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平均点:6.31点 採点数:481件

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No.481 8点 火刑法廷- ジョン・ディクスン・カー 2017/11/19 22:44
 新訳版で読んだ。非常に読み易かった。
 密室での毒殺、壁の通り抜け、死体消失、鉄壁のアリバイ、処刑された過去の毒殺魔とのつながり・・・と、中盤以降まで不可解な状況、謎が「これでもか」というぐらいどんどん積み重ねられていって、「これがいったいどのように集約され、解決を見るのか?」と、かなりドキドキ(ハラハラ?)しながらページを繰ることができた。
 多少強引さもあるが、結末ではそれらが見事に回収され、思わずうなるものだった。まずは緻密に構成された力作であり、代表作という評判に適うものだったと思う。
 ただ満点とならなかったのは、まず一つに毒殺、壁の通り抜けのトリックがカーの有名他作品の流用に感じたこと(うすうすその手ではないかと感づいていた)と、これはなぜなのか自分でもよくわからないが、霊や魔術などを題材としているののに、あまり怪奇的な雰囲気に浸れなかったこと。逐一、冷静な理詰めの推理を差し挟みながら進めていたからかなぁ。
 ラストは完全にやられました。すごく上手い裏切り方。

No.480 5点 マスカレード・ナイト- 東野圭吾 2017/11/19 22:16
 基本的に上手い作家さんなので、安心して読める。しかも、サクサクと読めるリーダビリティなので、半日あれば読めてしまう。
 ホテル・コルテシア東京の大みそかには、「マスカレード・ナイト」と呼ばれる仮装カウントダウンパーティがある。警察に、そのパーティに「未解決の女性殺人事件の犯人が現れる」という密告があった。半信半疑ながらも、全力で犯人逮捕にあたろうとする警察で、例によって例のごとく「ホテル従業員に扮した潜入捜査」が行われることに。そして例によって例のごとく、新田がフロントクラーク役に。前回捜査で顔なじみのコンシュルジュ・山岸尚美の協力も得ながら、不審人物のマークに励む新田の傍らで、さまざまな客の要望に応え四苦八苦する様子を見ることになる。
 「不審な客」=容疑者候補のさまざまなエピソード一つ一つが面白く、ホテル業務の喜怒哀楽を読むことそのものが結構面白い。当然、どれかが、あるいはすべてが真相の伏線となるであろうから、こちらもいろいろな想像を巡らそうとするのだが、いろいろありすぎて推理する気にはなれない。案の定、真相はとても入り組んでいて、よく考えられているとは思うが分かることはないだろう、と思った。
 読み物として読めば普通に面白いと思う。

No.479 7点 沈黙の町で- 奥田英朗 2017/11/14 23:00
 一応(かなり)、ミステリらしさのある作品ですよ、これは。
 ある中学校である日の晩、「息子が家に帰って来ない」という保護者の連絡を受け、校内を見回ったところ部室棟横の側溝で頭から血を流して死んでいる生徒を発見した。部室棟は2階建て、自殺であるとは考えにくい。調べていくうちに、部室棟の屋根に上ること、そして横の銀杏の木に飛び移る「度胸試し」が運動部員たちの間で常態化していたことがわかってくる。さらに、死んだ生徒はテニス部の生徒で、どうやらいじめに逢っていたらしい―。
 これは事故なのか、それとも事件なのか?先手を取ろうと動き出す警察、真相の解明を求める被害者の母親、戦々恐々としながらも「我が子だけは違う」と信じたいいじめ加害者生徒の親、両者の板挟みになって対応に苦慮する学校―。

 2013年の作品だが、ここ十数年来変わらず問題となっているいじめを題材とし、各立場の思惑を描き出す手腕はさすが。問題は「いじめによる」死なのか、それとも事故なのか、真相をはっきりと描かずに話を進めていくので、ミステリ的にも面白い(推理できる類ではないが)。

 ただ、その真相が描かれたところで物語は終わり、真相を受けてどうなったのかは読者の想像に委ねられる。上記の各立場(警察、被害者遺族、いじめ加害者の親、学校)がどうなったのか、描き切ってほしかった読者は消化不良のように感じるかもしれないが、これが奥田英朗氏のいつもの手法。

No.478 6点 イン・ザ・プール- 奥田英朗 2017/11/08 21:33
 金持ちのボンボンで、ガキみたいにアホな、伊良部総合病院の神経科医・伊良部一郎のもとに、心に悩みを抱えた患者が次々訪れる短編集。あまりにいいかげんな伊良部の様子にはじめは「来る病院を間違えたか?」と思いつつも、なぜか毎日通ってしまい、アドバイスを受け入れるようになっていく。それぞれの患者の症状(?)は、ある意味では「あるある」で、伊良部とのおバカで軽妙なやりとりとバカバカしいような展開が考えてみれば意味深いような気がして、なかなかに楽しい。
 個人的には「コンパニオン」と「フレンズ」が中でも面白かった。特に「フレンズ」は、この作品の出版はまだガラケー全盛期のころだと思うが、現代の若者の「病」を極端に描いている感じがして面白かった。

No.477 7点 オリンピックの身代金- 奥田英朗 2017/11/06 22:24
 時は戦後。初の開催国となる東京オリンピックを間近に控えた東京を舞台に、社会的下位層が繁栄の犠牲となる日本社会に怒りを覚える東大院生の反逆と、国家の発展を守ろうとする警察との戦いのストーリー。
 東京近辺で起こる爆破事件に対処する「警察側」と、その「犯人側」とが交互に描かれる構成だが、同じ時制で並行して描かれるのではなく、例えば警察側の9月ごろと犯人側の7月ごろ、というように警察側を少し先にずらした描き方がしてある。よって物語の前半は、警察側=爆破事件の捜査:犯人側=犯行前(犯行に至るまで)という構成になり、一応、「この人が(2か月先の警察側で捜査されている事件の)犯人なのかな?違うのかな?」と思いながら読められて面白かった。
 話が進むにつれて少しずつ両者の時制が詰まっていき、結局やっぱり犯人だったことが分かる。するともう、とにかく「犯人側」の方を読み進めたくなってしまい、間に「警察側」が入ってくる交互の構成がちょっと煩わしくなってしまった。

 がしかし、国威発揚の最たるケースであるオリンピック招致を題材として、民主政治(と名乗る政治)の現実を描き出した本作は、読み応えのある一作だった。

 2度目の東京オリンピックを前にした今読むと、またいろんな思いや考えに馳せられる。生活水準が全体的に底上げされただけで、本作で主人公・国男が憤りを感じる社会の仕組みも、国策で旗を振られると誰もがそちらを向く国民性も、基本的は何も変わっていない気がする。

No.476 5点 謎の館へようこそ 黒- アンソロジー(出版社編) 2017/11/06 21:47
◇はやみねかおる「思い出の館のショウシツ」…書籍の世界を仮想体験する”メタブック”なるものが存在する世界の話。その上でのトリック…うん、まあ、わかった。

◇恩田 陸「麦の海に浮かぶ檻」…これまた仮想世界の話。仕掛けはそれなりに上手いのだが、あまり印象に残っていない。

◇高田崇史「QED~ortus~ ―鬼神の社―」…作者の名前はよく見ていたんだが、読んだのは初めてかな。神社系の薀蓄多し。ネタは小ぶりだが、短編にはふさわしい。

◇綾崎 隼「時の館のエトワール」…ラストのひっくり返し方(それまでの騙しも)はこれが一番よかったかな。面白かった。

◇白井智之「首無館の殺人」…まぁ相変わらずグロいというか、汚い。どんでん返しは意外でよかった。

◇井上真偽「囚人館の惨劇」…本アンソロジーで一番長い。伏線の張り方と、それを回収しての真相は見事だった。

 アンソロジーになるとどうしても変化球をねらうのか、それともこの「黒」の方々はもともと変化球タイプなのか…。どっちもある気がするが、少なくともオーソドックスなミステリは一つもない…と思う。

No.475 7点 浜中刑事の迷走と幸運- 小島正樹 2017/10/29 16:08
 鄙びた片田舎での駐在所勤務を切望しながらも、意に反して次々と手柄を立ててしまい、「ミスター刑事」とまで呼ばれ困惑しながら捜査一課の刑事を務める浜中刑事シリーズの長編。
 今回は、私利私欲に凝り固まり、しかも虐待趣味のある悪徳フリースクールが舞台。物語は犯罪現場の描写からの倒叙形式で始まるのだが、凶器移動のハウダニット、動機の真相は何なのか、のホワイダニット、さらに本当に起きたことは何なのかのホワットダニット(なんて言葉はないか(笑))など、複数の謎が次々に生まれる複合的なストーリーになっている。
 凶器の謎はある意味小島氏らしいバカミス風で、もっとも浜中刑事らしいマンガ的な解明だったが、それ以外は自己犠牲の友情、生徒の切実な家庭環境、刑事たちの熱い正義感と矜持など、かなりシリアスに描かれており、またなかなか引き込まれる物語になっている。
 最後にすべての真相が将棋倒し的に解明されていくのだが、そこで前半の伏線がきれいに回収されていて、見事さを感じた。リーダビリティも高いし、本格&警察小説ファンには好まれる作品ではないかなぁ。

No.474 7点 臥龍- 今野敏 2017/10/29 11:12
 ヤクザをとことん憎む「ハマの用心棒」こと暴対係長・諸橋夏男と、係長補佐・城島勇一コンビが活躍するシリーズ第4作。
 ある晩横浜の盛り場で飲んでいた諸橋と城島は、近くで起きた3対2のスジ者同士のけんかの仲裁に入る。2人組は警察であることを知ってそそくさと立ち去ったが、半グレらしい3人組は構わずに立ち向かってきた。一旦は諸橋たちにノされて立ち去ったのだが、飲み直している諸橋たちのもとにまたすぐにやりかえしに来て逮捕。
 警察に動じることなく刃向かってくる連中に不穏な空気を感じた諸橋たちは、神風会の神野に情報を集めに行く。神野は、以前諸橋たちの捜査により逮捕され、現在刑務所収監中の田家川の配下団体が、何かを目論んでいるかもしれないと匂わせる。
 すると翌日、田家川の事件以来横浜に出張ってきていた関西系の羽田野組組長が射殺される事件が勃発。神野の言った通り、田家川の配下が動いているのか?城島と共に捜査に乗り出す諸橋―

 小気味よい諸橋&城島コンビのやり取りでテンポよく進む、相変わらずのリーダビリティ。エンタメテイストの作風でありながら、事件の真相に迫るミステリ要素もしっかりしている。
 捜査一課の方針と食い違い、勝手な捜査に憤る一課と闘いの構図になるという手法もお決まりだが、その間に立つ笹本管理官がいい味を出している。諸橋たちにいつも苦言を呈しに来る管理官だが、実はすべて諸橋たちを思ってのことであり、シリーズを追うごとにその色が濃くなってきている。こういうキャラクター(管理官)は今野作品によく出てくるね。(隠蔽捜査シリーズの野間崎管理官もそんな感じ?)
 期待を裏切らないシリーズ。次作も楽しみ。

No.473 5点 朱色の研究- 有栖川有栖 2017/10/29 10:41
 他の方には高評価の傾向もあるようだが、私は、マンション殺人のトリックに込めた「犯人の意図」は、策を弄しすぎであり、不確定要素が多すぎであり、素直に受け入れられなかった。よく推理の過程で「わざわざそんなことをする必然がない」と、推理から除外する論理があるが、この真相をそう感じてしまった。一回りして自分を容疑の圏外に、という理屈は分かるのだが…やり過ぎな感じ。
 またこれも読者によって評価が分かれる「犯人の動機」、私は理解できないほう。ミステリの中に叙情性をもたせる作者の作風は好きではあるのだが、背景として「後押し」するぐらいが適度だと思う。
 過去の放火殺人と海岸の殺人事件、そして今回起こったマンション殺人と、三つの事件を結び付ける構成は鮮やかだった。一つのことが分かるにつれて、並行的にそれぞれの解明に結び付いていく仕組みはさすがだ。

No.472 6点 謎の館へようこそ 白- アンソロジー(出版社編) 2017/10/21 21:03
 講談社・新本格30周年記念企画の第2弾。「館」をテーマとしているため、変化球の多かった「七人の名探偵」よりもこちらのほうが本格っぽさはあってよかった。

◇陽奇館(仮)の密室(東川篤哉)
 赤川次郎の某有名作のパクリでは?
◇銀とクスノキ~青髭館殺人事件~(一肇)
 ・・・オチがちょっと・・・うーん・・・
◇文化会館の殺人 ――Dのディスパリシオン(古野まほろ)
 手がかりから真相を推理する、という正道ではあった。が、簡単だった。
◇噤ヶ森の硝子屋敷(青崎有吾)
 人里離れた、限られたメンバー内での殺人、という本格ファン好みの話。
◇煙突館の実験的殺人(周木 律)
 閉塞的な特殊施設に集められた人々。米澤穂信「インシテミル」的雰囲気。
◇わたしのミステリーパレス(澤村伊智)
 こんな話よく考えるなぁ。読んでいくうちに全体像が見えてくる。

No.471 5点 合理的にあり得ない- 柚月裕子 2017/10/21 20:40
 もと弁護士の上水流涼子が運営する探偵エージェンシーに舞い込む「〇〇的にあり得ない」依頼。IQ140のアシスタント、貴山と共に痛快に解決していく、連作短編集。
 見目麗しい美女と、天才アシスタントの二人三脚による勧善懲悪的ストーリー。ドラマ化とか向いてるかも。読み物として普通に面白かった。

No.470 8点 邪魔- 奥田英朗 2017/10/16 21:23
 「無理」「最悪」と並ぶ3作の中では一番ミステリっぽいかな。作品としても個人的にはいちばんよかった。
 複数の人物の物語がそれぞれ描かれる中で、次第に一つに重なっていくという手法は他の2作と同じ。ただ今回は、放火という一つの事件を巡って容疑者家族、刑事、裏で暗躍するヤクザとかかわってしまった不良、という組合せなので、偶然ではなく必然的なもの。だから余計にミステリらしく感じたのかな。
 後半は、刑事・九野と、放火容疑者の妻・及川恭子との物語が主になるが、特に、普通の主婦であった恭子の凋落ぶり、追い詰められて狂気に走っていく様の描き方は秀逸。目の前の困難から目を背けたいがゆえに市民団体の活動に没頭していくところなど、よく考えて仕組んであるなあと感心してしまう。
 相変わらずの含みを残した終わり方だが、今回は素直にそれを受け入れられた。

No.469 7点 最悪- 奥田英朗 2017/10/16 21:04
 「無駄」を読んで著者の文章が気に入り、続いて読んだ。期待を裏切らない面白さ。読み進める手が止まらない退屈しない展開、さり気無い描写の巧みさで、早くも自分の中では「まず、ハズレはない作家」ぐらいに思えてきている。
 複数の人物のストーリーが並行して描かれ、結末に向けて一つになっていくパターンはおなじみの(?)手法。前半は町工場の経営者、銀行勤めのOL、半グレの青年の三者の物語だが、それぞれに起伏があり、しかもリアルで面白い。ただ、それぞれの「敵」がまた憎らしく、何とかしようと思うほどに泥沼にはまっていく様は、感情移入して読んでいるとこっちもストレスが溜まってくる(笑)
 三者のストーリーが一つになる後半はかなりドタバタ劇に近い無節操さ。なんとなく消化不良な終わり方のように感じてしまうところもあり、この点数。

No.468 6点 女王蜂- 横溝正史 2017/10/12 20:12
 謎が随所に散りばめられ、いろいろと仕組んであり、長編にも耐えうる内容だと思うのだが、本サイトの評価をはじめとした、他作品より一段劣る評価にも共感できてしまう…なんでなんだろう?
 19年前の男の謎の死をはじめ、次々に起こる殺人と、絶世の美女、琴恵・智子母子を巡る愛憎劇。通俗小説の色が濃いという評価もあるが、人物の謎の言動、密室の謎など、自分はミステリとしてもよく練られていると感じたし、退屈しない展開で読み進められるのだが…なぜか「どっぷり」できないままにサクサク進んでしまった感じ。ホントになんでなのか、自分でもよくわからない。少なくとも読み易くてよかったとは言えるのだが。強いて言えば「不気味さ」「陰惨さ」が足りないのかな…?
 そんな感覚だから、高評価をつけている人がいるのも逆にうなずける。密室の真相にはちょっと拍子抜けする感もあったが、19年前の事件の真相などはうまいぐあいに考えられていると思った。
 そんなこんなでこの得点だが、横溝ファンは少なくとも読んで損はない作品だと思う。

No.467 8点 ずうのめ人形- 澤村伊智 2017/10/09 10:39
 人並由真さんによれば、「ホラーながらミステリとしても面白い」と評判ということらしい。その通りだと思った。前作「ぼぎわんが、来る」もよかったが、これもまたよかった。同じ登場人物が出ていてシリーズ化される様相なので、楽しみ。

 「ずうのめ」という語感や、赤い糸で顔をぐるぐる巻きにされている日本人形など、「気味悪さ」の作り方が絶妙で、作者のセンスに脱帽してしまう。オカルト雑誌の出版社が舞台となり、都市伝説が書かれた原稿が人の手に渡っていくことで呪いが拡散していく、というスタイル自体はありがち(作中にも多用される「リング」同様)だが、主人公が原稿を読み進めていくのと、現実世界とが交互に描かれていく構成により、少しずつ謎が深まり、そして解明へと向かっていく様が上手く描かれている。
 この都市伝説の出所はどこなのか?描かれている話は実話なのか?だとすると、出てくる「りぃ」と「ゆかり」は実在するのか?それらの謎に対しての仕掛けも施されていて、「ミステリとしても面白い」というのも確かにうなずける。
 今後も楽しみなシリーズだ。

No.466 6点 慈雨- 柚月裕子 2017/10/09 10:09
 警察を退職した神場智則は、退職したら行こうと兼ねてから決めていた四国の霊場巡りに、妻と共に赴く。刑事として数々の事件捜査に携わってきた神場には、その事件に関わった被害者たちの弔いという思いがあったのだが、その中に一つ、心の重しとなっている事件があった。それは16年前に起きた幼女誘拐殺人事件。現場付近に残っていた乗用車の類似性と、DNA鑑定の結果から犯人は逮捕され、実刑を受けて現在収監中なのだが、当時のDNA鑑定の精度などを踏まえると、不安の残る捜査だった。
 そんな折、宿泊先の宿で、似たような手口の幼女誘拐殺人のニュースを見る。16年前の事件は冤罪だったのではないか、その犯人が同じ愚行を繰り返したのではないか―。思わずかつての部下、緒方に連絡をした神場は、離れた地で事件の捜査を手伝うこととなる。

 警察小説のパターンの一つとも言えるであろう、「過去の冤罪」モノ。既に「犯人」をとらえ、実刑に処している以上、警察としてはタブー中のタブー。しかも今回の場合、もし冤罪であったならば、同時期のDNA鑑定を証拠として解決を見た数々の事件にまで累を及ぼすことが考えられ、その破壊力は想像を絶する。
 寝た子を起こしたくない組織と、人としての真実を全うし、ケジメをつけたい元刑事。現役の元同僚たちにとっては、神場に協力することは自殺行為にも等しい。だが、刑事としての矜持を同じくする「同志」たちとの熱い絆が、真相を暴いていく。
 こういう組織に立ち向かうタイプの警察小説は、やや気恥ずかしくなるような「熱い」やりとりがなされるが、それが醍醐味でもあるので、刑事たちの同僚、師弟の強い絆、刑事の家族の潔さと強さを存分に楽しめる小説ではあった。

No.465 8点 無理- 奥田英朗 2017/10/08 08:23
 氏の作品を初めて読んだ。描き方が上手いなぁ。550ページほどの話だが、一気読みしてしまった。お気に入り作家になりそうな勢い。

 市町村合併により3市が一つになった「ゆめの市」。とりたてて売りもない、自家用車がなければどこへも行けないほどの田舎町。学を積んだ若者は都会へ出ていき、学歴のない若者は渋々地元に就職し、日々を凌いでいる。大型チェーン店の進出により昔ながらの個人商店は軒並み潰れ、商店街はほとんどシャッターが下りている。時代の変化に対応することができず、どんどん錆びれていく町で、どうすることもできずにただ毎日の生活に汲々とする人々の姿を描く。

 田舎町で何とか名を成し、成功したい半グレ者。生活保護受給者の相手をしながら、醜い市民と町の姿に嫌気が差している公務員。東京の大学へ進学し、町を出たいと夢見る女子高生。新興宗教を心の拠り所にし、日々口に糊する生活を送る中高年女性。それぞれの人生が、それぞれに展開されていくが、狭い田舎町の中で、少しずつそれらが交錯していく。

 とても面白く読ませてもらったが、ラストのまとめ方はちょっと雑で、尻切れトンボの感があった。でも、過程の展開が十分に面白かったので、それなりに満足した。

No.464 3点 悪魔の百唇譜- 横溝正史 2017/10/08 07:56
 イマイチ。
 トランクに詰められた死体、トランプのカードに刺し貫かれた凶器と、謎の提示は魅力的なのだが、前の皆さんの書評にもあるように、とりたてて印象に残らない凡庸な登場人物が多く出てきて、誰が誰だったか思い返しながら読み進めるのが苦痛だった。
 推理も精緻さがなく、飛びが多い気がするし、犯人も「怪しんで当たってみたら、ビンゴだった」というような印象。推理の中に「いったんどこかに隠しておいて…」とか「おそらく〇〇から聞いて知っていたのだろう」というような、大雑把なあて推量が散見していて、何だか・・・。後半は「とりあえず読了だけはしよう」という思いで読んでいた。

No.463 6点 ダリの繭- 有栖川有栖 2017/10/01 19:39
 ダリに憧れ、親から受け継いだ宝石商を一代で大手に伸し上げた敏腕社長が殺された。遺体は、孤独な社長が癒しに用いていたフロートカプセル―「繭」に浮かんでいるのが発見された。恋い焦がれ、求婚していた女性秘書、その秘書を巡っての恋敵であったデザイナー、遺産を相続する腹違いの次男、三男と、取り巻く人間模様からさまざまに浮かぶ容疑者―真相解明に火村英生が乗り出す。

 癒しの道具「フロート・カプセル」が事件の鍵となるわけだが、それがちゃんと真相や、さらには動機に関連している物語の仕組みが上手いと感じた。仕掛けの割にはやや冗長な長さではあるが、著者の人物造形と描写の巧みさで飽きさせない内容になってはいる。
 ただ、その人物造形がひっくり返された感じはあった。解決編のくだりでその説明になる新事象は提示されるのだが、後出し感もあり、ちょっと腑に落ちない思いは残った。どうせなら前半で「こういう人だ」という人物像を描かない方がフェアになったなのにな、と思う。

No.462 5点 7人の名探偵- アンソロジー(出版社編) 2017/10/01 19:17
 作者陣を見ると垂涎の豪華な顔ぶれ。だが、出版社の意気込みに比して作者陣は「お遊び」であったり、「いつかやってみたかったネタの試し」であったりしたのかな。要は、新本格の記念企画なんだから、王道の直球フーダニットを楽しみにページを繰ったのだが…ほとんどが変化球だった。
 1作目「水曜日と金曜日が嫌い」(麻耶雄嵩)。らしいといえばらしいのだが、最後にあんなひっくり返し方…わかるかい、そんなん、って感じ。
 2作目「毒饅頭怖い」(山口雅也)3作目「プロジェクト:シャーロック」(我孫子武丸)6作目「天才少年の見た夢は」(歌野晶午)変化球というか色モノという印象で…3と6ってちょっとかぶってない??
 4作目「船長が死んだ夜」(有栖川有栖)5作目「あべこべの遺書」(法月綸太郎)やっと素直な(?)本格フーダニットという印象があったので、好感がもてた。それまで変化球続きというストレスの上で読んだので、実際は標準レベルかも。
 ラスト「仮題・ぬえの密室」(綾辻行人)これはエッセイ(?)のようなものだった。実話?。ただ新本格ファンには読んでうれしい内容ではあった。

No.461 7点 トリック・ゲーム- 事典・ガイド 2017/09/28 20:01
 直前の、斉藤警部さんの書評を見て何かが記憶を刺激した。「点描の不気味な挿絵・・・?内外名作のネタバレ・・・?」
 「・・・あぁ、昔読んだぞ、確かソレ!!」・・・ってな感じで思わずAmazonで購入してしまった。やっぱり、若き日に読んだヤツだった。
 「謎解きだけ、手軽に楽しみたい」というときには最適。ただ、名作長編を限られたページで抜き出しているものも多いので、「ソレは背景があってこそでしょ」と感じるものもある(年を経て原作を読んだから言えること(笑))。実際、そういうものは「解答」の説明が長い。
 基本的にはこういうのスキ。でもやっぱ、超有名作品のネタバレも平気でされてるから「これから内外名作を読むぞ!」という方は、ある程度読まれてからの方がいいかも。そうしたら、伏せられている「作品名当て」も楽しめますよ。

No.460 7点 暗い宿- 有栖川有栖 2017/09/24 14:37
 宿をテーマにした、火村&作家アリスシリーズの短編集。
 廃業する民宿の下から掘り出された白骨(「暗い宿」)、石垣島のホテルで開催される犯人当てゲーム「ミステリー・ナイト」に集った人たち(「ホテル・ラフレシア」)、鄙びた旅館に表れた、顔全体を包帯で包み、サングラスをかけた不気味な男(「異形の客」)、豪華ホテルで突然災難に巻き込まれた火村(「201号室の災厄」)と、様々な趣向が凝らされたオイシイ作品集。
 一番本格ミステリの色が濃いのはやはり「異形の客」か。ボリュームも本書では一番だが、それに見合う謎解きの面白さがあった。表題作「暗い宿」は、一種のジメジメ(?)した雰囲気がそれらしくてよかった。
 全作品を通じて、「落としきる」一歩手前で話を終わらせており、余韻があってよいと思う人もいれば、すっきりしないと感じる人もいるかもしれない。ただ「ホテル・ラフレシア」の終わり方はちょっと悲しすぎた。
 それにしても、(取材を兼ねているとはいっても)気ままに、時間に縛られない一人旅を堪能するアリスを見ていると羨ましい。きっと読んだ多くの人が、旅に出たくなる。

No.459 7点 殺人方程式- 綾辻行人 2017/09/24 14:10
 死体の切断理由、移動させられた理由など、猟奇的犯行と不可解な状況の「ホワイ」が納得のいく形、しかも丁寧な伏線の上で説明されていて、久しぶりにド直球の本格ミステリを楽しんだ。特に、死体移動の理由が秀逸な仕掛けに感じた。
 トリックは、スケールは大がかりで手口は細かい。詳細な仕掛け等は分かりようもない感じがしたが、大体「どこからどこへ」ということが看破できればまぁ満足、かな。何気ない描写にきちんと伏線がちりばめられていて、さすがだなと思った。
 犯人は分かったが、残っている最後の謎の真相にはちょっと面食らった。突発的で、脈絡のない偶然の犯行(?)という感じがして、あまりすっきりしなかった。探偵役が双子で、入れ替わって推理をすることも、特に必要な設定とは感じない。
 というように、やや不要な装飾がある感はするが、「謎解き」の魅力は十分。これぞ新本格、という作品だった。

No.458 8点 パレートの誤算- 柚月裕子 2017/09/24 13:41
 物語の題材は、「生活保護受給者」。市役所の福祉課に勤める牧野聡美は、ケースワーカーとして受給者の定期訪問をすることになる。心の底には、生活保護受給者に嫌悪を抱いているからだ。しかしそんな聡美に、頼れる上司の山川は、「やりがいのある仕事だよ」と励ましの言葉をかける。尊敬する上司の言葉に背中を押された聡美だったが、その直後に、その山川が訪問先のアパートで不審な死を遂げる―

 生活保護、という昨今話題になているテーマを取り上げ、切り口としたのは素直に面白かった。ケースワーカーとして訪問する件では、受給者たちの横顔も描かれていて興味深い。「貧困ビジネス」と言われる、暴力団が受給者と結託してお金を得ようとする不正受給のことなども書かれ、制度の裏表がよくわかる。
 終盤の真相に迫る急展開のくだりで真犯人はわかったが、明らかになった真相から、山川の不審な行動についての説明もきちんとつけられ(腕時計のこと以外は…)、納得のいくものだった。
 かなり面白かった。

No.457 6点 怪しい店- 有栖川有栖 2017/09/18 19:36
 火村&作家アリスシリーズの短編集。相変わらず、短編というサイズに程よい適度な仕掛けのパズラーで、安心して読める。
「古物の魔」…骨董屋の店主の撲殺事件を解くフーダニット。最後、犯人を追い詰めていく火村の推理が心地よい。無難に面白い。
「燈火堂の奇禍」…アリスが立ち寄った先で前日に起こった強盗事件の真相を解く。ちょっと日常の謎テイストの、面白い仕掛け&真相。
「ショーウィンドウを砕く」…倒叙モノ。喫茶店のくだりで、ほぼ看破できる。(これはどういう意味で「店」に関係する作品とされているのか?そっちのほうが謎だった(笑))
「潮騒理髪店」…火村が調査先で立ち寄った理髪店での、日常の謎。昭和の映画のようなシーンと、鄙びた村の雰囲気にほっこりする作品。
「怪しい店」…「みみや」と称して悩みある人の話を聞くことを生業としていた女性の殺害事件。本短編集ではもっとも本格的。

 有栖川氏の短編集なので、基本水準が下がることはなく、安心して読めます。

No.456 5点 わざわざゾンビを殺す人間なんていない- 小林泰三 2017/09/17 16:42
 人間が死後、活性化遺体=「ゾンビ」になるという現象がウイルスによって現実化し、蔓延しているという設定によるSFミステリ。
 ある企業の、研究成果発表の場に、担当となっていた社員が現れない。すると別室から悲鳴が聞こえ、駆けつけてみると当の社員は「ゾンビ」になっていた―。ゾンビになったということは、直前にその社員は死んだということ。事故なのか?それとも事件=殺人なのか?図々しく警察の捜査に自ら首を突っ込む謎の探偵・八つ頭瑠璃が、身を賭して謎の解明に挑む―。

 ・・・というように、虚構のSF世界を下敷きにしたフーダニット。真相・トリックがきちんと「ゾンビ世界」設定であるからこそ、になっているのはよかった。
 ただ、昨今「これまでにない仕掛けのミステリを・・・」という意気込みからか、こうした特殊設定を生かしたネタの作品は多くて、Amazonその他で絶賛されているほど衝撃はなかったのが正直なところ。(ちょっと前に、白〇智〇の「お〇す〇人面〇」を読んでいたから、なんとなくダブったというのもある)
 ちょっとズレた会話を含むテンポの良い展開には好感がもてた。個人的には「ゾンビイーター」のリーダー格の女がかっこよかった。
 描写はかなりグロいというか、気分悪くなるところもあるかも。

No.455 5点 真夜中の探偵- 有栖川有栖 2017/09/16 11:06
 北海道が「日ノ本共和国」となり日本と対立し、警察の締め付けの中、探偵行為が違法とされた世界設定での、空閑純(ソラ)シリーズ第2作。

 探偵行為により投獄された父親を案じながら、失踪した母親の行方を追うソラは、依頼者と探偵との仲介役を務めていた男、押井照雅に会う。押井のもとで母親の最後の依頼について情報を得、母親捜索に向かおうと考えていたソラだったが、そんな折に押井邸に出入りしていた元探偵・砂家兵司が殺害される事件が起こる。
 砂家は、水を満たした棺のような木箱に密封され、溺死させられていた。なんのためにそのような方法で殺害されたのか?犯人は誰なのか?探偵をめざすことを決意したソラは、推理を巡らせる―。

 有栖川作品らしい、トリック解明に主を置いたオーソドックスなミステリ。トリックは看破できたが、犯人・動機は後出しの感があったので、分かりようがないかなぁ。でもまあ、中編レベルの長さで、サクサク読めるのでそれほど重厚な仕掛けでなくても満足できた。

No.454 4点 失われた過去と未来の犯罪- 小林泰三 2017/09/16 10:47
 ある日突然、全人類の記憶が10分ともたなくなり、世界がパニックとなる。自分が誰であるか、などの基本的な情報は残っているが、10分おきに「あれ?今何してたんだっけ?」「ここはどこだ?」ということの繰り返しになる。そういう状況(短期記憶喪失)になったということの理解も毎回しなくてはいけないので、しばらく世界は麻痺するが、やがて少しずつ状況把握をし、対策が積み重ねられ、数年後には身体に挿し込む「外部記憶装置」が開発され、人々はそれに頼って生活するようになる。
 しかし、この身体に挿し込む「外部記憶装置」は、ある肉体に挿し込めば「その人」なれてしまう。例えば肉体が死を迎えても、「外部記憶装置」が破壊されず残されれば、他の人の体で「再生」することもできる。結局、人格とは、「人」とは、記憶なのか?魂というものは存在するのか?そもそも生とは、死とは、現実とは何なのか?・・・そんな感じの一種の哲学的(?)な内容に話が及んでいく。
 「大忘却」が起きてからのさまざまな場所でのエピソードが脈絡なく描かれる展開が続くので、正直ややこしい。いくつかのエピソードは、結局そのまま置き去りにされていると感じる(「あの話は何の意味があったの?」って感じで)何が描きたかったのかよくわからなかった。

No.453 7点 作家刑事毒島- 中山七里 2017/09/16 10:15
 犬養隼人の元先輩であった毒島は、ある事情でいったん退職し、なんとミステリ作家となったが、兼業という形で刑事として再雇用された。
 出版業界の人間が苦手な犬養は、業界にからんだ事件を相棒の高千穂と毒島にことごとく振る。本作はそんな毒島と高千穂を主とした連作短編になっている。

 一編ずつフーダニットのミステリになってはいるが、初めから容疑者は数名に絞られ「犯人はこの中の誰?」という、オーソドックスな展開。作品の面白さはそれ以上に、毒島のまさに「毒」のあるキャラと、出版界に関わる人々や人間模様の酷さにある。
 「中学生の作文」のような作品を大作と信じて疑わず、賞への応募作を落とす審査員を逆恨みする作家志望者。新人賞を獲ったはいいが、自身の文学観とやらをこねくりまわずだけで一向にその後の作品が出ない「巨匠病」の新人作家。作家への偏執的なストーカー・・・等々、そうした人たちを、笑みを浮かべながら飄々と糾弾する毒島の物言いが痛快で、笑わずにいられない。
(因みに、「いっぱしの書評家よろしく書評サイトに投稿するネット書評者」というのも登場するのでなかなか耳が痛い(笑))

 ミステリとしての書評なので、これでも抑えめの採点。読み物としてはサイコーに面白かった。

 最後の、奥付のページ(「この物語はフィクションです・・・」のくだり)を是非見てほしい。爆笑必至です。

No.452 2点 QJKJQ- 佐藤究 2017/09/03 22:26
 第62回江戸川乱歩賞受賞作。
 正直、よさがあまり理解できなかった。
 家族全員が猟奇殺人者、という設定で、主人公の市野亜李亜をはじめその母、兄、そして父の殺人者としての姿が描かれる序盤は確かに規格外で、その後への期待が高まる。しかしこんな展開は・・・私には合わなかった。簡単に言えば、「抽象的、観念的」。
 私の大好きな有栖川有栖、今野敏の両氏が絶賛しているのが釈然としなかった。池井戸潤の評に最も共感する(まぁ立場が同じなんだから当たり前か)。
 興味が沸いて諸サイトでの書評を見たが、絶賛といっていいぐらい評判がいいので、ますます自分の審美眼に自信がもてなくなった。

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