斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.67点 採点数:856件

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採点傾向好きな作家

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No.856 4点 仮面病棟- 知念実希人 2018/12/08 19:22
【最初に伏字ネタバレ】      どう見ても▼▼以上に怪しい■■が「●●側の人間でした」というだけではなあ、ちょっとカックンだわ。。       カタルシスに欠ける中途半端な結末、の割にストーリー展開に攻めの姿勢を感じる、だがその結果なんだかアンバランスで衝撃度低。 これを普通の先褒め法で「ストーリーは攻めてるが結末いまいちで衝撃低い」と言っちゃうと何だか微妙に違う、そんな肉離れ起こしそうなガチの中途半端。 折角のディープ社会派因子さえどういうわけかサスペンスの単なる引き立て役に。 でも読んで面白い読みやすい。子供の守りしながら隙間時間であっという間でしたよ。もっとイカした作品を書くポテンシャルを感じますよ。 最後に、これもネタバレでしょうが、男女の機微要素が逆ハードボイルド過ぎるのは、そこがメイントリックの一部であるのが見え見えである事を度外視しても、萎えました!(これもやはり衝撃弱めるアンバランスの一要素)

No.855 7点 逃がれの街- 北方謙三 2018/12/05 23:48
「心配すんな、俺の足のところさ。」 “足のさきで、紙袋に触れて音をさせた。”

ヒロシ(子供)の正体は誰なんだ? 親子の問題ってやつが一つ前面に押し出される物語だけに気になって仕方が無い。それと、主人公は何故そこまで敵を殺すことに抵抗が薄いのか(隠された過去に何が?)。。なんて考えながら読んでました。。 スリルと感動を求めるべき一読者の立場を忘れて、そんなものをかなぐり棄ててもむしろ主人公たちの生活の平静だけを本気で求めてしまう。なんて高圧力のリアリティだ!  ラストシーン、一面の雪のイメージのせいか不思議と静謐な感覚なのが大いに救い。 だがこの結末は決してミステリ流儀ではないな。 エピローグで”その人物”ばかり掘り返すのは不満。むしろあの”おっさん”の現状と行く先に光を当てて欲しかった(過去はそっとしといて)。 でもいいさ。 痛切人情と冒険持続で読ませまくるサスペンス小説の秀作でありましょう。 8点に大きく迫る7点を。

最後に、kanamoriさん仰るように「初秋」に感動する人なら本作にも鉄板の感動要素があると思います。(かの作同様、本作もハードボイルド・ミステリとは違いますな)

No.854 6点 シカゴの事件記者- ジョナサン・ラティマー 2018/11/26 23:07
豪快過ぎる犯人設定に納得が行きません(笑)!! 登場人物一覧表を見て”こりゃ警察小説の新聞社版か?じゃあ真犯人もその手の。。”と思ってたら、まさかの。。。。 いやいや、探偵=最有力容疑者=事件の担当記者という豪快構造は面白いですな!! (←これについては【ネタバレ的補足】を最後に書きます) 少し前に書いたP.マクドナルド「エイドリアン・メッセンジャーのリスト(ゲスリン最後の事件)」もそうですけど、ハリウッド暮らしが長かった往年の推理作家が戦後に満を持して復活、となると映画シナリオ経験の影響もあってこういう(空さんも仰る)ドタバタコメディを書いてしまうもんなんでしょうか。ま少なくともハードボイルドではあり得ないですw しかし、終わってみれば物語の外縁部に放ったらかしの登場人物が多いこと多いこと。

ところで本作、まさかの再読でした。とは言え小学校高学年の時節、親(題名からして父の方かなあ..)からもらった創元推理文庫を無理して読んだら全く頭に入らなかったもので、遥かな時を越えてリトライしてみたら案の定、ワンフレーズたりとも記憶にございませんでした。 クリスティとか、子供なりに当時から読めたのもあるんですけどね、やっぱこういう内容だとある程度経験を積んでこそ意味の通じる部分の比重が高いんでしょう。そういや『処刑6日前』なんかは本作より前に学校図書館のジュヴナイルで読んだなあ、たしか。当時は同じ作者とは知らなんだ。

【ネタバレ的補足】
探偵役が途中まで「自分が犯人かも?」と疑いを残しているのもいいですね。しかも当事者でありながらそれを記事に書く、って倒錯した焦燥のスリルがやっぱりね、ミソですよ。

No.853 4点 贖罪- 湊かなえ 2018/11/25 09:47
渾身の一筆書き、いい感じだ! でもミステリとしちゃしっかり落ちてない! イヤミスではないイヤノベル!! 湊君のイヤの勘所はミステリと巧みに溶け合ってないとセンス・オヴ・ワンダーのセの字も無えだ!!「実はそんなに●●●じゃありませんでした」的ひっくり返しがなんとも、詰まらん。 弱い! もっと胸を突く大真相を!! いや違う、目を疑う蜃気楼の舞台裏を!!!

No.852 6点 聖アンセルム923号室- コーネル・ウールリッチ 2018/11/24 11:31
枯葉のように軽くも、心に残る物語を秘めた一冊。巻末、都筑氏の「(作者も銘打つ通りミステリではない本作が何故ミステリ叢書に入っているのか、という質問は)すでに本文を読み終わって、この解説を読んでおられる読者からは、出ないはずで、なぜ出ないかは、本文をお読みになればすぐわかる」がエヴリスィングを物語っていよう。

20年代末(もうすぐまた20年代がやって来る!)の社会事象に搦めとられて今にも自殺せんとする実業家の淡々としたユーモアと勇気の物語がいちばん心に残ります。民族ネタできわどく落としたあのショート・ショートは何とも捩れた感慨をくれました(これぞミステリ型感動)。 若い二人の衝動結婚と詰まらない別れの話はどうでもいいが時の流れを見せてくれたからよろしかろ、戦争を契機とするバカみたいな民族対立エピソードも哀しきスパイス(アメリカの公用語は当初ドイツ語になるかも知れない流れだったんだぜ。だいたい国名からしてイタリア語じゃないのさ!)。 悪党没落心理劇は適度にスリルとミステリ性があって良し。 最終作を怒涛のクライマックスにしなかったのも素敵。

No.851 8点 眼の気流- 松本清張 2018/11/23 10:25
眼の気流/暗線/結婚式/たづたづし/影   (新潮文庫)

怨念と犯罪のストーリーが巧みに躍動し0909(ワクワク)させる「表題作」と、強烈に暗く後ろめたいムードで押し尽くす「たづたづし」が何と言っても白眉。特に後者の、後を引く煙った薫りの力強さと言ったら無え。同じ暗闇話でもサスペンス以上に感慨がじんわり来る「暗線」も素晴らしい。「結婚式」「影」は本来ならちょっとした小噺を清張流に重く深く心理の底まで沈めた様な作品。後者はアンコールピースの味わいも。佳き短篇集と言えましょう。

No.850 8点 佐渡流人行- 松本清張 2018/11/19 22:32
腹中の敵/秀頼走路/戦国謀略/ひとりの武将/いびき/陰謀将軍/佐渡流人行/甲府在番/流人騒ぎ/左の腕/怖妻の棺  (新潮文庫)

表題作は圧巻の時代ミステリ。結末が見えてるとか伏線がそのまんまとか言うのは野暮。サスペンス強度を最大に上げる為わざとそうやってんだから。これだけ理不尽な時代イヤミスでありながら、逞しい救いの突風を吹かせる終結には最高の余韻が。 単純な主題に収斂させない物語の重層性と言い、やはり本作こそ白眉。

どことなく連城っぽい題名からは想像つかない最後のドタバタ劇「怖妻の棺」は視界の霞む高速展開と言い濃密な人情風景と言いなんだか凄い。エンディングは最高に爽やか。たまにはタバコが吸いたくなる一品だ。

ダークサスペンスからぎりぎりハッピーエンド(??)の「甲府在番」や滑稽バイオレンス「いびき」、歴史サスペンスのこれぞ魅力満載「陰謀将軍」に痛快人情アクション「左の腕」、どれもこれも壮年清張の筆冴え渡り盤石のラインナップ。 「腹中の敵」「戦国謀略」なんかはちょっと、氏にしては当たり前すぎる感もあるが。。突き上げる心理の意外性でサスペンスをより加速させて欲しかったが。。やはりスリルは有りつまらない代物ではありませんからこのあたりもまあ満足。

戦国末期武将、江戸泰平の役人、罪人に無宿人、流刑者、そして市井の者たち。 色んな意味で”流された”人間の話が目立つ。 そこに微妙な統一感が醸し出されている一冊と言えるか。

No.849 7点 貸しボート十三号- 横溝正史 2018/11/11 00:45
本格興味を唆る破格の対称性を孕んだ事件構築の凄みに、ユーモアや青春描写の無骨な優しさまで含み実に無駄の無い、中身の締まった快心の一打。容疑者配置の充実ぶりも光る(一部学生達の書き分けがより鮮明であれば尚良し)。真犯人披歴場面の捻りある趣向も瞠目にアタイ。ただ、入り組んだ真相に若干(これだけ爽やかな青春ストーリーでありながら)無理筋のバカミス性が入り込むアンバランスは異物の感触。。それと、これ言うとネタバレの一種かも知れませんが「十三号」という番号に特に意味が無かったのは、ま仕方無かろう。なんとなく「製材所の●密」を無意識に連想してたんだけど。。。ラストシーンは、イイね!(7点)

ところで私が読んだのは春陽文庫の横溝正史長編(うそつき!)全集からですので、角川文庫とは異なる併載二篇にもいちおうコメントさせて戴きます。

人面瘡     
のっけからストーリーさかのぼることさかのぼること時系列幻惑ウヒェー。眼の病って、絶対何かあると思ったら、まさかそういうアレかァ、んン~ん。。 人面瘡(と妹への罪悪感)の正体は何気に想像を超えましたよ、もっとおとなしい真相と思い込んでたもんで。(7点)

首   
前半は退屈進行なんだが後半はきびきびと。情景も浮かぶ(その割にメジャー映画撮影隊の存在は肉体感がいまひとつ)。 人情話のくせに(ちょっと複雑な)トリックの根幹がむしろ人情のベクトルに向かってないのが、、、斬新というよりは残念。心理的に噛み合ってないやね。でも、特に金田一によって露わにされる人情のところは沁みる。ラストもなんだかいい。(6点)

No.848 6点 エイドリアン・メッセンジャーのリスト- フィリップ・マクドナルド 2018/11/07 12:57
旧題「ゲスリン最後の事件」。今は改題済みと言え「最後の事件」でっせ、旦那お好きじゃないですか、「最後の事件」。

ユーモアと友情、得体の知れないサスペンスに奇妙な形の謎。 50年代末作という仄めかしもあり、これまさかスパイ物。。。かと思わすような大規模事件(事故?)発生。そこで命を落とした名士メッセンジャーが遺したリストには共通性の見当たらない人名(職業/居住地付き)が十も羅列。。。 こいつらは誰たちなんだ? 殺されるのか? 死んでるのか? 着実に展開する捜査模様に魅力あり。 ムスー 笑 ムスワー 笑々 あのカナダ人のオマンコ野郎 笑々々 くすぐりがいっぱいあってほんと笑っちゃったりあきれたり。 ルコックってww

創元推理文庫解説の瀬戸川氏も書いてらっしゃる通り、本格ミステリ黄金時代にデビューし、ハリウッドでの長い脚本家生活を経、久方ぶりに往年の名探偵を再登場させた(1959年)PMならではのパロディ趣向全開、カラフルで馬鹿らしくて愉しい物語です! 断固、本格ミステリではありませんな!!
  
最後にもっかい言うときます。「最後の事件」でっせ。。(しつ恋) 

No.847 8点 魍魎の匣- 京極夏彦 2018/10/31 22:58

「お弁当」という当たり前の単語が・・・こんなにも・・・・(本の形状じゃありません)

処女長篇『姑獲鳥の夏』に違わずというか、ぶれないスタイルですが、内容の深さは結構な差で二作目のこちらと感じました。読みやすさは変わりません。まるで大衆文学の理想郷です。

読中ふりかえるたび、驚きと背中合わせの納得と、引き換えに却って深まる謎。。。そこに時系列操作への確固たる意志。この長い長い物語の中でそいつをやられるとクラクラ来る度合いも殊更に罪深い。やはり、小説分量もトリックのうち、と来やがるんですね。 探偵役候補が四人もいるかの如き麻雀蜃気楼も心地よし。気になる気になる”前半部略”連打も効きました。 そこへ来て今度は”以下略”の、奥が見えぬ追撃。。

「あんたの言葉はーーー 少しは届いていたぜ」
「今朝ーー 五つになったんだ」

消失トリック。 その片側は驚くほどショボイもの。

中盤のオカルト談義では近年のLGBT論に通じる痛恨の”誤解解きたい”ディザイアーの蠢きが刺さりました。 しかし、警察手帳に入れてたんかい、「それ」(笑)。

消失トリック。 ところがもう片側の。。。。。。。。。。。。。。。。


No.846 6点 東西ミステリーベスト100- 事典・ガイド 2018/10/20 23:42
さほど思い入れは無いんですが、何気に面白く読んだものです。
セレクションの保守性もまたよろし。

No.845 8点 日本ミステリーの100年- 評論・エッセイ 2018/10/20 23:39
“時間や経済と相談して、ぜひたくさんの作品を読んでいただきたい”

著者は山前譲。 1901(明治三十四)年に始まり、大正、昭和を経て2000(平成十二)年で終わる一年ごとのエッセイ風歴史スケッチ。ガチ研究書的ディープな知識は求め得ないが、拙者の様なライトユーザには充分、時々パラパラめくるだけで何だかいい気持ちでタイムスリップ出来てしまう、得難い一冊であります。 エッセイの他にその年の代表作(古い時代となると現在忘れられている作も多くなかなか興味深い)、ミステリ各賞の受賞作一覧、また日本ミステリ史と社会一般の対照年表 が付き、佐野洋の生まれたのが野口英世の逝った丁度十日後であるとかが分かる。大阪圭吉が没したのはヒトラー自殺より後か。。 更に昔の雑誌や単行本の表紙写真も多数掲載。守友恒『幻想殺人事件』だの『名作』昭和十四年十一月號だの、嗚呼面白い。 一見軽い本のようでいて、実は結構内容詰まっていますね。 副題の「おすすめ本ガイドブック」ってのは微妙に本作の趣旨とズレてますけどね。

No.844 7点 黒い鶴- 鏑木蓮 2018/10/15 23:32
帯に謳われる「純文学ミステリー」って事も無いと思いますが、味わい深い良い文章です。どことなく連城三紀彦を連想させる(時がある)作風ではありますけど、そこまでキレキレではなく、むしろゆったり鈍めの魅力があります、この短篇集(十周年記念オムニバス)を読んだ限りでは(長篇はどうなんだろう)。医学系を中心に自然科学の勘所を巧みに操った物理トリックを押し出しながら、小説としては心理に軸足置いた、そんな素敵な作品群が並んでおりますね。

黒い鶴/ライカの証言/大切なひと/雲へ歩む/魚の時間/京都ねこカフェ推理日記/あめっこ/誓い/水の泡/花は心 (潮文庫)


以下、順不同御免(十篇中七篇だけ)

某作(7点) 。。。。内容は面白いんだが語り口が何だかもっさりした話だなあチャンチャカチャンてが? って思ってたら、意表を突く鮮やかな幕切れに討ち取られました。残酷小噺の味わいで締めますね。してみると全体の9割を占めるもっさり部分は全てミスディレクションって事か。。。しかし、あの様な特殊状況の人がそんな、無防備な事しますかねえ、ってちょっと引っ掛からなくはない。いっけん抽象的な何かに思える題名の意味するところ、分かってみると怖い怖い。

某作(7点)。。。。医学ミステリはエエなぁ。山風思い出しまふわ。話の運びはなかなかスリリング、ながら、トリックはともかくアレはもう普通に推理クイズ流儀のナニなんじゃけど、、結果この重みですよ。 んでやっぱ最後の一文がキツくのめり込むんだな。やばいね。

某作(9点)。。。。構成がある意味レイラ(デレク&ザ・ドミノズ) のような、不思議構成の直角折れサスペンス。かと思ったら、おお。。。。。。ん~~~こりゃガツン来るね、変則叙述物理トリック炸裂だ!! 本短篇集で一押し!!!

某作(8点)。。。。最後にもう一捻り半無くて一捻り弱さえ無くて充分。日常めいた謎の提示そのものが何故かたまらなくダークなせいか、こんなホワイトエンディングであっても(?)、いや、そうであるからこそか(?)、凄くいいミステリ。 しかし、題名と内容とのギャップが。。。(笑)

某作(7点)。。。。ほっこりやんわりの展開から、じんわりともやもやが同居のエンディングへ。最終コースまで心温まる物語ながら、心温まるだけの終結でないところが良い。

某作(6点)。。。。期待持たせとくチカラはなかなかだが、映像技術に纏わる綺麗な伏線がラスト直前やっと登場したりして。。。 最後の台詞に微妙な洒落(なのか?)を残す洒落っ気はどうなのか。

某作(8点)。。。。まさかのクリスティ技、極められました。旅情もいいね。


仏教で言う八苦の五苦以降、すなわち
愛別離苦(あいべつりく)… 愛する者と別離すること
怨憎会苦(おんぞうえく)… 怨み憎んでいる者に会うこと
求不得苦(ぐふとくく)… 求める物が得られないこと
五蘊盛苦(ごうんじょうく)… 五蘊(色・受・想・行・識 = 人間の肉体と精神)が思うがままにならないこと
の4パートに各作を割り振るという凝りよう(後付けの筈だがこじつけ感はあまり無い)で、更には全作著者本人のルーブリック(若干おぼこい)が付くというゴージャスな構成美?。。が活きているかは微妙ですが、こういうのも珍らかで面白いしアリでしょう。

作品によっては、京言葉に北東北弁と言った言葉の魅力もリアリティたっぷりに充満します。特に後者、「はだく」じゃなくて「はたく」なんだよ、分かってるねえ、と思わず作者の肩をはたきたぐなりまスた。

No.843 6点 最後の一壜- スタンリイ・エリン 2018/10/13 10:58
エゼキエレ・コーエンの犯罪/拳銃よりも強い武器/127番地の雪どけ/古風な女の死/12番目の彫像/最後の一壜/贋金つくり/画商の女/清算/壁のむこう側/警官アヴァカディアンの不正/天国の片隅で/世代の断絶/内輪/不可解な理由  (ハヤカワ・ミステリ)

有名な表題作を始め、洒脱なフレイヴァでシャープに魅せるピースが並びますが、私はむしろ重厚な味わいの「エゼキエレ・コーエンの犯罪」「12番目の彫像」が好きですね。特に後者は不思議な奥行きがあってスィヴィレます。展開がドタバタでうっかり笑ってしまう悲劇「不可解な理由」で〆るという悪だくみも素敵。 「最後の一壜」のオチは。。。ユルくて心動かず。もう一ひねり半できなかったものか。 でもいい寡作家さんです。

No.842 7点 スターヴェルの悲劇- F.W. クロフツ 2018/10/08 14:28
「嵐が丘」を思わせるヨークシャーの荒野(ムーア)に建つスターヴェル邸で強盗放火三重殺人。第一容疑者(ホンボシ)は被害者の一人でもあり悪評芬芬の使用人。ところがこやつはぐんぐんの体で物語の中に生き還る。挙句の果て’実は生きてんじゃね?’との疑惑にフレンチも照準を合わせるが。。。 クリスティ的人間関係煙幕を俗物系ならではの渦へ巻き込み返した、これぞ心理的物理トリックスプラッシュ全開の眩しさ!真犯目星が狂っていたからこその結末意外性と意外な冒険アクション展開も見逃せない、が、そこが同時に本作の弱点を晒しちゃってるのも確か。こりゃ諸刃の剣だ。 とは言え全体通してたいへん面白い本なんだぜ。’指輪が降って来た’エピソードとミッチェル主席の粋なアレも忘れ難い。 やっと思い出して取ってつけたかのようなラスト一文さえ心地よし。もう少しで8点行った(7.4超)。惜しい。 或る場面でスコッチソーダをオーダするフレンチに、俺も乾杯だ!

創元推理文庫巻末の、旧いクロフツ鼎談(河太郎先生登場)&エッセーは良いね。

No.841 6点 流星ワゴン- 重松清 2018/10/06 22:58
連れションしたら、握手は不要。。 何ゃらふにゃふにゃした幽霊+時間移動+家族愛ファンタジー。設定に不備だか陥穽だかハナっから気にしてない。ご都合が過ぎるゆるゆる展開に、ミステリ興味と言えば辛うじての痕跡マイナスα程度だが、何故かしらちょっと感動(死と未来と愛に纏わる話だしな)。深い味わいの余韻には掴まれないけど、それなりにエア泣けた。 バカだな、主役(こいつ)。。。 だけど“寂しい笑顔にはならないよう気をつけた”ってのはまあ、上出来だったよ。

小説として良かったのは、中盤より蠢く、変動山脈の嬉しい秋便り。 嗚呼、変動やら変化こそ、存在なる事象の偉大なる母胎や。 そこへ忍び寄る仄明るい混沌と、いかにも文筆露出狂らしき叙述ミスディレクションの芽生えエンダハウスよ。。

「これ吸うたら、駅まで行くか」 ←ノンスモーカーの拙者には最高に憧れ沁みる一節。

終盤寄りまでクリスマスキャロルやら素晴らしき哉、人生!やらを連想させときながら、そのキラキラした予感は最後に。。。。。。       大人にとって、今よりも未来を見つめる比重が高ければこそ、そこには地道な風景が広がるから、ってことなのか。

No.840 6点 警官嫌い- エド・マクベイン 2018/10/02 22:57
メイントリックは「それ見たことか」だし
犯人の行く末は明瞭でモヤモヤしないし
上手に作った甲類酎ハイみたいな本。悪くないぜ。

“殺人というのは最も変わった犯罪なのだ。 人間の生命という、どこにもあるものの窃盗だからである。”

本格味を引き摺って、警察小説として中途半端にも見えましょうが
何しろサブジャンル黎明期なんですから、自然の事です。
暴力教室、カート・キャノンを経て愈々登場『87分署シリーズ』第一作、からいきなり死に行く仲間を何人も見送らねばならぬ切なさよ。。。。

No.839 7点 夏のレプリカ- 森博嗣 2018/09/30 12:04
誘拐と失踪と誘拐犯殺害の話。 前作「幻惑。。」と裏表同時進行ってギミック周知こそ、真犯人隠匿の絶妙なミスディレクション、かも。 そこへ来て、四方の靄を吹き飛ばさず彷徨ったまま締めるエンディングが印象的(どこかで続編との邂逅を予感せずにいらりょうか)。 “表層部は上の空”、パークサイドは夢の中。。 まあ、無理ある部分もかなりあるですけれどね、おいらは気になりません。

第14章の5の後半と、続く6の前半~中盤の言説連射はいいねえ。 そして時制を一瞬だけ白黒紛らすあのスライハンドには息を呑みました。

終盤寄り、たとえばマーロウとはまったく向きの違う格好良さ、しかしどうしてもマーロウを連想させてしまう決めまくりの物言いを自然の揺らぎで連発。 かと思うと、撞いて響いたかと戸惑ういかにも青臭い従来風言説がフォローしてくれてみたり。 いやあ。ゃッぱぃ面白ぃ、この人のドキュメントは。 「穴とは何か?」だの「あの学説は今」だの魅力的なアイディア投げ出しワードも頻出。 ナウいね。

うっかり書きそびれそうになりましたが、変化球だけど変格とは行かない本格ミステリとして、かなり面白い作品だと思います。

No.838 8点 白昼の死角- 高木彬光 2018/09/29 03:16
「何年かして、何度か生き還ってからまたおいで」

この小説には、ぶっとい一気通貫の味がある。 時勢に合った悪事そのものより、悪事を時勢に沿わせる戦略がミソゆえに、物語として古臭くならないのが素晴らしい工夫。

“たしかに、彼が悪の道に徹しようとする限り、これ以上の伴侶は見つからないかも知れない。ただ。。。”

まるでヴァギナとペニスのように裏表ぴたりと合った、二つの距離を置いた陳述にシビれた箇所があったな。。直近のトリックへのちょっとした隠喩を引き合いに。。

“「知りません。それだけはおぼえがありませんよ」 七郎は無限の感慨を押し殺して答えた。”

物語の引き際も遅すぎず早過ぎず(特に後者!)。 どういうわけだか爽やかな後味が引きずる、悪漢小説の黄金遺産です。

No.837 8点 ナイルに死す- アガサ・クリスティー 2018/09/26 05:32
欺き尽くすにあたっての、疑心を唆る前以て感、じわじわデスティニー感、半端ナッスィンヌ。 さてこっから書くことはおそらくネタバレですが、、、、 見え透いたミスディレクションとカラフルな賑やかしを兼ねるように、本筋事件の犯人以外にも悪い奴や困った人がいっぱい掻き回してくれるのが面白い。 そして事件真相外の意外な人間関係やその展開も。それでもドラマに浸り過ぎずあくまで本格流儀の人物設定なり性格描写に抑えているのが良い。いかにもアガサクらしい、良い意味で彼女の典型過ぎる長篇だべっちょ。(ほんとは真犯設定に大きくもう一ひねりあっても良かったよ。。。。。本筋とそれ以外の事件の背景を大胆に繋げたりとかして。実際少しだけ繋げてるとこもあるけど) 
代表作ですよね。

No.836 7点 脂のしたたり- 黒岩重吾 2018/09/10 23:40
「そうね、何時もそう思って生きているから、運も強いのね。私も見習わなくちゃ」

昼間っから情婦(おんな)の部屋にシケこむ証券マン。とある斜陽映画会社株買占めの噂を握った彼は、ゆくゆくは巨万の富と痛いくらいの自由を手中とすべく数多の女たちの様々な助力を得て爆発的成功への階段を上り続けるが。。。。

とまあ、色と欲まっしぐらの男が主人公なんですが、金の力で女どもを組み伏せようとする脂ぎったくそおやじがフォッフォッ。。とほくそ笑むのではなく元々女性にモテる若い男(昭和三十年代の30ちょいだから年増に差し掛かってるか)が最高にシビれるスリルを求めて投機の道へ、、、って筋のせいか何とも意外に爽やかな口当たり。 次々に登場する女達の造形も技巧豊かに描き分けられておる。それなりに穏当な女やちょっとヤバい女、可愛い女に凛とした女、美人女優、色々いるが、中でもいちばんキッツいのは。。。 まとにかく、川崎フロンターレのパス回しの様な主人公の女崩し高等篇にはグッと来ますよ。ややこし伏字の思わせぶりに笑っちゃう箇所もあり素敵。

株価吊り上げの黒幕は誰か、そいつを黒幕にした過去とは何か、経済スリラーの味わいと速力で犯罪めいた何物かが蠢き喘いでそうこうするうち、靄の掛かった人間関係の隙を突き、事業陰謀の見え隠れの端に、いずれ起こるわけです、殺人が。(嗚呼、この被害者。。。。) 比較的展開のゆったりした前4/5くらいでさえ全くタレること無く激しく面白いんだけど、最後1/5で突如加速するスリルがもうね、たまらんのですよ。エンディングも。。。いや、言いません。 まぁ読んでみんさい。 株式市場、熱過ぎるぜ。

No.835 7点 真夏の方程式- 東野圭吾 2018/09/05 12:31
方程式だけでは実際の自然環境に対応できない、加えて根気強い実験を経ての実証が必要だ、人生に於いてまた然り、わかったか、坊主。 そんな意味がこの表題に込められているのでしょうか。 過去を席捲するダークな真相を、爽やかな夏風を浴びて叙述し切った、綺麗な作品です。 “誰かの人生が○○○しまうかも知れない”なる変則フーズダン(誰が被害者)の趣向が、表立っての殺人事件とはまた別の謎と感動を紡ぎ合わせる素敵な物語でした。 地味ながら着実な、本気の泣ける物理トリックを暴くために、読者側に放たれた抉りの深い心理トリックの戦慄と、そして。。。。

本作、東野らしく仕掛けて来る気概は感じるものの、振り返ればそれなりにありがちなミステリ真相の組み合わせではある。。(どちらかと言うと、前述の変則フーズダンの訴求力を加算しても、結末より展開の方により強い仕掛け感があった)のですが、真夏に真夏の話でキメたせいか頭がぼんやり痺れて読中そのへんよく分からなかった。。 が、公平を期すにあたり0.8点減。

ケータイが壊れた件はツッコミどころ真正面の大笑いだったが、ここが事件”直結”の伏線を兼ねていれば、もっと泣ける話だったろうなあ。。。

No.834 7点 青き犠牲- 連城三紀彦 2018/08/30 20:19
ツッパリ高校生の大出撫洲夫(おおいでぶすお)が、父の羅哀牡(らあいおす)を褒め殺し、母の飯岡ステ(いいおかすて)と刎頸の交わりになる渋谷系痛快アクション。

なワケがありません。

こんだけ露骨に『オイディプス王』と小説内で喧伝され、いかにもそれらしいエピソードが奔出すればこそ、いやしくも連城が律儀にその線をなぞっておしまいのわけがなかろうよ、、、とわざわざハードルを上げるだけの流石の担保がこの作者には在る。

ふつうなら普通に主役級のちょっと凄いアリバイトリックをまずまずの脇役にまで後退させた残酷過ぎる反転大真相。。。。これだけ複雑な経緯に呑み込まれた闇黒水域を泳ぎ渡りながら、どこか割り切ったコマの動きを見せる主要登場人物たちが不思議な魅力を放ちます。 ところで、ラストシーンは光明への一歩なのだろうか。。。。

安易に”叙述トリックのイヤミス”などとは絶対に呼ばせない、何とも詳述し難いハガネの様な強い意志の薫り来る一品。

夏のおそうめんのようにスルスル行けてしまう、あっという間の長篇でもありまする。

No.833 8点 わらの女- カトリーヌ・アルレー 2018/08/28 20:40
「やはり、われわれの利益は一致しているんですね」

爽やかイヤミスのシャンパン吊るし呑み。 嗚呼いやらしい。

“彼女は既に、彼の娘だった”

事の契機(きっかけ)は先のドイツ大敗、女の野心、或る魅力的な新聞広告。物語途上より会話のそこかしこにマーロウ的物言いへの高らかなフランセーズ対抗策が。。と思えばいつしか地の文まで余裕の侵食だぜ、プラス思わず庇い上げたくなる情(センティメント)への明日なき奔走が、、目にしみるぜ。

「しかし、細かい事実が、あまりにきちんと合いすぎますよ」

引用しようにも追い付ききれない最高最悪の、まるで長過ぎるエピローグめいた”あいつ”の大演説には圧倒されました。

「そうなったら、われわれの会話はごくつまらなくなってしまう」

その昔NHKの連続ドラマ(舞台を日本に移しての翻案)で、ミステリ好きの母と欠かさず一緒に観たものです。まるで歌舞伎の見せ場のような屍体運びシーンが最高にアンフォゲッタブルですが、原作小説でも(演出が違うとは言え)あのシークエンスのスリルと決定力と言ったら(!)、物語の中核とはこういう事だ、という良い見本ですね。あの知略と絶望の断崖絶壁のような結末も、この中核部分とぴったり隙無く呼応しているからこそです。

「あの女はばかですよ」

ああ怖かった、ノン、恐かった。

「そんな事までするには、どれだけお金を好きになったらいいんでしょうね」

歴史的価値の予兆を初めから蹴破り尽くしたかのような、バランスほぼ完璧な小説の暴れっぷり。これは唸ります。

短編臭さを露見させなければ(或いは高密度短篇に仕立て上げていたら)9点だったな。
※その上で、あまりに初歩的な法的事項ミスを小説として巧妙にクリアしてたら、、10点かも!(9.8くらい)

No.832 8点 飢餓海峡- 水上勉 2018/08/27 13:06
「あの人の顔を見たのはあたしだけなんだから…」

戦後。津軽海峡を挟んだ道南側にて、天災からの大型船転覆事故。続いて大火災。シビレる混沌の奥から主人公らしきモノがじわりじわりと浮上して来た、と思うと、海峡挟む下北側にて、ゆったり謎めいたヒロイン候補が更に前面に。この二人が出遭ったばかりのシーンの思わず空気もゆがむ豊かさよ。全体で見れば『砂の器』を連想させる本作ながら清張には見出し難い穏やかな時間の流れが見られて私は満足。かと合点すれば、その出遭いのシークエンス後半から、、やるではないか。。。。 海に浮かぶ事故屍体の山と、すぐそばで起きた殺人事件。。 サスペンスの早朝市場が存外早く蠢き出し、核心の見えない焦(じれ)ったさこそ漫(そぞ)ろ継続ながら、実録物文書から白々しい部分を潰して息を呑むスリルだけあぶり出したようなシビアな娯楽作の矜持が突き上げる、ここに不朽感あり。

微細な歴史講釈がそのままハードボイルド即物心理描写になるなど気の利いた大技も見逃せない。また或る人物の描写に限って徹底したHB文体と、それ以外は普通かそれ以上に熱い直接心理描写という対照の妙は『白夜行』を思わせるが。。 ヒマワリの葉。。。。

探偵役を含む数多の警察官が捜査にのたうち回る割に、本命容疑者(ホンボシ)ロックオンが小説的に妙に早いが、それまで奇妙なほど語られなかった人物像含む背景の闇の暴き立て作業がぐいぐいと進み、そのズブズブといつまでも追求の手足を癒やすいとまも無い無間展開に心酔させられるのは決してプロ社会派読者乃至プロ犯罪小説読者だけではないでしょう。 釜を焚く汽車に揺られた苦い旅情に、素敵な牽引力あり。

「わたしは永年、この丘から海の表情を眺めているもんですからな、つまらんことにも気がつくんですよ」

結末にて、遂に、真打ち登場!! しかしながら、その結末なんだよな、、それまでの怒涛のストーリー圧力を受け止め切れていないのは。急にくにゃりと折れ過ぎではないかな、●●●(?)の愛他大車輪の屈強なる筈の枢軸が。あの殺人&アリバイ工作もちょっと取って付けた感が見えますね。いっそ、その部分はやめて「●●●●●は●●の●●は●●も●●ちゃ●●●った」って結末にしてしまったらどうだったろうか、と妄想します。 以前、本サイト『ゼロの焦点』の評で、かのストーリーの放つ巨大運動エネルギーを結末がよくぞしっかり受け止めたとの感動を記したものですが、本作の場合はそれが出来なかった所で大きく減点させていただきました。が、激烈に面白い小説である事には異を唱えようがありません。可読性(リーダビリティ)の高さも特筆級ですが、そこを抑えて敢えてゆっくり読みたくなる魅力があります。

尚、石川さゆりさんの同名ヒット曲、歌詞に、原作ではなく昔の映画版のネタバレ要素があるようで、無いような。。 絶妙なやり方をしています、吉岡治さん。

ところで、新潮文庫裏表紙のあらすじ書きは先に読んだら絶対アカん!!上巻終わってもまだダメ!!上下巻読了後にすること!!推理小説(というか小説)をナメんなよと言いたくなる核心晒し過ぎのストーリーネタバレは配慮と創意工夫に欠け過ぎ。 山田風太郎『太陽黒点』廣済堂文庫のそれに準ずる罪深さだと思いまする。 (まぁ、それ先に読んじゃっても充分面白くイケる上等なブツだとは思います)

No.831 7点 チャーリー・チャンの活躍- E・D・ビガーズ 2018/08/16 12:30
「私お祝い言います。人生あなたを哲学者にしました。ですからこれから平和に生きられます。」

これは良い本。風薫る魅惑の滑り出しから犯罪の領域へと速やかに緩やかに繋がり、(本作では)まだ見ぬCC警部への輝きの逆ノスタルジーに包まれながら情感豊かに物語は紡がれます。多幸感上等。。。 時にブロゥクンながら節度と知力と愛と霊感溢れる、チャンの英文手紙の文体、よくぞ訳した! 泣けた!! 無き九龍城砦を思わせる構造と由来の摩訶不思議な高級ホテル、ブルームも忘れ難い。 第一章の終わり、信頼が皮肉を包みこむ締めの温かさは感涙ものです。

舞台は(CCの拠点ホノルルを挟んで)米国地方名士たちの世界一周の船の旅。細部の意外なストーリー展開がさんざん本格興味をそそった後、数多の容疑者たちも個性豊かに書き分けられた末、予想外に熾烈過ぎる展開の奥に、、、やっと大人チャン警部登場。そして日系人の部下カシマ(このコンビ良し)。

「町で最も愚かな人、学校へ行く道教えること出来ます」

最後の’どうしてバレたんでしょうか?’だけ猛烈に推理クイズの味わいなんだが、これだけの物語力に魅了されたらそんなの普通に許せちゃいますよねえ。 ラストシーン、さりげなく最高です。

佐倉潤吾さんの訳者後書きに、じつに味があり特筆を唆る言及が二つ。「本格推理小説がすたれたのは、行き詰まったのと、読むのに骨が折れるからだが、そういう読み方をする必要はない。物語として読めばいいのである」、そしてさり気ない翻訳ハック「アクセントの置き方の問題である」の人生全般への拡がりよ。 (チャーリー・チャンもの、戦前は我が大日帝でもぐんとポピュラーな存在だったんですなあ)

‘漁を行なうとき’’網を乾すとき’なる独特の表現による最後の二章、ニクいね。

ところでチャーリー・チャンと聞いて反射的にニック・カーショウの”ジェイムズ・キャグニー”を思い浮かべる人はどれくらいいらっしゃいますでショウカー。

No.830 7点 水晶のピラミッド- 島田荘司 2018/08/10 12:23
「あなたには、トリックをゆっくり煮詰める時間が無かった。」

不格好で不完全、諦観ロマン溢れる、見上げても見渡せない、造りの大きなミステリ建造物。 敢えてのダミー解決に切実な意味があった(●●●●●●●のための方便だった)ってのは立派。 どっかで聞いたような名前のジンガイ(魔境じゃないほう)がいっぱい出て来るのも魅力。

『なんとか屋敷』とのシマダ相似があまりに露骨過ぎて心の万年回転ベッドが軋んだ。言わば『斜めなんとか』の断面図を螺旋状に切り込ませてみたような。。って原理から全然違うんですけどね。なんとなく、イメージってやつが。

余分と言われがちな『古代エジプト』『タイタニック』部分は、ストーリー伏線とトリック誤誘導との素敵なミクスチュア。ピラミッドの構造であったり、水が移動する過程であったり、人と人とのつながりだったり。。 ただ、あの『化け物』はなあ。。。

これ言うとネタバレですけど、いかにも島荘魂の大トリックがダミー水域に没したのは。。。。やっぱ彼のある程度長い読者ならどうしたって、細かい事は置いといて、そのあたりのなんかのアレだろと、勘付かれる、まして本作の頃の人気作家島荘にはテンション下げずのチェンジオヴペース(微妙に早いのが肝腎)がそろそろ必要だったのか。。って事情もありましょうか。それにしても、あっさりあのトリックは不可能って、早くもアンチミステリならぬアンチバカミスの意思表示ってってことですか?いくらデカイからって原理は同じだろ、とつい前提考えずはまり込んでしまう素人の憶測に一撃喰らわしてもらったのは痛快です。んで逆バカトリックの効力はやはり『エジプト』『タイタニック』あってこそでしょう。どちらの物語も愛おしく素晴らしい。

後の物理トリック種明かしに備えての注意事項らしき長っ広い講釈の坩堝は、眠くなりました。。その代わり、時折訪れる、岩に砕けながら流れる大河の様なしまそう切実エッセイ的部分はいつもながら最高に素敵です。

レオナさんの質問「●●なの!?」が直球過ぎて(笑)、何とか「月がきれいですね」並みにもどかしくも美しい婉曲表現は無かったものかと(笑々)。 ところで件の二人の関係が一方通行で終わるのはまさか「試行機会は水の泡」という手の込んだ洒落じゃあないでしょうね。(しかも機会あらば試行できたのは奇怪な嗜好だったりして?) そういや細野氏らしき日本人は出て来なかったですかな、たしか。

No.829 8点 高い窓- レイモンド・チャンドラー 2018/08/03 06:14
「だとすると、」 言葉を切った彼女の顔に笑みが広がり、愉悦の表情に至った。「だとすると、我が愛しの義娘(むすめ)は殺人に巻き込まれたかも知れない、ってわけ..」 こんな悪い台詞を吐く、シャウトに興が乗ったバリー・ホワイト(肥満でゴージャスでディープな往年のバリトン型ソウルシンガー)の様な初老の未亡人が、今年の夏の依頼人です。

ヘイ、チャン、君の書く犯罪小説ってやつは本当に、屍体にぶちあたる予感の瞬間から空気が冷んやり鎮まるさり気ないメリハリがヤバいぜ。  
「あれは事故だった」「なぜ君は殺しを無駄にする?なぜ公明正大な殺人を犯したと言わない?」

雇主から提示された謎は、行方知れずの’息子の嫁’と一財産の稀少金貨、それらを取り巻く状況全て。状況の中には、言うだけ野暮だがほぼ同等のキャラクタ強度で魅力的に(時に反感炎上で)描かれる数多の脇役陣や、複数の死、酒場や民家での喧噪、そして過去の。。。。。。非●●的行為等が含まれる。 物語の進行に直接の爪痕は残さなくとも読者の胸に鮮やかな記憶のレリーフを刻んでくれる凄いチョイ役達も期待以上。老いたエレベーターボーイ(?)から、本当の人間ではない或る彫像まで。。 「それにだな、君に奴らが処女だとどうして分かる?」

第十一章出だしから染み入り始める友情めいた手探りのヴァイブズがいいね。 ブリーズ(警部補?)は魅力ある奴だ。 ちょっとチャラいが’サマー・ブリーズ(シールズ&クロフツ)’が聴きたくなるぜ。

「眼鏡をしてませんね」 私は言った。 彼女は小さく、落ち着いた声を出した。 「ええ、家にいる時と、読書の時だけですの。今はバッグの中です」 「あなたは今、家の中です。眼鏡を掛けたらどうですか」 私はバッグに手を伸ばした。彼女は動かず私の顔を見つめている。私は少し体をそらし、バッグを開け、中から眼鏡を抜き出し、テーブルの上を滑らせた。 「掛けてみなさい」 「ええ、掛けます」 彼女は言った。 「でも先に帽子を脱がなきゃ 。。」 「そうだ。帽子を脱ぎなさい」 彼女は帽子を脱ぎ、膝の上に抱えた。そこで彼女は眼鏡のことを思い出し、帽子を忘れた。眼鏡に手を伸ばすうち帽子は床に落ちた。彼女は眼鏡を掛けた。すると彼女の見栄えが格段に良くなった。  ← 忘れえぬ人物描写

本格ミステリへの共感満ち溢れる、うっすらセミパロディの芳香ただようマーロウの推理教室にゃァ萌えずにいらりょうか。 そしてこの、語らずの迅速明晰に過ぎる真相看破はもしや、年少の先輩が創作した某探偵へのちょっとくだけたオマージュではないかとさえ。。
「思うね。推理だよ。きみの煙草は ~~中略~~ それで君は吸い殻を持ち去った。どうだね?」

“最初の思いつきはあまりに軽い感触(タッチ)で、ほとんど気づかないまま通り過ぎてしまった。羽毛の感触、そこまでも行かない、舞い降りる雪の感触。。 高い窓、一人の男が外へと乗り出す ・・・ 遠い遠い昔 ・・・ 突然、ピースがハマった。 興奮で頭がシビレる。”

本格寄りの謎解きに掛かるドライヴが強いのは、いつにない余得。当初のストーリー焦点らしきオブジェクトがどんどんダミーに化けて行く焦燥、こちらはまた、熟達のバランス/アンバランスで心を焦がしてくれるじゃないか。憎めない悪党とのやり取りも魅力だ。 「報酬は時間と健康という事になるかな」 「どちらにしても彼女とはちょっと話してみたい。差し支え無ければ」「差し支えると言ったら?」「やっぱり話したいね」

ここだけの話ですが、表題の「高い窓」とは●●●●製造●●の●●か何かに関係するアイテムではないかとあらぬ方向に妄想したものです(涙) … “白い月灯りはくっきりとして冷たく、我々が夢に見ても見つける事はできない、正義の様であった。”

最後にブリーズが物語に還って来て、いい話をマーロウと飛ばし合ってくれたのは最高だったな、期待に応えてくれた。あの章はやっぱり好きだぜ。 そしてマーロウにはバーボンよりスコッチが似合う。 何故なら、そっちが俺の好みだから。 ほの明るい気分で胸に沁みる短いラストシークエンス(一人チェス)と、最後の乾杯の言葉で確認される、男気の心地良さ!

たまには原書でキメてみました。(引用箇所は拙訳です。ご諒承ください。)

No.828 1点 地獄風景- 江戸川乱歩 2018/07/23 14:27
死に順に驚きあり。何故その順番が意外なのか、の機微に新機軸がキラリ。おまけにその構造は畳み掛ける。。何気な不規則興味も陰花を添えル。。と、期待してしまいましたらヘナチョコリンと裏切られました。色々あった末、結局グズグズでぐだぐだの異色溢れる「読者への挑戦」にはツんのめったなァ。

“空はドンヨリと曇って、遠いスリガラスのように見えた”

面白い二重逆説がハイライトの活劇シーンに登場した。どうでもいい伏線もどこかにあった。先のW杯決勝「乱入トリック」を思わせる箇所もあった。しかしなァ。。セルフ縮小再生産もここまでのんべんだらりとやられると涙も出やしねえですだ。亂步さんも認めてらっしゃる通り論理のロの字も無えから連載犯人当てとしちゃァ大失敗(感覚で当ててくださいとか言っちゃうんですもの)、それ以前にミステリとして小説として全体的にこりぇダミだと思いまス。夏の暑さにヤられた頭で読むのが良いデス。

意外性もヘチマも無いかと思われた折にふと現れた、ちょっと意外なラストシーンは忘れ難い。

No.827 7点 名探偵13人登場- アンソロジー(国内編集者) 2018/07/22 10:16
薄暗い寝室、ナイフを持った男の影が落ちるシーツには、指先より血を流す女の腕がだらり、、、そんな昭和の推理クイズ本フレイヴァ満載の表紙にはダメを押すように『MURDER』『人殺し!!』と言わずもがなの賑やかしワードが踊ります。もうこのビジュアルだけで満腹ですが、中身も昭和の割と幅広い年代に渉る名手達の短篇をずらりと並べて時代空気込みの読み応え。装丁のイメージに従い推理クイズの正解を当てに行くつもりで読むのが面白いかも。ただ全作にいわゆる「名探偵」が登場するとは限らないので(探偵役はいるが)タイトルにはやや偽り有りか。 編者は中島河太郎(!)

「夢の中の女」横溝正史/「怪奇を抱く壁」角田喜久雄/「X重量」木々高太郎/「選挙殺人事件」坂口安吾/「変化牡丹」山田風太郎/「電話でどうぞ」島田一男/「赤い痕」仁木悦子/「滝に誘う女」戸板康二/「砂とくらげと」鮎川哲也/「縄の繃帯」陳舜臣/「アドリブ殺人」都筑道夫/「浮気する死体」海渡英祐/「月世界の女」高木彬光 (ベストセラーノベルス)

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