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平均点:6.32点 採点数:230件

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採点傾向好きな作家

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No.170 6点 仮面幻双曲- 大山誠一郎 2017/07/25 20:40
メインの双子トリックは実に巧妙。現代ならばまず不可能な仕掛けですが、本作の時代設定的にはありです。このネタ一発で短編~中編くらいの分量に収めたほうがよかったかも? 続く第二の犯行は他の方もご指摘の通り、もはや博打レベル。
「密室蒐集家」でも「偶然に担保された犯行の成立」が多くの方から指摘されていましたが、作者の癖なのでしょうね。短いページで一気に読ませる短編ならば、謎解きクイズ的な側面もあるため目をつむれますが、長編となると登場人物に対して、否応なくある程度心情を理解しようとしてしまうため、あまりに現実離れした不自然なトリックは一気にチープ化してしまいます(それが売りになるくらいまで突き抜けてしまえば話は別ですが)。
何とも惜しい作品に映りました。

No.169 5点 僕の推理とあの子の理屈- 村瀬継弥 2017/07/25 20:27
雪密室のトリックは、「いや、もっと早く誰か(特に警察)気付けよ……」というレベル。このネタ一発で長編(それでも薄いほうですが)を持たせるのはさすがに無理です。おかげで「ラノベちっくなキャラクターの会話劇」や「村の言い伝えの謎」など、事件とはほとんど関わりのない枝葉末節にページを振る事態に。
本編とは関係ないのですが、本作のカバーイラストを手掛けたのは「超時空要塞マクロス」「機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争」のキャラクターデザインなどを手掛けた、イラストレーターの美樹本晴彦です。こんな仕事もしていたとは知りませんでした。

No.168 6点 日本殺人事件- 山口雅也 2017/07/25 20:18
冒頭の「作者が翻訳した」「原作者が頑なに世に出るのを拒んでいた」という設定が叙述的な仕掛けになるのか? と思い読み進めましたが、別に何もありませんでした。あの思わせぶりな記述は何だったのか。続編で秘密が明かされるのでしょうか。
題材にはとても惹かれるものがありましたが、事件自体が少し地味で、せっかくの面白いネタを扱いきれていないと感じました。

No.167 5点 旧校舎は茜色の迷宮- 明利英司 2017/07/16 16:34
「現代を舞台にした青春ミステリ」なのに、確かにBLOWさんが書かれている通り、ちょっと古くさい……。
同じく指摘されていた、回想シーンの描き方も確かにその通りで(これは選評で島田荘司も指摘していました)、これは分かりづらい書き方でしたね。
作中の事件と、所々に出てくる都市伝説、UFO関連の話も別段有機的に繋がっているわけでもなく、どうして入れたんだ? と思ってしまいました(しかも投稿時のタイトルは、都市伝説方面をさらに推した『ビリーバーの賛歌』というものでした。これは改題もやむなしでしょう)。
事件そのものについても、密室や見立てといった不可能犯罪状況が発生しているわけでもないため、引きが足りません。その分、キャラクター自体に魅力があるかと言われたら、それも微妙です。加えて、最後のメイントリックも過去に例があるタイプの亜流、と何もかもが中途半端に終わってしまった感があり、新書二段組みで300ページ越えという分量を読み切るモチベーションを維持するのが大変でした(もっと短くまとめられたはず)。
マイナス面ばかり挙げてしまいましたが、若い作家が、エキセントリックなキャラクターやファンタジックな設定に頼らず「本格ミステリ」を書ききったのは十分に賞賛されるべきものです、文章、構成的なものも十分に改善出来る余地があるはず。今後の活躍に期待です。

No.166 6点 首断ち六地蔵- 霞流一 2017/07/16 16:15
「異様な趣向を凝らした連作短編」という衣から、最後に何か待ち受けていることは明白で、「恐らくあれだろう」と予想はしていまして、まさにその通りでした。
短編という、ただでさえ少ない紙幅の中に多重推理を盛り込むものですから、一つひとつが掛け足推理になって、忙しないことこの上ありません。しかも、そのほとんどが物理トリックであるのに、図版が一枚もないため、犯行現場やトリックをイメージしずらいところもありました。
ですが、かなりの力作であることに間違いはなく、とことんトリックてんこ盛りの作者のサービス精神には頭が下がりました。

No.165 5点 首なし男と踊る生首- 門前典之 2017/07/08 16:25
偏重ともいえる物理トリックのオンパレードは、古き良き時代のミステリを彷彿とさせ、何だか懐かしい気持ちになりました。往年の島田荘司を見るような。
ただ、島荘との決定的な違いは、探偵、ワトソンのキャラクターの魅力にあります。蜘蛛手は「ただの変人」としか映らず、名探偵に必要な「愛され要素」が抜け落ちてしまっているように思います。これなら、変に変人設定は付けずに、普通の常識人にしておいたほうが無難だったような。

記述が、流行りの「一人称のような三人称」であることに加えて妙に固くて、ちょっと読みづらいという部類に入る文章でした。特に、結構な頻度で主語のない文章が入るため(一人称の記述であれば主語が省略されていても、それは記述者だとすぐに分かります)、「え? 誰のことを言ってるの?」と混乱する場面がありました。

No.164 5点 ふたり探偵―寝台特急「カシオペア」の二重密室- 黒田研二 2017/07/08 16:03
オカルトな特殊設定を使用していて、それがトリック解明の肝になります。(というか、この「謎」って探偵の独り(二人?)相撲に過ぎなかったんじゃ……)
作者は、これをやりたいがために、この特殊設定を盛り込んだのでしょう。それ以外に、この設定を使っている意味はありませんから。
最初から張っていた伏線の回収も丁寧ですし、適度に軽い文体も読みやすかったです。

No.163 7点 五色沼黄緑館藍紫館多重殺人- 倉阪鬼一郎 2017/06/27 19:33
ちょっと何をとち狂ったのか、倉阪の「バカミスシリーズ」を二冊連続で読むという暴挙に走ってしまいました。先に読んだ「三崎黒鳥(以下略)」の仕掛けが強烈に印象に残ったまま読み始めてしまったもので、「ある仕掛け」には早々と気が付いてしまいました。もうそうなったら大変。「あ、ここにも……ここにもある。凄い! 全部にある!」と、そちらにばかり気が行って、内容が頭に入ってこない(笑)
本作も凄かったのですが、これは「バカミス」のやりすぎ、つまり「バカやりミス」の領域に突っ込んでしまっているのではないでしょうかね。倉阪鬼一郎、今回はとばしすぎ(今作の著者近影もマラソンでの疾走姿でした)。
二冊続けて読んで、何だか疲れました。「バカミス」は、用法、容量を守って正しく読むべきですね。
結論。「バカミス」は年に一冊くらいが適量です。

No.162 8点 三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人- 倉阪鬼一郎 2017/06/27 19:21
「バカミス」もここまでくると一周回って感嘆するしかないでしょう。
技巧に走りすぎていてミステリとしては評価外。というご意見も納得できますが、作者の苦労を思うと、私はそうあっさりと切り捨てるにはあまりに忍びないのです。
見返しに書かれた「自分はいったい何と戦っているのか」という作者の言葉。裏見返しの著者近影が、マラソン大会で疾走する姿であることもリンクして、「悶絶しながら書いた作品」であることが伝わってきます。
確かに「ネタ」に走りすぎた作品であることは疑いがないでしょうが、本作のような技巧を完成させることは、ある意味、ミステリとしてまっとうなトリックを生み出す以上に難産なのではないでしょうか。

何と言っても凄いのは、本作「三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人」講談社ノベルスから出たこの実本以外どうにも発展させようがない、ということです。
実写、漫画を含めたビジュアル化が無理であることは当然、外国語に翻訳して海外市場に持ち出すことも不可。さらには文庫化さえも不可能なのです。とてつもなく効率が悪いというか、ある意味贅沢な一冊と言えるのではないでしょうか。

No.161 7点 模倣の殺意- 中町信 2017/06/11 01:21
名前だけは知っていましたが、世に出回っている作品をなかなか目にする機会がなかった、私にとっての幻のミステリ作家、中町信。その存在も忘れかけていた頃、偶然本書と出会い、早速読んでみました。
私は読前に出来るだけ情報を遮断して読む派なので、解説やあとがきは元より、表紙をめくってすぐにあるあらすじも、意識して視界から外して読み始めます。知っていたのは、本作が相当昔に書かれたものである、ということだけ。本作の初登場は昭和四十七年、西暦にして1972年だそうではありませんか。
読了してまず、「その時代にこれをやった作品があったのか」と驚きました。未だに多くの作家が書き続けている、あの仕掛けに対して、「それは中町信が四十年前に通った道だっ!」と言いたくなります。
「あれ」がアクロイドパターン。「あれ」がオリエント急行パターン、「あれ」がABCパターン(おお、全部クリスティだ)と、トリックの系譜にオリジン作品の名前が冠せられるのであれば、「これ」は「模倣の殺意パターン」と呼ばれるようになっても良いのではないでしょうか?
どうしてこれだけのものを書ける作家が「幻」扱いされているのでしょうか? 本作だけの一発屋だったのでしょうか? それを確かめるためにも、これからも中町信の作品を積極的に探して読んでいきたいと思います。

No.160 7点 伊藤博文邸の怪事件- 岡田秀文 2017/06/11 01:05
2013年という刊行年を見れば、異常なほど「本格」している作品と映りました。
歴史ものは不得手な私ですが、登場する歴史上の人物や出来事に対して、逐次詳細な解説が入りますので、すんなりと楽しめます。ストーリーを中断させるほどのしつこい解説じゃないため、読みやすさは損なわれません。
作品舞台は明治ですが、「現代の研究者が明治時代の書物をミステリ小説として書き直した作品」というメタ要素があるため、○○トリックが使われていても納得出来ます。
と、ここまで書いていて気付いたのですが、本作に出てくる月輪龍太郎はシリーズ探偵なのですね? 次回作がどういった形で来るのか、楽しみにしています。

No.159 7点 倒錯の死角−201号室の女−- 折原一 2017/05/01 01:08
「読んだと思っていたのに、実は読んでいなかった」という作品は結構ありまして、本作もそのひとつでした。(折原一の作品は似たようなタイトルが多いので)
作者の実質デビュー作。「デビュー作にはその作家の全てが詰まっている」とはよく言われることですが、言い得てまさに。「視点」「時間軸」「反転」「誤解」叙述トリックに用いられるありとあらゆる技巧が駆使され、「これぞ折原一」というにふさわしい作品に仕上がっています。
「ある登場人物に対する錯誤」も、他の方が書かれているように「いやいや、それは間違えないだろ」と思ってしまいますが、最近の世間を見るに、そうとも言い切れないような気がしてきます。「姉妹?」と思ってしまう親子や、「えっ? そんな年齢なの?」と驚く芸能人など、たまに見かけますし(なにげにネタバレ)。時代がようやく折原に追いついたのでしょう(多分、違う)。

No.158 10点 ボッコちゃん- 星新一 2017/04/25 23:19
なんと『ボッコちゃん』が登録されているではないですか!(星新一自体、前から登録はされていたのですね。ミステリ作家ではないため、すっかり見逃してしまっていました)
初めて読んだ幼少の頃、表題作「ボッコちゃん」のオチが理解出来ずに「?」となったことは強烈に憶えています。「おーい でてこーい」は道徳の教科書に載っていました。

星新一はSF作家ですが、ミステリ的見所もあります。
「殺し屋ですのよ」はハウダニット。「暑さ」はサイコホラー。「ゆきとどいた生活」は叙述トリック。「なぞの青年」はホワットダニット(何が起きているのか)。
「ボッコちゃん」もミステリ的オチといえるでしょう。
星新一の作品は、宇宙人やロボットが出てくる、いかにもSFなものだけでなく、現代社会を舞台にしたミステリ的作品もあることが好きです。多くの作品は、水増しして短編から中編のミステリに仕立てることが楽勝で出来てしまうでしょう。太っ腹!
1971年刊行の作品にここまでやられるとは。「おーい でてこーい」などは、21世紀に入った現代においてこそさらにテーマの輝きは増しているのではないでしょうか。人間、全然進歩してねーな。

ジャンルを超えて、読書人必読の一冊といえるでしょう。

No.157 7点 ジェリーフィッシュは凍らない- 市川憂人 2017/04/25 19:57
魔法やオカルトではなく、科学的な特殊設定を持ち込んだ本格ミステリというのは珍しいのではないでしょうか。タイトルにも冠されている本作のオリジナル設定「ジェリーフィッシュ」の特性が、そのままメイントリックを成立させる要素となるなど、奇をてらっただけではない必然性が感じられて楽しめました。
文句ではないのですが、ラストシーンはちょっと笑ってしまうというか、椅子からコケそうになりました(笑)。次回作は、敵科学者が送り込んでくる悪のジェリーフィッシュを、主人公側の正義のジェリーフィッシュが迎え撃つというSFアクションものになるのか? などと考えてしまいました。

No.156 7点 乙霧村の七人- 伊岡瞬 2017/04/25 19:50
二十二年前に一家惨殺事件が起きた過疎村を興味本位で訪れた大学生グループが恐ろしい目に遭う、という第一部と、それ(と二十二年前の事件)についての謎解きが行われる第二部の二部構成です。
断片的な情報が組み合わさっていき、全体像が明かされる第二部の完成度は高いです。しかしながら、その鮮やかさに比べると、第一部のホラー部分の長すぎ感が際立ちもします。ハードカバー映えするぎりぎりといってもいい、250ページ程度の分量のため、やむなく水増ししたのか? と勘ぐってしまいます。
とはいえ、サイコや狂気に頼らずに全てが理屈で解き明かされる解決編は読み応えがあります。最後の最後に待つサプライズもいい感じでした。
二十二年前の真相については、色々と理屈が付けられてはいましたが、「いや、話せよ!」と、ちょっと突っ込んでしまいましたが。

No.155 5点 砕け散るところを見せてあげる- 竹宮ゆゆこ 2017/04/25 19:27
日常の謎、暗号、とともに私が苦手としている、ラノベ調一人称に抵抗を感じつつも、タイトルに引かれて読み始めました(新潮NEXだから正真正銘ラノベなんだけど)。
青春ミステリ? ミステリ? うーん。独特な台詞や言い回しに終始翻弄され続け、気が付いたら読み終わっていた。という感じでした。ミステリかどうかはともかく、まぎれもない青春小説です。主人公と同世代の人なら、一層共感できるのではないでしょうか。(叙述的に「同世代」がどの年代を指すのかは、まあ、幅広く)
恋愛ものの一人称って、読んでいて恐ろしく気恥ずかしいな、というのが読後最大の感想です(笑)。
この作品最高の魅力は、私が読むきっかけにもなったタイトルでしょう。これを越えるタイトルは、そうは出て来ないのではないでしょうか。

No.154 7点 亡霊館の殺人- 二階堂黎人 2017/04/23 16:00
作者自身の代表長編『吸血の家』の短編版を含む、三本の短編と二本のエッセイを収録した一冊です。
冒頭に収録された「霧の悪魔」を読んだときに、「これは『吸血の家』に似たようなトリックがあったな」と思ったのですが、これは意図的な措置です。「吸血の家 短編版」自体は、当該作の雪密室トリックだけをフィーチャーして短編として再構成されたものなのですが、『吸血の家』にあったもうひとつの足跡トリックをもとに構成されたものが「霧の悪魔」だそうです。決してネタの使い回しではなかったのです。この焼き直しのような二作品が書かれたのは、アメリカ版「エラリークイーンズミステリマガジン」に掲載するためだったそうです。この事情については本文に詳しいので、そちらをご覧下さい。

こうして改めて短編として読み直してみたのですが、やはりこの『吸血の家』の雪密室トリックはよくできています。図らずも短編となったことで、よりトリックのインパクトが明確になって、よくなったのではないでしょうか。
唯一の新規トリックものの表題作「亡霊館の殺人」もですが、どれもトリック重視の古めかしいタイプの作品で、こういったものは昨今はかえって書くのが難しいでしょう。作者の二階堂黎人は、偏重ともいえるトリック重視の作風で有名ですが、その魅力がいかんなく発揮された作品集となっています。
小説以外のエッセイはどちらも、ディクスン・カーについて書かれたもので、「霧の悪魔」「亡霊館の殺人」はどちらもヘンリー・メリヴェール卿を主人公にしたパステーシュものとなっており、作者のカー愛も同時に発揮されています。

No.153 8点 猫には推理がよく似合う- 深木章子 2017/04/15 22:28
これは大変楽しめました。
少ない登場人物と限定された舞台だけで最大限の効果を上げる。ミステリ(しかも、いい意味で現代的)の真骨頂を見ました。
本来であれば、ネタバレ上等で色々と語りたいのですが、本作はまだ刊行されて間もないフレッシュな作品のため、(作品の性格的なこともあり)何か言うことは控えさせていただきたいと思います。
おすすめです。

No.152 8点 図書館の殺人- 青崎有吾 2017/04/15 22:23
解答編パートが前二作品(『体育館』と『水族館』)よりも短く、かつ分かりやすくなっています。前二作品(特に『水族館』)が数学の問題を解くかのごとき、あまりにスパルタンな構成だったことに対する反省なのでしょうか。分かりやすく、かつ、あくまでロジカルに。これは大変よい傾向だと思います。
初登場時は不愛想で慇懃無礼な変態だった、探偵の裏染天馬のキャラクターも、次第に軟化してきているように思われます。

私も、多くの方のご指摘にあるように、犯人の動機に最後まで「?」が拭えませんでした。「最後の最後で納得のいく驚きのホワイダニットが明かされるのか?」と身構えていたのですが、そこまでは行きませんでした。そこをしっかりと締めてくれたら、「古典的なロジカル推理と現代的なサプライズ性が融合」した文句のつけようのない大傑作が生まれていた可能性があっただけに、(このレベルの作品に対して言うことでは本来ないのですが、それほどの期待を込めているため)残念に思いました。

しかしながら、奇襲的サプライズやキャラクター、専門的な知識に頼ったミステリが多い現代の中で、ここまでロジックにこだわった本シリーズの存在は稀有で貴重なことに変わりはありません。この作者の年齢で、ここまで書ける作家というのは、そうはいないでしょう。ゆくゆくは、本邦ミステリ界を牽引するようなビッグネームになってほしいと切に願います。

No.151 7点 消失!- 中西智明 2017/04/07 23:16
凝った趣向の快作でした。
「犯人と死体の消失」「三つの事件」この二つが最後に結びつく瞬間は、なかなか心地よい快感がありました。
ただ、「綾辻・有栖川復刊セレクション」に入っている自作解説で作者は、「本書の眼目は、昨今はやりの叙述トリック――読者だけがだまされるトリック――ではありません」と書いていますが、そんなことはないでしょう。被害者(「者」と書くとアンフェアでしょうか?)のマリーに対して作中人物が「カノジョ」と言ったり、ユカが自分の髪をマリーと対比させてみたり、マリーが「ほほえむ」と書いたり。地の文で明らかに読者を意識しての、メタレベルでの叙述を仕掛けています。
ある作中人物が、読者と同じレベルで騙されていた、と終盤分かるのですが、そのことを指しているのだとしたら、やはり違うのではないでしょうか? 作者の言葉を借りるなら、本作も立派な「ショッカー型叙述トリック」なのではないかと思います。非難しているのではなく、それは別に悪いことではありません。
ただひとつ、最初の事件で床に倒れた被害者(「者」と書くと以下略)を「死骸」や「死体」とはっきりと地の文で書いている箇所があります。これだけはちょっと気になりました。
色々と書いてしまいましたが、しかし、本作が驚きに満ちた傑作であることに疑いがないことを、最後に付け加えておきます。

No.150 6点 青銅ドラゴンの密室- 安萬純一 2017/04/02 19:26
島荘、二階堂黎人監修の本格ミステリシリーズということもあってか、いかにもこの二人が好きそうな作品です。
往年の島荘を彷彿とさせる大掛かりで大胆なトリックに、最後、ちょっとした仕掛けを施し、懐かしさの中に現代的な趣向を混ぜ合わせた作品に仕上がっています。
メイントリックについては、まあ、あれをひとりでやるのは(特に犯行後、装置に対して行う施工は)時間的にも無理だろうとは思いますが、そこのところも含めての「古き、良き(いや、全面的に肯定はできませんが)本格ミステリ」という味わいを持っています。

No.149 7点 虚無への供物- 中井英夫 2017/03/30 22:08
「三大奇書」の一角を占めているという世評が、良くも悪くもフィルターになっている気がしました。良く言えば、「奇書というほど変ではない」ですし、悪く言うなら「奇書というには普通のミステリ」
とはいえ、本書の初出が1964年であるという歴史的価値を考えれば、現在感じる「普通」は、当時の読者の目には衝撃的に映ったことも想像できます。
三大奇書という看板、仰々しいタイトル、講談社文庫で上下巻というボリューム。それらから勝手に身構えてしまい、いったいどんな話が始まるんだ? とおっかなびっくりページを捲っていったのですが、読み進めるうちにごく普通のミステリということがわかり、拍子抜けとともに安心もしてしまった私は、やっぱり「普通」のミステリファンなんだなと思い直しました。

No.148 5点 蜜柑花子の栄光- 市川哲也 2017/03/20 19:41
「名探偵の証明」シリーズ完結編。
限られた時間内に四つの事件を解決しなければ人質が殺される。というタイムサスペンス要素を盛り込んでいます。
「えっ? この分量(ハードカバーで約300ページ)で事件を四つ?」
の不安通り、各事件はどれもかなりの小振りさ。解決に至る道筋も何だか掛け足で、全体的に「4クールの予定が視聴率不振で3クールに短縮されたアニメ」みたいな忙しなさを感じました。
事件ひとつひとつを取ってみても、犯行もバクチなら、それを暴くほうの手段もバクチと、犯罪者側も探偵側もかなり荒っぽい力業が目立ちます。
本シリーズのテーマはそこ(ミステリ部分の本格さ)じゃない。とわかってはいるものの、「本格」(しかも、堂々の鮎川哲也賞受賞シリーズだ)を謳うのであれば、そこは力を入れてほしかったです。

このシリーズを読んできて思うのは、この作者、本格ミステリには向いてないんじゃないかな? ということです。一人称の軽快な語り口や、今風なキャラクターには引かれるものがあるので、ライトノベルに転向したらいいものが書けるのではないでしょうか。

No.147 7点 片桐大三郎とXYZの悲劇- 倉知淳 2017/03/05 22:09
ドルリー・レーンオマージュの片桐大三郎。本家同様、耳が聞こえないというハンデを、こちらは会話の内容を助手がタイプし、その文面が大三郎の持ち歩くタブレットに表示されるというテクノロジーでカバー。現代ならではの設定で面白いです。
明らかに三船敏郎がモデルの大三郎。運転手付きの(耳が聞こえないので当たり前ですが)高級外車に乗り、満員電車に乗った経験などない浮世離れした国民的大スター。引退後の道楽で始めた素人探偵ですが、卑劣な犯罪者を一喝し、残された遺族に温かい励ましの言葉をかけるなど、人情派な一面も見せ、気持ちの良いキャラクターに造形されています。

三章までは今流行りの一視点三人称の文体なのですが、最終章になって突然完全な一人称に変わります。「これは何かある」と怪しい匂いを感じはしたのですが、見事に騙されました。

No.146 7点 猫は聖夜に推理する-猫探偵正太郎の冒険 2-- 柴田よしき 2017/03/05 21:56
前作から、人間視点のサスペンス編がちょっとパワーアップ、というか、ドロドロしてきています。猫視点のミステリ編のほのぼの感と、いいコントラストにはなっているのですが。
このシリーズの魅力は、相変わらず正太郎がかわいすぎるということに尽きます。同居人(飼い主ともいう)の肩に前脚と顎を乗せて一緒に買い物に出掛け、知り合いの犬猫と会話するところなど悶絶します(会話は近所で起きている犯罪についてのことで、決してかわいい内容ではないのだけれど)。

No.145 4点 迷宮 Labyrinth- 倉阪鬼一郎 2017/02/14 13:03
「ホラー、ファンタジーだと思ったらミステリだった」と、その逆では、前者ほうが圧倒的に評価されます。というよりも、後者(ミステリだと思ったらホラー)を読まされた読者は、ほとんど例外なく「ふざけるな」と文句を言いたくなるのではないでしょうか。
ミステリの皮を被った何か別のもの。「ミステリの威を借るホラー」とでもいいましょうか。こういう試みは今後、業界全体で排除していかないと、読者の信用を失う一方だと思うのデス。

No.144 7点 猫探偵正太郎の冒険 1 -猫は密室でジャンプする-- 柴田よしき 2017/02/09 13:16
猫や犬といったペットが飼い主(人間)の言葉を解する世界。売れないミステリ作家の飼い猫「正太郎」は、同居人(飼い主)の周囲で起こる怪事件を、猫ならではの視点で解決していく。
とは言っても、全てが猫視点で描かれているわけではありません。人間視点の話は、一風変わったサスペンス調。猫視点の話は、オーソドックスな本格、という形態を取っています。特に猫視点での話が面白く、内容自体は使い古されたトリックの羅列なのですが、猫や動物同士の会話や猫としてのものの見方を入れてくることで、ひときわ違った楽しさが生まれてきます。ありふれた素材でも、やりようによってはまだまだ面白くできるという好例でしょう。

飼い主のことを「同居人」とあくまで対等な表現をするなど、クールな正太郎がかわいすぎます。ですが、愛猫を失った少女の涙に打たれて犯人検挙を誓うなど、その行動はハードボイルドヒーローそのもの。

私自身が猫好きなため、甘めの点数となってしまったかもしれませんが、同じような猫好きの方にはきっと満足していただける作品と思います。

No.143 7点 イニシエーションラブ- 乾 くるみ 2017/02/08 13:07
「さあ、騙されるぞ」と意気込んで(?)何も考えずに読み進めたため、最後の二行を目にした瞬間は「お前、誰だよー?」と、驚きよりも戸惑いに支配されてしまいました。
その後、冷静になって「騙しの概要」は理解したものの、詳細な構造を求めて解説サイトへ。
いや、凄かったです。ここまで来ると、小説という形を借りたパズルです。
作品の舞台となっているのは、1980年代。現代を舞台にしては、このトリックは成立しません。「A面・B面」という構造が通用し、SNSなど当然ないため、他人の行動を知るには、実際に会うか、固定電話での会話のみ。その固定電話も、ナンバーディスプレイでもなければ(この時代、すでにあったでしょうか。そうであっても、主人公がサービスに入っていなかっただけでしょう)発信者を知ることも出来ない。こういった本作のトリックを成立させるために必要なものが全てそろっていたのが80年代後半。ミステリ的意味のある舞台年代設定。見事でした。

No.142 8点 夜歩く- 横溝正史 2017/01/23 12:25
「らしからぬ」と言っては失礼ですが、意外なくらい「技巧」に走った一作と映りました。現代の作家が書いてもおかしくありません。
「あのトリック」を使う理由を、作中できちんと示しているというのも好感が持てます(ある一定のところまで、読者が読んでいたものが「事実をもとにした小説(作中作)」であるということを明かさないのは、フェアかそうでないか、意見が分かれるところでしょうけれど)。
「絶対に取り出せなかったはずの凶器」「一回りした首切りの論理」と、メイントリックの他にも見所は満載。
犯人が金田一のことを「ナメきっている」のも、読み終えてから思い返すと痛快です。

No.141 6点 名探偵はもういない- 霧舎巧 2017/01/20 18:56
「どんな鍵でも絶対に開けられる能力を持つ人物」とか、ちょっと前の私なら、「ふざけんなよ」とあまりに都合のよい設定のキャラクターに憤っていたかもしれませんが、今はそんなことはありません。「特殊設定」のひとつと思ってしまえばよいのです。前もってそのことが明かされているのでフェアですし。
それよりも本作の問題点は、皆さん書かれている通り、「読前に上がりすぎるハードル」です。〈登場人物表が空欄で読者が書き込め〉〈あとがきはいいけれど、読者への挑戦は前もって見るな(あまり見る人はいないでしょうけれど)〉
「い、いったい何が始まるというんだ……?」
天高くそびえ立つハードルを前に、期待(と一抹の不安)は否応なく高まります。

読了した結果言いたいことは、「そのハードルいらなかっただろぉ!」
おかしなことさえしなければ、技巧を凝らしたなかなかの秀作という印象で終わっていたかもしれません。ある程度本格ミステリ、というか「あのキャラクター」を知っていることが前提で読ませる点は気になりましたが。(こういう「え? 常識でしょ? 〈あの人〉を知らないで本格読んでんの(笑)」みたいなスタンスは新規ファンを拒絶し、ジャンルの先細りを加速するだけだと思うのです)

普通に100メートル走を走ればいいところ、わざわざコース上にハードルを置いた作者のチャレンジ精神は、しかし、讃えられてもよいのではないでしょうか。

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