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平均点:6.29点 採点数:570件

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採点傾向好きな作家

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No.570 6点 崩れる- 貫井徳郎 2018/12/08 16:42
 著者初の短編集ということらしい。巻末には著者自身が「短編に苦手意識があった」と述べているが、もともと力量の高い作家さんだと思うので基本的に高質で巧みな短編だと思った。
 良かったのは表題作「崩れる」と2作目「怯える」。
 「崩れる」では、硬質な文体の文中で、夫のことを何度も「カス」と表現しているのがおかしくて仕方なかった(笑)。こういう類の作品ではしばしばでてくる「自分ではそう思っていないダメ夫」だが、ここまでの例は稀にしても、現実に結構近いタイプの男はいると思う。
 「怯える」は仕掛けとして一番よかった。この短編集中で唯一(じゃなかったかな?)問題が解決に向かう終わり方をしていて、ホッとした。
 劇的な満足感はないかもしれないが、サッと読めちゃうし、小粒な良作が揃っているので、長編を読む合間などにオススメ。

No.569 8点 あしたの君へ- 柚月裕子 2018/12/08 16:25
 家庭裁判所調査官は、少年事件や離婚問題の背景を調査して、裁判官をサポートする仕事。望月大地は、この春に家裁調査官に採用され、調査官補として見習い期間中。「自分は本当にこの職に向いているのか」―常に疑問と不安を抱きながらも、担当された案件で当事者たちに真摯に向き合っていく。
 窃盗を犯した、家族でネットカフェに住み着いている17歳の少女。モトカノへのストーカー行為を犯した、品行方正な男子高生。傍から見るととりたてた問題は感じないのに、夫との離婚を強く望む女性。などの、それぞれの案件の裏にある、表面的には見えない事情や真相が、大地の調査によって明らかになっていくという連作短編集。
 はじめに調書を読んだだけでは見えなかった内部事情が、少しずつ明らかにされていく展開は「日常の謎」タイプのミステリになっていて、十分に面白い。題材が家裁調査官のため、どの話も必然的に「家族」を問う内容になっていて、人間ドラマとしても読ませる内容である。
 これ、シリーズ化してほしいなあ。かなり面白かった。

No.568 8点 連続殺人鬼カエル男- 中山七里 2018/12/01 20:46
 フックで顔面を貫通させられ吊るされた女、車のプレス機で圧縮され肉塊にさせられた男、五体をバラバラにされた上に臓器までバラバラにされた少年……と、酸鼻を極める連続殺人と、そこに残された「きょう、かえるを・・・」のメモ。
 こういう話、大好き。
 解説を読んで初めて知ったのだが、本作品は著者のデビュー作「さよならドビュッシー」とともに「このミス大賞」の最終候補に残ったのだとか。同作者の作品が最後まで残るのは異例のこと(そりゃそうだろう)で、最終的に「ドビュッシー」に軍配が上がったのだが、審査員の中にはこちらを推す人もいたそうで。
 このエピソードからも、中山七里の並外れた才能が窺える。
 
 何がどうなって、の仕組みはともかく、正直、真犯人は登場の時点でそうではないかと思っていた。そういう意味ではあたってしまった。だが、作中に挿入される過去の話の人物の正体には完全にヤラれた。「そういうこと!?ヤラれた!!」と思わず声に出して言ってしまった。
 ラストのオチも秀逸。始めから堂々と示されているのに、気付きそうで気付かない盲点を作る点で天才だと思う。
 とても楽しめた。

No.567 6点 ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と不思議な客人たち~- 三上延 2018/11/25 18:41
 五浦大輔と栞子が結婚して7年。二人の間には扉子(とびらこ)という娘ができ、ビブリア古書堂を営みながら生活している。扉子は栞子の素質(?)を受け継ぎ、幼稚園児ながら本を読みふける毎日。そんな扉子が手に取った本を見て、その本に纏わるエピソードを話して聞かせる、というスタイルで書かれている。
 このシリーズを読んできた人たちなら聞き覚えがある、坂口夫婦、志田、小菅奈緒などが次々に登場する。娘に話す話ということで、基本的にハッピーエンドのイイ話ばかりで、読後感もあったかい。
 坂口夫婦の第一話と、新しい話だったが第二話がよかった。
 今後扉子が成長して、「第二の栞子」のような話になっていくのだろうか。

No.566 5点 摩天楼の怪人- 島田荘司 2018/11/25 18:26
 往年の大女優、ジョディ・サリナスが死に際に御手洗に残した謎。サリナスの女優としての成功譚は、その道を阻む邪魔者を排除する「ファントム」によって支えられ続けてきたのだという。さらに、数十年前に起きたプロデューサーの銃殺事件の犯人は自分だという。しかし、犯行のあった夜は停電中でエレベーターは動かなかった。1階のプロデューサーを殺害するには、30階以上上に住むジョディには階段で昇り降りするしかないが、ジョディのアリバイの空白は10分ほど。挑戦的にその謎を突き付け、ジョディは天に昇って行った―

 そこに住むブロードウェイ関係者が次々に殺されていく高層タワーマンション。ビル中のガラスが割れ、その時に転落死した建築家。そして、ジョディの不可能犯罪と、これでもかと不可思議な事件のオンパレードで、その解決はいかに図られるのか、期待と若干の不安をもって読み進めたが・・・結末は、「悪くはないけど目から鱗というほどでもない」といった感じ。
 事件の真犯人については「そうきたか」という思いはあったが、種々のトリックは、発想の面白さは認めるけどやはり「飛び道具」の感が強く、種明かしをされてもうなずくしかない。
 またこれまでの書評にもあるように、途中にあった「地下帝国」の話は何だったのか?伏線にするつもりで書いていたけど捨てたのか?最後まで何の関りもなく終わってしまって、非常に不思議だった。

No.565 5点 菩提樹荘の殺人- 有栖川有栖 2018/11/12 21:46
<ネタバレの要素あり>

「アポロンのナイフ」
 犯人ではなく、第一発見者の行動を解き明かす話だった。その行動の動機に物語のテーマがある。面白い趣向だし、うまいと思った。

「雛人形を笑え」
 ネタとしては一番チープな感じなのに、なぜか一番印象に残った。

「探偵、青の時代」
 火村の学生時代を知る女性によって語られる、当時の火村の推理譚。そう思うと小ネタっぽいが、推理は非常にロジカル。(ただこんなツレがいたらちょっと息苦しいかな…とも思った)

「菩提樹荘の殺人」
 最近テレビで売り出し中のカウンセラーが別荘の池のほとりで殺された事件。警察が事件現場の池をさらって、いろんなモノが出てきてから一気にいろんなことが明らかになる急展開だった。

No.564 5点 UFO大通り- 島田荘司 2018/11/12 21:27
 印象に残ったのはタイトル作よりむしろ「傘を折る女」の方だった。
 ラジオに投稿された不思議な女性の話。「ある雨の夜、ベランダから外を見ていたら、白いワンピースの女性が横断歩道に傘を置いて車に踏ませて折り、もと来た方へ帰っていった」。このエピソードを聞いた御手洗潔が、安楽椅子探偵よろしくその事情を推理し、ひいては殺人事件の真相を看破する。
 謎めいた冒頭に魅かれ、謎の女性側で描かれる事件の描写はスリリングで、単純に楽しんで読めた。傘を折ったあとのエピソードとそこからの御手洗の推理はちょっと偶然と一足飛びが過ぎる感はあるが、面白いのでまぁよい。

 表題作「UFO大通り」はもっと現実離れしてる感じだった。

No.563 6点 スティール・キス- ジェフリー・ディーヴァー 2018/11/12 21:16
 デパートで殺人犯を追跡中のアメリアの目の前で、客がエスカレーターに巻き込まれる事故が。アメリアは救出を試みるも、客は死亡、さらには殺人犯も取り逃がしてしまう。その後もアメリアは追跡していた殺人犯逮捕に邁進する一方で、警察への捜査協力から身を退いたライムのもとにはそのエスカレーター事故の訴訟に関する依頼が。別々の案件に思えた二つだったが、やがてエスカレーター事故も犯人が仕組んだものであることがわかり、結局二人は手を取り合って捜査を進めることになる―

 と、謳い文句に「ライムが捜査から撤退」とあっても結局大して変わらない。まぁそれでいいんだけど。そのほか物語では、麻薬密売者と接触するプラスキーの不穏な動きも伏線にあり、いろいろ絡み合っていて面白い。
 今回は「どんでん返し」はわりとオーソドックスで、驚愕というほどではない。一般的な(?)ひっくり返し方という感じだった。

No.562 5点 コードネーム・ヴェリティ- エリザベス・ウェイン 2018/10/21 12:56
 大戦中のヨーロッパを舞台にした、戦争小説の要素も非常に色濃いミステリ。
 第一部が捉えられた女性捕虜・クイ―二―の手記で、第二部がクイ―ニーの親友・マディの手記。第二部で、第一部の手記に施された仕掛けが明らかになる、という構成になっている。
 とにかく第一部が読みにくい。大戦の構造について知識がないせいもあるが、現実と回想が入れ代わり立ち代わり書かれる展開に混乱し、外国的なユーモアだか何だかを交えた文章にもついていけず、かなり我慢して読み進めた。
 第二部になり、その意味が明らかになっていくにつれ読むスピードは上がったが、個人的には「我慢の前半」という感じだった。

 ミステリというよりは、戦時という困難な状況下での、美しく気高い女の友情といったことがメインテーマだろう。

No.561 6点 湿地- アーナルデュル・インドリダソン 2018/10/21 12:47
 レイキャヴィクの湿地にあるアパートで、老人の死体が発見された。当初は、無害な老人への無慈悲な犯行と思われたが、捜査を進めるうちに被害者の暗い過去が明らかになっていく。単なる流れの犯行と目する捜査本部を尻目に、刑事は過去のつながりを探っていく。その先に現れた真相とは―

 とにかくアイスランドの耳慣れない人物名に始めはとまどい、頭に入れるのに苦労する。しかし読み進めていくうちに面白さの方が勝り、後半にかけて勢いが増していく。
 基本的に主人公の刑事の捜査過程が順に描かれ、ある意味順当に真犯人にたどり着く構成なので、どんでん返しなどは特にない。ただ物語全体に漂うほの暗い雰囲気が、読んでいて引き寄せられるものがある。

No.560 5点 密室殺人ゲーム・マニアックス- 歌野晶午 2018/09/30 18:03
 「2.0」を読んでから6年も経ち、読んでみた。
 基本的に第1作の「王手飛車取り」が本家で、「2.0」も本作も、その模倣犯の話。そういう意味では設定自体の面白さはどうしても第1作を超えられない。
 本作は、その模倣パターンに仕掛けがあるわけだが、作者の言葉にもあるように、そのパターンをやってみたかったことが第一にある感じで、個々の事件(出題)の謎は作りこまれていない印象。極端に非現実的でトリッキーか、極端に地味かのどちらかで、チャットのやりとりを読み飛ばしてさっさ「解答」へと行きたくなる感じだった。
 その中でも、Q1の「本」の仕掛けが一番面白かったかな。

 自分としては、「2.0」の中で明かされていた「王手飛車取り」の結末で、「伴道全教授」(正体は女子高生)だけが逃げ延びたことになっていたので、その再登場がどこかであるのか期待していたのだが…

No.559 7点 ブルーローズは眠らない- 市川憂人 2018/09/29 13:18
 幻の青いバラがついに開発されたという驚きのニュース。しかしそれは、学者のテニエル博士と、教会牧師・クリーヴランドの二者から、それぞれほぼ同時期になされるという異例の事態だった。
マリアと漣は、P署の刑事から2人を調査してほしいと依頼を受ける。しかし両者への面談直後、密室となった温室内でテニエル博士の切断された首が発見され、現場には「実験体七十二号がお前を見ている」という血文字が残されていた。

 シリーズ第2弾の本作だが、密室、バラバラ死体など本格の匂いが存分に感じられる中、マリアと漣の間の抜けたやりとりがそれを中和させ、本格的な謎解きに没頭できる。
 面白かった。

No.558 7点 貴族探偵- 麻耶雄嵩 2018/09/29 13:13
 安楽椅子探偵どころか、配下の者に指示して推理をさせているだけという異例の探偵「貴族探偵」シリーズの初作。
「ウィーンの森の物語」…「糸を使った密室トリック」というもはや骨董品のようなトリックだが、その「失敗」から本筋的な話の仕掛けが生まれていて巧い。
「トリッチ・トラッチ・ポルカ」…麻耶氏らしい、ぶっとんだアリバイトリック。
「こうもり」…「地の文では嘘を書いてはいけない」という本格ミステリのルールを完全に逆手に取った読者への仕掛け。なるほど。
「加速度円舞曲」…犯人の「こうであっては怪しい」を潰すための工作の連鎖。
「春の声」…加害者と被害者が三すくみの状況。この真相はちょっと強引だったかな。

 私にセンスがないのか、タイトルの意味がよく分からない。後でこの本を見ても、タイトルで話を思い出すことがまったくできないと思う。

No.557 6点 果てしなき渇き- 深町秋生 2018/09/29 12:57
 妻の不倫相手への暴行が問題となり、刑事の職を追われた藤島は、今は警備会社に勤める身。ある晩、警報が鳴ったコンビニに行くと、そこには無残に殺された店員と客の死体が横たわる惨劇の跡だった。第一発見者としてもと同僚の聴取を受けるも、自分を追いやった警察に不遜な態度でしか応じない藤島。そんな折に、別れた妻・桐子から電話が入る。「娘の加奈子が帰って来ない」。
 藤島は警察の手に委ねず、自らの手で加奈子を見つけようと心に決める。加奈子とつながりのある人間にあたり、その行方を追おうとするが、その過程で、件のコンビニ惨殺事件も背後に見えてくるようになり、加奈子が藤島の全く知らない「別の顔」をもっていることを知らされるようになる…

 第3回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。
 主人公の藤島がとにかく暴力的、非倫理的な人間なので、ハードボイルドの体のようで、後半はノワールに近い。スピード感のある展開に読ませる力はあるが、あまりに暴力的な描写にひいてしまう人もいるかもしれない。
 最後には意外な真相も提示されていて、ミステリらしさもあるが、主人公がとにかく「哀れな存在」で、救われない男のままで終わる。

No.556 5点 サイレンス - 秋吉理香子 2018/09/18 19:49
 本家・分家の家柄や、地元神信仰などの風習が根強く残る田舎の島に生まれ育った深雪は、ひときわ綺麗な容姿で目を引く女性だった。中学時に周りの勧めで受けたアイドルグループのオーディションで最終選考まで残った深雪だったが、昔気質の両親はそれを許さず、その時は断念せざるを得なかった。それでも夢をあきらめず、成人後に東京で芸能活動への道を進むが、旬を過ぎた深雪にはすでに入り込む隙はなく、ついに自身がアイドルになる夢をあきらめ、芸能プロダクションのマネージャーに。 そんな中で知り合った都会育ちの洗練された男性と恋に落ち、6年の付き合いを経て「両親に会ってほしい」と彼を生まれ故郷の島に連れ帰る深雪だったが―

 夢に憧れ上京するが、夢かなわず、それでも都会に生き続けようとする一女性の物語として、ミステリとしてではなく普通に楽しんで読める。
 そのまま上京&都落ちの話として結んでもよかったくらいだが、終末に向かって不穏な雰囲気が少しずつ醸成され、ミステリとして完結していた。
 改めて考えると、ちょっと背筋がゾッとするぐらいの怖さは仕組まれている。ありがちといえばありがちな路線かもしれないが、私はそれなりに楽しんで読めた。読むのにほとんど時間もかからないし。

No.555 5点 さよならのためだけに- 我孫子武丸 2018/09/17 12:52
 まぁ、ミステリではないとは思う。
 面白い設定の話で、普通に楽しかった。結末は予想通りではあるが、おそらく多くの読者が願っていた結末ではないかと思う(私もそう)ので、読後感もよかった。
 月(ルナ)が小生意気な子ども重役にビンタをくらわしたくだりは爽快だった。

No.554 4点 悪霊島- 横溝正史 2018/09/17 12:40
 島、「本家」が幅を利かせるムラ社会、過去の謎の事件、カギを握る妖しい魅力の美女、男女の愛憎劇、双生児、洞窟……といった、「横溝テイスト」をふんだんに、悪い意味で「バランスよく」盛り込んだ無難な一作という印象。そういう意味では、集大成と言えなくもない。
 トリックやアリバイというミステリ的な謎解きは皆無に等しく、謎の中心は「隠された人間関係」。推測はできるが推理とはいえず、しかも勘のいい読者なら上巻でほぼ全貌が見えてしまうだろう。それが裏切られるのならまだしも、結局予想通りの真相をなぞる後半になってしまい、謎解きの面白さはほとんどない。
 先にも書いたように、横溝テイストがたっぷり盛り込まれていることは間違いないので、その作品世界や雰囲気自体が好きという読者にはそれなりに好まれる作品かもしれない。

No.553 6点 地獄の犬たち- 深町秋生 2018/09/11 21:28
 暴力団に潜入した刑事、潜入捜査官の話だが、正体を知られないために極道に染まりきるレベルがハンパない。たとえ捜査のためとはいえ、刑事がこんなにも人を殺していいのか?(まぁ、いいわけないわな)
 とはいえそんな正論を吐いていては物語は楽しめないので(まぁ主人公・出月のその葛藤も物語の核ではあるのだが)、読者としてはそうした倫理観は一旦脇に置いておいて、ハンパないレベルの切った張ったの世界を楽しむとよい。

 裏切りに次ぐ裏切り、騙しに次ぐ騙しの中で、真相は何なのか?と展開を追いたくなる点では、ミステリとしても十分に面白い。「こいつは本当に味方なのか?」「どこまでを知っているんだ?」という探り合いの臨場感はぞくぞくするほどで、ページを繰る手が止まらないスピード感はある。
 ただこういう暴力団の裏のかきあいではえてして思うのだが、あれだけ裏切りや謀略に敏感な連中が、メインの仕掛けに対してはひっかかるのがちょっとご都合主義に感じるところがある。本作で言えば、拷問の末に阿内が白状した言葉を一も二もなく信じて、その場に駆け付けるくだりは、それまでの慎重さと対照的な短絡さを感じてしまった。
 他にも、たかが7年で広域暴力団のトップになれるのか?などさまざまな非現実性を感じる部分はあるが、そこはエンタメとして楽しめばよいかな、と思って楽しんで読んだ。

No.552 7点 宿命と真実の炎- 貫井徳郎 2018/09/11 21:00
 警察を馘になり、一度はホームレスにまでなった西條が、兄の計らいで会社勤めに復帰し、捜査一課の捜査のアドバイザーとなる、「後悔と真実の色」に続くシリーズ。期待に違わぬ面白さだった。
 今回は女性刑事・高城理那が新たな登場人物として加わり、先輩村越らの勧めを受けて西條に相談をする。その構図により西條が事件解決に関わっていくという展開だが、西條が社会復帰後に通うようになった古本屋の主人がそこに絡んでくる物語構成も面白く、作者の腕を感じる。
 事件は警官の連続殺人事件だが、その首謀者(つまり真犯人)解明に関する仕掛けも練られていて、ミステリとしてもきちんとした体をなしている作品であり、前作同様いろいろな要素で楽しめる一冊である。
 氏の長編を読むのは4作目だが、最後を一件落着で終わらせない、ダークな結び方はひょっとして彼の特徴なのか?救われなさが一定程度必ずあるのは、デビュー作「慟哭」以降ずっと感じるなぁ。
 十分に面白かったが、7点止まりなのは前作「後悔と真実の色」に8点をつけており、それと比較したときに、犯人の動機に若干の薄弱さを感じたため。

No.551 8点 後悔と真実の色- 貫井徳郎 2018/09/11 20:17
 東京の下町の空き地で女性の死体が発見された。通り魔の犯行かと思われたが、死体には右手の人差し指が欠損しているという妙な特徴があり、同じ特徴を持った女性の殺害事件がその後続いたことにより、警察は同一犯による連続殺人事件と断定、捜査本部を立ち上げての捜査に乗り出す。
 そんな中、インターネット上に<指蒐集家>の名で自らを犯人と名乗る人間が登場。その記述内容から、<指蒐集家>は真犯人と分かる。警察を挑発するように、犯行の様子を書き込んだり、次の犯行を予告する<指蒐集家>。警視庁捜査一課の西條輝司は、捜査本部の一員としてその捜査に奔走するが―

 真相の仕掛けにも唸らされるし、西條という刑事の凋落と矜持を描いた刑事物語としても骨太の内容。必要以上に二転三転して冗長な印象も少しあるが、全体としてミステリとしての面白さと、刑事の人間物語としての面白さと両立されている秀作。
 面白かった。

No.550 5点 消人屋敷の殺人- 深木章子 2018/09/11 19:59
 人里離れた岬の先に立つ、江戸時代末期からの別荘で次々に起こる事件。いわゆる「嵐の山荘」パターンで、こういう類の作品は筆者には珍しい方なのでは?んなこともないか。

 仕掛け自体は面白いと思うのだが、読み進めていく中で時制の前後が混乱してきて、理解するのに時間を要した(まぁそれが仕掛けなのだが)。全く私的な事情で申し訳ないが、ここ最近の自分の読書が、このテの仕掛けの作品がたまたま続いたので、思った以上の衝撃は受けず、「ああ、そういうことか」と冷静に感心するような読後感になってしまった。
 好みは人それぞれだが、私としては氏の作品は法廷モノのほうが好きだ。

No.549 7点 乱反射- 貫井徳郎 2018/09/02 09:09
 発想・着想の面白さ。複数の無関係な人たちの「ちょっとした」日常が、一つの事件に収斂していくという形は、奥田英朗の作品にちょっと似ている気がする。

 「自分一人ぐらいいいだろう」「これくらい、誰だってやっている」・・・そんな誰もがもっている人としての弱さ・醜さからの行為が連鎖して、ついには幼児を死なせる大事故に。我が子の死の真相を知ろうと、その連鎖を手繰っていく新聞記者・加山が、当事者に対面し、その行為を問い質す度に「自分は悪くない!」と開き直る様には不快感と怒りしか感じないが、自分に火の粉が降りかかりそうになったら必死で殻を閉じようとするのは、今の日本社会の本性なのかもしれない、とも思う。

 前半は個々バラバラのストーリーがいくつも同時進行するので、誰がどの人だったのか、混乱しがち。間を置くと余計に思い出せなくなるので、一気読みするのがオススメです。

No.548 8点 慟哭- 貫井徳郎 2018/09/02 08:57
<ネタバレ>

 大きく2つの意味での「どんでん返し」がある作品だと思った。

 一つ目は当然、交互に描かれる場面が、実は同じ時間軸ではなかったという叙述トリック。こちらについては、特に最近ではよく用いられる手法なので、ミステリに読み慣れている人ならばひょっとして途中で気付くかもしれない。私もそうだった。

 ただ、仕掛け自体はなんとなく推理できても、その真相、真犯人は予想外だった。それは、読者の主人公への共感をひっくり返すという、もう一つの意味での「どんでん返し」があるからだ。
 孤立しながらも冷静さを失わず、自身の信念のままに捜査を進める捜査一課長・佐伯にほとんどの読者が共感するだろう。そして、最後には周りの風評をひっくり返して事件を解決し、留飲を下げるという展開を期待して読み進める。
 そういう読者の期待を完全に打ち砕き、真逆に落として物語を絞めるという、こちらこそが本作の「どんでん返し」のメインではないか。
 これまでの書評にあるように、この展開は非常に賛否両論であろうことが予想される。「読後感が悪い」という感想もうなずける。
 だが、ある意味「孤軍奮闘する刑事が、最後に真相にたどり着く」というオーソドックスな不文律をぶち破った本作は、なかなかない読者への(私としてはよい意味で)裏切りで、傑作だったのではないかと思う。

No.547 4点 彼女は存在しない- 浦賀和宏 2018/09/02 08:15
 ありがちな多重人格モノ、というのが正直な感想。
 多重人格をネタにしている時点でだいたいの目論見は分かるし、そうじゃない結末だったらスゴいのだが、実際その通りだったのでなんとも。
 解離性障害の種類をとりあげてトリックに絡めている点はなるほどと思えたが、途中の主人公の言動や、携帯のストラップの描写のくだりでだいたいは分かった。

 策を弄しすぎて「ややこしいな」と感じさせてしまうところもある。物語の描写自体は面白く、読ませるところもあるので、著者の他作品も機会があれば読んでみたい。

No.546 6点 顔に降りかかる雨- 桐野夏生 2018/08/25 19:08
 ストーリーテラーとしての才はこのころから十分に感じられる。話、文章としては苦痛なく読み進められるリーダビリティがあり、その点では十分面白い。ただ、ミステリとして評価するとなると、やや厳しい評価になってしまうのも否めないかな。
 でも自分は、一旦決着がついたかに見える終盤のくだりで結構騙されていて、その後の「真犯人」は予想外ではあった。つまり騙された。そのことが推理できる伏線もちゃんとちりばめられていた(気がする)ので、よく練られた作品であったことは素直に感じた。

 それにしても、何をもって「ハードボイルド」というのか?昔からよく理解できていないが、本作が「ハードボイルド」と冠されることでますますわからなくなった。(決して「違うでしょ」という意味ではない。何せ、分かっていないので(笑))

No.545 7点 法月綸太郎の新冒険- 法月綸太郎 2018/08/25 17:21
 他で読んでいた短編が結構あったので、今回読んだ感想とそのとき読んだ記憶と混ぜた書評になるが、少なくとも謎解きパズラーが好きな御仁であれば一定の満足感は得られる改作集。

「背信の交点・・・作中にも書いてあるが、清張の「点と線」を思い起こさせるような、駅での列車のすれ違いを題材にした話。どんでん返しもあり、◎。
「世界の神秘を解く男」・・・綸太郎が仕掛けたフェイクの実験の、真の狙いのくだりに感心した。〇。
「身投げ女のブルース」・・・後半の急展開、ひっくり返し方はこれが一番◎。「偶然が過ぎる」点には目をつむって楽しみたい。
「現場から生中継」・・・これもまた(というかこっちのほうが)「偶然が過ぎる」が、ネタの発想が面白い。◎。
「リターン・ザ・ギフト」・・・単純な交換殺人に見せかけて、その裏に複雑に絡んでいた仕組みの解明が面白い。〇。

と、少なくとも△はない。楽しめる短編集だった。

No.544 6点 幻夏- 太田愛 2018/08/19 22:22
 「天上の葦」を読んでから、遡って読んでいる。
 鑓水たちが調べていくうちにどんどん謎が深まっていって、「何だ?真相はどういうことなんだ?」と早く知りたくなりページを繰る手が止まらないリーダビリティはある。
 ただ、「被害者がやむを得ず加害者になってしまった」ことに同意・共感できるのも限度があり、ためらいなく無辜の人間を屠ったり、唯一無二の肉親を屠ったりするところまで行くと、本作のテーマである「冤罪被害者」への思いも薄れてしまう。
 一方で、その冤罪を生み出した警察組織側の人物の終末も消化不良で、まぁそれが現実と言えば現実なんだけど、ある程度の勧善懲悪ぶりを貫いてほしかった。

No.543 9点 天上の葦- 太田愛 2018/08/19 11:00
 正午の渋谷交差点で、歩行者が皆渡り終え、歩道へと引いていった後、中央に一人の老人が残って立っていた。車のクラクションが飛び交う中老人はまっすぐに点を指差し、そのまま絶命。奇しくもその様子は、いつも冒頭映像として渋谷スクランブルの中継映像を流している正午のニュースにより、全国にライブ中継されていた。
 「老人が何を指差していたのかを解明せよ」―訳あって倒産目前となっていた鑓水探偵事務所に、そんな依頼を持ち込んできたのは天敵ともいえる政治家の使い。依頼元には不本意な思いしかないが、鑓水はその依頼を受け、仲間と共に真相解明に乗り出す―

 上記の老人の死の真相解明と並行して、失踪した警察庁公安刑事の行方を追うストーリーが描かれる。やがて両者は交差し、日本の暗黒の歴史を背景とした物語へと広がっていく。
 非常に読み応えがあり、厚みのある内容に満足した。今の政治社会情勢を鑑みると、いろんな意味で考えさせられる作品。

No.542 5点 ドロシイ殺し- 小林泰三 2018/08/19 10:35
 このシリーズも3作目。別世界の住民と、アーヴァタールという関係で同一人物(?)としてつながっている、という設定にも慣れてきて、読み易くなったが、同時にトリックも見えやすくなってきた。
 今回のトリックも、当然この世界設定を生かした一種の叙述トリックだが、予想の範疇で「あぁ、やっぱり」という感じだった。

 登場人物のおバカなキャラクターと、その呑気なやりとり中に淡々と描かれる残酷な描写、というミスマッチな感じが読んでいて楽しいが、ミステリとしては1作目以上の驚きをもたらすのは難しいのではないかと思う。

No.541 5点 罪びとの手- 天祢涼 2018/08/19 10:24
 廃ビルで中年男性が、頭部を打撲して死んでいた。争った形跡もなく、事故で処理されようとするが、現場に駆け付けた一課刑事・滝沢は、死亡推定時刻よりも2日も前で止まっている腕時計に不審を抱く。そんな中、身元不明だった遺体の身元が偶然判明する。一時保管のために遺体の引き取りに来てもらった葬儀社の社長・御木本が、「この遺体は私の父だ」と言ったという。この奇妙な偶然に、ますます滝沢の疑念は深まる。これは事故ではない、殺人だ、だとすれば犯人は―?

 生前に「俺の葬式は挙げないでくれ」と言っていた父の意向を無視して、大々的な葬儀を行おうとする御木本、遺体と対面した際に強い違和感を感じた、長男である御木本の兄など、謎めいた登場人物の言動により不可思議さは膨らんでいく。
 しかしそれを受け止めるラストがやや期待外れだった。「それはナシになったんじゃなかったのか?」と感じられるネタだったのと、葬式の場での参列者を前にした真相解明というのがパフォーマンス感が強すぎて、鼻白んだところがあった。

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