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平均点:6.32点 採点数:222件

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採点傾向好きな作家

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No.222 6点 マツリカ・マジョルカ- 相沢沙呼 2018/06/18 23:01
シリーズ最新作の「マツリカ・マトリョシカ」が評判がいいと聞き、読んでみようと思ったのですが、シリーズもののため第一作のこちらから手を付けていくことにしました。
これは完全にキャラクター小説ですね。ミステリ3に対してキャラクター7くらいの配合。ですがこれはいい意味での評価で、優れたキャラクター小説にミステリ的なスパイスがかかっていると思えばいいのです。
本作は一応、一般書籍として出ているのですね。こういうものこそ若い読者に読んでほしいので、ライトノベルレーベルで出して若いミステリファンを増やしてほしいものです。

No.221 6点 言霊たちの夜- 深水黎一郎 2018/06/17 19:50
ミステリではないのですが、かなり笑えるので好きです。
特に三話目の「鬼八先生のワープロ」は、出だし数ページでもう、作者が何をやりたいのか、何を読ませて、どう笑わせてくれるのかが手に取るように分かり、実際そのとおりでした。
とはいえ、これは決してネガティブな感想ではなくて、予想を越えて期待に応える、想像していた以上に凄まじかったですね(笑)
言ってみれば、全編下ネタの嵐で、読む人をかなり選ぶ内容ですが、ただのおふざけではなく、知識と教養に裏打ちされた下ネタとでも言いましょうか、下品だが上品な仕上がりとなっています。ただ、でも絶対に人を選びます(笑)気が置けない、寛容な人にしか勧めてはいけません。
逆に言えば、もし本作を(特に「「鬼八先生のワープロ」が面白いよ」などという言い方で)勧めてくる人がいたら、その人はあなたのことを相当に心の広い人物だと認めてくれているということでしょう。

No.220 5点 六枚のとんかつ- 蘇部健一 2018/06/15 21:33
ひどい、ひどいと読む前から悪評ばかりが耳に入っていたせいか、そこまで言うほどではないのでは? と感じました。が、「文庫版あとがき」を読むと、作者自身当作を「ゴミ」と認めていて、文庫化の際に文章の手直しをして、あまりにひどい作品は削除したのだとか。正直、この文庫版でも「これは……」という部分が少なくなかったため、修正前は相当な代物だったのでしょう。
確かに「普通考え付いてもこれで書きはしないでしょ」という安易なトリック(?)のものも散見されますが、表題作はなかなかいい線行っているのではないでしょうか。

本作が初刊行されたのが1997年。もう二十年も前ですよ。それからミステリ界は大きく様変わりしており、それこそ「『日常の謎』って言って、ラノベみたいなキャラクターさえ出しておけば、どんなアホみたいなトリックでも許されると思うなよ」と言いたくなるようなミステリが大量に生み出されていますから。それらと比べたら、本作は真摯に「本格ミステリ」と向き合っていると言えます。作者が悪いのではなく、(この作品が)生まれた時代が悪かったのでしょう。

No.219 8点 聯愁殺- 西澤保彦 2018/06/06 13:07
大好きな作品です。
手がかりがどんどん後出しされるという展開に不満を持つ方もいるようですが、それらは「警察側が事件解決には不要と思い伏せていた手がかり」のため、探偵がそれを知らないまま推理を繰り広げ、それを受けて必要だと思ったら警察が新しく手がかりを出していく、という流れは自然でかえってリアルだと思います。これはいわゆる「後期クイーン的問題」を作品内レベルに落とし込んだものなのですよね。

真相も後味の悪さは残りますが、納得のできるものでした。「後味の悪い終わり方をして読者に苦い読書体験をさせてやろう(笑)」という作者の嫌がらせに近い、メタレベルからの介入による後味の悪さではなくて、作品内できっちりと流れのある展開だからでしょう。

ただひとつの不満点は、登場人物の名前です。どうして意味もなくこんな難読漢字を当てるのか(西澤は本作に限らずそういう傾向が多いですよね)。読書のテンポを阻害する要因でしかありません(これこそ嫌がらせでは)。ここまで変な名前を出すのであれば、初登場時だけではなく毎回ルビを振ってほしいです。

No.218 8点 贖罪の奏鳴曲- 中山七里 2018/06/03 17:23
これは面白かったです。
冒頭から中盤はハラハラしっぱなし(内容にも、「ここまで書いて、どう落とし前付けるんだ?」というメタ的な視点でも)だったのですが、第三章からようやく物語が落ち着きを見せ、安心して読み進めることができるようになりました。
ピアノを聴いて改心とか、携帯電話の持ち込みはもっと早く誰か指摘するはずでは?(違和感を持った読者も多かったはず)など、突っ込みどころはありますが、それらを抱え込んでもなお読者を圧倒するパワーに溢れています。
登場人物たちも、誰も彼も(善悪という区分ということではなく)魅力的で、久しぶりに「終わらないでくれ」と思いながら読んだ本になりました。お勧めです。

No.217 7点 卍の殺人- 今邑彩 2018/06/02 19:50
館の見取り図が出た時点で(というよりも、タイトルを見て「卍形の館が出てくるのかな? だとしたらトリックは……」と思った時点で)おおよそのメイントリックが推察されてしまいました。
いざ本編が始まって、主人公の部屋があそこになり、あの位置が現場となり、主人公がああいう目に遭ったところで疑惑は確信に。途中で服のボタンが外れて見つからなくなるというシーンも、解決編でこれを決め手にするためだな、と察しが付きます。
で、犯人は当然、このトリックを行える(主人公を罠に嵌められる)人物に限定されるわけで、連鎖的に犯人までが……。
いきなり否定的なことばかり書いてしまいましたが、面白いか面白くないかで言えば、絶対に面白い作品です。トリックがすぐに分かるというのも、逆を言えばフェアに手掛かりが示されているということの裏付けでもあります。トリック抜きにしても、主人公の境遇、ドラマ自体にも読み応えがあります。何より、これがデビュー作であれば、十分に及第点でしょう。

本作は初登場時(1989年)、かなりの酷評を受けたということが中公文庫版のあとがきに書いてありますが、どうして? と言いたくなりました。今ほどミステリファン(マニア)の目が肥えていたというわけでもないでしょうし、何なんでしょう。偏屈なマニアが多かったのでしょうか。

No.216 6点 そして五人がいなくなる- はやみねかおる 2018/05/21 20:41
対象にしているのは、小学校中学年から高学年くらいでしょうか。こういう読みやすく楽しい読み物は、ミステリの導入口としてうってつけでしょう。「子供の読むものだ」と割り切って読めば、大人でも楽しめると思います。

以下、トリックのネタバレがあります。

宙づりになった箱から人間が消失するトリックですが、あの方法であれば、鏡に遮られてロープが二本しか見えない角度が必ず出てくるはずです。にもかかわらず徹底して「三本のロープ」という記述しかないというのは、少しアンフェアな気がします。観客の中に「自分にはロープが二本しか見えなかった」という証言でもあれば、探偵がトリックを見破るヒントにもなって、フェアになったのではないかと思います。

No.215 5点 蜃気楼の殺人- 折原一 2018/05/20 21:39
折原一といえば叙述トリックの第一人者ですが、かつて「ミステリといえば旅情もの」という時代がありました。その時代においては、「旅情ものを書かねばミステリ作家にあらず」とまで恐らく言われていたのでしょう。仕方なく(?)折原も旅情ものを書き、そこへ得意の叙述トリックも組み込んだのですが、旅情と叙述は「ベストマッチ」とはいかなかったみたいです。
折原ミステリには、やはり狂った人間が必要です。最後になってようやくそういった人物が出てくるのですが、時すでに遅しというか、場違い感がすごいです。折原作品としては異色というか、楽しみ切れない中途半端な作品になってしまったのは残念です。

No.214 7点 時鐘館の殺人- 今邑彩 2018/05/20 21:27
全般的に楽しめました。

「生ける屍の殺人」
やはりラストに賛否が分かれるところでしょうね。私としては、あの人物があれであるとは、完全に明かさず、ぼかして書くにとどめたほうがよかったのではないかと思います。サングラスを外すところで終わるとか。「驚愕のラスト」というよりも、「それ、書いちゃうんだ」という白けのほうが勝ってしまいました。

「黒白の反転」
これは見事に騙されました。後味が悪いのですが、いわゆる「イヤミス」というもの特有の趣味の悪さは感じません。そういう要素抜きにしても、ミステリとして端正に書かれているためでしょう。

「隣の殺人」
皆さん書かれているとおり、すぐに落ちが分かってしまいます。そのくせ紙幅を結構取っているので、「早くネタを割って終わってくれ」と思いました。もっとぐっと短くまとめたら読み甲斐もあったのではなかと思います。

「あの子はだあれ」
ミステリではなくホラー的SFでしょうか。箸休め的ないい話ですね。

「恋人よ」
これもラストの評価が分かれる作品ですね。「生ける~」と同じく、はっきりと真相を書いてしまったのは白けます。「そうであってくれてよかった。あれ? でも、もしかして……」と、ぼかして終わらせてほしかったです。

「時鐘館の殺人」
表題作にして本短編集のベスト。プロローグで原稿の枚数で編集者とやりとりをしていたのが、作家あるある的なネタではなく実は伏線で、こんな形で回収してくるとは。作中作自体は普通のミステリですが、全体的な仕掛けが楽しかったです。

No.213 6点 妖盗S79号- 泡坂妻夫 2018/05/20 21:06
神出鬼没の怪盗S79号の華麗な盗みの手口と、それを追う二人の刑事の活躍(?)を描いた怪盗ものミステリです。
折しも今年(2018年)の日曜朝の戦隊が「怪盗(快盗)VS警察」という縁もあって読んでみました。
うーん、ちょっと思っていたのと違ったというか。いえ、中身は意外なくらい「怪盗VS警察」しているのですが、そうであることがかえって肩透かしを食らったと言いましょうか。あの泡坂妻夫が、このまま終わらせるはずがない。と思っていたら、本当にそのまま終わってしまってびっくり。怪盗事件の裏で別件の連続殺人事件も同時進行しているのですが、これも、最後にどのように本筋と絡んでくるのか? と期待していたのですが、普通に終わってしまいました。
おそらく私が勝手に異様にハードルを上げすぎただけなのだと思います。楽しめるか楽しめないかと訊かれたら、楽しめる、と答えられることは間違いないです。

No.212 6点 奇偶- 山口雅也 2018/04/10 23:08
何とも奇妙な作品です。
最後の「あのトリック」を成立させたい(やりたい)がために、それに至るまでの、ありとあらゆる理由付けが必要で、こんなに長大な物語になってしまったのか。
はたまた逆に、「そこに至るまでに起きた不可能状況の(作中においての)納得のいく理由付けのため、いわば「ラスボス」として「あのトリック」が生み出されたのか。鶏が先か卵が先か。トリックが先か現象が先か。どちらにしても、作者の山口雅也には「お疲れさまでした」と労いの言葉をかけたいです。
ひとつ言っておきたいのは、長いからといって退屈するというようなことはなかったです。物語として面白いです。ただ、本格ミステリか、と言われると言葉に詰まります。

No.211 3点 バカミスじゃない!?- アンソロジー(国内編集者) 2018/03/19 23:01
『バカミスの世界 史上空前のミステリガイド』でおなじみの小山正が編んだ「バカミス・アンソロジー」とは言っても、既作品からチョイスしているわけではなく、各作家に「バカミス」をテーマに書き下ろしてもらった作品を収録しています(山口雅也作品のみ再録)。ベテラン辻間先をはじめ、鳥飼否宇、霞流一といったミステリファンおなじみの名前から無名の新人まで、バラエティに富んだ顔ぶれ。実に豪華なアンソロジーです。
と、そこまでは良かったのですが、この「テーマ(バカミス)を伝えて書き下ろしてもらう」という行為が完全に裏目に出てしまった感は否めません。依頼を受けた作家たちのほとんどは、「えっ? これがバカミス? いや、まっとうなユーモアミステリとして読めるじゃん!」という評価をもらうことを期待して書いた感がありありです。こんなスケベ心丸出しのミステリは「バカミス」とは呼べません。というよりも、収録されたほとんどの作品が「ミステリ」ですらありません。好意的に捉えて「広義の意味でのミステリ」ではあるのでしょうが、私は「バカミス」はバカミスである前に、れっきとした「本格ミステリ」であるべきと考えています。「ロジックが根幹を支えている知的な本格ミステリ」で「バカ」なことをやる(やってしまう)から面白いのです。ロジックも何もない、ただのドタバタで「バカ」をやっても、それは「ただのバカ」です。

私の個人的な見解ですが、全9作品のうち、「本格ミステリ」と呼べるものは、山口雅也と霞流一のものだけ。うち、「バカミス」といってよいものは霞流一だけという、大惨事に終わってしまっています。
どうしてこうなってしまったのでしょう。思うに、依頼された作家たちのほとんどは、先に書いた「スケベ心」が鎌首をもたげたとともに、バカミスのことを「バカなミステリ」だと勘違いしてしまったのではないでしょうか。逆。バカミスとは上にも書いたように「ミステリがバカ」なのです。「バカなものを書けばいいんだろう」と、とにかく変なものや笑わせるものを書けば、それが「バカミス」として通用する。そんな軽い気持ちではバカミスは書けません。本気で本格ミステリに取り組んだ結果、作者の意図とは別に完成作がバカミス化してしまった。もしくは、本気でバカミスを書くために大変な労力を使った。バカミスとは、そういった情熱がなければ書けない(書いてしまえない)ものです。

ただ、ひと言言っておきたいのは、編者の小山正はバカミスを愛し、〈序文〉を読んでもバカミスに対する造詣が深いことが分かる、真のバカミス信奉者です。私の勝手な妄想ですが、編者の小山は依頼した各作家から上がってきた原稿を読むたびに、「あちゃー」と頭を抱えたのではないでしょうか。「違う。俺の、世のバカミスファンが求めているのはこれじゃないんだ」と。ですが、まさか「違う。書き直せ」などと言えるはずもありません。企画は動き出している。もうこのまま突っ走るしかない。小山は内心、忸怩たるものを抱えながら編集作業を行ったのでしょう(あくまで私の個人的な見解です)。

本書の刊行は2007年。本作の存在を知ったとき私は、「こんなブツを十年も見逃していたのか!」と地団駄を踏む思いでした。それだけに、読み終えた今のこの空虚さといったら……。十年間、書評が書かれていない(どころか登録すらされていなかった)こともむべなるかなです。とても心揺さぶられる企画だっただけに、大変残念でなりません。今こそ、まっとうな、バカミス好きの、バカミス好きによる、バカミス好きのためのバカミスアンソロジーの登場を強く望みます。

No.210 7点 死と砂時計- 鳥飼否宇 2018/03/10 19:40
他の方も書かれているように、最終話の破壊力が全てでしょう。ラストの落ちには、「そっちかい!」と読んだ全員が突っ込んでしまったのではないでしょうか。せっかくいい話にまとまりかけてたのに(笑)
そこに至るまでの数話は、無理やり捻りだしたという力業のトリックが目立ったような気がしますが、あの最終話は、それまでの積み重ねがあるからこそ感動的(?)なわけで、どうしてもそこに至るまで、いくつかの事件の積み重ねが必要で、作者も苦労したのではないでしょうか。
勝手な印象ですが、アニメ化したら映えるような気がします。(1~5話までを二回に分けて、最終話に三話使って、ちょうど13話の1クールです)

No.209 6点 神様の裏の顔- 藤崎翔 2018/01/27 17:53
著者は元お笑い芸人だと聞いていたので、本作を読んで、「もしかして、アンジャッシュのどちらか?」と一瞬思ってしまいました(アンジャッシュはまだ活動しています)
作者の著書は「私情対談」を先に読んでいたのですが、登場人物の独白だけによる構成というのが本作と全く同じだったのですね。これが作者の得意技ということなのでしょう。

「この話がどうミステリになっていくのか……」という展開で始まり、途中、タイトルを思い起こし「もしかして……」と思わせ、「いや、そんな直球のはずがない」と考え直させる。そして最後に一波乱あって、ラストの落ちに繋がるという、かなり考え抜かれた(アンジャッシュのコントのような、と言ったら作者は怒るでしょうが)構成の妙でした。
面白かったのですが、複数の偶然に依らなければ犯行(構成)が成立しないところは気になりました。


ここから若干ネタバレありです。


これは個人的な嗜好の問題になるのですが、最後、殺人者が裁かれることなく逃げ延びる、というのは好みではありませんでした。ラストの「犯人の正体」が明らかにされた時点で、こうなることは予想が付きましたけれど。
登場人物の一人称にも関わらず、重要な手掛かりが後出しで語られるなど、本格ミステリとしてはどうか? という展開だったのも気にはなりました。

No.208 8点 屍人荘の殺人- 今村昌弘 2018/01/14 12:06
これは近年の鮎川哲也賞受賞作の中でも出色の出来です。
「受賞の言葉」によると作者は、本格ミステリ一辺倒に傾倒していたわけではない、雑食読書家だそうで、そんな人がこれほどのものを書き上げてしまうのですから、これはもう「天才現る」と言ってもよいのではないでしょうか(決してプレッシャーを与えているわけではありません 笑)。次回作以降の活躍が望まれてなりません。

作品については、色々な意見があるかと思いますが、私も作品構造を成すの「あれ」については読前の方には伏せて置いた方がよい、という考えで、ですのでネタバレ上等としなければ何も語れないため、早いですが以下「ネタバレ注意」とさせていただきます。




※ここからネタバレあり※

特殊設定ミステリの一種となるのですが、その設定とロジックが見事に融合していました。作中に登場したどの殺害トリックも「あれ」なくしては成立し得ないものばかりで、作者の気概を感じました。
決して少なくないのに、登場人物の書き分けも十分配慮されていることに加え、館の形状も特殊なため、場面がすぐに頭に浮かんできて、ほぼストレスゼロで読めました。
私は館の見取り図を眺めるのが好きなため、作中で決定的となったあの「顔を見合わせる場面」を読んですぐに「変だ」と気づき、その場で双方が何事もなかったかのようにやり取りを済ませてしまったため、「これはこのどちらか(あるいは両方)が犯人に違いない」と決め込んで読み進めてしまいました。ですが、こういうシーンを入れてくることが作者のミステリ書きとしての矜持でありましょう。そのフェアプレイ精神に拍手を送ります。

No.207 7点 リベルタスの寓話- 島田荘司 2018/01/05 23:10
常日頃から島田荘司は、「ミステリに必要なのは、今も昔も幻想的な謎である」そして「新しい時代に沿ったミステリを」といったことを言い続けています。島荘の偉いところは、「だからお前ら(若いやつら)書けよ」と、言うだけ言ってあとは投げっぱなしジャーマンスープレックス、としないところです。御大自ら書く。ミステリ界の大重鎮となっても、このスタンスは変わりません。何と頼もしいのでしょうか。

本作は、まさに上記二つの要件を見事に満たしています。「死体の内蔵がすっかり抜き取られ、人工物に置き換えられている謎」そして「昔ではありえなかった現代社会ならではの犯行動機(厳密には違いますが)」の合わせ技です。

メイン作品の「リベルタスの寓話」を前後編に分けて、間に中編を挟むという手法も面白いです。アメリカのバラエティ番組のような構成です。

この中編「クロアチア人の手」も、昔ではありえなかったトリック。一見して「あれみたいなものを本当に作ることが可能なのか?」という疑問はもちろん発生しますが、本作の肝はそこにはなく、御手洗が展開する水槽と魚にまつわるロジックがメインです。「そういうものがあったとしたら、このトリックは十分可能だろう」という、特殊設定もののひとつとして見ればおかしなところはないでしょう。それを解き明かすための手掛かりも十分に開示されています。

御手洗は二編どちらにも電話越しでのみの登場ですが、その存在感はいささかも陰りません。我らが石岡くんは「クロアチア人の手」のみの登場ですが、その分大活躍(?)を見せます。キャラクター小説としても抜群の出来栄えでした。

No.206 6点 八王子七色面妖館密室不可能殺人- 倉阪鬼一郎 2018/01/04 22:21
新年一発目の書評は倉阪鬼一郎のバカミスでめでたく行きたい。と考えていましたので、未読だった本作を選んでみました。
相変わらずの費用対効果の悪すぎる苦労と頑張り。もうこの手のものを何作か読んでいる身としては、「そうだね!」と極めて短い言葉で作者の努力を讃えるしかないのですが、この手のものを何作も書くというのは、やはり偉業なのではないかと思ってしまうのです。
後半に入ると、「バカミス」の一言で片付けられない、いやにしんみりとした展開が待っています。「悪魔にだって友情はあるんだー!」と号泣しながら叫んだ悪魔超人サンシャインではないですが、「バカミスにだって人間ドラマはあるんだー!」と私は叫びたい(号泣はしません)。
著者近影で、猫の着ぐるみを着てマラソンを疾走する作者。これもドラマでしょう。

No.205 6点 白霧学舎 探偵小説倶楽部- 岡田秀文 2017/12/03 19:02
今どき、こんな……、と思ってしまうような、直球正統派の本格ミステリです。
タイトルの通り、少年少女が探偵役を務め、戦時下の疎開先という特殊な舞台、時代設定で、この時代を知らないはずなのですが、なぜか郷愁のようなものを感じてしまいました。とあるアニメのスタッフが、中学生の恋愛をテーマにした作品作りのため、現役中学生の恋愛事情を取材をしたのですが、「スマホやLINEがあるという以外には、僕たちの年代の頃とほとんど変わっていないと感じた」と語っていたことを思い出しました。時代が変わっても、少年の心の持ちようというのは、あまり変遷しないものなのかもしれません。もちろん、読者にそう思わせるというのは、作者の確かな取材知識、筆力に裏打ちされてのことです。
「探偵小説倶楽部」のメンバーたちも、エキセントリックに過度なキャラクター立てをするでなく、しかし個性的な少年少女ばかりで、(もちろん、時代的なものもあるのでしょうが)目先の受けに走らない人物造形で好感が持てます。人並由真さんも書かれていますが、薫もかわいいです。

No.204 7点 探偵さえいなければ- 東川篤哉 2017/12/01 22:02
シリーズ最新作(2017年現在)ですが、作風はもちろんのこと、鵜飼探偵も流平くんも、初登場以来まったくブレません。時がいくら流れて時代が変遷しようと、彼らと、彼らが住む烏賊川市だけは、ずっとこのままなのでしょう。

非常にグロテスク、かつ犯人が悲惨な目に遭う「とある密室の始まりと終わり」もいいですが、何と言っても本短編集の白眉は「ゆるキャラはなぜ殺される」でしょう。
ゆるキャラ探偵剣崎マイカ、まさかの再登板。これは私も含めた、全烏賊川市シリーズファンが待ち望んでいたのではあるマイカ。
あらゐけいいちの描く、かわいらしく味のある表紙イラストも、もはやシリーズには欠かせない存在となりました。

No.203 7点 密室に向かって撃て!- 東川篤哉 2017/12/01 21:51
本格にユーモアの皮をかぶせたこのシリーズの作風は、この頃から今まで、全然変わっていません。本作も、書かれてから十五年も経っているとは思えないほどです。

このシリーズで私が好きなのは、キャラクターやその言動はふざけていても、事件自体は本格(しかも、キャラクターや作風にマッチするような「日常の謎」ではなく、ガチガチの殺人事件)を貫いているところです。銃弾の数や、それが撃たれた場所をあぶり出す推理はあくまでロジカルで、それらを担保する物証もきちんと、しかもかなり早い段階から出してきてフェアです(砂浜で見つけた、あれは、もっとうまく処分するべきだったのでは? とは思いますが)。

このシリーズ、数年前に実写ドラマ化しましたけれど、ほとんど話題にはなりませんでしたね。ガチのミステリ好き以外の、もっと一般層にも読まれてよいシリーズだと思います。

No.202 5点 パワードスーツ- 遠藤武文 2017/11/29 17:55
今から少しだけ先の近未来。サイバニクス・ラボラトリー社の営業、大和健斗は、自社の製品「パワードスーツ」売り込みのため地方都市を訪れていた。「パワードスーツ」とは、人間が着込んで使う強化服の一種で、装着者の体力を何倍にも向上させることができる。いち早く建設現場などに導入され、重機の代わりを果たしているこのパワードスーツを、大和は病院の介護部門にも売り込もうとしていたのだった。病院事務長の樫村へ接待を施した翌日、大和は直属の上司である高槻が、法律で製造が禁止されている、パワードスーツの軍事転化版「アーマードスーツ」の開発に秘密裏に着手していたことを知る。

表紙めくるといきなり「本書には、ある仕掛けがあります。注意してお読み下さい」と警告が書いてあります。が、そんなに気にする必要はないでしょう。2011年刊行ながら、今の今まで書評が付かなかったことから察せられるように、そんな大した(失礼)仕掛けではありません。

肝心の内容は、上記の通り、飛躍しすぎず、リアルとワンダーのバランスを保ったSFという、こういったものが好きな人にはたまらない設定が魅力なのですが、生かし切れなかったように思います。一応、高齢化社会に対する問題提起のような内容も含んでいて、社会派SF的な側面もあるのですが、この作者の本は初めて読んだのですが、読みにくいです。登場人物も、役割通りに作者に動かされているだけという感が拭えず、「お前らがロボットなのか!」と言いたくなってしまいました。
近未来リアル派SFと本格ミステリの融合を果たそうという試みだったのかもしれませんが、惜しい作品になってしまいました。

No.201 6点 風ヶ丘五十円玉祭りの謎- 青崎有吾 2017/11/09 17:51
長編は、さすがのロジックを繰り出してきて、ガチ本格にキャラクター小説のスパイスを振りかけた。程度に収まっている本シリーズですが、本短編集くらいにまでなると、半分以上キャラクター小説です。
正直、そこまでこのシリーズのキャラクターに入れ込んで読んでいたわけではなかったので、ほぼ全てのキャラクターの読み分けが出来ていない「お前、誰だよ」状態でした(登場キャラクターに年齢、職業的相違がない、ほとんどが女子中高生ということも理由のひとつでした。舞台がそうなので当たり前なのですが)。

私は、「混ざるべきでない食品同士が混ざってしまう」という状態に異様な嫌悪感を覚えるので、「もう一色選べる丼」に出てくる「二食丼」は絶対に食せない自信があります。同じ丼に盛る以上、境界線で絶対に混ざるでしょ。麻婆丼と親子丼の具が混ざるって、考えられません。混ざらないように食べるには、相当な努力を要するはず。こんな悪食な真似をするなら、ハーフサイズの丼を二つ出してもらいたいです。これでも本作のトリックは通用しますよね?

一番面白かったのは、「その花瓶にご注意を」でしょうか。あとは、結構、真相を知ったときに「そうだったのか!」と膝を打つというよりは、「しょーもな!」と感じてしまうものばかりで(特に表題作は、それをやったとして、そんなにリターンが見込めるかなぁ?)、やっぱり個人的に、ミステリには「犯罪者」がいないと、どうにも締まらないな、という感想を改めて持ちました。

No.200 6点 7人の名探偵- アンソロジー(出版社編) 2017/11/06 11:44
新本格生誕30周年を記念して刊行されたアンソロジーです。
タイトルからして、各作家の「持ち名探偵」が豪華な競演をするのかな。と期待したのですが、登場するシリーズ探偵は、「メルカトル鮎」(麻耶雄嵩)「火村英生」(有栖川有栖)「法月綸太郎」(法月綸太郎)の三名のみ。半分を切っています。一応、「名探偵」をテーマとするなら、我孫子と歌野もギリ、テーマ範疇に入れてよいかと思いますが、山口と綾辻は完全に「テーマ逸脱」でレッドカードでしょう。こういった作品が集まった時点で、メインタイトルを変更すべきでしたね。真面目に「持ち名探偵」で書いてきた三人が不憫です。

「水曜日と金曜日が嫌い――大鏡家殺人事件」麻耶雄嵩
麻耶(メルカトル鮎)らしい、ひねくれた本格。美袋くんがまた酷い目に遭ってしまいます(事件が解決したあとも)。かわいそうですが笑えます(ひどい)。
なにげに冒頭で、彼が訪れた寺の手水舎にあった鋳物が、妖怪「手長足長」だった。という伏線(?)が仕込んであります(手長足長、をご存じないかたは、姿を検索してみて下さい)。こういう遊びは、私が気付いていないだけで、作中まだ他にもあるのかもしれません。

「毒饅頭怖い 推理の一問題」山口雅也
短編なのに、冒頭で八ページも古典落語「饅頭怖い」の説明に費やしています。とはいっても当然丸写しではなく、山口流に改作されており、軽快な読み口はさすがです。それに続く本題も、名調子に引かれて楽しく読めました。

「プロジェクト:シャーロック」我孫子武丸
一応「名探偵」をテーマにした作品ですが、ミステリではなくSFです。SFサスペンスとでも言いましょうか。ミステリではありませんが、興味深く読めました。

「船長が死んだ夜」有栖川有栖
正統派の本格、であるがゆえ、本アンソロジーの中では逆に異彩を放ってしまったというのが皮肉です(これは続く法月にも言えますが)。こういった、ある種作家にとっては「お遊び」が許される記念企画なのに、真面目に本格を、しかも、きちんとテーマに沿ってシリーズ探偵の火村を出して書いてくるとは、実に有栖川らしいです。
「犯人はボックスに入っていたブルーシートを取り出す必要があった」「だからポスターを燃やすしかなかった」一見支離滅裂な、この原因と結果を繋ぐアクロバットこそが本格ミステリの醍醐味だなあ。と改めて感じ入りました。

「あべこべの遺書」法月綸太郎
有栖川と同じく、逆に浮いてしまった正統派ミステリ。紙幅の都合もあるのでしょうが、法月警視の話からだけで真相を看破する綸太郎の、安楽椅子探偵ぶりがかっこいいです。事件の様相が結構入り組んでいるため、流し読み厳禁ですが、この緊張感もじつにミステリらしく、法月らしくて好きです。

「天才少年の見た夢は」歌野晶午
収録された某作品と、まさかのネタかぶり。そういった事情もあり、本作は大トリ綾辻のひとつ前という位置に配されたのでしょう。本作については、あまり語らないほうがよいと思います。

「仮題・ぬえの密室」綾辻行人
「名探偵」がテーマで綾辻。とくれば、島田潔が活躍する「館シリーズ番外編」か? それとも「殺人方程式」の明日香井が沈黙を破り、まさかの復活? と想像を逞しくしてしまいましたが、蓋を開けてみれば、どこまでが本当か分からない、メタフィクションものでした。綾辻だからこそ許される作品でしょう。

総評として、どれも確かに面白かったのですが、せっかくの「新本格30周年」という二度とない記念企画。一本背骨の通った、ぶれのないテーマで読みたかったな。というのが正直なところです。

新本格は30周年ですが、個人的なことでは、これが私の200番目の書評となりました。

No.199 7点 人間じゃない- 綾辻行人 2017/11/03 17:54
今までに綾辻が書いてきた中の、単行本収録されていなかった短編を集めた本です。
本格ミステリあり、ホラーあり、幻想小説(?)ありと、これまで放置されてきた作品を寄せ集めただけにも関わらず、計算したかのように、まさに「これぞ綾辻行人」と言うに相応しいバランスに整ったと思います。
逆に言えば、本来であれば各ジャンルの作品を一冊にまとめられるくらい書きためてから、各々刊行するのが一番よいのだと思いますが、こういった寄せ集めの作品集を出すということは、もう綾辻には、そこまでするだけの気持ちはなくなったということなのでしょう。作家としての「終活」に入っているのでは? と失礼ながら思ってしまいました。館シリーズの最終作を書いたら、綾辻行人の(少なくともミステリ作家としての)役目は終わるのでしょう。

完全にファン向けの作品集であることは否めません。私は「7点(かなり楽しめた)」付けましたが、(いないとは思いますが)本作で初めて綾辻行人を読む、もしくは綾辻にそれほど思い入れのない人であれば、評価は1から2点程度は下がってしまうのではないでしょうか。

No.198 6点 猫は知っていた- 仁木悦子 2017/10/28 16:29
時代的なものを考えれば、信じられないくらいの読みやすさでした。知らない人に読ませたら、「現代の作家がこの時代を舞台にして書いた小説」と言っても信じるでしょう。ただ、事件自体も時代相応といいますか、トリックにために人を動かしたり、博打のような仕掛けに頼ったりと、ミステリとしての脇の甘さは目立ちます。でも、2017年から数えて60年前ですからね。しかも本作がデビュー作。十分といえますし、当時リアルタイムで読んだ読者には驚きを与えたのではないでしょうか。本邦ミステリ史に書き留められ、読み継がれていくべき一作です。

No.197 6点 T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか- 詠坂雄二 2017/10/28 16:18
作者らしい、ちょっとひねくれた結末のミステリでした。
絶海の孤島に渡ったメンバーが残した映像パートと、それを検証する現在パートが交互に進行していくのですが、他のレビュワーの方も書かれていた通り、映像パートが退屈です。これは、わざと平坦な文章にしてドキュメンタリー色を強めた、という解釈もできますが、作者は冒頭の「前説」で、「映像が退屈なため、それを解決するために小説という形にした」と書いており、それだったら、もう少し何とかならなかったのかな、とも思うのです。
事件の真相自体も、過去に似たような例があるものの派生バージョンです。そこは作者も承知していたのでしょう。やはり「前説」で、「(真相は)物語的な驚きに欠けたもの」と前もって書いています。ただ、これは決して「逃げ」ではなく、「この話の肝はそこじゃないんだ」という表明でしょう。
詠坂作品は、ほとんどの作品が有機的になにかしら繋がっていて、本作もその「詠坂ワールド」の一翼を担う一作であるわけで、乱暴な言い方をしてしまえば、「コアなファンのための作品」ということもでき、それが本作の一番の肝なのでしょう。

No.196 1点 NO推理、NO探偵?- 柾木政宗 2017/10/08 22:38
最初にお断りしておきますが、1点付けたからといって、本作が「最低最悪…」の駄作。であるということではありません。本作は、1点を付けられるべくして生み出され作品なのです。「抱かれたくない男性タレント第1位:出川哲朗」みたいなもので、作者も出版社も、石をぶつけられること承知で世に出した、そういう作品、キャラクターなのです。高得点を付けることは、むしろ本作に対しての営業妨害になります(付ける人はあまりいないと思うけど)。
「メフィスト賞最大の問題作」という触れ込みらしいですが、作品的に「問題」ということではなく、「メタ的に言えば」この作品が賞コンクールを受賞してしまうという現状が「問題」なのでしょう。こういうものを持ち上げられたら、真面目に本格ミステリを書いている作家が、あまりに不憫でなりません。

しかし、本作の作者は、こんな「出オチ」のようなデビューをしてしまって、大丈夫なのでしょうか? 二作目を出しても、本作を読んだ読者は、ほとんどが手に取りもしなくなるのではないでしょうか。仮に真面目な本格ミステリを書いたとしても、本作のあとでは説得力ゼロです。名前を変えて再デビューするしかないかもしれません。

No.195 6点 アガサ・クリスティー賞殺人事件- 三沢陽一 2017/09/29 17:21
実に興味をそそられるタイトルです。
が、これは連作短編集で、その中の最終作をメインタイトルにしたもので、ページを開いてちょっと拍子抜けしてしまいました。
作家になることを諦めて死ぬつもりで旅に出た主人公が、行く先々で奇妙な事件に巻き込まれるというスタイルで、最終一作前で、自作が「アガサ・クリスティー賞」を受賞したことを知ります。いや、結果確認してから死のうとしろよ。

短編向きのトリックをうまくまとめた小気味の良い作品が続き、いよいよ迎える表題作。これはタイトル以上に中身に拍子抜けしてしまいました。そこまでに至る事件が、実にいい感じで進んでいたために、余計にこれは……という感じです。
容疑者たちが、取り調べで次々に有栖川作品の素晴らしさを語る「異様な有栖川推し」も、書き手が受賞二作目の新人だから、というフィルターがかかっているせいかもしれませんが、ただのおべんちゃらにしか聞こえません(これを綾辻あたりが書いたなら、ジョークとして流されて、読者も居たたまれない思いをしなくて済んだでしょう)。
「終わりよければすべてよし」を逆に行ってしまったような気がしました。

最終作を取っ払って、「死ぬ死ぬ」言いながらも元気に日本全国を旅し続ける作家崩れの事件集。みたいな構成にしたほうが面白かったかもです。

No.194 8点 十三番目の陪審員- 芦辺拓 2017/09/13 16:37
まず驚いたのは、芦辺拓らしからぬ読みやすさ。
陪審員制度や医学的説明を分かりやすく読者に伝えようと努めたため、いつものような癖のある、ミステリ的装飾過剰な文体が抑えられた結果なのだと思います。芦辺拓、この調子で他の作品も書いたらよかったのに!(それでも原発に関する解説は少し過剰かと思いましたが)

倒叙ものの様相を呈していた第Ⅰ部も非常に興味深く読みましたが、法廷に舞台が移ってからの第Ⅱ部は、途中で読むことを中断するのが不可能なほどの、息つく暇もないサスペンス。
医学、法廷という専門的なガジェットがあっても、「本格ミステリ」であることを失わない作者の姿勢も嬉しい。
本作で特に印象深かったのは、本職である弁護士としての本領を発揮した、シリーズ探偵の森江春策です。全く覆すことが不可能とも思える難問に挑み、悩み、中傷を受け、それでも決して諦めない、優しくて理知的で頼りになる大人の名探偵。昨今はやりの、こまっしゃくれた子供探偵には、この魅力、色気は出せません。最高にかっこよかったです。

No.193 7点 敗者の告白- 深木章子 2017/09/06 19:16
死亡した主婦と長男が残していた手記。夫の証言。それぞれが微妙な食い違いを見せ、本当は誰が被害者で、誰が加害者だったのか。事件の真相は藪の中に消えていこうとするのですが……。
練りに練られたプロットが光る佳作です。登場人物の何人かは、事件発覚時には確実に死亡しているため、これを後から覆すことは出来ない。死者の告発と生者の言い分。どこに瑕疵を見いだすか。嘘をついているのは誰なのか。
全編が手記と証言で構成されているというのも面白く、多少強引な部分はありますが、十分楽しめました。
(余談ですが、タイトルを聞いて真っ先に「歯医者の告白」と変換してしまったのですが、作中に本当に歯科医が出てきたのには驚きました。作者、狙ったのかな?)

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