斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.67点 採点数:836件

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採点傾向好きな作家

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No.836 7点 脂のしたたり- 黒岩重吾 2018/09/10 23:40
「そうね、何時もそう思って生きているから、運も強いのね。私も見習わなくちゃ」

昼間っから情婦(おんな)の部屋にシケこむ証券マン。とある斜陽映画会社株買占めの噂を握った彼は、ゆくゆくは巨万の富と痛いくらいの自由を手中とすべく数多の女たちの様々な助力を得て爆発的成功への階段を上り続けるが。。。。

とまあ、色と欲まっしぐらの男が主人公なんですが、金の力で女どもを組み伏せようとする脂ぎったくそおやじがフォッフォッ。。とほくそ笑むのではなく元々女性にモテる若い男(昭和三十年代の30ちょいだから年増に差し掛かってるか)が最高にシビれるスリルを求めて投機の道へ、、、って筋のせいか何とも意外に爽やかな口当たり。 次々に登場する女達の造形も技巧豊かに描き分けられておる。それなりに穏当な女やちょっとヤバい女、可愛い女に凛とした女、美人女優、色々いるが、中でもいちばんキッツいのは。。。 まとにかく、川崎フロンターレのパス回しの様な主人公の女崩し高等篇にはグッと来ますよ。ややこし伏字の思わせぶりに笑っちゃう箇所もあり素敵。

株価吊り上げの黒幕は誰か、そいつを黒幕にした過去とは何か、経済スリラーの味わいと速力で犯罪めいた何物かが蠢き喘いでそうこうするうち、靄の掛かった人間関係の隙を突き、事業陰謀の見え隠れの端に、いずれ起こるわけです、殺人が。(嗚呼、この被害者。。。。) 比較的展開のゆったりした前4/5くらいでさえ全くタレること無く激しく面白いんだけど、最後1/5で突如加速するスリルがもうね、たまらんのですよ。エンディングも。。。いや、言いません。 まぁ読んでみんさい。 株式市場、熱過ぎるぜ。

No.835 7点 真夏の方程式- 東野圭吾 2018/09/05 12:31
方程式だけでは実際の自然環境に対応できない、加えて根気強い実験を経ての実証が必要だ、人生に於いてまた然り、わかったか、坊主。 そんな意味がこの表題に込められているのでしょうか。 過去を席捲するダークな真相を、爽やかな夏風を浴びて叙述し切った、綺麗な作品です。 “誰かの人生が○○○しまうかも知れない”なる変則フーズダン(誰が被害者)の趣向が、表立っての殺人事件とはまた別の謎と感動を紡ぎ合わせる素敵な物語でした。 地味ながら着実な、本気の泣ける物理トリックを暴くために、読者側に放たれた抉りの深い心理トリックの戦慄と、そして。。。。

本作、東野らしく仕掛けて来る気概は感じるものの、振り返ればそれなりにありがちなミステリ真相の組み合わせではある。。(どちらかと言うと、前述の変則フーズダンの訴求力を加算しても、結末より展開の方により強い仕掛け感があった)のですが、真夏に真夏の話でキメたせいか頭がぼんやり痺れて読中そのへんよく分からなかった。。 が、公平を期すにあたり0.8点減。

ケータイが壊れた件はツッコミどころ真正面の大笑いだったが、ここが事件”直結”の伏線を兼ねていれば、もっと泣ける話だったろうなあ。。。

No.834 7点 青き犠牲- 連城三紀彦 2018/08/30 20:19
ツッパリ高校生の大出撫洲夫(おおいでぶすお)が、父の羅哀牡(らあいおす)を褒め殺し、母の飯岡ステ(いいおかすて)と刎頸の交わりになる渋谷系痛快アクション。

なワケがありません。

こんだけ露骨に『オイディプス王』と小説内で喧伝され、いかにもそれらしいエピソードが奔出すればこそ、いやしくも連城が律儀にその線をなぞっておしまいのわけがなかろうよ、、、とわざわざハードルを上げるだけの流石の担保がこの作者には在る。

ふつうなら普通に主役級のちょっと凄いアリバイトリックをまずまずの脇役にまで後退させた残酷過ぎる反転大真相。。。。これだけ複雑な経緯に呑み込まれた闇黒水域を泳ぎ渡りながら、どこか割り切ったコマの動きを見せる主要登場人物たちが不思議な魅力を放ちます。 ところで、ラストシーンは光明への一歩なのだろうか。。。。

安易に”叙述トリックのイヤミス”などとは絶対に呼ばせない、何とも詳述し難いハガネの様な強い意志の薫り来る一品。

夏のおそうめんのようにスルスル行けてしまう、あっという間の長篇でもありまする。

No.833 8点 わらの女- カトリーヌ・アルレー 2018/08/28 20:40
「やはり、われわれの利益は一致しているんですね」

爽やかイヤミスのシャンパン吊るし呑み。 嗚呼いやらしい。

“彼女は既に、彼の娘だった”

事の契機(きっかけ)は先のドイツ大敗、女の野心、或る魅力的な新聞広告。物語途上より会話のそこかしこにマーロウ的物言いへの高らかなフランセーズ対抗策が。。と思えばいつしか地の文まで余裕の侵食だぜ、プラス思わず庇い上げたくなる情(センティメント)への明日なき奔走が、、目にしみるぜ。

「しかし、細かい事実が、あまりにきちんと合いすぎますよ」

引用しようにも追い付ききれない最高最悪の、まるで長過ぎるエピローグめいた”あいつ”の大演説には圧倒されました。

「そうなったら、われわれの会話はごくつまらなくなってしまう」

その昔NHKの連続ドラマ(舞台を日本に移しての翻案)で、ミステリ好きの母と欠かさず一緒に観たものです。まるで歌舞伎の見せ場のような屍体運びシーンが最高にアンフォゲッタブルですが、原作小説でも(演出が違うとは言え)あのシークエンスのスリルと決定力と言ったら(!)、物語の中核とはこういう事だ、という良い見本ですね。あの知略と絶望の断崖絶壁のような結末も、この中核部分とぴったり隙無く呼応しているからこそです。

「あの女はばかですよ」

ああ怖かった、ノン、恐かった。

「そんな事までするには、どれだけお金を好きになったらいいんでしょうね」

歴史的価値の予兆を初めから蹴破り尽くしたかのような、バランスほぼ完璧な小説の暴れっぷり。これは唸ります。

短編臭さを露見させなければ(或いは高密度短篇に仕立て上げていたら)9点だったな。
※その上で、あまりに初歩的な法的事項ミスを小説として巧妙にクリアしてたら、、10点かも!(9.8くらい)

No.832 8点 飢餓海峡- 水上勉 2018/08/27 13:06
「あの人の顔を見たのはあたしだけなんだから…」

戦後。津軽海峡を挟んだ道南側にて、天災からの大型船転覆事故。続いて大火災。シビレる混沌の奥から主人公らしきモノがじわりじわりと浮上して来た、と思うと、海峡挟む下北側にて、ゆったり謎めいたヒロイン候補が更に前面に。この二人が出遭ったばかりのシーンの思わず空気もゆがむ豊かさよ。全体で見れば『砂の器』を連想させる本作ながら清張には見出し難い穏やかな時間の流れが見られて私は満足。かと合点すれば、その出遭いのシークエンス後半から、、やるではないか。。。。 海に浮かぶ事故屍体の山と、すぐそばで起きた殺人事件。。 サスペンスの早朝市場が存外早く蠢き出し、核心の見えない焦(じれ)ったさこそ漫(そぞ)ろ継続ながら、実録物文書から白々しい部分を潰して息を呑むスリルだけあぶり出したようなシビアな娯楽作の矜持が突き上げる、ここに不朽感あり。

微細な歴史講釈がそのままハードボイルド即物心理描写になるなど気の利いた大技も見逃せない。また或る人物の描写に限って徹底したHB文体と、それ以外は普通かそれ以上に熱い直接心理描写という対照の妙は『白夜行』を思わせるが。。 ヒマワリの葉。。。。

探偵役を含む数多の警察官が捜査にのたうち回る割に、本命容疑者(ホンボシ)ロックオンが小説的に妙に早いが、それまで奇妙なほど語られなかった人物像含む背景の闇の暴き立て作業がぐいぐいと進み、そのズブズブといつまでも追求の手足を癒やすいとまも無い無間展開に心酔させられるのは決してプロ社会派読者乃至プロ犯罪小説読者だけではないでしょう。 釜を焚く汽車に揺られた苦い旅情に、素敵な牽引力あり。

「わたしは永年、この丘から海の表情を眺めているもんですからな、つまらんことにも気がつくんですよ」

結末にて、遂に、真打ち登場!! しかしながら、その結末なんだよな、、それまでの怒涛のストーリー圧力を受け止め切れていないのは。急にくにゃりと折れ過ぎではないかな、●●●(?)の愛他大車輪の屈強なる筈の枢軸が。あの殺人&アリバイ工作もちょっと取って付けた感が見えますね。いっそ、その部分はやめて「●●●●●は●●の●●は●●も●●ちゃ●●●った」って結末にしてしまったらどうだったろうか、と妄想します。 以前、本サイト『ゼロの焦点』の評で、かのストーリーの放つ巨大運動エネルギーを結末がよくぞしっかり受け止めたとの感動を記したものですが、本作の場合はそれが出来なかった所で大きく減点させていただきました。が、激烈に面白い小説である事には異を唱えようがありません。可読性(リーダビリティ)の高さも特筆級ですが、そこを抑えて敢えてゆっくり読みたくなる魅力があります。

尚、石川さゆりさんの同名ヒット曲、歌詞に、原作ではなく昔の映画版のネタバレ要素があるようで、無いような。。 絶妙なやり方をしています、吉岡治さん。

ところで、新潮文庫裏表紙のあらすじ書きは先に読んだら絶対アカん!!上巻終わってもまだダメ!!上下巻読了後にすること!!推理小説(というか小説)をナメんなよと言いたくなる核心晒し過ぎのストーリーネタバレは配慮と創意工夫に欠け過ぎ。 山田風太郎『太陽黒点』廣済堂文庫のそれに準ずる罪深さだと思いまする。 (まぁ、それ先に読んじゃっても充分面白くイケる上等なブツだとは思います)

No.831 7点 チャーリー・チャンの活躍- E・D・ビガーズ 2018/08/16 12:30
「私お祝い言います。人生あなたを哲学者にしました。ですからこれから平和に生きられます。」

これは良い本。風薫る魅惑の滑り出しから犯罪の領域へと速やかに緩やかに繋がり、(本作では)まだ見ぬCC警部への輝きの逆ノスタルジーに包まれながら情感豊かに物語は紡がれます。多幸感上等。。。 時にブロゥクンながら節度と知力と愛と霊感溢れる、チャンの英文手紙の文体、よくぞ訳した! 泣けた!! 無き九龍城砦を思わせる構造と由来の摩訶不思議な高級ホテル、ブルームも忘れ難い。 第一章の終わり、信頼が皮肉を包みこむ締めの温かさは感涙ものです。

舞台は(CCの拠点ホノルルを挟んで)米国地方名士たちの世界一周の船の旅。細部の意外なストーリー展開がさんざん本格興味をそそった後、数多の容疑者たちも個性豊かに書き分けられた末、予想外に熾烈過ぎる展開の奥に、、、やっと大人チャン警部登場。そして日系人の部下カシマ(このコンビ良し)。

「町で最も愚かな人、学校へ行く道教えること出来ます」

最後の’どうしてバレたんでしょうか?’だけ猛烈に推理クイズの味わいなんだが、これだけの物語力に魅了されたらそんなの普通に許せちゃいますよねえ。 ラストシーン、さりげなく最高です。

佐倉潤吾さんの訳者後書きに、じつに味があり特筆を唆る言及が二つ。「本格推理小説がすたれたのは、行き詰まったのと、読むのに骨が折れるからだが、そういう読み方をする必要はない。物語として読めばいいのである」、そしてさり気ない翻訳ハック「アクセントの置き方の問題である」の人生全般への拡がりよ。 (チャーリー・チャンもの、戦前は我が大日帝でもぐんとポピュラーな存在だったんですなあ)

‘漁を行なうとき’’網を乾すとき’なる独特の表現による最後の二章、ニクいね。

ところでチャーリー・チャンと聞いて反射的にニック・カーショウの”ジェイムズ・キャグニー”を思い浮かべる人はどれくらいいらっしゃいますでショウカー。

No.830 7点 水晶のピラミッド- 島田荘司 2018/08/10 12:23
「あなたには、トリックをゆっくり煮詰める時間が無かった。」

不格好で不完全、諦観ロマン溢れる、見上げても見渡せない、造りの大きなミステリ建造物。 敢えてのダミー解決に切実な意味があった(●●●●●●●のための方便だった)ってのは立派。 どっかで聞いたような名前のジンガイ(魔境じゃないほう)がいっぱい出て来るのも魅力。

『なんとか屋敷』とのシマダ相似があまりに露骨過ぎて心の万年回転ベッドが軋んだ。言わば『斜めなんとか』の断面図を螺旋状に切り込ませてみたような。。って原理から全然違うんですけどね。なんとなく、イメージってやつが。

余分と言われがちな『古代エジプト』『タイタニック』部分は、ストーリー伏線とトリック誤誘導との素敵なミクスチュア。ピラミッドの構造であったり、水が移動する過程であったり、人と人とのつながりだったり。。 ただ、あの『化け物』はなあ。。。

これ言うとネタバレですけど、いかにも島荘魂の大トリックがダミー水域に没したのは。。。。やっぱ彼のある程度長い読者ならどうしたって、細かい事は置いといて、そのあたりのなんかのアレだろと、勘付かれる、まして本作の頃の人気作家島荘にはテンション下げずのチェンジオヴペース(微妙に早いのが肝腎)がそろそろ必要だったのか。。って事情もありましょうか。それにしても、あっさりあのトリックは不可能って、早くもアンチミステリならぬアンチバカミスの意思表示ってってことですか?いくらデカイからって原理は同じだろ、とつい前提考えずはまり込んでしまう素人の憶測に一撃喰らわしてもらったのは痛快です。んで逆バカトリックの効力はやはり『エジプト』『タイタニック』あってこそでしょう。どちらの物語も愛おしく素晴らしい。

後の物理トリック種明かしに備えての注意事項らしき長っ広い講釈の坩堝は、眠くなりました。。その代わり、時折訪れる、岩に砕けながら流れる大河の様なしまそう切実エッセイ的部分はいつもながら最高に素敵です。

レオナさんの質問「●●なの!?」が直球過ぎて(笑)、何とか「月がきれいですね」並みにもどかしくも美しい婉曲表現は無かったものかと(笑々)。 ところで件の二人の関係が一方通行で終わるのはまさか「試行機会は水の泡」という手の込んだ洒落じゃあないでしょうね。(しかも機会あらば試行できたのは奇怪な嗜好だったりして?) そういや細野氏らしき日本人は出て来なかったですかな、たしか。

No.829 8点 高い窓- レイモンド・チャンドラー 2018/08/03 06:14
「だとすると、」 言葉を切った彼女の顔に笑みが広がり、愉悦の表情に至った。「だとすると、我が愛しの義娘(むすめ)は殺人に巻き込まれたかも知れない、ってわけ..」 こんな悪い台詞を吐く、シャウトに興が乗ったバリー・ホワイト(肥満でゴージャスでディープな往年のバリトン型ソウルシンガー)の様な初老の未亡人が、今年の夏の依頼人です。

ヘイ、チャン、君の書く犯罪小説ってやつは本当に、屍体にぶちあたる予感の瞬間から空気が冷んやり鎮まるさり気ないメリハリがヤバいぜ。  
「あれは事故だった」「なぜ君は殺しを無駄にする?なぜ公明正大な殺人を犯したと言わない?」

雇主から提示された謎は、行方知れずの’息子の嫁’と一財産の稀少金貨、それらを取り巻く状況全て。状況の中には、言うだけ野暮だがほぼ同等のキャラクタ強度で魅力的に(時に反感炎上で)描かれる数多の脇役陣や、複数の死、酒場や民家での喧噪、そして過去の。。。。。。非●●的行為等が含まれる。 物語の進行に直接の爪痕は残さなくとも読者の胸に鮮やかな記憶のレリーフを刻んでくれる凄いチョイ役達も期待以上。老いたエレベーターボーイ(?)から、本当の人間ではない或る彫像まで。。 「それにだな、君に奴らが処女だとどうして分かる?」

第十一章出だしから染み入り始める友情めいた手探りのヴァイブズがいいね。 ブリーズ(警部補?)は魅力ある奴だ。 ちょっとチャラいが’サマー・ブリーズ(シールズ&クロフツ)’が聴きたくなるぜ。

「眼鏡をしてませんね」 私は言った。 彼女は小さく、落ち着いた声を出した。 「ええ、家にいる時と、読書の時だけですの。今はバッグの中です」 「あなたは今、家の中です。眼鏡を掛けたらどうですか」 私はバッグに手を伸ばした。彼女は動かず私の顔を見つめている。私は少し体をそらし、バッグを開け、中から眼鏡を抜き出し、テーブルの上を滑らせた。 「掛けてみなさい」 「ええ、掛けます」 彼女は言った。 「でも先に帽子を脱がなきゃ 。。」 「そうだ。帽子を脱ぎなさい」 彼女は帽子を脱ぎ、膝の上に抱えた。そこで彼女は眼鏡のことを思い出し、帽子を忘れた。眼鏡に手を伸ばすうち帽子は床に落ちた。彼女は眼鏡を掛けた。すると彼女の見栄えが格段に良くなった。  ← 忘れえぬ人物描写

本格ミステリへの共感満ち溢れる、うっすらセミパロディの芳香ただようマーロウの推理教室にゃァ萌えずにいらりょうか。 そしてこの、語らずの迅速明晰に過ぎる真相看破はもしや、年少の先輩が創作した某探偵へのちょっとくだけたオマージュではないかとさえ。。
「思うね。推理だよ。きみの煙草は ~~中略~~ それで君は吸い殻を持ち去った。どうだね?」

“最初の思いつきはあまりに軽い感触(タッチ)で、ほとんど気づかないまま通り過ぎてしまった。羽毛の感触、そこまでも行かない、舞い降りる雪の感触。。 高い窓、一人の男が外へと乗り出す ・・・ 遠い遠い昔 ・・・ 突然、ピースがハマった。 興奮で頭がシビレる。”

本格寄りの謎解きに掛かるドライヴが強いのは、いつにない余得。当初のストーリー焦点らしきオブジェクトがどんどんダミーに化けて行く焦燥、こちらはまた、熟達のバランス/アンバランスで心を焦がしてくれるじゃないか。憎めない悪党とのやり取りも魅力だ。 「報酬は時間と健康という事になるかな」 「どちらにしても彼女とはちょっと話してみたい。差し支え無ければ」「差し支えると言ったら?」「やっぱり話したいね」

ここだけの話ですが、表題の「高い窓」とは●●●●製造●●の●●か何かに関係するアイテムではないかとあらぬ方向に妄想したものです(涙) … “白い月灯りはくっきりとして冷たく、我々が夢に見ても見つける事はできない、正義の様であった。”

最後にブリーズが物語に還って来て、いい話をマーロウと飛ばし合ってくれたのは最高だったな、期待に応えてくれた。あの章はやっぱり好きだぜ。 そしてマーロウにはバーボンよりスコッチが似合う。 何故なら、そっちが俺の好みだから。 ほの明るい気分で胸に沁みる短いラストシークエンス(一人チェス)と、最後の乾杯の言葉で確認される、男気の心地良さ!

たまには原書でキメてみました。(引用箇所は拙訳です。ご諒承ください。)

No.828 1点 地獄風景- 江戸川乱歩 2018/07/23 14:27
死に順に驚きあり。何故その順番が意外なのか、の機微に新機軸がキラリ。おまけにその構造は畳み掛ける。。何気な不規則興味も陰花を添えル。。と、期待してしまいましたらヘナチョコリンと裏切られました。色々あった末、結局グズグズでぐだぐだの異色溢れる「読者への挑戦」にはツんのめったなァ。

“空はドンヨリと曇って、遠いスリガラスのように見えた”

面白い二重逆説がハイライトの活劇シーンに登場した。どうでもいい伏線もどこかにあった。先のW杯決勝「乱入トリック」を思わせる箇所もあった。しかしなァ。。セルフ縮小再生産もここまでのんべんだらりとやられると涙も出やしねえですだ。亂步さんも認めてらっしゃる通り論理のロの字も無えから連載犯人当てとしちゃァ大失敗(感覚で当ててくださいとか言っちゃうんですもの)、それ以前にミステリとして小説として全体的にこりぇダミだと思いまス。夏の暑さにヤられた頭で読むのが良いデス。

意外性もヘチマも無いかと思われた折にふと現れた、ちょっと意外なラストシーンは忘れ難い。

No.827 7点 名探偵13人登場- アンソロジー(国内編集者) 2018/07/22 10:16
薄暗い寝室、ナイフを持った男の影が落ちるシーツには、指先より血を流す女の腕がだらり、、、そんな昭和の推理クイズ本フレイヴァ満載の表紙にはダメを押すように『MURDER』『人殺し!!』と言わずもがなの賑やかしワードが踊ります。もうこのビジュアルだけで満腹ですが、中身も昭和の割と幅広い年代に渉る名手達の短篇をずらりと並べて時代空気込みの読み応え。装丁のイメージに従い推理クイズの正解を当てに行くつもりで読むのが面白いかも。ただ全作にいわゆる「名探偵」が登場するとは限らないので(探偵役はいるが)タイトルにはやや偽り有りか。 編者は中島河太郎(!)

「夢の中の女」横溝正史/「怪奇を抱く壁」角田喜久雄/「X重量」木々高太郎/「選挙殺人事件」坂口安吾/「変化牡丹」山田風太郎/「電話でどうぞ」島田一男/「赤い痕」仁木悦子/「滝に誘う女」戸板康二/「砂とくらげと」鮎川哲也/「縄の繃帯」陳舜臣/「アドリブ殺人」都筑道夫/「浮気する死体」海渡英祐/「月世界の女」高木彬光 (ベストセラーノベルス)

No.826 6点 十三度目の女- 島田一男 2018/07/18 02:21
夏だ! エレキだ! 島田一男だ! シマイチ関西弁もチョコイと堪能出来る、三十年代昭和の空気でブンブンの短篇集。 某作、”助手の金丸京子の声にも顔を上げず、拡げた世界ヌード写真集のページをめくる”南郷弁護士って。。「世界ヌード写真集」って。。。 某作、そのタイミング、歯医者の打つ楔にクラクラだぜ。 某作、替玉の逆転劇こいつァなかなか、ブラウン神父への感服型挑戦状として有り難く受け取るぜ(俺が神父なんじゃねェが)。 全体で見るとトリックの工夫が深かったり浅かったり、トリックと人情物語との絡みがきつかったり緩かったり、色々ですが、細かいこたァ置いといて日本の夏にはやっぱり島田一男の短篇。 これは傑作撰ってガラじゃないお気楽な一冊だがキツい一発も数篇混じる。

銀色の恐怖/電話でどうぞ/黒い誕生日/拳銃何を語る/十三度目の女/赤と青の死/ガラスの矢/無邪気な妖婦/大兇/悲運の夜
(光文社文庫)

No.825 6点 北海に消えた少女- ローネ・タイルス 2018/07/10 05:45
猟奇犯罪とラブコメを同居させるための緩衝材を多種(表に入りきらない登場人物含め)詰め込み過ぎたか。読者を愉しませる要素は商売っ気上々で色々功を奏しちゃいる。ユーモアから何からいちいち素晴らしいが、やはり桃のエピソードは最高。だけど結末は。。なんだかこじんまり。ミステリのセンス・オヴ・ワンダーとは無縁。一部ブラックミュージックファンの方以外には意味不明の喩えで恐縮ですがニュー・ジャック・スウィングにおけるJOE PUBLIC(GUYでもBASIC BLACKでもJODECIでもなく)を連想させる実にスムーゥズな後発有利A級仕上げの一.五流品と言った着地点。W杯で例年以上に活躍しているデンマークとイングランドを舞台とした物語なのが嬉しい。メッシやアデルが言及され、北欧つながりのロクセットが大昔の懐メロとして扱われる同時代ミステリです。ニシンとアクアヴィット。。。。決して再読に思いを馳せたりする本ではないが、今年の夏に読んで損はなかった。ただ人に「読んで損はないよ」と薦めるまでは行かんかなぁ。。かなりコージーなサスペンス小説っすね。

No.824 6点 Dの複合- 松本清張 2018/07/07 18:10
清張覚悟のバカミスはノっけから伝説と旅情と殺人興味の締まり良いタペストリー。 例によって激しすぎる思い込みがバシバシ的中したり偶然の力が半端無かったりそりゃもう酷いもんですが(笑)面白いから免罪です。「なに、煙草?」って台詞はもうギャグかと思いましたよ。 あと例の「『Dの複合』と名付けるだろう」とかなんとか頭の中の楽屋落ちみたいな苦笑必至のアレ。。

何がバカと言って、長きに渉って積りに積もった”伝説”と”数字”の二方向に展開する謎の群が、終わってみればアカラサマに小説の中の作り物の事件のために無理やり嵌め合わせられてるチャンチャラ感。本当に復讐したいんならそんなことウダウダやってるワケがあるかい!! ってなハイパー作り物感、いくら何でも破綻しています。でも面白いから仮釈です。文章良いからもう恩赦です。まあこれで凡庸なナニだったらバカにも見えないただのイマイチミステリなんでしょう。こんなスットコ本をわざわざ格調高いフミで書くんかい! っていうね。ああ面白かった!

No.823 9点 嵐が丘- エミリー・ブロンテ 2018/07/06 12:40
探偵小説黎明の時代に早くも生まれた魁偉なる大イヤミス。構成の妙、大いに有り(当時は物議を醸したとか)。

旅人ロックウッドが訪れた田舎(イングランド北部ヨークシャー)の館に棲むは厭世の紳士ヒースクリフ、若い男女キャサリンとヘアトン(及び老僕)。 見たところ険悪な仲の三人にはどの組み合わせの親子関係も婚姻関係も無いと言う。 では何故そんな三人が一緒に? 不意に遭遇した深く暗い謎を説き明かすべく過去の一切を旅人相手に語り尽す(?)のは”近隣にあるもう一つの館”の家政婦。。。。

恋愛小説の逸品と伝えられる本作ですが、登場人物表と曰くありげな「妙な家系図」を見ればたちまち鋭いミステリ興味が噴出し、少し読み進めば忽ち、変則ハウダニットの好奇心に王道ホワットダニットの竜巻が覆いかぶさりに掛かります。 ごく狭いコミュニティに展開する尋常ならざる嫌悪と復讐のエナジーは早過ぎた核爆発のメタファーかも知れません。
あまりに突出した癒やしの、美しい臨終シーンも忘れられない。

本作が後世のインスピレーションを誑かした『かも知れない』ミステリ要素は。。 (現代感覚の)本格流儀に絞っても、或る種の●●に依る●●トリック、信頼出来ない語り手、小説構造によるミスリード乃至●●トリック、現在の異状から過去の犯罪を暴き出す趣向、「私」というワトソン役の存在(?)、細かい所では(ちょっと某館モノ著名作を思わせる)遺産相続に絡むナニも。。。  それらに加えてあまりに深く痛くイヤミスィーな、度を超した復讐と”心の犯罪”の底が見えない地獄模様の無間陳述。。のようでいて第一の(?)語り手、旅人ロックウッドが絶妙なコミック・リリーフとして機能してくれる作者のやさしさも見逃せない。

行方不明時代のヒースクリフがどこで●●●●●●来たのか全く言及どころか暗示もされないのだが(実はほんの微かに仄めかしてはいる、と思うが)、、そこんとこを全ての道徳的悪事の「動機」と並んで最後に二大真打謎解きの披歴という構成にしていれば、こりゃ紛れもないミステリではないか、但し現代の眼から見て。同時代的にはそれでもいっぷう変わった一般小説ってとこか。(当時は「モルグ街」のころ)  ううむ、ひょっとして名作「●●の●の●」の、映像化が不可能とされる或る重大要素は、本作にインスパイアされていたりして。

本作(のTVドラマ)に触発されたというケイト・ブッシュの同名曲’Wuthering Heights(嵐が丘)’、ミステリ神経敏感な方にとっては歌詞が何気に本作の核心ネタバレを掠る感じになっておりますので、、と言ってもタツローの「夏への扉」に較べたら全然安全ですが、、いちおうご注意を。 逆に言うと、本作を読んだ後にこの曲を聴けばより味わい深く、怖い、に違い無い。 蹴球W杯イングランドが勝ち残っている間にお読みになればより一層、胸が締め付けられる、かも。 

一度でいいから見てみたかった 女房がHeathcliff隠すとこ 歌丸です(安らかに)

No.822 8点 湖底のまつり- 泡坂妻夫 2018/06/22 01:52
フランス流儀×ジャポン陰影の重ね掛け。ミシェル・ルブラン「殺人四重奏」を現代日本受けするよう翻案したつもりが全くの別物になりましたが目論見通りです、みたいな 感じ。。 ではない。。 いずれダムに 沈 む(既に 沈 んだ 。。?)鄙びた村とその近郊が舞台の連 続殺 人事件( か?)

ページ少し進んだらもうヤラれます。何かがねじり込まれています。何かをウグウグしたいです。 村には(最後の?)祭が来る。。。 この小説のいったい何処の部分が私を騙してくれるのか、全く見当が付かない。。。。 “同じ姓が多い”だと? 気を持たすなよ、転がすなよこいつめえ。 非常時における男と女の出遭いが。。いや~ぁこれ以上は言いませんなあ。。

微妙な違和感でも大きな違和感でもない、違和感としては中途半端サイズの、それだけにミステリ違和感的には真の意味で微妙な違和感が四方八方きれいに嵌まって取り囲まれたまま。 そこに比喩はあるのかい。。惑わしてみるだけかい。。。 本当に、もう切実に、ストーリー展開が読めず読めずの無間連鎖に赤面してしまうほど。それもこの一見(?)何らかの悪魔企画がかっちり決まっていそうな小説構成で!!その構成自体の構成までが読者側の思い込みを脇腹掠って飛び越える展開図になっていそうで怖い…  ”ダムの気持ち”をミステリの舞台裏に応用したら、どうなるんだろうっ 。。。

さて残り頁も少なく流石にまとめに入ったか、と思うと終局間際に! いろんな意味でクライマックス、アレを取り出すシーンは悪い意味で笑っちゃいましたがね 笑



【こっからちょっとネタバレ】

パーゾウは 完全にダシに使われたというか、媒介でしたな。ついでに言えば社会派要素も。
読了後、サブちゃん「祭」の ♪男は~~~ が流れて来る人がいたとしたら、なかなかの皮肉屋さんですね!
あと、ほっぺふくらますのは何の伏線でもなかったのね。

【ちょっとネタバレここまで】



騙されるってより眩惑されました。 風景が刻まれる小説です。

No.821 7点 落ちる- 多岐川恭 2018/06/19 23:37
昭和30年代中盤。バラエティ豊かと言うより締まりの緩いバラバラ感の初期短篇集。でも各作の出来はなかなか。

落ちる(表題作) 7点強
反転をサスペンスが上回る心理ホラー一本勝負はエンディングに深い味わい。横道に淫せず一気に書ききったよな勢いがいい。
しかし直木賞の応募作に「落ちる」なる縁起の悪い題名(笑)。 結局ミステリ枠として戦後初の直木賞受賞作。(戦前には「人生の阿呆」がありました)

猫 7点
妙な規模感ある大胆物理トリック。タイトルの象徴する所は何かという変則ホァットダニットにはモヤモヤする意外性あり。沼田刑事。。。。。しかしこのエンディングはなーんとも画期的で、しかも人道的にヤバくないスか??

ヒーローの死 6点弱
当たり前過ぎる結末でびっくり。昭和30年代の雰囲気はとても良い(ので大幅点数アップ)。

ある脅迫 6点
ちょっとした叙述ギミックが味。よく出来たストーリーだが、〆の小噺流儀はちょっとなあ、、もっと巧く小噺〆る人もいるよね。

笑う男   7点
これぞ推理&調査!! 題名の反転も、地味だがなかなか。 問題は、ピエール瀧をどっちの役に振ったらエエかだな。
「と、思うでしょう。ところがこれからが。。」 ← これいいねえ

私は死んでいる 7点
この設定と会話筋のユーモアはいいな、言葉選びはともかく。 Ohジジイ、いいぜ。。。。 いやあ、これほど深く温かい 、おまけに微妙にずれてる”五十歩百歩”がありましょうや!? 「どうもおかしい。何か考えてる。」 さてこれはネタバレだと思うんで一応警告しておきますが、 ’トランチャン’が実はベトナム人かタイ人の名前で日本語通じず。。というオチかとちょィと思ったもんです。。 嬉しいようで惜しいようで、やっぱりありがたく温かく淋しいエンドが印象的。

かわいい女 7点強
この構成にしてこの結末、こりゃなかなか趣き深い。重厚感ある分厚い短篇。 女と男、男と女。


なーんだか微妙にB級感漂う(でも面白い)作が目立つんだが、最初と最後に配置された「落ちる」「かわいい女」は締まりのあるA級作品、点数も高め。

No.820 5点 赤ちゃんをさがせ- 青井夏海 2018/06/15 18:37
意外と赤ちゃん(‘;’)の匂いがしないというか、赤ちゃん度は決して高くない、むしろ困った大人たち中心の世知辛い物語三篇。まあ確かに’あたたかい’所はありますが、そんなほのぼのしてばかりもいられない本ですね。だいたい、赤ちゃんが生まれるってとこに謎やら事件が直結するんだから、こりゃあディープなワケありに決まってるわけで。

第一話 お母さんをさがせ/第二話 お父さんをさがせ/第三話 赤ちゃんをさがせ

第一話からいきなり、アホやなァ(ニヤニヤ)と思えるほどの純ゲーム性が全面に出たり、或る作では謎堅き失踪サスペンスが突発したり、また或る作では、、まさかの最高に純度高いハードボイルド流儀で締めてくれた。あれは痺れたね。

文章、脇役級のはずの人物がチョイ役で消えるような木目の粗さも時には看過できなかったが、でもまずまあ許せる。 4.8点くらいかな。

No.819 7点 鏡は横にひび割れて- アガサ・クリスティー 2018/06/12 22:50
ホェンダニット応用編、いつ●●が成立したか(長期と短期の噛み合わせ)。
忘れ得ぬ犯人像、鮮烈な動機。危険な含みのエンディング。

意外なタイミングの連続殺人に僅かの蛇足感もありますが、”村”やマープル達に訪れた経年変化の描写と合わせ技で、短篇で光りそうなワンアイディア(と呼ぶには残酷過ぎる背景だが)を長篇で活かす構成要素としてしっかり機能したと言えましょう。

間違い無く、味わいの一篇です。

No.818 8点 夏への扉- ロバート・A・ハインライン 2018/06/07 12:20

ラストに圧倒的キラキラ感がふりそそぐSFクライム。 但し空想科学の力を借りるのは悪事側でなく、主人公が果たす復讐と           の部分。

友情に恵まれなかったウォズとジョブズのような二人が、二人の女性に翻弄される物語、と意地悪く集約してみたくもなる。悪役をブッ飛ばす爽快感、良い意味で善悪割り切り過ぎの感じ、良い意味でリアリティ、素晴らしき技術者魂、タフガイの猫、人によっては◯◯◯かも知れない恋愛要素、事のきっかけは冷凍保存(コールド・スリープ)。。。。。。。。そして!!!!

舞台は未来と大未来、まるで過去に大過去を物語る半七のようだ、と思いきや、あの点が決定的に違う、というか逆だ。(なお前述の未来も大未来も今(2018-06)や過去。本書はロックンロールの爆発する1950年代中盤の作で、当時の未来(1970)を物語の現在地に、大未来(2000)を未来地にそれぞれ設定)。。更に痛気持ちいいのが、半七とは逆に、時を経た読者にとってその輝きを最低限の勇気ある見切りだけ失うべく、作者も翻訳者も使命のトルネード爆心地にて弄したであろう、文字通りに文字通り今在る言葉の原資だけでなんとか紡ぎ切ったであろう時の流れへの対抗策と、その事自体へ献呈するユーモア、その象徴的集約モーメントにさえ与えんとする、、う~~ん、我ながら何言ってんだかさっぱり分からん。 そこで水爆だぜ。。。

もしも金(gold)の資産価値が相対暴落していたら、、この軽SOWには、軽ながら、ウー、結構やられた。

本サイトにて現状、評の数が極端に少ないのは、本作にミステリ寄りのイメージが希薄なせいかも知れないが、実際はかなり濃密なミステリ興味にも裏打ちされた、何気に犯罪とサスペンスにまみれたSFファンタジーです。 素敵な恋を呼び込みたいのなら、読んでみる方がいい。

「何度人に騙され、痛い目をみようとも、結局は人間を信用しなければ何も出来ないのではないか。」
↑ このヒューマニティ溢れる経済学的物言い、最高です。

あれえ、猫のピートは。。。。。  ’夏’の象徴ないし意味するところとは、いったい。。

山下達郎の同名曲(作詞は吉田美奈子)、ミステリ神経敏感な人にとっては歌詞が何気に本作の核心ネタバレを掠る感じになっておりますので、ご注意を。 逆に言うと、本作を読んだ後にこの曲を聴けばより味わい深い、かも。


No.817 8点 変調二人羽織- 連城三紀彦 2018/05/31 12:19

変調二人羽織(表題作)      
おゝ、これぞ文学と不可能殺人の融合(笑)! 処女作からこの反転の抉りの深さ、やばいです。 鶴が一羽、東京の空を舞った夜、引退を控えた悪評芬々の落語家(こちらも鶴の異名あり)が最後に開いた一席にはわずか五名の招待客。 或る捻った趣向のもと、弟子との二人羽織で演じられる高座にて、停電の間隙を突き。。。 事の次第を語るはくたびれ気味の現役刑事と、若くして辞めた後輩との往復書簡。 多重解決によく似た大きな反転を繰り返し、、折原ティックな最終反転は初め蛇足と見えたけど、警察小説的人間ドラマとしてはそこが肝要なわけですね。  8.4点

ある東京の扉               
不思議と堅実なリアリティがある、ユーモア自慢の一篇。チンピラ文士(?)の売り込む推理小説ネタをベースに脳内事件話が拡がる。アリバイ破りの焦点は、交通の事情により密室状態の東京都からどうやって埼玉県某市まで行けたか。 走りながら考える、進化する多重解決(!)の味わいは格別。 ラヴェルのあの曲がそんな大胆な盲点トリックの隠喩にねえ。。 私も敬愛する某作家を冒涜する下劣な駄洒落には大笑い。 7.7点

六花の印
冒頭からすぐ、時系列のホッピングが笑うほど凄い。戦中明治の世と戦後昭和の世、時代小道具は違えど相似に満ちた二つの死を待つ短い旅程。。あいつを殺して俺も死ぬ。あの人が死んだら、私も。。。。 違和感の軋む表題に趣を付与するラストシーンは達者な筆の所為か取って付け感まるで無し。 よくも最初期からこんな超絶技巧の銘品を。 参った。  8.8点

メビウスの環              
冷たい仲の俳優夫婦は本当に殺し合って(?)いるのか。。 んーー .. 連城期待値のクライテリアでは物語と文章要素は俗に過ぎ、ミステリ要素はヒネリが無さ過ぎで凡作範疇。。。  と思うと最後の思わぬ●●●●●趣向に討たれます。 でもやっぱどこか弱い。 7.2点

依子の日記               
復員後、田舎に隠遁して仕事を続ける著名小説家とその妻、そこを訪れる編集者の若い女。 物語は、この女を殺そうと夫婦で決意した日の「妻の日記」から始まる。 女の豹変と過去の重圧、そして嫉妬、事件、新たな苦悩に新たな疑惑、そしてまさかの、新たな、、、、 新たな、、 目視水深を遥かに超えて渦巻く闇の嵩張りに包まれちまう、こりゃあディープな一篇。 9.4点

著者によるあとがき、推理小説を書くきっかけとなった父親の話、風のようにさり気ない筆致が泣けます。


No.816 6点 西南西に進路をとれ- 鮎川哲也 2018/05/30 00:14
昭和40年代後半から50年代初頭の準落穂拾い短篇集。
最初の倒叙3篇、つかみは堅実、中盤は実に面白い展開なのだがオチ(どうしてバレたんでしょうか?)でズッこけるというこの頃の鮎川倒叙悪癖典型のような作ばかり。でも最後に行くまではどれも妙に面白いんです。

ワインと版画/MF計画/濡れた花びら/猪喰った報い/地階ボイラー室/水難の相あり/西南西に進路をとれ (集英社文庫)

後半順叙篇の方が、物語の面白さはまた別として、ミステリとしての締まり具合はぐっと上。とは言えやはり何処か気を張り通せなかったよな緩みのちらつく作品が目立つ。そんな中でも相対的に際立って見えるのが「水難の相あり」。昭和のスキー場をメイン舞台とした謎多き魅力的な犯罪物語だが、それにしてもラスト近くまで不可解なタイトル(スキー場で水難とな?)の意味が明かされるシーンにはアリバイ偽装暴露の創意が光り、感動します。。 惜しむらくは最後の表題作、「本当はA地点までドライブしたのをB地点までと錯覚させる」のが肝なのですが、こりゃひょっとして鮎川三十年代黄金短篇群に匹敵する大きな心理的アリバイトリックに蹂躙されるブツではなかりしかと、ごくうすぅーく期待もしてみましたが、、まさかそんなチャチい小物理トリックがネタとはな!!(やってる事自体は結構壮大なんですけどね) でもトリックが明かされる工程にゃ妙にスリルがあった。 そうさ、短篇集にリアルタイムで収められなかったブツを後年集めた本だそうだが、どの作も決して詰まらなくは無いのさ。

No.815 4点 三重露出- 都筑道夫 2018/05/26 19:20
こりゃ期待しますよ、作中作趣向は普通のナニとして、その作中作ってのが現実世界の探偵役(翻訳家)が絶賛翻訳進行中(!!)の忍術スパイ小説で、そん中に探偵役の昔の知り合い(謎の死ないし失踪?を遂げた女)らしき人物が登場、翻訳を進めるうち現実の事件を解く鍵が見つかるんでないかと翻訳家は気を張り眼を凝らしつつ、現実世界でもワトソン役(事件当時から友人)の助力を得て当時の状況に追想と推理を巡らす、、という素敵な複雑構造。 そりゃあ、期待しないわけが無いでしょう。。 無いでしょう。。。 無いでしょう。。。。  ‘61のシボレーインパラが登場するのは良かった。 ラストはまさか某奇書を意識しているのか??

No.814 6点 ノア・P・シングルトンの告白- エリザベス・L・シルヴァー 2018/05/25 23:08
こりゃスッキリしないですよ。 モヤモヤし過ぎであるが故に、これ言ってもひょっとして事実上ネタバレにならんのかも知れんけど、或る弁護士が或る事をズルズル延ばし続けた理由は或る事(物語の核心)の或る種共犯関係を確認したくないような、したいような、告白したいような、そんなスッキリしない気持ちに支配されていたから、なのでしょうか? またもう一人の弁護士の役割は、前述の共犯関係の暴露に近づきかけた挙句、用心のため排除されてしまった脅威的存在ってこと? 主人公の父は、その経緯すら気づかなかった哀れさの象徴か?? 〝あの瞬間、わたしはたくさんのことを悔やんだ〝。。

死刑の日取りが半年後に迫った独房の主人公(ノア・P、35歳女性)は、牢獄生活ですっかり錆びれた頭脳で(昔は優等生だった。。)、なお色彩豊かにおかしな比喩でいっぱいのモノローグを紡ぎ続ける。彼女の助命に奔走するのが、彼女が殺害した女性(同じ大学に通っていた)の実の母親という不可解。。。。 「父親になりたいのなら、とっくになってたはずでしょう。」

出だし数頁から叙述足取りの揺らぎは本当に惑わせる。 叙述遊興でも、きっと叙述欺瞞でもない(かどうか。。。)叙述の揺さ振りによる真相プロービング、 それも初期も初期から飛ばし過ぎやでえ。。。 目次の無い事が暫時、気になって仕方が無いんだぜ。

やっぱり、 こいつ(主人公)が、結局執(や)られるのか否か、或いは別の成り行きで死ぬのか、もしくは。。 ああー、もう言わねえよいちいち。 え、何故そこで、被害者の名が。。 “パットスミス”なる造語(いや、アダ名)には笑ったが、そのパットスミスの踏み行かねばならなかった、運命の茨道よ。。

原題は’THE EXECUTION OF NOA P. SINGLETON(ノア P. シングルトンの処刑)’。ただ英語の’EXECUTION’は際どい所で必ずしも’処刑’を意味するとは限らない。 ノアが何らかを’執行’しただけかも知れない。そのあたりの微妙さを活かした邦題’~~の告白’はGOOD JOB。

のあぴーの収監番号”10271978”は、 奇しくも藤原道長没年とサザンオールスターズ音盤デビュー年を並べてくっつけた数字の並びです。これには心底驚きますが、本作のエンディングにはあまり大きな驚きを持てない人が多いかもしれません。または別の意味でびっくり、と来るかも。 ま、人それぞれさ。 住んでる国の違いもあるかも知れないサ。 現代米国ミステリ。

No.813 7点 不安な産声- 土屋隆夫 2018/05/24 05:59
こりゃのめり込むよねえ。。。。 出だし’告白開始の合図’からもう、期待感という名の巨大な絶壁が目の前に立ちはだかりますよ。あせらなくていいから、ゆっくりじっくり崩壊に向かってくれ、絶壁よ。。 

人工授精の業績で名を馳せる大学教授は何故、出遭ったばかりの女性を  し、更には、、、、のみならず、、、、、、、、 ところが、、、

一見平凡のような章立て「過去の章」「現在の章」「犯罪の章」「未来の章」もよくよく練り込まれています。

若い女性の殺害を認めつつ、“千草姉さんに申し訳が立たない”と何度も悔やみつつ、偶然同じ名の千草検事には事件の核心を隠し続ける教授。 遠い過去、亡くなった姉さんの復讐を動機に、或る非道極まりない行為を犯した教授。 更に過去、ラジオ番組に出演して人工授精を取り巻く諸々について一席ぶち、一躍セレブリティ(有名人)の座に躍り出た教授。。

もしも本作を、常道の本格推理形式に再構築したらどうだろう、とか、読了前から早くも妄想炸裂気味になっていました。それだけ内容重厚で魅力溢れる中盤の展開だった、というわけです。

そうそう、アリバイ崩し基調の本格要素がどっどどどどうと雪崩れ込んで来る「犯罪の章」、そこに見えるトリックこそ小粒ではありますが、それまでの心理ミステリー風横顔から急展開ならではの味わいが思いのほか深く、小説全体に一層の彫りの深みを与えていました。粋だ。



さてここからはっきり【【ネタバレ】】になりますが

謎の核心である「初対面の人物を殺害した背景」が成功確信犯ではなく事故(人違い。。)だったなんて。。。(しっかり伏線が張ってあったのが逆になんとも)ここで、動機の堅牢無比な筈の意外さが、断崖絶壁の幻想からせいぜい工事現場の立入禁止フェンスへと一気に萎んでしまう口惜しさや! せっかく中盤でグイグイ引っ張っといて、結末で不意に手を離された、昔のスキー場のロープトウ(ご存知の方は?)電気系統がブレイクダウンしやがったみたいな気分です。 ま例えば、てっきり千草姉さんとこそ何かあったんでないかと冒頭から仄かに匂わせるのは純粋にミスディレクションとして成功してるのかも知れないが、、もちろんそこだけじゃないんだが、、うむむ。。。 おまけに、追い討ちを掛ける、あまりに見え透いた最後のオチ。。



結末にたどり着くまでの非凡なる面白さを勘案し、献上する得点はそれなりです。

No.812 6点 せどり男爵数奇譚- 梶山季之 2018/05/19 10:37
おいら、人様の病膏肓(やまいコーコー)趣味話をうかがうのが好きでしてねえ。自分は絶対そこまでしねえよ、と呆れつつ、その道の専門家様が滔々と語り紡いでくれる魅惑のストーリーにはついウットリ聴き入ってしまうのでございます。。なわけで、ハイエンド古本売買の魍魎世界に材を取り、薄ッすらミステリ香漂う本書は私にとってマグネット効果覿面のちょっとしたB級グルメはしごツアーなのでございました。

色模様一気通貫/半狂乱三色同順/春朧夜嶺上開花/桜満開十三不塔/五月晴九連宝燈/水無月十三么九

本書、前述した如く、探偵小説要素は霞のようにうすら淡い短篇が主体ではありますがその淡さこそ、えも言われる魅力の大事なバランサー要素でございますね。そんな中で突出してミステリ領域に喰い入って来るのが「十三不塔」。これは異色作ですが、一般娯楽小説に近い他の作品群と連環してみなそれぞれの読み応えがあります。 尚、全作とも麻雀の上がり役に因んだ表題が付けられており、それぞれのストーリーを暗示しておるわけで。。。(みんな、もっと麻雀しようよ!) 清張譚との接点が何気なく連発するのも魅力です。 近年「ビブリア古書堂」で言及され、知名度が回復しました。

No.811 7点 ガラスの鍵- ダシール・ハメット 2018/05/06 23:28
高名な拷問~逃走のくだりに差し掛かる予兆のあたりから物語の内燃機関躍動が露わに。ネタは上院議員選挙区の内幕。滋味溢れる犯罪真相追及の道筋にはハードボイルドミステリなる肩書への裏切り一分も無し。表題の由来が、本作の最も頑強な柱である「或る友情」とは別方向にあったのはスカされた気分だが、その別要素と不可分のエモーショナルなラストシークエンスは胸に残る。

No.810 4点 殺人のスポットライト- 森村誠一 2018/05/05 20:08
新宿のホームレス達が知恵を出し合い、自分たちが棄てた筈の’社会’で起こる事件に解決の光を当てる連作短篇。森誠の筆でこの設定にしては社会派要素は抑制されている。が本格推理としても薄味。妙に記憶には残る。

題名が何だかホームレスと直接無関係で中途半端なのは、作者のアンチ逆差別的な心に依っているのかも知れないが、まあ確かに「宿無し探偵の事件簿」なんてのよりはずっと読む気にさせる(私の場合は、ですが)。

No.809 8点 百舌の叫ぶ夜- 逢坂剛 2018/05/04 21:14
露骨極まりない叙述ギミック! そこで殺すんかい。。。(これかてちょっとした叙述ギミックやで) 時系列の揺さぶり、半端ねえ。。。。。 骨格も豊かな●●欺瞞があっさり暴露されたかと思えば、その隠された位置エネルギーを遥かに上回る甚大な謎また謎をひっくり返す運動エネルギーにどこまで押し寄せられるのか分かりゃえしねえ。。。。 “生き物のようにうねる●の●”。。。

ラストシークエンス、小説的多幸感に直結しそうな”多主人公感”に苦笑する瞬間があるも、一蹴。 とは言え後に思えばやはり主人公トゥーマッチな感はあるが。。やはり面白さの力で完全凌駕。 最高の冒険本格ミステリにして、痛切の社会派ダークファンタジー、傑作でございます。

集英社文庫の作者後記に露骨なトリックネタバレとささやかな粗筋ネタバレとが配備されてある故、幸せであるべき全ての初読者諸氏におかれては是非とも各其注意深さを発揮し、時ならぬ不運に襲われる痛恨なきことを!

No.808 6点 メグレ罠を張る- ジョルジュ・シムノン 2018/05/03 11:37
冒頭、メグレが洒落たことをする。 謎解きの展開もある種洒落ており、、途中で早くも大味な真犯人決め打ちで終了フラグかと思いきや、応用編フーダニット(●●殺人●●●●●●真犯人●●●●●●●●●誰か?)の二段階ヒューマンドラマ興味が読者に追い付いて来た。。。 だが最終局面、追い詰める畳み掛け、あからさま過ぎること詰め将棋の如しで味わいの深さを少しだけ損なったな。。 もっとモヤっとしてもいいのに。。 なんてね、そりゃ多作家の自由だよな。

‘マゼ’って名前の奴がどうにも’MOD’S HAIR’を思わせてクスリしました。「半ライスおかわり」みたいなシーンにはちょっと笑った。途中から”あの人物”が、オリラジ藤森が演じてるイメージにはまって仕方無かったな。。

No.807 6点 愚行録- 貫井徳郎 2018/05/02 08:46
個人的にイヤミスってのはスカッと爽快になりたい時に(80年代のヤングが山下達郎を聴く感じで)読みたいもんなんですが、本作はあまりに文芸として優れているせいか(?)中途半端に嫌な気持ちを沈殿させたままで終わるのか。。と思いきや最後に、嫌悪よりも哀しみの方角に大きく舵が切られ、おかげで読者の気持ちは美しく締まった。。。。ってそりゃなんて理不尽な感動だ!! 被害者夫婦の裏の顔みたいなものは、おぞましいとは言えないレベルではないかな(ストーカー撃退の件は若干エグかったですが)、その割に、結果として引き起こされた犯罪の限り無い重篤さ。。。その根本原因は被害者よりも犯人側の育ったあまりに悲劇的環境の方に大きく比重が偏っていますよね。そこに、ミステリとしては一抹の不満が。。 さて本作、真犯人が現在おかれている状況に一ひねり+αあるのが推理小説としての美点ですね。●●●●●●臭さを感じさせない、格調ある物語構成も良し。

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