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平均点:6.33点 採点数:205件

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採点傾向好きな作家

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No.145 4点 迷宮 Labyrinth- 倉阪鬼一郎 2017/02/14 13:03
「ホラー、ファンタジーだと思ったらミステリだった」と、その逆では、前者ほうが圧倒的に評価されます。というよりも、後者(ミステリだと思ったらホラー)を読まされた読者は、ほとんど例外なく「ふざけるな」と文句を言いたくなるのではないでしょうか。
ミステリの皮を被った何か別のもの。「ミステリの威を借るホラー」とでもいいましょうか。こういう試みは今後、業界全体で排除していかないと、読者の信用を失う一方だと思うのデス。

No.144 7点 猫探偵正太郎の冒険 1 -猫は密室でジャンプする-- 柴田よしき 2017/02/09 13:16
猫や犬といったペットが飼い主(人間)の言葉を解する世界。売れないミステリ作家の飼い猫「正太郎」は、同居人(飼い主)の周囲で起こる怪事件を、猫ならではの視点で解決していく。
とは言っても、全てが猫視点で描かれているわけではありません。人間視点の話は、一風変わったサスペンス調。猫視点の話は、オーソドックスな本格、という形態を取っています。特に猫視点での話が面白く、内容自体は使い古されたトリックの羅列なのですが、猫や動物同士の会話や猫としてのものの見方を入れてくることで、ひときわ違った楽しさが生まれてきます。ありふれた素材でも、やりようによってはまだまだ面白くできるという好例でしょう。

飼い主のことを「同居人」とあくまで対等な表現をするなど、クールな正太郎がかわいすぎます。ですが、愛猫を失った少女の涙に打たれて犯人検挙を誓うなど、その行動はハードボイルドヒーローそのもの。

私自身が猫好きなため、甘めの点数となってしまったかもしれませんが、同じような猫好きの方にはきっと満足していただける作品と思います。

No.143 7点 イニシエーションラブ- 乾 くるみ 2017/02/08 13:07
「さあ、騙されるぞ」と意気込んで(?)何も考えずに読み進めたため、最後の二行を目にした瞬間は「お前、誰だよー?」と、驚きよりも戸惑いに支配されてしまいました。
その後、冷静になって「騙しの概要」は理解したものの、詳細な構造を求めて解説サイトへ。
いや、凄かったです。ここまで来ると、小説という形を借りたパズルです。
作品の舞台となっているのは、1980年代。現代を舞台にしては、このトリックは成立しません。「A面・B面」という構造が通用し、SNSなど当然ないため、他人の行動を知るには、実際に会うか、固定電話での会話のみ。その固定電話も、ナンバーディスプレイでもなければ(この時代、すでにあったでしょうか。そうであっても、主人公がサービスに入っていなかっただけでしょう)発信者を知ることも出来ない。こういった本作のトリックを成立させるために必要なものが全てそろっていたのが80年代後半。ミステリ的意味のある舞台年代設定。見事でした。

No.142 8点 夜歩く- 横溝正史 2017/01/23 12:25
「らしからぬ」と言っては失礼ですが、意外なくらい「技巧」に走った一作と映りました。現代の作家が書いてもおかしくありません。
「あのトリック」を使う理由を、作中できちんと示しているというのも好感が持てます(ある一定のところまで、読者が読んでいたものが「事実をもとにした小説(作中作)」であるということを明かさないのは、フェアかそうでないか、意見が分かれるところでしょうけれど)。
「絶対に取り出せなかったはずの凶器」「一回りした首切りの論理」と、メイントリックの他にも見所は満載。
犯人が金田一のことを「ナメきっている」のも、読み終えてから思い返すと痛快です。

No.141 6点 名探偵はもういない- 霧舎巧 2017/01/20 18:56
「どんな鍵でも絶対に開けられる能力を持つ人物」とか、ちょっと前の私なら、「ふざけんなよ」とあまりに都合のよい設定のキャラクターに憤っていたかもしれませんが、今はそんなことはありません。「特殊設定」のひとつと思ってしまえばよいのです。前もってそのことが明かされているのでフェアですし。
それよりも本作の問題点は、皆さん書かれている通り、「読前に上がりすぎるハードル」です。〈登場人物表が空欄で読者が書き込め〉〈あとがきはいいけれど、読者への挑戦は前もって見るな(あまり見る人はいないでしょうけれど)〉
「い、いったい何が始まるというんだ……?」
天高くそびえ立つハードルを前に、期待(と一抹の不安)は否応なく高まります。

読了した結果言いたいことは、「そのハードルいらなかっただろぉ!」
おかしなことさえしなければ、技巧を凝らしたなかなかの秀作という印象で終わっていたかもしれません。ある程度本格ミステリ、というか「あのキャラクター」を知っていることが前提で読ませる点は気になりましたが。(こういう「え? 常識でしょ? 〈あの人〉を知らないで本格読んでんの(笑)」みたいなスタンスは新規ファンを拒絶し、ジャンルの先細りを加速するだけだと思うのです)

普通に100メートル走を走ればいいところ、わざわざコース上にハードルを置いた作者のチャレンジ精神は、しかし、讃えられてもよいのではないでしょうか。

No.140 7点 シャドウ- 道尾秀介 2017/01/19 09:39
伏線とミスリードを巧みにばらまいた秀逸なサスペンスです。
読者を誤認と勘違いの海に叩き込む作者の手腕は非常に秀逸で、まるで詐欺師のようです(褒めてる)。
メインキャラクターの子供が、小学生にしては確かにあまりにしっかりしすぎていると思いはしますが、ここで変にリアルな小学生っぽく描いてしまうとストーリーの流れに支障が出てしまうため、作者は分かっていながらこうしたのでしょう。
私は、サスペンスは作者の「騙しの技量」を素直に楽しむジャンルだと思っていますので、優れた構成の作品であれば、リアリティの問題は十分カバーできると考えており、本作はそれを達していると思います。
この手のサスペンスにありがちな、インパクトだけを狙ったような陰惨なバッドエンドや、「読者に委ねる」という名の投げっぱなしに逃げず、すっきりとしたハッピーエンドに着地させたことも好印象でした。

No.139 5点 カラット探偵事務所の事件簿①- 乾 くるみ 2017/01/17 15:20
「日常の謎」で「暗号もの」という、私が苦手とする二大要素がタッグを組んだ短編が二編も掲載されており、「ううむ」と思いました。(じゃあ読むなよ。と言われそうですが)
最後に明かされる「謎」も、それが明かされることによって作品の見方がガラリと変わるといった(歌野晶午の「葉桜の季節に~」のような)こともなく、後付け感が否めません。
やっぱり私は「日常の謎」が苦手だと再認識しただけに終わりましたが、こういった「やさしいミステリ」(謎解きの難易度という意味ではなく、作風として)の需要は確実にあり、その範疇でいえば本作は間違いなく良作でしょう。好みの問題です。

No.138 7点 幻惑密室- 西澤保彦 2017/01/16 22:45
「超能力」に規定を与えてロジカルに扱い、本格ミステリのガジェットの一部に取り込んだ意欲作です。今でこそ目新しくもなく思えますが、初出版の1998年としは出色な設定だったのではないでしょうか。
超能力を使って何が出来るのか、何が出来ないのか。をはっきりさせているため、超能力といえど、「便利な道具」扱いとして本格ミステリの推理に組み込むことに成功しています。
死体移動のトリック(真相)が、この作品ならではの理由で面白かったです。
本作に関わらず、このシリーズには登場人物のジェンダー感に関わる心証描写が多く、初読当時は「何これ?」と戸惑ったものでしたが、「小説家森奈津子の華麗なる事件簿」(実業之日本社文庫)のあとがきを読んだあとですと、何か思うものがあります。

この「チョーモンインシリーズ」完結していないのですね(2017年1月現在)。シリーズの刊行が途絶えたことで私もすっかり追いかけるのを忘れていました。(シリーズおなじみのかわいいイラストを描かれていた水玉螢之丞さんは2014年に逝去していますね)
ラストに関わる伏線を仕込んだ話なども書いており、それらから、かなり陰惨な結末が待っているような雰囲気だったのですが、シリーズのどれかのあとがきで「必ずハッピーエンドになります」と作者が約束していたはずです。シリーズ最後の「ソフトタッチ・オペレーション」が刊行されたのがもう10年前の2006年ですね。ここまで期間が空いたら完結は絶望的でしょう。魅力的なキャラクターぞろいのシリーズのため残念に思います。

No.137 5点 空想探偵と密室メイカー- 天祢涼 2017/01/16 17:35
蟷螂の斧さんの指摘のように、視点の問題で混乱しました。視点人物がころころ変わるのはいいのですが、視点人物の一人称かのような記述なのに、地の文でその視点人物の名前が出てくる(その一瞬だけ三人称のような記述になる)ことに馴染めませんでした。(素人が書いたネット小説ではなく、プロの編集の目を通しているはずの商業小説で使われていることから、これは確立された手法なのでしょう。私の感性が時代に追いついていないだけです)
メインの密室トリックは多重解決なのですが、フェイクトリックの「それはないでしょ感」と残りページ数から、「これはフェイクだな」とあっさり分かってしまいます。
犯行動機も、ここまでくると「本格ミステリ」ではなく「サイコスリラー」の領域で、斬新ではありますが、ここでも私は馴染めませんでした。
ミステリの名探偵を呼び出す(幻視する)という「仮面ライダーディケイド」みたいな能力が面白く、この線をもっと推して欲しかったです。せっかくタイトルに「空想探偵」と入っているのですから。

No.136 7点 煙か土か食い物- 舞城王太郎 2017/01/12 22:25
いきなり「匣にみっしりと詰まった」ような改行なしの数ページが続きます。一人称で語られる軽快な文体もこれでは疾走できず、「渋滞に巻き込まれたスポーツカー」のようです。が、徐々に渋滞は緩和していきフルスロットル。気が付く頃には引き込まれ、「ひとっ走り付き合えよ」状態になりました。
他の多くの方の書評にあるように、ミステリとしての面白みはなく、本サイトの分類が「その他」になっていることも頷けます。
読む前は「どんだけ尖った作品なんだろう」と怖々読み始めたのですが、最後は家族愛、医は仁道、みたいなテーマが浮き彫りにされ、拍子抜けというか意外に思いました。本当はやさしい優等生が、ナメられないように不良ぶっている。という印象でしょうか。タイトルの意味も「なるほど」と思わされます。

No.135 7点 闇に香る嘘- 下村敦史 2017/01/11 13:38
テーマ性のある骨太の社会派。私が苦手としているジャンルという評判もあり、なかなか手が出なかったのですが、機会があって読んでみました。
上記の言に間違いはないのですが、そのテーマと取り扱った舞台が、後半の本格ミステリ的展開にぴたりと嵌り、このトリックを使うために必要なものだったのかと(もしかしたら、このテーマと舞台に見合うトリックをあとから考え出たと、順番が逆なのかもしれませんが)納得しました。
最初のとっつきは悪いのですが、一旦読み始めたらノンストップでした。真相が明かされたときの最後の反転(まさに反転!)にも唸らされ、考えさせられます。

No.134 5点 本格ミステリ館焼失- 早見江堂 2017/01/07 19:42
これ、途中の枠で囲まれているところ(200ページ近く)は、探偵役の人物が「ずっと喋っていた」ってことでしょう? 凄すぎ。黙って聞いていた依頼人も凄すぎ。
『本格ミステリ館焼失』まさに、「本格ミステリ? トリックとか考えるの面倒くせぇー!」と頭に来た作者が、途中まで考えていた「本格ミステリ作品」のプロットを焼き尽くしてしまったかのような投げやり感がありました。
「まさか!」と思ってみたら、やはり本作もメフィスト賞出身……

No.133 7点 暗黒館の殺人- 綾辻行人 2017/01/07 19:33
ようやく再読しました。
改めて文庫本四冊を机に積み上げてみて、「やっぱりやめようかな」という思いが一瞬頭をよぎりましたが、「ええい、ままよ」と一巻を手にとってページをめくりました。
程よく(?)内容を忘れていたおかげで、流し読みしてもよいところと、「あっ、ここは詳しく読んでおこう」という箇所を敏感に嗅ぎ分け、再読にも関わらず思いのほか楽しんで読めました。
解説でも同じようなことが書かれていましたが、本作は小説という形をとった、「主人公(中也くん)視点のテキストアドベンチャーゲーム」のようなものです。ゲームでも二回目のプレイでは、「テキスト早送り」を駆使しますから。

ミステリとしては、犯人の犯行動機が面白かったです。サイコが入っていて、本格としてはちょっとギリギリな気がしますが、異様な動機をミステリ的材料と考えると、犯人が双子を殺そうとする理由が特に好みです。犯人にとっては、殺害動機が論理的に生まれています。そりゃ、殺したく(殺してあげたく)なるよね。
「館シリーズ」おなじみの「抜け穴問題」もあります。「二つの抜け穴の存在。どちらも知っていたのは誰か?」回答が出かかっていたところに、また問題を混乱させる双子の秘密。彼女たちは文句なく本作のMVPでしょう。

再読を前にしても圧倒される分量でしたが、結局読み続けさせてしまうのは、綾辻の間違いのない筆力あってのものでしょう。改めて偉大さを感じ入りました。

No.132 6点 星読島に星は流れた- 久住四季 2016/12/26 10:50
「トリックスターズ」の作者、一般作品も書いていたのですね。
隕石とそれにまつわる蘊蓄をトリックに絡ませ、他にはない意外な動機とそれにまつわる殺人事件を完成させました。舞台の根本に関わる設定を偶然やオカルトに落とし込まず、犯人の思惑に直結させたのは見事だったのではないでしょうか。

ただ、まだライトノベルの癖が抜けていないのでしょうか。主人公が「妻と娘を亡くした三十半ばの男」にどうしても見えません。誰に対してもタメ口で無愛想。でも周囲の美女、美少女にはモテモテ。そしてそれを「やれやれ」と鬱陶しそうにする。高校二年生のラノベ主人公以外の何ものでもありません。「未成年がタバコを吸ってはいけませんよ」と注意したくなります。

No.131 8点 りら荘事件- 鮎川哲也 2016/12/09 12:13
次々に殺人が起き、どんどん容疑者が少なくなっていく展開は、「これ、どう始末をつけるんだ?」と読者が心配するレベル。
山荘が舞台とはいえ、外部から頻繁に人が出入りし、警察も捜査を行えるという、ゆるい館。
舞台が整うまでは、ちょっと今の感性ではついていけない学生たちのあれやこれやで退屈に感じますが、ひとたび事件が起きたらもう、ジェットコースターです。
登場人物が多いですが、覚える暇もなく、いや、覚える必要のないくらいにどんどん死んでいくので問題ないです。この作品のキャラクターは、死に方とトランプの絵柄で覚えましょう。
そして最後に名探偵星影龍三が暴き出す、「もう、とにかくやばくなったら殺せ」主義で重ね尽くされた連続殺人の真相は、驚きと納得の連続です。これだけミステリが氾濫した現代に読んでも「これはやるなあ」と思うのですから、本作が初刊行された当初に読んだ読者は、さぞ驚いたのではないでしょうか。
歴史的価値だけじゃない。現代にも十分通用する、早すぎた本格の傑作です。

No.130 7点 私という名の変奏曲- 連城三紀彦 2016/10/27 17:06
本格トリックと美しい文体の融合、それが連城の魅力であり、本作においてもそれはいかんなく発揮されていますが、初出が1984年という比較的早い段階だからでしょうか、まだ板についていない感じがします。「美文を書こう」という意識が前に出すぎているというか、文章を目で追ってもなかなか頭に入ってきません。これよりも早くに書かれた「戻り川心中」ではそんなことは思わなかったため、連城はやはり短編型の作家、ということなのでしょうか。「登場人物の心情をつらつらと述べるよりも、どういう状況なのかを説明してくれよ」みたいなことを何度か思いました。
「七人もの人物が、それぞれ同じ人間を殺したと思い込む」せっかくのこの非常に魅力的なガジェットが頭に入ってくるまで、かなりのページ数を要してしまいました。
しかしそれも中盤まで。文章に慣れるころには、ぐいぐいと読ませる力がやはりある作品でした。
トリックの肝は、確かに前段階でフェアにヒントが書かれてはいるのですが、美文に振り回されて(?)、いまひとつ「そうだったのか」という感じにはならなかったことが残念です。
そのトリックも魅力的ではあるのですが、あまりに「ガチミステリ」っぽくて、こういった「リアル系」作品との親和性が低く、浮き上がってしまった感は否めません。(「ガンダム」にいきなり「機械獣」が出てくるような?)

No.129 6点 幽女の如き怨むもの- 三津田信三 2016/10/23 20:27
皆さんの書評でシリーズの異色作として位置づけられるのも納得です。
今までの刀城シリーズとは構成が全く異なり、本作で探偵刀城がやったことといえば、日記を読んで女将さんと話しただけ。これは刀城シリーズではなく、ノンシリーズとして出したほうがよかったかも?
とはいえ提示される謎はやはり魅力的です。戦前、戦中、戦後と十数年間に渡り、都合九回も人が身投げをした、もしくは未遂に終わったという、飛び降りのメッカと化したある遊郭の謎。その中に、戦前、戦中、戦後、同じ名前を継いだある花魁が常に絡んでいる。
最後に明かされる真相は、遊郭の風俗移り変わり的な資料小説の様相を呈していたところに提示されるというタイミングも手伝って、なかなかに驚かされました。「ああ、これはやっぱり本格ミステリだったんだ」という安堵も得られました。
ストーリー作品としては面白く、このボリュームにも関わらずぐいぐい読ませます。でもしかし、やっぱり「本格ミステリ」としては、ギリギリのバランスではないかと思います。

No.128 7点 黒猫館の殺人- 綾辻行人 2016/10/18 22:33
「館の見取り図」は、綾辻のこのシリーズの名物で、不可欠のものと言えるでしょう。当然本作にも冒頭に見取り図が付いています。これは綾辻は悩んだのではないでしょうか。読者は当然、逐一見取り図を見ながら事件を追っていくので、「館」の構造が大まかにでも必然、頭に入ってくるのです。このため、探偵鹿谷が謎解きをする前段階のある記述で、メタ視点にいる読者は、「あれ? 変だぞ」と思います。そこでそっと本を閉じて、その記述のおかしさから、連鎖的に謎が解けてしまう人が多いはずなのです。

「見取り図さえ、見取り図さえなければー!」綾辻は苦しんだのではないでしょうか。見取り図さえなければ、文章でさらっと書いて流せたはずです。しかし、綾辻は見取り図を入れます。本作だけ見取り図がないと、その段階で変だと思われる危険性も考慮したのでしょうが、綾辻はフェアに横綱相撲を挑んだのでした。

本作の魅力は、この大トリックだけでなく、犯人の殺人の動機。密室トリック。と見所は多くあります。密室トリック自体は使い古された手なのですが、それを行えたのは誰か? がテーマのため、陳腐に写ることはありません。手掛かりもしっかりと出します。

騙す意図のない人物が書いた手記なのに、明らかに読む人を騙す記述がある点に疵を見いだす方も多いですが、この手記は、作中冒頭に記されているように、「記述者が探偵小説としても読めるように書いたもの」なのです。意図してそういう記述を省いたと考えることも出来ます。

さて、「館シリーズ」もここまで来て、次はいよいよ「暗黒館」です。恐らく書評を書くのは当分先になるでしょう……

No.127 6点 この闇と光- 服部まゆみ 2016/10/18 18:10
何でしょうか、このもやもや感は。
いわゆる「反転もの」なのですが、作者はネタをかなり序盤から小出しにしていってしまいます。おおまかな概要が掴めたところで、さらなるサプライズが。そして一気に物語は収束に向かうのかと思われましたが……
寸止め、というか、あえて全てを語らない、こういうのがやはり文学の世界では「かっこいいスタイル」というものなのでしょうか。当サイトの分類も「本格」ではなく「サスペンス」となっていますし、実際その通りです。
「何度も読み込んで感じろ」「答えは自分でみつけろ」ということなのでしょうか。すぐに「正当」を求めたがるせっかちな現代人への警鐘。読者の数だけエンディングがある。これが分からないお前はアホなのか。作者が本作に込めたメッセージが重くのしかかります。
投げたんじゃないよね?

No.126 10点 時計館の殺人- 綾辻行人 2016/10/10 21:26
レジェンドシリーズ書評として「十角館」から再読してきた「館シリーズ」も時計館に到達しました。
初読のときは、ダイナミックなメイントリックに「本格ミステリ、ここまで来たか」と、本を閉じてしばらく部屋の天井を仰いだものでした。
再読において、「こんなに厚かったっけ?」と(文庫改訂板にて約600ページ)思い、「数日に分けて読むか」と考えていたのですが、いざ、ページを捲り始めると、ほぼ一日で読んでしまいました。やはり優れたミステリには中断を許さない引力があります。

本作の凄さは、メインである前代未聞の超アリバイトリックにあることは言うまでもありませんが、そのトリックを補完する枝葉の設定の練り込みも見逃せません。
綾辻以降、多くの作家が様々な「館」と、それにまつわるトリックをこしらえてきましたが、綾辻の成功におんぶにだっこして、「館ものだから、ちょっとくらいのご都合主義は許されるだろう」という甘えを意識したような作品が少なくないと思うのは、私だけでしょうか。
綾辻は徹頭徹尾、設定にこだわります。「そこは『お約束』でいいでしょ」と流してもよいところにまで手を抜きません。かくも細かに手を入れられた末、「時計館の殺人」は完成したのです。まるで実際に「時計館」という建物を設計する建築士のようです。
本家綾辻がここまでやっているのですから、フォロワー作品を書く作家には、「そこには触れないのがお約束でしょ」などと逃げずに、真剣に、実際に「○○館」を建築する心づもりで作品作りに当たってほしいと願います。

このメイントリックは、本作以外では決して使われようがないオンリーワントリックのため、綾辻はこれでもかと、このトリックに対して考え得る設定、ヒントを盛り込みました。カップ麺、レコード、カメラ、時計塔の針。読後、これらが意味していたことについて、「そういうことだったのか」と分かったときの納得感といったら、数あるミステリの中でも群を抜いているのではないでしょうか。

本作で数少ない不満点を上げるとするなら、犯人に対する、探偵島田の態度でしょうか。大いに同情すべき点はあるとはいえ、この犯人は、本来の復讐対象ではない人物も、トリックの露見を阻止するためという理由で殺しています。この手の殺人を犯した時点で犯人はただの殺人鬼に墜ち果ててしまうのですから、島田にはもっと厳しく犯人を糾弾してほしかったのです。
ただ、この「トリックが露見してしまう状況」というのが、このトリックをさらに際立たせるワイダニットのため(あの人物が秘密の通路を抜けて見た景色。どんなにか驚いたことでしょう)、綾辻はどうしても犯人にこの殺人を犯させたかったのでしょう。

数ある「館もの」(綾辻の「館シリーズ」だけでなく、フォロワー作品も含めて)の中で、私が知る限りの最高傑作と自信を持ってお勧めできます。

No.125 6点 貴族探偵対女探偵- 麻耶雄嵩 2016/10/05 12:20
あの「貴族探偵」にライバル登場? と思いきや、さにあらず。
もっとも、ラノベの主人公よろしく完全無欠、女性にモテモテで向かうところ敵なしの貴族探偵相手に、対等なライバルなど存在が許されるはずもなく、新登場の「女探偵」は徹頭徹尾貴族探偵の後塵を拝する目に遭わされます。設定では、他にはまともに難事件を解決している実績があるようですが、「本当か?」と疑ってかかりたくなるみじめさ。

いいちこさんの書評に書かれているとおり、「まず、女探偵が必ず貴族探偵を犯人に名指しする」というお約束があるため、(それを成立させるために作者は大変な苦労をしているとは分かるのですが)トリックや推理が極めて人工的な、推理パズルのような様相を呈しているのは仕方がないのですが、ちょっと残念です。

一編上げるなら、やはり「幣もとりあへず」ですね。変化球(麻耶にとってはこれが直球?)で攻めるこの作品。うん、確かにどこにも嘘は書いてない……

それにしてもこの「貴族探偵」シリーズ化されているということは、人気があるのでしょう。単に麻耶ミステリとしての需要なのか、それとも、「貴族探偵」自体にファンが付いているのか。貴族探偵というキャラクターを好きになるのって、どういうファン層なんでしょう? やっぱり女性に人気があるのかなぁ?

No.124 7点 人形館の殺人- 綾辻行人 2016/10/04 17:03
「館シリーズ」の異色作として有名な本作。異色作というか、最後まで読むと「外伝」といってもいいような内容で、大きく評価が分れてしまうのは致し方ないでしょう。内容も、「ミステリ」というよりは「サスペンス」に近く、最後に明かされる主人公の秘密もそれに拍車を掛けています。
問題の主人公の秘密については、「それがありなら、何でもありだろ」と言いたくもなってしまいますが、綾辻もそこは当然気にしていたでしょう。必要な場面以外は、基本、主人公の一人称視点で描くことで、読み手と主人公を同一化させ、驚きの効果を最大限引き出しています。
特に、クライマックスの「島田潔」が登場する場面と、その顛末は、頭をぐらり、と揺さぶられるような感覚を憶えるでしょう。「一人称」で書き続けてきた効果が、ここで爆発します。加えてここで、「中村青司の館、イコール、秘密の抜け穴」という「館シリーズ」だけに許されたトリックが、読者(と作中の人物)を翻弄します。このトリックを検証する場面の真相のやるせなさったらありません。綾辻はこの「禁断のトリック」の使い方を完全に熟知しています。さすがです。

私は「館シリーズ」は、どれから読んでも大丈夫な、それぞれが独立した作品だと(作品としては実際そうなのですが)思っていました。(テレビゲームの「ロックマンシリーズ」のように、どのステージから攻略するかはプレーヤーの自由。みたいな)そのため、第一作「十角館」の次に、何を血迷ったか、この「人形館」に手を出してしまい、「出て来ない画家の名前とか、いやに強調してくるなぁ」と妙に感じながらも同時に、「何だこれは。ミステリかこれ? 思ってたのと違うぞ」と非常に困惑した記憶があり、個人的に大変思い入れ深い作品です。

No.123 8点 迷路館の殺人- 綾辻行人 2016/10/03 15:54
本作「館シリーズ」第三弾は、一作目「十角館」の驚きと、二作目「水車館」の本格風味を混ぜ合わせたようなハイブリッド作品に仕上がっています。
始まりからおしまいまで、様々な形のトリックがふんだんに使用され、「作中作の解決」「作中作の外の解決」「作中作の作者の謎」と、多段階的に謎が解明されていき、最後の最後まで気を抜けません。
中でも、先中作に仕掛けられた例のトリックは、読者を驚かせるため、というメタ目的だけではなく、作中にそうした記述をする理由がきちんと説明されていることに好感が持てます。

そして本作で、作者綾辻は、「館シリーズ」だけに使用が許された掟破りの手段の確立に成功します。その手段とは、ずばり、「中村青司が建てた建築物だから、隠し通路があってもおかしくない」という、本格ミステリとしては前代未聞の、「隠し通路容認トリックの使用」という大偉業です。

だからといって、綾辻が「実は隠し通路でした」などという安易な使い方をしないことは言うまでもありません。「隠し通路」があるからこそのトリック。それを見破る論理というものを出してきます。「転んでもただでは起きない」というのとはちょっとニュアンスが違いますが、「隠し通路が使えてもただでは使わない」ミステリ作家綾辻行人の矜持がここにあります。

他のレビュワーの方々が言われる通り、「首切りの論理」における「血の扱い」のくだりで、真相のディスカッションが一切行われないというのは、読み返すと違和感を憶えます。(我々読者と違い、作中の人物は、「あの人物」が「実はああいう属性である」という事実を認識しているわけですから、特に)
ですが、それを差し引いても本作が抜群に面白く、驚きに満ちた本格ミステリであることに疑いはないと信じます。

No.122 6点 ら抜き言葉殺人事件- 島田荘司 2016/09/27 12:16
文化庁が行った2015年度の世論調査で、「ら抜き言葉」を使う人の割合が、調査以来初めて多数派になったそうです。
この調査が始まったのが1995年。本作の出版はその前年の1994年で。そして、私が古本屋で購入して忘れていたこの本を発掘したのがつい最近と、なにやら因縁めいたものを感じ読んでみました。
さしたるトリックのないタイプのミステリですが、さすが島荘の筆力で飽くことなく読ませてきます。圧巻なのはやはり、作中の読者と作家の書簡と誌面での応酬で、そのタイトルから、ほんわか脱力系ミステリ、みたいなものを想像していたのですが、すっかりやられてしまいました。(笑)
作品の根底にも、時代を反映した、非常にドロドロとした人の悲哀が描かれており、何とも、過ぎ去った昭和、に思いを馳せてしまいました。
それと、内容にまったく関係ないのですが、このカバーイラスト! 昭和感バリバリですが、本作の刊行は平成に入ってから。1994年は平成6年。まだ昭和の香りがあちこちに普通に存在していました。

No.121 8点 百蛇堂―怪談作家の語る話- 三津田信三 2016/09/24 09:23
前作「蛇棺葬」の解説で作家の柴田よしきは、この二冊は「決して前編後編や上下巻というだけの関係ではない」と書いていました。
では何なのかというと、前作(という言い方は的を射ていないのですが)「蛇棺葬」は、本作「百蛇堂」のあまりに長大な作中作なのです。

前作と雰囲気は打って変わって、本作はいつものおなじみの「作家三津田信三シリーズ」の軽快な一人称の語りから始まります。この「作家三津田」の一人称の文は読みやすく、まるで目の前で語ってもらっているかのような分かりやすさで、すっと頭に入ってきて、私は大好きな文章です。
とある出版社のパーティーで三津田は、ある男を紹介され、彼の体験した恐ろしい話を聞くことになります。それが「蛇棺葬」で、この話は後に男の手により実際に原稿に書かれることとなります。この男こそ、「蛇棺葬」の主人公であった「私」です。

本作は「作家三津田シリーズ」の集大成といえる内容で、本作のテーマは「ホラー対ミステリ」です。「ホラー&ミステリ」は、まさに他の追随を許さない三津田の得意分野ですが、その二つの武器を打ち合わせてしまおうという、何とも贅沢な試みです。「マジンガーZ対デビルマン」です。

「ホラー対ミステリ」「因習対論理」「怪異対推理」この戦いに挑むのは、このシリーズで探偵役を務める飛鳥信一郎です。(三津田やもうひとりの友人、祖父江耕助も当然戦いに加わりますが)信一郎は密室からの人間消失の謎に明快な回答を披露しますが……

もうひとつ本作のテーマとなっているのは、「小説におけるホラー」です。
圧倒的に文章よりも映像のほうに分があるジャンルというものはあります。俳優が実際に五体を駆使するアクションだったり、空想ロボットなどのビジュアルが売りになるSFだったり、怪異を視覚的に見せられたり音で驚かせたり出来るホラーもそのひとつでしょう。
ここに三津田は「文章だけによるホラー」しかも「他の媒体では決して真似の出来ない形での怖さ」を見せて(読ませて)きます。

現実と虚構が折り重なった本作の拘りは徹底しており、それは最後の「主な参考文献」にまで及びます。
だからこそ、どうしても作中を跳び越えたメタ視点にならざるを得ない「解説」は本作には不要だったかなー? などとまで思ってしまうのです。(本作も担当した柴田よしきは、非常に楽しい解説を書いてくれたのですが)

No.120 6点 ダンガンロンパ霧切4- 北山猛邦 2016/09/24 08:50
「密室十二宮」も残すところあと六宮。
タイムリミットまで猶予のない霧切は、「3」の「幽霊屋敷密室殺人事件」で顔を合わせた三人の探偵を呼び、それぞれがひとつの事件を担当することで、六つの密室の平行捜査、解決を提案する。
前の戦いでの敵(容疑者)が味方になり、それぞれが個別に敵に戦いを挑むという、ますます少年漫画っぽい展開に。

書店で見た背表紙の薄さから分かってはいたことですが、この「4」でも事件に決着はつかず、トリックが明かされる密室の数も二つだけです。
どちらも大胆なトリックで楽しめるのですが、次巻がいつ出るか分からない連続ものミステリを追い続けるというのはストレスが溜まります。
もうここまで来たら、完結してから一気読みしたほうがいいのかもしれません。

というわけで書評は「ダンガンロンパ霧切5」に続く!

No.119 5点 蛇棺葬- 三津田信三 2016/09/20 19:22
本作と続編『百蛇堂』からなるホラーミステリ巨編。
続編がある、と知らずに読んだら、最終ページに近づくに従い、「(残りページの厚みをチラ見しながら)おいおい、本当にあとこれだけで終わるのか?」と、非常な不安を憶えながら読んだであろうこと請け合いです。
三津田の作品は、「ホラー風ミステリ」と「ミステリ風ホラー」の二系統に分れるのですが、本作は恐らく後者です。「密室から人が消えた謎」といった、ミステリ要素に納得のいく回答は得られるのか?
書評は『百蛇堂』に続く!

No.118 6点 ダンガンロンパ霧切3- 北山猛邦 2016/09/20 19:13
大掃除をしてたら出てきた。買ったの忘れてた。
人気ゲーム「ダンガンロンパ」のスピンオフミステリ第3弾。
「密室十二宮」という派手な煽りが帯に踊っていたので、漫画「聖闘士星矢」のように、十二個連なった密室を次々に解いて先を目指すような展開なのかと思っていたのですが、ちょっと肩すかしでした。
とはいえ、出てくる北山の十八番、物理密室トリックは大胆で読み応え(というか、図解での見応え)があり満足出来ました。

事件はこの巻だけでは終わらず、第4弾に持ち越しです。
というわけで、書評は「ダンガンロンパ霧切4」に続く!

No.117 6点 スラッシャー廃園の殺人- 三津田信三 2016/09/18 13:58
作者得意のホラー風ミステリです。
文章と登場人物の台詞などから、早々と作品全体に仕掛けられたトリックが分かってしまいました。
私はもう、この手のトリックには引っかかりません。過去に痛い目に遭っていますから。
とはいえ、本作においてのこのトリックは、ただ単に読者を驚かせよう、というメタ目的だけでなく、作中にもきちんとした目的をもって使われています。そこのところの工夫は、さすがだなと思いました。

気をつけて読めば、あまりミステリに造詣の深くない方でも、トリックに気付いてしまう可能性がありますので(トリックに気付くということは、フェアに書かれているということですので、決して悪いことではないと思います)「驚きたい」という方は、あまり深く考えずに一気に読んでしまうことをお勧めします。

No.116 5点 異次元の館の殺人- 芦辺拓 2016/09/12 21:03
もっと複雑怪奇なものを想像していたのですが、要は「ループもの」
正しい答えを見つけるまで謎解きが繰り返されるという分かりやすい構造で、安心したやら、拍子抜けしたやらでした。
その都度導き出される答えは、「針と糸」の物理的密室から、虚言、入れ替え、考え得る限りのパターンが出し尽くされます。最終的な真実は、それら全てが収斂したともいえる、本格の鬼、芦辺拓に相応しい決定版なのですが、事件全体が凝った構造であるが故にこぢんまりとした、若干肩すかし的な感があることは否めません。
ここまでやったなら、最後まで思い切ってアクロバティックに、異次元が関与しないと実行不可能な超常的トリックを真相にしてもよかった気もしますが。

関係ないですが、私は「ループもの」を読んだり観たりするたびに、「正解にならなかった世界はこのあとどうなるんだろう?」ということばかり気になってしまいます。
物語の視点はあくまで主人公(語り手)の主観のみのため、「不正解(失敗)」の世界は途端に主人公の目の前から消えてしまいます。が、それはあくまで主人公の主観であって、例えば、海外旅行から帰り、海外の異国が自分の目の前から消え失せたとしても、その異国が消滅してしまうわけもなく、自分という主観がなくなっただけで、異国とそこに住む人々の生活は続いています。当たり前ですが。
本作の語り手、菊園が推理に失敗した平行世界では、真犯人が完全犯罪を成し遂げて悠々と暮らしているのかな。などと思いに耽ってしまいます。

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