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平均点:6.29点 採点数:530件

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採点傾向好きな作家

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No.530 8点 闘う君の唄を- 中山七里 2018/06/10 12:04
 喜多嶋凜は、新任幼稚園教諭として埼玉県の神室幼稚園に赴任した。
 子どもを愛し、理想とする教育の実践に意気込む凜だが、その壁として立ちはだかったのは保護者会の存在だった。エゴイスティックな我が子愛から、教育の理念とはかけ離れた要求を園にしてくる保護者たち。強い反発を感じる凜だが、何故か園長の京塚はそれらの要求を全て受け入れる。たまりかねた凜が園長を問いただすと、神室幼稚園では15年前、送迎バスの運転手が3人の園児を殺すという大事件があり、それ以来保護者会には頭が上がらない状況が続いているとのことだった―

 物語の後半には、15年前の事件の真相解明という、ミステリ要素も入っては来るが、基本的に物語の幹は、新任幼稚園教諭の対保護者奮闘記。「全員主役の劇」「競争のない運動会」など、世の中でも話題になった歪な教育観とまっこうから闘い、子どもたちと心を通じ合わせていく話は胸がすき、心温まる。
 物語後半には読者も驚く背景が明らかにされ、ストーリーは急展開する。そこで描かれる人間模様も読みごたえがあり、ホントにこの人は何でも書けるなぁと感動する。
 出版レーベルがメジャーじゃないのでシチリストもあまり知らないかもしれないが、読んだらまず満足できると思う。

No.529 7点 ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで- 真梨幸子 2018/06/10 11:34
  大塚佐恵子は、万両百貨店外商部のトップコンシェルジュ。顧客に呼ばれればすぐに行き、「いついつまでに何々を用意してほしい」という注文に、たとえそれが難題であっても必ず応えることで絶大な信頼を得ている。注文は商品購入にとどまらず、「何々を調べてほしい」「誰誰を説得してほしい」など、もはや何でも屋の域に達するときもあるが、大事な顧客のため、可能な限りそれらにも応える。そうした外商部の顧客対応の奇譚を集めた連作短編集。

 作者の作品はこれまでも読んだが、どちらかというとホラーテイストで劇場的な作品が主だったので、このようなパターンは意外な感じがしたが、一つ一つの話のオチと、それらを絡ませて全体でまとめ上げる術は非常に巧みで、とてもよかった。
 最初はデパート外商を舞台とした「日常の謎」のような雰囲気だったのだが、最後まで読むとさすが真梨幸子、それだけでは終わらなかった。
 面白かった。

No.528 4点 侵入者- 折原一 2018/06/10 10:57
 「自称小説家の書く作品」と「現実」とが交互に描かれる構成なのだが、その入れ替わりがあまりにもめまぐるしいのと、「百舌の早にえ」とか「ピエロ」とか「電動車椅子の老人」とかの思わせぶりな伏線をあまりにこまめに散りばめているのとで、非常に分かりにくく、読みにくかった。
 また、そういう大枠としての仕掛け重視の印象が強く、各場面での登場人物による推理や会話などの描写は非常に短絡的で軽く感じたり、「百舌の早にえ」や「ピエロ」などの不気味さを脚色するアイテムもどこかチープな感じがしたりして、あまり気持ちが入らなかった。
 事件の真相と、自称小説家の真の目論見が明かされる最後はそれなりに面白さを感じることができた。

No.527 5点 仮面同窓会- 雫井脩介 2018/06/03 18:30
 高校時代に何度も、前時代的な感覚で生徒指導という名の「折檻」をしてきた元体育教師に仕返しをしようと企んだ洋輔たち悪友4人。
 ランニング中の元体育教師・樫村を拉致し、目隠しをしていたぶり、その場に放置して去った。離れる時樫村は、自力で縛りを解き、逃げ出せる状態だったはず。ところが翌日、その樫村が離れた場所の池で溺死しているのが発見される。どういうことか分からない洋輔たちは、仲間内で次第に疑心暗鬼になっていく。

 なかなか引き込まれる始まりと、テンポのいい小気味のいい文体でサクサク読める。一人の部屋で誰かと会話をしている洋輔の様子や、何か胡散臭い女・美郷の存在など、謎らしい要素も多く、いろいろ推理や考えを巡らせて読むことができた。
 惜しむらくは、「一人の部屋で誰かと会話している洋輔」の真相は面白かったものの、肝心の本事件の犯人があまりにもあっさりと暴露され、結構勢いみたいな感じだったことかな。

No.526 4点 追悼者- 折原一 2018/06/03 18:06
 一言で言えば、「分かりにくい」。
 丸の内OL殺害事件を追うノンフィクションライターが、関係者に取材をしていき、そのコメントで物語を構成していく方法なのだが、まず登場人物が多すぎる。その多い登場人物が、入れ替わり立ち代り何度も出てきて話をするもんだから、誰が誰だったのかいちいち前を確認して読み進めなくてはいけなかった。

 それでも何とか読み進めていったのだが…提示された真相はあまりしっくりこなかった。
 こういうパターンでよく感じることなのだが、真相解明の段になって、それまで形作られた人物像やキャラクターがひっくり返され、「実はこういう一面もあった」みたいになるのはなんとなくアンフェアな気がする。本作では、大河内奈美は善意の被害者であったはずで、度重なる取材でもその人物像はあまり崩れなかったのに、最後の真相解明で急に陰湿な人間像に変えられている感じがしてしまう。少なくともそれまでの取材過程で、そうした一面があることが描かれていないと、「どんでん返しのための隠し玉」という感じがしてなんだかすっきりしない。

No.525 7点 13階段- 高野和明 2018/06/03 17:57
 なかなかいいどんでん返しで、面白かった。特に、後半の一旦真相とは違う方向に振ったうえでの真相解明はよかった。現実的な目で見れば確かに粗はあるが、読者を楽しませる仕掛けと思えばさして気にならない。何よりも「ホントのところはどうなんだ!?」と、作者の仕掛けに完全に乗せられてページを繰ってしまう力はあった。
 ミステリとしての面白さの一方で、死刑制度に関する問題提起的な要素も多分にあり、素人ながら考えさせられる面白さもあった。

No.524 9点 悪徳の輪舞曲- 中山七里 2018/05/26 18:37
 少年犯罪委の過去を持つ、弁護士御子柴礼司シリーズ第4作。
 今回は初めて、御子柴の家族が出てくる。お刑務所に収監されて以来音信不通、関係を断絶していた御子柴の母が、殺人事件の容疑者となり、御子柴の妹が御子柴に弁護を依頼。もちろん進んで御子柴に依頼してきたのではなく(他の弁護士が誰も依頼を受けてくれなかった)、御子柴のことを蛇蝎のごとく嫌っている。

 このシリーズの新作を心待ちにしている人は多いだろうが、今回もその期待に十分に応えてくれると思う。まぁファンとなってしまっている以上、その色眼鏡は外せない感じになってはいるが…ただ「うーん、今回はイマイチだな」とか、「やっぱり一番最初が一番よかったな」とか思うことは他ではよくあるが、このシリーズについてはそれはないと思う。
 最初に母親の夫殺しのシーンから始まるのだが…途中からそれがどういうことかは気付いた。ただそれでも真相には私は看破できなかった思惑があり、ミステリとしても十分面白かった。
 ただその謎だけでは引っ張れない。根本的に異色の弁護士、御子柴礼司の物語という下敷きがあるから、とことん面白い。
 続けて欲しいな、このシリーズ。

No.523 5点 さまよう刃- 東野圭吾 2018/05/13 17:53
 少年犯罪被害者の応報感情と刑事罰のアンバランスさ、というテーマは今や社会問題として定着している感があり、それをストレートに描いている本作品はオーソドックスで標準的という印象。複雑な仕掛けもないので、500ページほどある作品だが半日で読める。
 被害者心理を強く代弁する作風だが、(当然倫理的なこともあって)その復讐心を完遂させることを肯定する訳にはいかず、被害者のみならず捜査にあたる警察も含めた「無念」を「無念のまま」描いた終わりにどうしてもなってしまう。おそらく読者としては被害者(であり被疑者)である長峰に共感して読むことが多いと思うが、そうなればなるほどラストは虚しいものに感じるだろう。
 あと、鮎村も長峰と同じく極悪非道な行為により娘の命を奪われた立場なのに、なぜかこちらは「空気を読めない哀れな人」「厄介者」のように描かれているのはちょっと可哀想な気がした・・・

No.522 5点 高原のフーダニット- 有栖川有栖 2018/05/12 20:13
 基本的に、本格路線の純粋なミステリを書き続ける氏のファンなので、余程のことがない限り4点以下にはならないし、本作品も普通によかった。
 「ミステリ夢十夜」は、思いついた小ネタを集めたショートショート集のようなものだが、なかなか楽しめた。「こんなアリバイ証明拒否はイヤだ!」「こんなクローズド・サークルはイヤだ!」みたいなヤツがあって、笑えたし、結構「なるほどな」とも思えた。
 表題作は、ちょっと火村の犯人特定の過程に飛びがある気がして、すっきり来ない部分もあったが、王道のフーダニットという点で推理を巡らせる楽しさはあった。

No.521 5点 心霊特捜- 今野敏 2018/05/12 19:49
 神奈川県警心霊特捜班―通称「R特捜班」は、霊能力のある数馬史郎、鹿毛睦丸、比謝聡美の3人を、ノーマルの番匠班長が束ねている。岩切大吾はそのR特捜班と県警の連絡役。岩切を主人公として、霊能力を駆使して事件を解決していくシリーズで、雰囲気・設定としては{ST」シリーズに似ている。
 霊能力と聞いてはじめは「そりゃさすがにちょっと…」と思いながら読み始めたが、そこはさすが今野氏、私のような非現実的オカルトに否定的な人間でも抵抗なく楽しめてしまうストーリーテラーぶりだった。
 最終的にはやはり「隠蔽捜査」シリーズのような武骨なストーリーが好みなのでこの点数だが、面白く読めるのは確か。

No.520 5点 ミステリークロック- 貴志祐介 2018/05/04 18:35
 本職・泥棒の榎本径が探偵役を務めるシリーズの、4本の中短編を集めた一冊だが、全体的な印象としてはよく言えば緻密、悪く言えばやり過ぎの複雑な機械仕掛けトリックで固められている。
「ゆるやかな自殺」・・・4作品の中では一番分かりやすい。ミステリらしい、周到に計画された犯罪計画・トリック。こんなことまで頭が回るのであれば、このヤクザは相当「使える」組員だと思うのだが・・・
「鏡の国の殺人」・・・榎本が忍び込んだ美術館で、館長が殺されていた。美術館では先鋭の現代アーティストが「鏡の国のアリス」をテーマとした作品の展示準備に追われている最中で、複雑な鏡の迷路を用いたトリックが仕掛けられていた。図面付きで細かな説明なくては(あっても)理解が難しい複雑さである上に、科学技術まで絡んできてなんだか・・・
「ミステリークロック」・・・「そこまでやるか?」感が一番強かった、非常に手の込んだ複雑トリック。上に書いた印象が一番強かったのがこの表題作。
「コロッサスの鉤爪」・・・人間模様の描写は面白かった。200m、300mの深海を潜る「飽和潜水」のダイバーたちの間で起きた海上の殺人。これも科学技術が多分に絡んできて、真相(トリック)に思い切り関係していた。

No.519 6点 犯人のいない殺人の夜- 東野圭吾 2018/05/01 21:50
 ヒューマンドラマ絡みの最近の作品も好きだけど、私は氏の初期のミステリミステリした作品がそれはそれで好き(「仮面山荘」とか「ある閉ざされた…」とか)。だから基本的にこの短編集も好き。
 ただまぁ、「目からウロコ」のような秀逸なひっくり返しが揃った作品集というわけでもない。最後の表題作以外は全て途中で犯人の見当がつく。真相うんぬん以上に着眼点として面白かったのは「白い凶器」。表題作「犯人のいない殺人の夜」はよく考えたものだ、とは思うけど読み返さないとなかなかホントのところが分からない分かりにくさがあった。

No.518 6点 罪の声- 塩田武士 2018/05/01 21:32
 面白かったが、思ったほどリーダビリティは高くなかった。事件につながる人間関係がやや複雑なうえに、纏わる登場人物が平凡な名前だから記憶に残りにくく、「誰が誰だったっけ?」と何度か戻ってページを繰ることになった。

 未解決となった昭和の大事件の「犯行テープ」が自分の声だった、という衝撃は想像を絶するものがあり、その意味では「つかみはOK」だった。各場面の描写も冗長にならない程度に上手く、好感の持てる文章だった。
 ただ、TVの特集番組で発見した齟齬から「初めて明らかになった事実」が見えてくるところがこの話のある意味「サビ」だと思うのだが、その発想自体は面白かったものの、それが「迷宮入りの原因」となったわけではないところが……惜しかった気がする。「こうやって世間、警察を欺いた」ということがメインのハウダニットだったら(そしてそれが唸るものだったら)もっと点数は上がったかも。

No.517 7点 クドリャフカの順番- 米澤穂信 2018/04/15 17:48
 「氷菓」「愚者のエンドロール」と、神山高校文化祭、通称「カンヤ祭」の準備に纏わるストーリーで続いてきたが、本作はその本番、カンヤ祭当日の話。これほど間を置かず、連続した時期を描く連作モノも珍しいのではないかと思うが、幸い現在立て続けに本シリーズを読破中なので非常にそれが功を奏した。

 メンバーのミスで予定より大幅に多い冊数を印刷してしまった、古典部の文集「氷菓」。果たしてカンヤ祭中に売り切れるのかが最大の悩みの古典部だったが、そんな中、学内で奇妙な連続盗難事件が起こる。いくつかの部活から、碁石、タロットカード1枚、ペットボトルドリンク1本など、それぞれは他愛もないものが盗まれ、そこに犯行声明文と思しきメッセージと、カンヤ祭のしおりが―。
 いつもながら省エネ生活を身上とする奉太郎は関わるつもりはなかったのが、古典部文集を売るために、重い腰を上げることになる。

 摩耶花の漫画研究会のストーリーや、奉太郎の「わらしべプロトコル」などの伏線の絡みも上手く、冗長でない程度に高校の文化祭風景も描かれていて楽しい。何だか懐かしくなった。
 一つだけ、結局「クドリャフカの順番」はクリスティのどの作品をひねったものだったの?わかってないの私だけ??(途中で私は、「十文字事件」の様相から「ヒッコリーロードの殺人」かと思ってた(笑))

No.516 7点 愚者のエンドロール- 米澤穂信 2018/04/15 17:26
 前作でも書いたが、こんな小粋な高校生がいるわけないとは思うものの、学園モノかつ日常の謎モノでここまで作りこまれる作品はなかなかない。作者の腕を感じる。
 神山高校祭、通称「カンヤ祭」にビデオ映画を出品することになっていた2年F組だったが、その脚本家が倒れて入院してしまい、制作は宙ぶらりんの状態に。その作品が「ミステリー」だったことから、真相は脚本家である生徒しかわからず、これまで撮影した映像からそれを推理することに。未完成のビデオ映画を見せられた古典部の面々は、千反田えるの「私、気になります」の一言でその謎を解くハメに。あとは例によって例のごとく、奉太郎の推理によってその真相が明かされていく。
 今回は、一旦決着がついたかのような件のあとの、本当の「真相」解明の部分が秀逸だった。F組の「女帝」入須冬実(これも、こんな女子高生いたらヤダ、ってレベル(笑))の風格あるキャラもよい。
 ミステリとしてもストーリーとしても、前作よりよかった。

No.515 6点 氷菓- 米澤穂信 2018/04/07 21:40
 神山高校生、折木奉太郎が探偵役となり、千反田えるが「私、気になります」と持ち込む謎を解いていく「古典部」シリーズの最初の作品にして米澤穂信のデビュー作。太刀洗万智シリーズや本格ミステリ「インシテミル」、異世界ものの「折れた竜骨」など、幅広い作風で今や超売れっ子作家である氏のスタートの作品と思うと興味深い。本作品は「小市民シリーズ」に似た雰囲気があるね。
 ラノベ、アニメのテイストも感じるような特異なキャラクターの高校生4人で、甘ったるいと感じる人はいるだろう。こんな高尚な語彙での粋なやりとりをする高校生がいるとは思えないしね。それぞれに謎について調べてきて、真相を検討する集まりなんかは、なんというか…ヘンな4人にしか見えない(笑)
 まぁでも学校を舞台とした「日常の謎」モノとしては飽きなく読めるし、こういうミステリがあってもいいと思う。このあと本シリーズを全部読もうと思う。

No.514 7点 夜明けの街で- 東野圭吾 2018/04/07 18:58
 昨今の週刊誌記事でのすっぱ抜き攻勢を鑑みると、ある意味旬のテーマ(笑)

 ミステリの質を求め、しかも不倫モノは読んでいて不快という人には確かに評価が低いかも。自分は、「ミステリの質は求めるが、俗的な話もそれはそれで嫌いではない」ので、なかなか面白かった。
 妻に気付かれていやしないか常にビクビクしながら、それでも無茶をしてしまう不倫男性の心理が筆者の筆力でうまく描かれていると思う。もちろん不倫を肯定する気はないが、よくないとわかっていながら欲望に抗えない人の弱さがよく表れている。

 ミステリとしてはトリックうんぬんではないが、ヒロイン秋葉の行動動機などの真相が明らかになるくだりはなかなか面白かった。

No.513 6点 ラプラスの魔女- 東野圭吾 2018/04/01 14:25
 超能力とかの完全な超常現象モノかと思ったけど一応そうではなかった。けど、非現実的という点ではまぁ同じような感じかな。まさにSF。

 序盤はめまぐるしく場面や登場人物が変わって、各ストーリーが並行して描かれていく中で次第にそれが合わさっていく展開。相変わらず先が知りたくなり読ませる。
 犯人の(昔の犯罪の方)動機は、思った通りだった。ブログの内容が怪しくなってきた時点で、オチは分かった。
 最後、最初の事件の片棒を担いだ女までうやむやにされるのが腑に落ちないなぁ。

No.512 6点 迷路の花嫁- 横溝正史 2018/03/31 20:37
 ミステリとしては△(というか金田一もほとんど登場せず、推理要素はほとんどない)だけど、話としてはなかなか読ませる〇。これが総合評価。

 始まりの事件現場は結構陰惨な感じなのだが、それ以降は時代を感じさせるどろどろとした風俗的な人間模様の話に。捜査とかトリックとかの話はほとんどなく、完全に通俗小説化する(乱歩の作風に近いと感じた)。
 ただ、それがそれで結構面白くて、暗躍する松原浩三なる人物の動向から目が離せなくなる。繰り返すが、ミステリとしては安っぽいが、結構読ませる作品だった

No.511 6点 海のある奈良に死す- 有栖川有栖 2018/03/31 20:25
 なんか本サイトではかなりの酷評みたいで…気が引けます。
 確かに有栖川作品として秀でているとは思わないけど、自分はそこまで悪くはなかったなぁ。

 まぁ確かに小浜が「海のある奈良」と言われていることだけに賭けた一点勝負の感じがあり、短編でも十分では、という気がしないでもないが、歴史的薀蓄や旅情が散りばめられていて、結構倦まずに読み続けられた。

 ただ、どこか忘れちゃったけど(和歌山だっけ?)別方面の人魚伝説や、小浜と奈良とどこやらが一直線上に並ぶとかの話が、単なるフリで終わってしまっていて、何の意味もなさなかったことには確かに不満は残ったが。

No.510 5点 すべてがFになる- 森博嗣 2018/03/31 20:13
<ネタバレ>

何も知らずに、本シリーズの後発を読んでしまっていたことが全て。

まず、「真賀田四季は死んでない」ことを知ってしまっている。
よって、出てきた死体は他の人間と分かってしまう。

あとは、10何年間出入りのない部屋から別の人間が出てきた・・・ことから考えを巡らせればおのずと答えは見えてくる。
真相を読んでも、「おぉ…!!そういうことだったのか…!!」にはならず、「やっぱりね」になってしまった。

加えて言えば、所長殺害のくだりは強引というか、いかにも「メインに力点を置いて、こっちはなおざり」という感じがした。

真賀田四季のキャラクターは基本的に好き。気が向いたら他も読みたい。

No.509 6点 マレー鉄道の謎- 有栖川有栖 2018/03/11 12:02
 異国での旅情が漂う作品で、読んでいるとこちらも南国にいるような気持になる心地よい作品だった。旅行に行きたくなるね。

<ネタバレ>
 密室トリックについては正直予想の範疇で、それほど優れている印象はなかった。そもそもコンテナという「箱」である時点で、そのことを生かした工作は予想できるし、既に先行作品の中にもいくつかある。正確にトリックが分かったわけではなかったが、然り気なく何度か描かれているコップのことも気付いていたので「ああやっぱり」という感じだった。
 3番目の殺人の動機となった「ジャック」の捉え違いは秀逸な仕掛けだと思った。犯人は、全くの的外れな推理をしていたアランの何を恐れたのか?…そういうことだったのか、と頷けた。勘違いで殺された彼はなんとも可哀想だが。

 最後に明かされる犯人の人間像が衝撃。後になって、伏線の張り方も絶妙だったな、と感じる作品だった。

No.508 6点 ソウル・コレクター- ジェフリー・ディーヴァー 2018/03/11 11:49
 こういうサイバー系の話は、正直あまり入って来ず、本シリーズにしては珍しくノれなかった。ある人間のプロフィールを購入品のレベルまで把握して、それによって証拠を捏造し、その人間を犯人に仕立て上げるように犯罪を犯す―というコンセプトは面白かった。微細な証拠物件を調べ上げる犯罪捜査の逆手をとった秀逸な発想で、その犯人像には期待が高まった。そのうえで示された真犯人は確かに意外だった。
 ただいかんせん、コンピュータやネットを介した犯罪とそれに纏わる捜査は、言葉で説明されてもあまりピンと来ず、正直読み流してしまう。どうせ理解できないのだからと、結末を急ぐ気持ちで読んでしまった。
 その点、完璧なセキュリティの中からどうやって情報を持ち出したのか、ということに関する真相は完全なアナログで、盲点としても「なるほど」と思えた。出入りに探知機を通過させるというところまで徹底していると、逆に原始的な方法が盲点になるという面白さがあった。

No.507 8点 棲月- 今野敏 2018/03/11 11:30
 近隣の私鉄と銀行のシステムが次々にダウンする妙な事案が発生。万一、ハッカーによるシステム攻撃のことも考え、念のため署員を向かわせる竜崎だが、管轄外での事案に口を出すことになるその動きに、警視庁生安部長から横槍が入る。
 時を同じくして、管内で少年の殺人事件が発生。一見関連のない二つの事案だったが、関わった少年グループたちが「ルナリアン」と呼ばれるカリスマハッカーを恐れているらしいことが分かってくると、竜崎は二つを結び付けて考えようとする。突飛に思える発想だったが、結果的にその読みが事件を解決へと導いていく―

・・・と、「関係があるのではないか」「気がする」というような感覚的な、曖昧なスジ読みで捜査を進め、結果的にドンピシャという一足飛びの捜査過程は相変わらずだが、本シリーズに地道で精緻な捜査やロジックは期待していないので問題ない。それよりも原理原則を崩さない竜崎の一貫性と、始めはそれに戸惑いながらも次第に強く惹かれていく周囲の人間とのドラマが醍醐味。
 本作でも、捜査会議で「署長はキャリアなので、現場の捜査は分からないのでは…」というニュアンスの言葉が他部署から出た時に、戸高が「何もわかっちゃいないのはそっちのほう。署長がこれまでどれだけの事件を解決してきたかも知らないくせに」というようなことをボソッと言う場面がある。普段は反抗的ともとれる態度の戸高のこの一言は、シリーズを読んできた者にとって「最高!」と拍手したくなるものだった。
 シリーズ2作目から続いていた大森署長も本作が最後。ついにキャリアに復帰する。馴染みの大森署メンバーと別れるのは読者も寂しいが、新しい場でまた信頼ある人間関係を築いていくであろう竜崎の今後も、楽しみにしたい。

No.506 6点 悪いものが、来ませんように- 芦沢央 2018/03/05 20:51
 作品に施された仕掛けは、正直特段目を見張るものではないと思った。「何」と分かっていたわけではないが、「何となくそんな感じのようなもの」は感じていたので、仕掛けが明かされた時も「ああ…そういうことね」という感じだった。
 ただ、ラストのもうひと仕掛けがよかった。正直、こっちの方が「分かっていた」んだけど、過保護母と親離れできない娘の、救いようのない話のラストとしては、申し分のない落としどころだったと思う。

No.505 6点 祈りの幕が下りる時- 東野圭吾 2018/02/11 16:26
<ネタバレです>
 基本的にクオリティが高い筆者の作品としては、平均的な完成度という感想。

 地道な聞き込み捜査によって、バラバラに見えるピースが次第につながっていき、全体像が見えてくるという基本的な展開は十分に面白い。
 また、父娘の絆、何を犠牲にしてでも娘の人生を守ろうとする父親の愛情、という点は素直に胸を打たれるものだった。ただ、いくらそのためとはいえ、人を殺めることに対してあまりにも良心の呵責が欠けていると思う。最初の入れ替わりの事件はまだしも、善意の第三者である押谷道子を何のためらいもなく手にかける忠雄や、そのことを聞いてもすぐに受け入れられてしまう博美の姿は、父娘の絆という言葉だけで片付けることにはできない。
 ダミーの伏線として描かれていた苗村についても、「子ども思いの熱心な先生」というキャラクターが真相解明の段になってあっさり覆されて、「嫉妬心の強いストーカー気質の男」に急になり下がっており、都合よく書き換えられている感じがする。
 映画化の派手な宣伝文句に知らず知らずのうちに影響され、勝手にハードルを上げてしまっていたかもしれないが、良作であることは間違いないが、突出した傑作という評価にはならなかった。

No.504 8点 屍人荘の殺人- 今村昌弘 2018/02/11 15:50
 C.Cの本格ミステリに、パンデミック・ホラーを材料として絶妙に組み込んでいる秀作。ゾンビ世界の設定が、アリバイやトリックにも論理的に絡んでいて素晴らしい。建物の見取り図が掲載され、その構造が重要になってくる点では「館もの」の雰囲気も備えていて、「一粒で何度もおいしい」類の作品だと思う。

 冒頭探偵役と目された男が早々に犠牲者になってしまったのは驚いたが、それだからこそ後々の展開に絡んでくるのかと身構えていたが、そうでなかったのは少々肩透かしだった。むしろ、再登場の場面はあまりにも切ない…
 ちっちゃな疑問なのだが、最後の最後に右足をゾンビに「噛まれた」男は、その後のエピローグでなぜ普通の生活に戻れているのか??と思った。

No.503 8点 ジェリーフィッシュは凍らない- 市川憂人 2018/02/04 19:29
 航空工学やら、化学やらが出てきたり、舞台が外国だったりで、「難しい感じなのかな?」と構えて読み出したのだが、まったくそんな心配はなく、引き込まれて一気に読めた。純粋に面白かった。
 雪山に遭難した航空艇「ジェリーフィッシュ」内で、一人、また一人と殺されていくいわゆるクローズドサークルはベタなのだが、こういうのが好きな人たち(もちろん私も)は何作読んでもそのこと自体に飽きることはないので、非常に面白かった。そして何より本作は「最後の一人」も殺されてしまうという「そして誰もいなくなった」スタイルで、そのからくりが非常に斬新、よく考えられた仕掛けでよかった。
 物語は閉じ込められたジェリーフィッシュ内の恐慌と、その後の捜査が交互に描かれる構成だが、捜査過程で描かれて伏線が、最後の真相で見事に回収されているとともに、ジェリーフィッシュ内の描写ともきちんと結び付いていて本当によく考えられていると感じた。
 

No.502 4点 祝言島- 真梨幸子 2018/02/04 19:13
 (前の)東京オリンピック時に、突如噴火して島民の多くがその島を追われるも、東京オリンピックに盛り上がる世情を考慮して歴史上から消去され、地図上にも示されていないという都市伝説の「祝言島」。時を経た2006年、東京で一晩に3人の人間が殺害される事件が起こる。その真相をたどっていくと、そこには「祝言島」から東京へ逃れた子孫の影がちらほらと見えてきた―
 都市伝説を題材とし、東京の芸能界を舞台としたホラーテイスト(?)のミステリ。お蔵入りとなった祝言島のドキュメンタリー映画の謎を追うような展開はなかなかに面白かったのだが、いかんせんめまぐるしく入れ替わる視点人物に少々疲れてしまったのと、最後に示される真相が「ここまで読ませといてそれ?なんだかなぁ…」という思いだったのとでこの点数。

No.501 8点 許されようとは思いません- 芦沢央 2018/01/21 22:47
 どの作品も押並べてクオリティが高く、非常に読み応えのある短編集。3作品はホワイダニット、2作品は倒叙型(?1つはそうでもないかもしれないが)といった体だが、2作品の方も仕掛けが施してあって、非常に面白い。
 追い詰められる緊張感を味わってしまう「目撃者はいなかった」、読者自身が自分の邪悪さに気付いてしまうようなダークさをもつ「ありがとう、ばあば」、そういうことか!と思わず読み返してしまう「姉のように」と、さまざまなアプローチで読者を楽しませてくれる。
 腕が立ち、カードを多く持つ作家の典型的な良質短編集。

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