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平均点:6.31点 採点数:496件

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採点傾向好きな作家

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No.496 7点 ブルーマーダー- 誉田哲也 2018/01/08 22:01
 これは、シリーズの中でも秀作ではないだろうか。
 「これでもか」というぐらい、バタバタと人が抹殺されていく勢い、異常さは第一作「ストロベリーナイト」に通ずるものがあり、「どういう枠組みの事件なのか?」という大きな謎への興味も後半まで褪せずに続いた。このシリーズの魅力は入り組んだ謎の解明と、その謎の魅力を支える劇的な犯罪様相にあると思うので、その両者が備わった作品だと感じ、非常に面白かった。
 やはり基本的に本シリーズは、真相についての意外なひっくり返しはなく、犯人の犯行に至る経緯や背負っている背景を解き明かすことに主眼がある。前半の伏線に真相(真犯人)が隠れているということは確かにあるが、読者がするのは「推理」ではなく「ああ、ひょっとしたらあの人かな?」という「推測」である。ただ、もともと主人公姫川の捜査過程、その途上でのあれこれを描くことが主軸のような作品なので、そのくらいでちょうどよい感じはある。
 「インビジブル・レイン」で姫川の事情が急展開したのだが、うまく次の展開を描いているのもよかった。ただ、このシリーズはちょっと「これまで読んできている人」を想定しすぎた書き方で、新規参入がしづらいシリーズじゃないかな…。

No.495 7点 遠縁の女- 青山文平 2018/01/06 17:56
①「機折る武家」…武家の婿養子の後妻に入った女が、生活のために機を織ることに。ふがいない夫と聞き分けのない義母に不満を抱いていた女の気持ちが変わっていく。
②「沼尻新田」…領地借り上げの代償として御国が薦める新田開発に乗り出し、成功を収めた武家当主。そこにあった、本当の思惑は?
③「遠縁の女」…武威よりも学問が重宝され始めていた寛政の世に、父親に勧められて武者修行にでた武士。5年の修業を経て帰ってきた男に、本当の事情が明かされる。

 表題作の③がミステリの要素はいちばん強い。やや冗長な部分はあるが、急展開するラストは面白かった。
 ミステリ要素は薄いが、①はえもいわれぬ良さがあった。とりたてて劇的な展開はない話なのに、なんだか引き込まれた。
 このジャンルはライバルが少ないからかもしれないが、読み出すと好きになる人も多い作家さんではないかと思う。

No.494 7点 果つる底なき- 池井戸潤 2018/01/06 17:36
 超売れっ子の原点を見るような気がして嬉しい(といっても、売れ作品はミステリじゃないのでほとんど読んでないが…)。そしてそれがミステリであること、江戸川乱歩賞受賞作であることがなおニンマリ。現在の池井戸作品ファンに、「彼、乱歩賞作家で、今では乱歩賞の審査員もやってるミステリ作家なんだよ」と教えると結構驚かれる。デビュー作であるからこの人なりに多少の拙さはあるのかもしれないが、私に言わせれば最初からこのクオリティは大したもの、だと思う。
 銀行の仕組みや、「手形」とやらの仕組みに明るくないので、そもそもの事件の構造を理解するのに労を要したのがやや難だったが、真相を探ろうとする主人公に次第に魔の手が伸びていく展開や、それでも独力で真相に迫ろうとする過程には力があり、読み応えがあった。
 典型的な社会派ミステリのような気がして、これが乱歩賞を受賞したということに意外性を感じた(作品のレベルとして足りないという意味ではなく、ジャンルの意味で)。

No.493 6点 インビジブルレイン- 誉田哲也 2018/01/06 17:10
 姫川玲子シリーズの長編。
 暴力団関係のチンピラが惨殺された。当然組対四課も交えての捜査となるのだが、暴力団の抗争がらみというスジで捜査しようとする組対四課と、それとは関係なく捜査を進めようとする玲子ら捜査一課との綱の引き合いが始まる。
 そんな中、重要な事件関係者として「柳井健斗」という男が捜査線上に浮かぶ。しかし、そこで上層部から「ヤツには触るな」との指示が。あとは予想通り、その方針に従わずに独力で捜査しようとする玲子、それを泳がせる今泉係長ら同僚。そしてやがてはそれがバレるが、最終的に真相に一番にたどり着くのは玲子たち—
 とまあ、本シリーズのある意味お決まりのパターン。ただ今回は、作品の複線となっている玲子の男性事情にも変化があり、それもなかなか読ませた(安っぽい所もあったが)。
 真犯人が誰かということはそれほど重要ではなく、事件の背景と、それによって合点がいく犯行手口という展開が主で、ハウダニットの色が濃いかな?(ジャンルで「本格/新本格」に分けられているけど・・・それはないような気が)
 相変わらずある意味わがままで、共感できる部分も反発を感じる部分もある主人公・玲子だが、それもこれもひっくるめて疾走感あるストーリーは好感がもてる。

No.492 5点 ソウルケイジ- 誉田哲也 2018/01/06 15:42
 ここまでの投稿者の方々とは対照的に、小生の出来の良くない頭脳では、人間関係の把握が難しく、何度も頭の中で整理したり見返したりして読み進め、少々疲れた。(間を置きながら読んだからかもしれないが)
 バラバラ死体でのこうした真相は一つのパターンではあるが、背後の人間関係と絡めたトリックとしては想定外で確かに面白かった。

No.491 7点 - 横山秀夫 2017/12/23 12:58
 私の中では一番の短編の名手。無駄なく、無理なく、謎を絡ませながらまとめ上げる手管はさすが。今回も楽しませてもらった。
 「共犯者」「心の銃口」が秀逸。特に後者は、失敗や裏切りなどのひっくり返しにより真相にたどり着く過程は非常によかった。婦警間の人間模様、という点では「疑惑の似顔絵」も心に残った。
 女性蔑視に耐え、立ち向かう警察内での婦警の葛藤が本編の一つのテーマだが、主人公・瑞穂は常にそのことが頭にあり続ける。どんな社会もいまだに男性優位の風潮は残り続けているが、特に警察という社会はその色が濃いのだろうな、としみじみ感じた。

No.490 5点 ゼロの激震- 安生正 2017/12/23 12:13
 ハリウッド映画張りの仰々しいスケールの話。大きな失敗により今は業界を追われたプロフェッショナルにトップからお呼びがかかり、世界的な危機を救うという骨組みもよくあるパターン。読み進めるのはそれなりに面白いが、そういう「SF的な危機」「天才肌のヒーロー」「国家世界のために命を賭す美学」といった演出があまりにもあざとく、鼻白んでしまうところも強い。推敲された原稿を読むような、「立て板に水」の会話も、カッコいいかもしれないが行き過ぎな感じ。これはこの作者の作品全体に言える特徴だが、作品を重ねるごとに傾向が強くなってきている気がする。
 地震に関する薀蓄もほとんど理解できないし、そういう科学的な内容が理解できなくともストーリーの理解に支障はないので、ただうるさいだけになってしまう。
 題材、発想は他に類を見ないもので面白いと思うが、男たちの矜持を感動的に描こうとする意気込みが強すぎるので、白けてしまう人も多いのではないだろうか。

No.489 7点 半席- 青山文平 2017/12/16 15:47
 江戸時代、幕府のお膝元で徒目付を務める片岡直人は、この役職を踏み台として旗本の勘定へと駆け上がることをめざしていた。というのも、片岡の家は直人の父、直十郎が御目見以上まで務めたのだが一役のみで、家として「旗本」と認められるためには、少なくとも二つのお役目に就かなくてはならないからだ。父親が一役だけ御目見以上を務めた状態の直人は、一代御目見「半席」であり、直人が勘定に上がることで晴れて旗本となることができる。そのためにも、お上の覚えをよくするべく、横道にはそれずに日々の任務に邁進する必要があった。
 しかし、上役の組頭・内藤雅之は、そんな直人にしばしば「頼まれ御用」の話をもってくる。「頼まれ御用」とは、見知った筋から個人的に依頼を受ける裏仕事で、速やかな昇進を目指す直人にとっては顧みる必要のない案件である。だが、そこには表の仕事にない「人臭さ」が漂い、内藤の人柄と共に、少しずつその魅力に惹きつけられていく直人がいた。
 物語は、内藤が持ち込んでくる「頼まれ御用」を受け、真相を解き明かす短編集。依頼は主に江戸界隈で起きた刃傷沙汰の「わけ」を探ること。罪を犯した者もはっきりし、本人もそれを認めているが、「なぜ」そのことが起きたのわからないままの事件について、被害者も含めた関係者がそれを知りたいと依頼をしてくるのだ。いわゆる、江戸を舞台としたホワイダニットの短編集である。

 息子のために立身出世を旨としている直人の心を、飄然と頼まれ御用を引き受け、人々の心の綾を解きほぐす組頭・内藤の在り様が乱す。いわゆるグルメの内藤は、直人と話すときはいつも行きつけの居酒屋で酒肴を共にするのだが、その料理に関する描写、薀蓄も話に彩を添えていて面白い。
 解明される事件の動機は、時代の価値観があってこそのものであり、時代物のミステリとして非常に興味深い作品だった。

No.488 6点 ストロベリーナイト- 誉田哲也 2017/12/12 22:33
 グロさ、ぶっ飛び感はアリ。最終部分での序章のひっくり返し方もよかった。
 キャラ立ての妙(ドラマ向き)もあり、面白く読み進められることは間違いない。
 ただ・・・
 ストーリーの仕掛け方が現実あり得ない劇場的レベルで、インパクトがある分逆に安っぽい、ドラマ仕立て臭い。
 あと、この手のどんでん返しが最近多くて、インパクトをあまり感じられなかったのもある(それはこっちの読む順番だけどね)。
 と、いろいろ感じてこの点数。ただ、「このシリーズ読もうかな」と思えるだけの面白さは確か。

No.487 7点 大誘拐- 天藤真 2017/12/09 19:21
 上手い。仕組みも、文章も、人物造形も。
 自分が一番酔ったのは、ラストの締め方。井狩部長の気づきと追及、正義の結末は予想の範疇だったが、それ以外は…着地点が見事。この力作に脱帽という思いだった。
 物語(犯罪)の最大の生命線は、刀自の圧倒的なカリスマ性、崇拝ともいえる人望。それがなくてはそもそもすべてが成り立たない。よい意味で、現代にはそぐわない話だと思った。掛値なしで「何をおいても絶対に信じる、従う」というまでの信頼、人間関係が現代にあるだろうか?(肉親を除いて)
 物語の構想としても、実際の内容としてもスケールの大きな話。最終的に「悪人」がいない物語に仕立て上げた作者の手腕にも感心した。

No.486 7点 ドクター・デスの遺産- 中山七里 2017/12/04 21:09
 犬養隼人シリーズ、今回のテーマは「安楽死」。
 ある日警視庁の相談電話に、幼い少年から「僕のお父さんは医者に殺された」という訴えの電話が。初めは、父親の死を受け入れられない少年の拒否反応かと高を括っていたものの、「お父さんが死んだ日、違うお医者さんが2回来た。1回目に来た人がお父さんを殺した」という少年の話から、ただならぬ気配を感じた犬養らの調べから、ネットで安楽死希望者を募っては実行する「ドクター・デス」の存在が明らかになる。れっきとした殺人ではあるものの、誰をも傷付けず、むしろ望みを叶えているその所業に、世論も関係者も賛否は真っ二つ。人に「死ぬ権利」はあるのか、安楽死はその権利なのか―。真犯人を追う中で、倫理道徳の問題にも迫る著者らしい作品。(要はブラックジャックのドクター・キリコである。そう思うとやっぱり手塚先生はスゴい)

 人工透析を続ける娘を持つ犬養だからこそ、「苦しみを取り除いてあげるのが愛情か」「あくまで延命を望むのが愛情か」という問題に、心が揺れ動く。ネット上で自身の行為の正当性を説くドクター・デスに、憎しみと共にどこかシンパシィも持っている自分に気付き、「俺は刑事だ」と自らを奮い立たせる姿は、彼らしい人間臭さが全開である。
 そうした社会的メッセージ色が濃い作品ではあるが、しっかり仕掛けもしてあり、割とものの見事にやられてしまった。

No.485 7点 空中ブランコ- 奥田英朗 2017/12/02 13:47
 私としては1作目よりよかった。
 何も考えてなさそうな無邪気なボンボン精神科医・伊良部一郎のもとを訪れるさまざまな悩みを抱えた人たち、その人たちの職業や趣味を「ぼくにもやらせて」と一緒にやりだす伊良部、といったパターンは前作と同じ。ただ、本作の方が奥田英朗にしては珍しく(?)ハートフルなハッピーエンド感が強かった気がするのは私だけか?
 最後の「女流作家」などは、主人公の友人・さくらの魂の叫びや、看護婦・マユミが初めて見せた人間らしさ(?)にちょっと感動してしまった。
 患者の伊良部に対する心のツッコミにも磨きがかかり、何度も噴出してしまう。ユーモアとあたたかさが同居した快作、作者の上手さを感じる一作だった。

No.484 6点 噂の女- 奥田英朗 2017/12/02 13:28
 独特の男好きする色香で様々な男を籠絡し、巨額の富を得ていく希代の悪女・糸井美幸の軌跡を描く連作短編集。
 一貫して美幸以外の視点で描かれていることで、3人の元旦那の死の真相や、美幸の子どもの父親は誰か、といったことが(「そういうこと」なんだと分かりながらも)文章上は推測で終わっている書き方が上手い。
 とんでもなく計算高い悪女でありながら、なぜか同世代の女性をも惹きつけてしまう魔性をもつ美幸に陥れられたり、なびいてしまったりと翻弄される田舎の人たちのさまが非常にリアルに描かれていて面白い。
 最終的に「ケリ」をつけない書き方はこの人の作風だと思うのだが、ひょっとすると精神科医・伊良部のシリーズのように今後も続くということなのだろうか?

No.483 5点 ししりばの家- 澤村伊智 2017/11/27 22:34
「ぼぎわんが、来る」「ずうのめ人形」に続くシリーズ3作目。今回は、前2作でライター野﨑とともに活躍した比嘉真琴の姉、琴子の話。
 前作「ずうのめ人形」がホラーの雰囲気十分なうえにミステリとしても味わえて非常にクオリティの高さを感じたが、今回はなんだか「よくあるホラー」になってしまった感が強い。
 夫婦二人暮らしの笹倉果歩は、仕事でほとんど家にいない夫に寂しさを感じながら、ルーティーンのような味気ない毎日を送っていた。そんなある日、幼いころの友達・平岩敏明に町で偶然出会う。お互い既婚となった二人だが、久しぶりの再会に喜ぶ中、敏明は「うちの家庭に遊びにおいで。」と果歩を誘う。招待を喜んで受け、平岩夫妻の家に遊びにいった果歩だが、そこで家中に「砂」が積もっているという異常な光景と、その中で何事もないかのように振舞う敏明の奇行に背筋が寒くなる―
 砂のある家の正体、そこに潜む「何か」と戦う比嘉真琴の姉、琴子。どんどん正気を失っていく登場人物の姿には怖さを覚えるものの、どこかB級ホラーのようなありがち感が漂ってしまい、前作ほどはのめりこめずに読んでしまった。
 次作以降に期待をしたい。

No.482 5点 ファインダーズ・キーパーズ- スティーヴン・キング 2017/11/27 22:01
 人気作家・ロススティーンは、人気シリーズ「ランナー」の三部作を書いたのち、一切の世間との交流を断ち、隠遁生活に。しかし、世俗を離れて十数年たってもなお、一人「ランナー」の続編をノートに書きためていた。そこへ三人組の強盗が押し入る。強盗の一人、モリスは実は「ランナー」の大ファンで、一番の目的はお金ではなく「ランナー」続編のノート。ロススティーンを殺したうえでノートを奪ったモリスだが、そのノートが入ったトランクを密かに地中に隠したまま、別の事件で逮捕され、刑務所に入ってしまう。そのまま時は経ち、ある少年が偶然そのトランクを発見してしまったことを発端に、事態は危険な方向に―。
 「ミスター・メルセデス」に続く退職刑事・ホッジスのシリーズ第2弾。リーダビリティの高さは抜群で、それなりにのめりこんで読めるのだが、ストーリーも展開もある意味オーソドックスで、往年のキングを期待して読むとハズれると思う。モダンホラーの巨匠が、「普通の」サスペンスを書いた、という感じ。
 面白くは読めるが。

No.481 8点 火刑法廷- ジョン・ディクスン・カー 2017/11/19 22:44
 新訳版で読んだ。非常に読み易かった。
 密室での毒殺、壁の通り抜け、死体消失、鉄壁のアリバイ、処刑された過去の毒殺魔とのつながり・・・と、中盤以降まで不可解な状況、謎が「これでもか」というぐらいどんどん積み重ねられていって、「これがいったいどのように集約され、解決を見るのか?」と、かなりドキドキ(ハラハラ?)しながらページを繰ることができた。
 多少強引さもあるが、結末ではそれらが見事に回収され、思わずうなるものだった。まずは緻密に構成された力作であり、代表作という評判に適うものだったと思う。
 ただ満点とならなかったのは、まず一つに毒殺、壁の通り抜けのトリックがカーの有名他作品の流用に感じたこと(うすうすその手ではないかと感づいていた)と、これはなぜなのか自分でもよくわからないが、霊や魔術などを題材としているののに、あまり怪奇的な雰囲気に浸れなかったこと。逐一、冷静な理詰めの推理を差し挟みながら進めていたからかなぁ。
 ラストは完全にやられました。すごく上手い裏切り方。

No.480 5点 マスカレード・ナイト- 東野圭吾 2017/11/19 22:16
 基本的に上手い作家さんなので、安心して読める。しかも、サクサクと読めるリーダビリティなので、半日あれば読めてしまう。
 ホテル・コルテシア東京の大みそかには、「マスカレード・ナイト」と呼ばれる仮装カウントダウンパーティがある。警察に、そのパーティに「未解決の女性殺人事件の犯人が現れる」という密告があった。半信半疑ながらも、全力で犯人逮捕にあたろうとする警察で、例によって例のごとく「ホテル従業員に扮した潜入捜査」が行われることに。そして例によって例のごとく、新田がフロントクラーク役に。前回捜査で顔なじみのコンシュルジュ・山岸尚美の協力も得ながら、不審人物のマークに励む新田の傍らで、さまざまな客の要望に応え四苦八苦する様子を見ることになる。
 「不審な客」=容疑者候補のさまざまなエピソード一つ一つが面白く、ホテル業務の喜怒哀楽を読むことそのものが結構面白い。当然、どれかが、あるいはすべてが真相の伏線となるであろうから、こちらもいろいろな想像を巡らそうとするのだが、いろいろありすぎて推理する気にはなれない。案の定、真相はとても入り組んでいて、よく考えられているとは思うが分かることはないだろう、と思った。
 読み物として読めば普通に面白いと思う。

No.479 7点 沈黙の町で- 奥田英朗 2017/11/14 23:00
 一応(かなり)、ミステリらしさのある作品ですよ、これは。
 ある中学校である日の晩、「息子が家に帰って来ない」という保護者の連絡を受け、校内を見回ったところ部室棟横の側溝で頭から血を流して死んでいる生徒を発見した。部室棟は2階建て、自殺であるとは考えにくい。調べていくうちに、部室棟の屋根に上ること、そして横の銀杏の木に飛び移る「度胸試し」が運動部員たちの間で常態化していたことがわかってくる。さらに、死んだ生徒はテニス部の生徒で、どうやらいじめに逢っていたらしい―。
 これは事故なのか、それとも事件なのか?先手を取ろうと動き出す警察、真相の解明を求める被害者の母親、戦々恐々としながらも「我が子だけは違う」と信じたいいじめ加害者生徒の親、両者の板挟みになって対応に苦慮する学校―。

 2013年の作品だが、ここ十数年来変わらず問題となっているいじめを題材とし、各立場の思惑を描き出す手腕はさすが。問題は「いじめによる」死なのか、それとも事故なのか、真相をはっきりと描かずに話を進めていくので、ミステリ的にも面白い(推理できる類ではないが)。

 ただ、その真相が描かれたところで物語は終わり、真相を受けてどうなったのかは読者の想像に委ねられる。上記の各立場(警察、被害者遺族、いじめ加害者の親、学校)がどうなったのか、描き切ってほしかった読者は消化不良のように感じるかもしれないが、これが奥田英朗氏のいつもの手法。

No.478 6点 イン・ザ・プール- 奥田英朗 2017/11/08 21:33
 金持ちのボンボンで、ガキみたいにアホな、伊良部総合病院の神経科医・伊良部一郎のもとに、心に悩みを抱えた患者が次々訪れる短編集。あまりにいいかげんな伊良部の様子にはじめは「来る病院を間違えたか?」と思いつつも、なぜか毎日通ってしまい、アドバイスを受け入れるようになっていく。それぞれの患者の症状(?)は、ある意味では「あるある」で、伊良部とのおバカで軽妙なやりとりとバカバカしいような展開が考えてみれば意味深いような気がして、なかなかに楽しい。
 個人的には「コンパニオン」と「フレンズ」が中でも面白かった。特に「フレンズ」は、この作品の出版はまだガラケー全盛期のころだと思うが、現代の若者の「病」を極端に描いている感じがして面白かった。

No.477 7点 オリンピックの身代金- 奥田英朗 2017/11/06 22:24
 時は戦後。初の開催国となる東京オリンピックを間近に控えた東京を舞台に、社会的下位層が繁栄の犠牲となる日本社会に怒りを覚える東大院生の反逆と、国家の発展を守ろうとする警察との戦いのストーリー。
 東京近辺で起こる爆破事件に対処する「警察側」と、その「犯人側」とが交互に描かれる構成だが、同じ時制で並行して描かれるのではなく、例えば警察側の9月ごろと犯人側の7月ごろ、というように警察側を少し先にずらした描き方がしてある。よって物語の前半は、警察側=爆破事件の捜査:犯人側=犯行前(犯行に至るまで)という構成になり、一応、「この人が(2か月先の警察側で捜査されている事件の)犯人なのかな?違うのかな?」と思いながら読められて面白かった。
 話が進むにつれて少しずつ両者の時制が詰まっていき、結局やっぱり犯人だったことが分かる。するともう、とにかく「犯人側」の方を読み進めたくなってしまい、間に「警察側」が入ってくる交互の構成がちょっと煩わしくなってしまった。

 がしかし、国威発揚の最たるケースであるオリンピック招致を題材として、民主政治(と名乗る政治)の現実を描き出した本作は、読み応えのある一作だった。

 2度目の東京オリンピックを前にした今読むと、またいろんな思いや考えに馳せられる。生活水準が全体的に底上げされただけで、本作で主人公・国男が憤りを感じる社会の仕組みも、国策で旗を振られると誰もがそちらを向く国民性も、基本的は何も変わっていない気がする。

No.476 5点 謎の館へようこそ 黒- アンソロジー(出版社編) 2017/11/06 21:47
◇はやみねかおる「思い出の館のショウシツ」…書籍の世界を仮想体験する”メタブック”なるものが存在する世界の話。その上でのトリック…うん、まあ、わかった。

◇恩田 陸「麦の海に浮かぶ檻」…これまた仮想世界の話。仕掛けはそれなりに上手いのだが、あまり印象に残っていない。

◇高田崇史「QED~ortus~ ―鬼神の社―」…作者の名前はよく見ていたんだが、読んだのは初めてかな。神社系の薀蓄多し。ネタは小ぶりだが、短編にはふさわしい。

◇綾崎 隼「時の館のエトワール」…ラストのひっくり返し方(それまでの騙しも)はこれが一番よかったかな。面白かった。

◇白井智之「首無館の殺人」…まぁ相変わらずグロいというか、汚い。どんでん返しは意外でよかった。

◇井上真偽「囚人館の惨劇」…本アンソロジーで一番長い。伏線の張り方と、それを回収しての真相は見事だった。

 アンソロジーになるとどうしても変化球をねらうのか、それともこの「黒」の方々はもともと変化球タイプなのか…。どっちもある気がするが、少なくともオーソドックスなミステリは一つもない…と思う。

No.475 7点 浜中刑事の迷走と幸運- 小島正樹 2017/10/29 16:08
 鄙びた片田舎での駐在所勤務を切望しながらも、意に反して次々と手柄を立ててしまい、「ミスター刑事」とまで呼ばれ困惑しながら捜査一課の刑事を務める浜中刑事シリーズの長編。
 今回は、私利私欲に凝り固まり、しかも虐待趣味のある悪徳フリースクールが舞台。物語は犯罪現場の描写からの倒叙形式で始まるのだが、凶器移動のハウダニット、動機の真相は何なのか、のホワイダニット、さらに本当に起きたことは何なのかのホワットダニット(なんて言葉はないか(笑))など、複数の謎が次々に生まれる複合的なストーリーになっている。
 凶器の謎はある意味小島氏らしいバカミス風で、もっとも浜中刑事らしいマンガ的な解明だったが、それ以外は自己犠牲の友情、生徒の切実な家庭環境、刑事たちの熱い正義感と矜持など、かなりシリアスに描かれており、またなかなか引き込まれる物語になっている。
 最後にすべての真相が将棋倒し的に解明されていくのだが、そこで前半の伏線がきれいに回収されていて、見事さを感じた。リーダビリティも高いし、本格&警察小説ファンには好まれる作品ではないかなぁ。

No.474 7点 臥龍- 今野敏 2017/10/29 11:12
 ヤクザをとことん憎む「ハマの用心棒」こと暴対係長・諸橋夏男と、係長補佐・城島勇一コンビが活躍するシリーズ第4作。
 ある晩横浜の盛り場で飲んでいた諸橋と城島は、近くで起きた3対2のスジ者同士のけんかの仲裁に入る。2人組は警察であることを知ってそそくさと立ち去ったが、半グレらしい3人組は構わずに立ち向かってきた。一旦は諸橋たちにノされて立ち去ったのだが、飲み直している諸橋たちのもとにまたすぐにやりかえしに来て逮捕。
 警察に動じることなく刃向かってくる連中に不穏な空気を感じた諸橋たちは、神風会の神野に情報を集めに行く。神野は、以前諸橋たちの捜査により逮捕され、現在刑務所収監中の田家川の配下団体が、何かを目論んでいるかもしれないと匂わせる。
 すると翌日、田家川の事件以来横浜に出張ってきていた関西系の羽田野組組長が射殺される事件が勃発。神野の言った通り、田家川の配下が動いているのか?城島と共に捜査に乗り出す諸橋―

 小気味よい諸橋&城島コンビのやり取りでテンポよく進む、相変わらずのリーダビリティ。エンタメテイストの作風でありながら、事件の真相に迫るミステリ要素もしっかりしている。
 捜査一課の方針と食い違い、勝手な捜査に憤る一課と闘いの構図になるという手法もお決まりだが、その間に立つ笹本管理官がいい味を出している。諸橋たちにいつも苦言を呈しに来る管理官だが、実はすべて諸橋たちを思ってのことであり、シリーズを追うごとにその色が濃くなってきている。こういうキャラクター(管理官)は今野作品によく出てくるね。(隠蔽捜査シリーズの野間崎管理官もそんな感じ?)
 期待を裏切らないシリーズ。次作も楽しみ。

No.473 5点 朱色の研究- 有栖川有栖 2017/10/29 10:41
 他の方には高評価の傾向もあるようだが、私は、マンション殺人のトリックに込めた「犯人の意図」は、策を弄しすぎであり、不確定要素が多すぎであり、素直に受け入れられなかった。よく推理の過程で「わざわざそんなことをする必然がない」と、推理から除外する論理があるが、この真相をそう感じてしまった。一回りして自分を容疑の圏外に、という理屈は分かるのだが…やり過ぎな感じ。
 またこれも読者によって評価が分かれる「犯人の動機」、私は理解できないほう。ミステリの中に叙情性をもたせる作者の作風は好きではあるのだが、背景として「後押し」するぐらいが適度だと思う。
 過去の放火殺人と海岸の殺人事件、そして今回起こったマンション殺人と、三つの事件を結び付ける構成は鮮やかだった。一つのことが分かるにつれて、並行的にそれぞれの解明に結び付いていく仕組みはさすがだ。

No.472 6点 謎の館へようこそ 白- アンソロジー(出版社編) 2017/10/21 21:03
 講談社・新本格30周年記念企画の第2弾。「館」をテーマとしているため、変化球の多かった「七人の名探偵」よりもこちらのほうが本格っぽさはあってよかった。

◇陽奇館(仮)の密室(東川篤哉)
 赤川次郎の某有名作のパクリでは?
◇銀とクスノキ~青髭館殺人事件~(一肇)
 ・・・オチがちょっと・・・うーん・・・
◇文化会館の殺人 ――Dのディスパリシオン(古野まほろ)
 手がかりから真相を推理する、という正道ではあった。が、簡単だった。
◇噤ヶ森の硝子屋敷(青崎有吾)
 人里離れた、限られたメンバー内での殺人、という本格ファン好みの話。
◇煙突館の実験的殺人(周木 律)
 閉塞的な特殊施設に集められた人々。米澤穂信「インシテミル」的雰囲気。
◇わたしのミステリーパレス(澤村伊智)
 こんな話よく考えるなぁ。読んでいくうちに全体像が見えてくる。

No.471 5点 合理的にあり得ない- 柚月裕子 2017/10/21 20:40
 もと弁護士の上水流涼子が運営する探偵エージェンシーに舞い込む「〇〇的にあり得ない」依頼。IQ140のアシスタント、貴山と共に痛快に解決していく、連作短編集。
 見目麗しい美女と、天才アシスタントの二人三脚による勧善懲悪的ストーリー。ドラマ化とか向いてるかも。読み物として普通に面白かった。

No.470 8点 邪魔- 奥田英朗 2017/10/16 21:23
 「無理」「最悪」と並ぶ3作の中では一番ミステリっぽいかな。作品としても個人的にはいちばんよかった。
 複数の人物の物語がそれぞれ描かれる中で、次第に一つに重なっていくという手法は他の2作と同じ。ただ今回は、放火という一つの事件を巡って容疑者家族、刑事、裏で暗躍するヤクザとかかわってしまった不良、という組合せなので、偶然ではなく必然的なもの。だから余計にミステリらしく感じたのかな。
 後半は、刑事・九野と、放火容疑者の妻・及川恭子との物語が主になるが、特に、普通の主婦であった恭子の凋落ぶり、追い詰められて狂気に走っていく様の描き方は秀逸。目の前の困難から目を背けたいがゆえに市民団体の活動に没頭していくところなど、よく考えて仕組んであるなあと感心してしまう。
 相変わらずの含みを残した終わり方だが、今回は素直にそれを受け入れられた。

No.469 7点 最悪- 奥田英朗 2017/10/16 21:04
 「無駄」を読んで著者の文章が気に入り、続いて読んだ。期待を裏切らない面白さ。読み進める手が止まらない退屈しない展開、さり気無い描写の巧みさで、早くも自分の中では「まず、ハズレはない作家」ぐらいに思えてきている。
 複数の人物のストーリーが並行して描かれ、結末に向けて一つになっていくパターンはおなじみの(?)手法。前半は町工場の経営者、銀行勤めのOL、半グレの青年の三者の物語だが、それぞれに起伏があり、しかもリアルで面白い。ただ、それぞれの「敵」がまた憎らしく、何とかしようと思うほどに泥沼にはまっていく様は、感情移入して読んでいるとこっちもストレスが溜まってくる(笑)
 三者のストーリーが一つになる後半はかなりドタバタ劇に近い無節操さ。なんとなく消化不良な終わり方のように感じてしまうところもあり、この点数。

No.468 6点 女王蜂- 横溝正史 2017/10/12 20:12
 謎が随所に散りばめられ、いろいろと仕組んであり、長編にも耐えうる内容だと思うのだが、本サイトの評価をはじめとした、他作品より一段劣る評価にも共感できてしまう…なんでなんだろう?
 19年前の男の謎の死をはじめ、次々に起こる殺人と、絶世の美女、琴恵・智子母子を巡る愛憎劇。通俗小説の色が濃いという評価もあるが、人物の謎の言動、密室の謎など、自分はミステリとしてもよく練られていると感じたし、退屈しない展開で読み進められるのだが…なぜか「どっぷり」できないままにサクサク進んでしまった感じ。ホントになんでなのか、自分でもよくわからない。少なくとも読み易くてよかったとは言えるのだが。強いて言えば「不気味さ」「陰惨さ」が足りないのかな…?
 そんな感覚だから、高評価をつけている人がいるのも逆にうなずける。密室の真相にはちょっと拍子抜けする感もあったが、19年前の事件の真相などはうまいぐあいに考えられていると思った。
 そんなこんなでこの得点だが、横溝ファンは少なくとも読んで損はない作品だと思う。

No.467 8点 ずうのめ人形- 澤村伊智 2017/10/09 10:39
 人並由真さんによれば、「ホラーながらミステリとしても面白い」と評判ということらしい。その通りだと思った。前作「ぼぎわんが、来る」もよかったが、これもまたよかった。同じ登場人物が出ていてシリーズ化される様相なので、楽しみ。

 「ずうのめ」という語感や、赤い糸で顔をぐるぐる巻きにされている日本人形など、「気味悪さ」の作り方が絶妙で、作者のセンスに脱帽してしまう。オカルト雑誌の出版社が舞台となり、都市伝説が書かれた原稿が人の手に渡っていくことで呪いが拡散していく、というスタイル自体はありがち(作中にも多用される「リング」同様)だが、主人公が原稿を読み進めていくのと、現実世界とが交互に描かれていく構成により、少しずつ謎が深まり、そして解明へと向かっていく様が上手く描かれている。
 この都市伝説の出所はどこなのか?描かれている話は実話なのか?だとすると、出てくる「りぃ」と「ゆかり」は実在するのか?それらの謎に対しての仕掛けも施されていて、「ミステリとしても面白い」というのも確かにうなずける。
 今後も楽しみなシリーズだ。

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