れない顔の泉に、千佳は「信頼を取り戻してみせる」といい、その場を離れた。その数日後、千佳は死体となって発見される―

 県警の不祥事と新聞社へのリーク。裏切り者は誰なのか、探る中で起こる殺人と、関連する人間の連続する不審死。マスコミを舞台に挙げ、警察と絡ませる部隊の設定がなかなか面白く、読み応えがあった。
 ただ事件の黒幕については、警察小説をいくらか読んできた人には概ね予想がつく範疇でもあると思う。

No.440 6点 マインド- 今野敏 2017/07/24 20:20
 「真の黒幕は誰なのか?」を探ることがメイン。しかもそれも、ミステリ慣れしてる読者なら早い段階でだいたいわかる(私もそうだったし)。

 ページを繰らせるリーダビリティは相変わらず高いが、こういう心理学的なネタは好みが分かれるかも。面白いは面白いが、「そんなに思うように人を操れたら、マジで世の中犯罪だらけ、怖っっ!!」と思うのが正直なところ。

No.439 6点 継続捜査ゼミ- 今野敏 2017/07/24 20:08
 警察学校長で退職した元刑事が、女子大の教授として赴任し、ゼミのケーススタディとして提供した未解決事件を5人の女子学生と共に解決に導くという話。

 過去の捜査情報と関係者への聞き込みを頼りに机上で推理合戦(?)を繰り広げるという体は、時代や場面設定は違えどこれまでも多くあったので特に新鮮味はない。強いて言えば、元警察官の大学教授とゼミ生という設定ぐらいか。
 ミステリ本筋にはあまり関係ない、主人公を頼りにしてくる文学研究の大学教授とのやりとりが個人的には面白かった。

No.438 6点 任侠書房- 今野敏 2017/07/24 19:58
 任侠シリーズの第一弾。
 まぁ完全にエンタメ小説です。ミステリ書評サイトなので採点は控えめにしておきました。だから言い方を変えると、とっても面白いってこと。

 今時珍しい、任侠や地元住民とのつながりを大事にする阿岐本組。その組長が、ひょんなことから倒産寸前の出版社経営を引き受けることになった。
 「なんとかなるだろ」ぐらいの楽観的組長にいらだちと呆れを覚えながら、梅之木書房に出向く代貸しの日村。曲者ぞろいの編集者たちを相手に、次々に起こるトラブルに向かうことになった日村だが―

 きっと現実にこんなヤクザはいないんだろうけど、そうであってくれると嬉しいかも…と思いながら一気読み。面白いよ。

No.437 4点 放課後に死者は戻る- 秋吉理香子 2017/06/24 23:07
 高校生活やそこでの人間関係の描写はリアルで、そういう部分は楽しめたのだが、いかんせんミステリとしてチープ。なんというか、畳みかけ方が大味だし、最後の仕掛けに対するそれまでの準備(描写や叙述の気配り)が足りない。

 <ネタバレ>
 「こいつさ、死んじゃったんだよな」という同級生のセリフのからくりは一応納得できるけど、だとしたら丸山が文化祭の準備の場面で城崎を手伝おうとしたのは辻褄が合わないんじゃないか。
 あと、あれだけいろんなクラスメイトと話したり、いっしょに時間を過ごしたりしているのに行方不明の同級生がいることが一切話題に挙がらないなんてありえないし、小山のことを話題にしたときの田中吉雄の反応も不自然。
 上手に辻褄が合うような会話にしているけど、そもそも普通だったら直接言葉にするからすぐにばれるはず。
 仕掛けありきで、無理のある展開になっているという印象が強かった。

No.436 8点 ハーメルンの誘拐魔- 中山七里 2017/06/24 22:51
 子宮頚がんワクチンの副反応により障害を負った15歳の少女が誘拐された。現場には「ハーメルンの笛吹き男」が描かれた絵ハガキが。障害を負った年端もゆかない少女を攫うという卑劣な犯行に憤る警察。ところが、次に誘拐されたのは子宮頚がんワクチンの接種を推進している団体の長の娘。これが偶然とは思えない犬養は、そのつながりに着目して捜査を進める—

 どんでん返しが有名な著者だが、本作品のそれはいつもにもして痛快だった。身代金受渡しの警察の不備は、「今の時代そのぐらい構えるんじゃないの」と思いつつ、意外に本当に盲点になりそうな感じもして、興味深かった。
 今回の話はあまり血なまぐさくなく、読後感もよかった。あまりに言葉が洗練され過ぎている感がある登場人物の会話は相変わらずだが、だからこそ力のある作品になっていることは間違いなく、著者作品の魅力である。

No.435 8点 孤島の鬼- 江戸川乱歩 2017/06/24 22:32
 乱歩作品にそれほど精通しているわけではないが・・・「That's 乱歩」という感じがする作品だった。いわゆる「変格」とはこういうもの?
 現在なら出版自体が危うい差別用語の連発。先天的な障害、同性愛などエグい要素が盛りだくさんで・・・やっぱり「That's 乱歩」。洞窟を彷徨うくだりなどは、これにインスパイアされた後発も多かったのではと思ったのだが、なにせミステリ史に浅学なので違っていたらご容赦を。
 
 古き良き時代の、よい意味で現実離れしたミステリ。三津田信三にこの継承を期待したいところだ。

No.434 6点 任侠学園- 今野敏 2017/06/24 21:58
 正直、ミステリの範疇には入らない。極道が学校の再建に乗り出すという極道エンタメ。シリーズの他作品を登録したので勢い登録してしまった。

 でもまあ面白い。特に、対モンスターペアレントのくだりや、ヤクザの娘というだけで幅を利かせている鼻持ちならない女子高生の鼻を明かすときは痛快だった。
 文庫版で、一日で読める。
 その割に楽しめて、十分お得だと思う。

No.433 7点 逆風の街- 今野敏 2017/06/24 21:30
 「ハマの用心棒」こと、神奈川県警みなとみらい署・暴力犯係係長の諸橋と、相棒城島による「横浜みなとみらい署暴対班」シリーズ。
 悪徳金融業者の苛烈な取立てに心身ともに摩耗した被害者の救済、取立て業者の糾弾に乗り出した諸橋&城島コンビ。だが、捜査が真に迫るにつれ、警察内部からそれを止めるようなブレーキを感じる。その背景が分かってくるにつけ、悪辣な取立てに憤慨していた諸橋も、さまざまな思いに揺れるようになる。
 「社会の害悪、暴力団の排除」。その信念にブレはない諸橋だが、それはただたんに頑固一徹ということではなく、何が正しく、何が間違っているのか、不完全な人間らしい迷いや煩悶に悩まされることがある。そんな時に活路を開くのが相棒・城島の一言。そんな二人の関係が痛快で、このシリーズには惹かれてしまう。
 警察エンタメ的な要素が色濃い著者の作品だが、必ずミステリ(つまり謎の解明)の要素はあり、しかもそれが警察内部の機構を踏まえたうえでの独特な色で面白い。私は「隠蔽捜査」シリーズが大好物だが、それが好きな人はきっとこのシリーズも好きになるだろう。

No.432 6点 セイレーンの懺悔- 中山七里 2017/06/11 20:22
 今回の題材は、「マスコミの矜持」といったところか。
 主人公の朝倉多香美は、帝都テレビの看板番組「アフタヌーンJAPAN」の制作に携わるジャーナリスト。朝倉には、実の妹が学校でのイジメを苦に自殺したという過去があり、世の真実を暴きたいという使命感をもってジャーナリストになった。
 ある日葛飾区で発生した女子高生誘拐事件。被害者・東良綾香は、暴行を受けたうえで顔を焼かれるといいう、無残な状態で死体となって発見された。義憤に駆られ、鼻息荒く取材に向かう朝倉の前に立ちはだかったのは、警察の宮藤刑事だった。「不幸を娯楽にし、拡大再生産するのがマスコミ」とマスコミを侮蔑する宮藤刑事。強い反発を感じながらも、思い当たる節がある朝倉は何も言い返すことができず、自身の仕事の意味、存在意義を自問自答し煩悶する。
 迷いや悩みを抱えながらも、先輩ジャーナリスト・里谷の教えを頼りに取材に邁進する朝倉。そんな中で、他社が嗅ぎつけていない人物たちにたどり着き、その密会の場をとらえることに成功する。特大スクープに小躍りし、事件の真相に迫ったという満足感に浸る朝倉だったが―

 多くの読者が同じ感想を持つかもしれないが、青臭い主人公以上に、清濁併せ飲みながら、それでも揺るがない信念をもって職をまっとうする先輩、里谷に一番惹かれる。「スクープをものにしたい」という、ある意味下世話ともいえるジャーナリストの本能を認め、とはいえそれが世間にどう映るのか、被害者たちにはどう思われるのか、開き直りではなく真摯に受け止め、そのうえで前を向いて邁進する姿にカッコよさを感じる。
 特ダネの誤報という形で真相が二転三転し、ミステリとしてもきちんと仕掛けが施されているが、それ以上にここまで述べたような社会的問題提起のほうに興味が惹かれるのは、評価の分かれるところかもしれない。 

No.431 5点 マル暴甘糟- 今野敏 2017/06/11 17:38
 甘糟達夫は、北綾瀬署刑事組織犯罪対策課に所属しているマル暴刑事。ヤクザと見分けがつかない強面ぞろいと相場が決まっているマル暴刑事の中で、真逆の弱弱しい風貌の甘糟は「何で自分が…」と疑問と不満を抱きながら職務にあたっているが、ヤクザ以上に恐ろしい先輩刑事・郡原の前ではそれも言えない。
 ある日多嘉原連合の構成員、東山源一が撲殺される事件が発生。手口や、防犯カメラに映っていた不審な車の様子からは、明らかにヤクザではない「半グレ」の仕業のように見える。弟分を殺された多嘉原連合のアキラはいきり立つが、単純な半グレの犯行という見方に違和感を覚える郡原、甘糟は、アキラをいさめながら、ある意味協力的に真犯人を探っていく・・・

 現場主義の所轄である主人公たちに、エリート然とした捜査一課が加わることになり、始めは反目し合うような雰囲気だが次第に通じ合い・・・という、著者の作品にはよくあるパターンが本作品でも踏襲されている。それでも、その描き方が作品個々で味があり、ワンパターンとは感じさせず、いつも気持ちがよい。
 肝心のミステリの方でも、マルBならではの仕来たりや組織構造が関わってくる仕掛けなので、一般のロジックとは違うが、だからこそ味があってよい。
 常に時代劇のような「勧善懲悪」感がある著者の作品だが、その爽快感が人気の秘密なのではないかと思う。

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