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平均点:10.00点 採点数:13件

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採点傾向好きな作家

No.13 10点 卵をめぐる祖父の戦争- デイヴィッド・ベニオフ 2015/07/22 00:09
「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」作家のデイヴィッドは、祖父の戦時下の体験を取材していた。ときは一九四二年、十七歳の祖父はナチス包囲下のレニングラードで、饒舌な青年兵コーリャと共に卵の調達を命令されていた――。

日本人には馴染みの薄いレニングラード包囲戦(市民の犠牲者は100万人以上とも言われ、これは太平洋戦争の日本本土での民間人死者数を上回る)を舞台にした冒険小説。
レニングラード(現サンクトペテルブルク)はバルト海に面した、ソ連にとって重要な港湾都市である。そのためナチス・ドイツの急襲を受けた。完全に包囲され砲撃にさらされる中、レニングラードは必死の抵抗を続ける。しかし補給路が断絶され深刻な飢餓に悩まされていた。街からは動物が消えうせ、人肉食も横行し、子供の姿を見なくなったとさえいわれている。そんな状況の中で祖父のレフは卵の調達を命令されるのだ。

周りは絶望と退廃が蔓延しているが、相棒のコーリャはいつでも下品な冗談を口にし、どんな状況になってもその姿勢を貫く。希望を失わないレフとコーニャの道中は、重い話を不必要に暗いものにしていない。
レニングラード包囲戦下での卵探しの旅という奇抜な導入だけでなく、その後のストーリー展開も文句なしにおもしろい。極寒のロシアの地とそこに生きる人々の描写も素晴らしい。そしてなんといっても最後の一文、これでこの物語はすべてが救われるのだ。
本作は戦時下の冒険小説であると同時に、ロードノベルでもあり、友情物語であり、若者の成長物語でもある傑作小説である。

No.12 10点 タイム・リープ あしたはきのう- 高畑京一郎 2015/07/21 00:59
高校二年の鹿島翔香はある日、自分が昨日の記憶を消失している事に気づく。そして日記には自分の筆跡で書かれた見覚えの無い文章があった。“あなたは今、混乱している。若松くんに相談なさい…” 校内トップクラスの秀才若松和彦は翔香の身に何が起こっているのか調べ始める――。

<タイム・リープ>の概念を作り出したタイムトラベルミステリの傑作。
本書以前のタイムトラベルものは跳躍者の体ごと時間移動をするものであった。その時に、同じ時間軸に自分が存在する場合に跳躍者が元々の自分を押し出す形になる『時をかける少女』パターン。その時間軸に元々存在する自分と、跳躍者である自分とが存在する『バック・トゥ・ザ・フューチャー』パターン。どちらにしてもタイムパラドックスの矛盾を説明できるものではなかった。

そこで作者が作り出したのが跳躍者の意識だけが時間跳躍する<タイム・リープ>である。
グリムウッドの『リプレイ』のような<ループもの>とも違い、時間軸は未来にも過去にも移動するが二度同じ時間軸を経験することはない。
跳躍者の体は通常の時間軸を過ごすため、いわゆる質量問題はおきようがない。またこれは<タイム・リープ>という概念の本質を語ることになってしまうのだが“過去改変によるバタフライ効果もおきない”のである。
つまり本書はタイムパラドックスをなくしてしまったタイムトラベルものなのだ。これを考え出した高畑京一郎は天才である。

さらに凄いのが一分の隙もなく組み立てられたプロットである。どんな本格推理でもSFでも、本書以上に完璧なプロットの小説を私は読んだことがない。最初から最後まですべてがピタリと嵌るのには驚愕を通り越して感動してしまった。これから読む人は是非タイムテーブルを作成しながら読んで欲しい。

本作の発表以降、漫画、アニメ、ゲームなど国内サブカルでは<タイム・リープ>を使用した作品が数多く作られたが、もちろん本書を超えるものはない。ライトノベルだという偏見で読まないのはもったいない傑作である。
なお本書は究極の徹夜本であることも断っておく。就寝前に読み始めて寝不足になるのだけは気をつけていただきたい。

余談だがヒロインが鹿島でその友達は水森、三原、矢内。若松には可愛い妹がいて、教師は中田である。元ネタがすぐわかった人は私と同世代ですね(笑)

No.11 10点 ホット・ロック- ドナルド・E・ウェストレイク 2015/07/20 00:00
悪党パーカーシリーズのリチャード・スタークの別名義。ウエストレイクのドートマンダーシリーズの一作目。
刑期を終えて出所したばかりの天才的犯罪プランナー、ドートマンダーに舞い込んだ仕事は、アフリカ某国の依頼で大エメラルドを盗み出すというもの。彼は四人の仲間と共に意表をつく数々の計画を練るが、そこは運のない男ドートマンダーのこと、事態は思わぬ方向へと転がって――。

文句なしのスラプスティック・ミステリの最高傑作。ユーモアミステリと聞くと敬遠する人も多いかもしれない。たしかに出来の悪いユーモアものは読んでいて寒いだけだが、その点、本書は心配いらない。最初から最後まで笑いっぱなし間違いなしである。
その理由としてスラプスティック(ドタバタ)そのものよりも、会話の妙やシチュエーションの不条理さにおかしみがあるからだろう。子供騙しではないエッジの効いたユーモアがずっと続く、これでおもしろくないわけがない。

登場人物も個性的で魅力的。ドートマンダーは泥棒の天才でありながらとことん運のない中年男。相棒のケルプはそんなドートマンダーにいつも「うまい話があるんだ」と悪魔の誘いを持ちかける調子のいい奴。他の仲間も運転偏執狂に、色男、浮世離れした鍵開け名人と変わり者揃い。依頼人であるアイコー少佐からして身上調査書マニアだ。

ユーモラスなだけでなく、そのトリッキーな数々の計画はクライムノベルとしても素晴らしい出来である。またドートマンダーは殺人、放火、誘拐などはいっさいしない、純粋(?)な強盗犯であるため、血なまぐさい話は苦手だという人でも安心である。
肩肘張らずに楽しめて、何回読んでもおもしろい。騙されたと思って読んでほしい一冊である。

『陽気なギャングが地球を回す』シリーズは本作の影響を受けて書かれていると思われるので伊坂幸太郎ファンにもお薦めしたい。

No.10 10点 空飛ぶ馬- 北村薫 2015/07/19 00:03
北村薫のデビュー作。円紫さんと私シリーズ一作目。
女子大生の<私>が出会う日常にひそむささやかな不思議な謎。それを円紫師匠が解き明かすとき、貴重な人生の輝きや生きていくことの哀しみが浮かび上がる――。

殺人などの犯罪がでてこない、いわゆる<日常の謎>をメジャーにした作品。これ以前にもアシモフの『黒後家蜘蛛の会』や戸板康二の『中村雅楽シリーズ』などはあったが一般的知名度は低かった。現在のようにジャンルとして確立した功績は大きい。また本や落語に関する薀蓄が随所に散りばめられており作者の造詣の深さが窺える。そのため推理以外の箇所を読むだけでも十分に楽しめる。

もちろん肝心の謎も魅力的である。北村薫はハートフルな作風と捉えられがちだがそれだけではない。善意とおなじぐらい悪意や人間の負の部分を正面から書いている。それらは身近な日常にあるからこそ恐ろしく、心温まる。そしてこの物語で推理しているのは、直接的なトリックではなく、それらをおこす人の感情=動機なのだ。
「人間が書けている」と言うと陳腐に聞こえるが、第一人者である作者と後続の作家との差はこの部分だと思われる。
<日常の謎>を語るには必読の一冊だろう。

No.9 10点 鷲は舞い降りた- ジャック・ヒギンズ 2015/07/18 00:10
かつて内藤陳さんは仰った「ジャック・ヒギンズを知らない? 死んで欲しいと思う」同感である。
というわけで冒険小説の大家ジャック・ヒギンズの『鷲は舞い降りた』の紹介。実は『脱出航路』と迷ったのだがいつの間にか絶版になっていた……。早川は馬鹿なの? 死んで欲しいと思う(早川書房に腹が立つことなんて年がら年中ですが)。ハヤカワ文庫NVの白背が書店の棚にずらーっと並んでいた時代とは隔絶の感がありますね……。

1943年ナチス・ドイツの敗色が濃厚となる中、ヒトラーは起死回生の作戦としてイギリス首相チャーチルの誘拐を命令する。歴戦の勇士シュタイナ中佐を指揮官とするドイツ落下傘部隊の精鋭は、チャーチルが週末を過ごすノーフォークの寒村へと降下した――。

冒険小説は架空戦記ではないので、フィクションであっても史実に準拠している。チャーチルが誘拐されたという事実がない以上、シュタイナたちの作戦は失敗することが読む前からわかっているのだが、それでも手に汗握り、ページを捲る手は止まらない。無謀な作戦の計画立案、現地での作戦実行、すべてが息をつかせぬ展開である。
そしてなんといっても登場人物が魅力的だ。「非常に頭が良くて、勇気があって、冷静で、卓越した軍人……そして、ロマンテックな愚か者だ」と評されるシュタイナをはじめ、ドイツ落下傘部隊の面々はいわゆる悪役のドイツ軍人ではなく、血肉をもった共感できる人間である。これはこの物語では敵役として描かれるアメリカ軍のレンジャー部隊もおなじだ。もちろんシュタイナたちに協力するIRAの闘士リーアム・デヴリンも忘れてはならない(デヴリンは数々のヒギンズ作品に登場している)。どんな端役の人物でも何かしらの存在感があり印象に残るのは凄い筆力である。

冒険小説は狭義のミステリには入らないが、本作はジャンルで読まず嫌いをするにはもったいない傑作である。ヒギンズの作品はセンチメンタリズムの傾向が他の冒険小説作家に比べると強いので登場人物に感情移入がしやすい(人によってはそこを軟弱と感じる場合もあるが)。冒険小説最初の一冊としても最適だと思う。

No.8 10点 新宿鮫- 大沢在昌 2015/07/17 00:03
大沢在昌の出世作。新宿鮫シリーズの一作目。
新宿歌舞伎町で警察官連続射殺事件が発生。同じ頃、新宿署防犯課に勤務する鮫島は一人で銃密造犯を追っていた。警官殺し事件に署内が躍起になるなか、鮫島はあくまでも銃密造犯に拘り追い詰めるが、そこには巧妙な罠が――。

主人公鮫島は警官であるが、本作はマクベインの87分署シリーズのようないわゆる警察小説とは少し違う。鮫島はキャリアでありながらある出来事でエリートコースを外れ、堕ちた偶像として警部という階級でありながら新宿署の一捜査員として飼い殺しにされている。同僚からも疎まれ一匹狼として行動しているため、犯罪組織にも鮫島の行動はタレコミなどで流れない。音もなく近づき噛む(逮捕する)ことからつけられた通り名が“新宿鮫”である。鮫島が警察という組織に属していながら、むしろ私立探偵に近い行動をとるところが本シリーズの特色であり最大の魅力である。
また鮫島の存在こそイレギュラーだが、警察の捜査、内部機構などはリアルに描写されている。ほかにもキャリアとノンキャリア、本庁と所轄という、いまではミステリを読まない人にもお馴染みの(『踊る大捜査線』の影響ですね)対立を、いち早く描いたのも本作である。

ハードボイルドタッチの警察小説と聞くと重く感じる人もいるかもしれないが、本作は文章が軽快で非常にテンポがよく読みやすい。脇を固める登場人物も鮫島の恋人であるロックシンガーの晶をはじめ魅力的であり、それらの人間関係を通して鮫島が犯罪を追うだけのマシーンではなく、血の通った人間であることを伝えてくれる。
昨今の組織(チーム)を主軸とした警察小説とは異なるが、まぎれもなく国産警察小説の礎となった名作だろう。

No.7 10点 そして誰もいなくなった- アガサ・クリスティー 2015/07/16 00:10
ミステリの女王アガサ・クリスティのノンシリーズ。
年齢も職業も異なる見ず知らずの十人の男女がある孤島に招待された。しかし招待主であるU・N・オーエンは姿を見せず、夕食の席で彼らの過去の罪を告発する声が響いた。そして不気味な童謡の歌詞どおりに招待客は一人ずつ殺されていく――。

説明不要の超有名作であり、各国のミステリベストでも常に上位にランクインされている。典型的なクローズド・サークルであり見立て殺人。そのため本格推理であると同時に一級品のサスペンスとしても楽しめる。そして待っているのは驚愕の結末である。

クリスティは以後のミステリに多大な影響を与えた作家であるが、その作風はロジックの構築よりはアイディア一発の傾向が強い。当然ながら後の作家はそれにインスパイアされるし、本作も数々のオマージュ作品が書かれている。そしてどんな世界でもそうだが技術というのは時を重ねるごとに洗練されていくが、発想は先んじた人間のモノである。
何が言いたいのかというと「この作品を超えるミステリ小説はなく、今後も現れない」ということだ。

No.6 10点 占星術殺人事件- 島田荘司 2015/07/15 00:00
島田荘司のデビュー作にして、御手洗潔シリーズの第一作。
六人の処女から体の一部分を切り取り完璧な肉体を持つアゾートを作成する――。密室で殺された男の手記に書かれていたとおりに六人の娘が忽然と消息を絶ち、体の一部を切り取られバラバラ死体となって日本各地で発見された。迷宮入りとなった事件から四十年を経て御手洗潔がその謎に挑む。

新本格ブームの先駆けともなった名作。ケレン味たっぷりの島田ワールド全開で読んでいる間その世界にどっぷりと浸かることができる。御手洗の論理的かつ大胆な推理、驚愕の真相と、これぞ本格。
個人的にも中学の時に文庫化されたこの作品を読んで鮮烈な印象を受けたことを覚えている。変わらぬ顔ぶれの閉塞的だった国産ミステリに「何か凄いのがでてきた!」と思ったものだ。これ以降に出版された本はリアルタイムでの読書体験となるのでその境目的な作品としても思い入れが深い。
「国産ミステリといえば?」と問われたら本作を選ぶ。

某マンガ及びドラマで盗用され問題となったこともあり、読む前にトリックを知っている方もいるかもしれないが、もちろんこちらが本家。たとえトリックを知っていたとしてもデビュー作にして既に完成されているストーリーテリングは十分楽しめるはず。

No.5 10点 長いお別れ- レイモンド・チャンドラー 2015/07/14 00:01
おそらく最も有名なハードボイルド小説の主人公、私立探偵フィリップ・マーロウシリーズの六作目。
酔いつぶれていた男テリー・レノックスを助けたマーロウは何度か会って杯を重ねるうちに友情を覚え始める。しかしレノックスは妻である大富豪の娘殺しの容疑をかけられ逃亡の果てに自殺をしてしまう。彼の無実を信じるマーロウは別の依頼から再びレノックス失踪の理由を探ることになるが――。

シリーズの中でもこの作品の人気が高い理由は(特に日本ではその傾向が顕著)前述のマーロウとレノックスの不器用な友情が感性に訴えてくるものがあるからだろう。孤高の存在であるマーロウに対して感情移入がしやすいのだ。有名な最後の一節まで余すことなく味わえる名作である。

翻訳についてだが早川書房から清水俊二訳と村上春樹訳がでている。フィッツジェラルドの訳でもおなじことがいえるが村上春樹はチャンドラーからの影響を受けているので、いわゆる村上節はそれほど気にならない。しかし清水訳に比べると直接的にすぎるきらいがあり(もちろん良い部分もあるが)味気なく感じる。タイトルからして『ロング・グッドバイ』の意味がわからない日本人はいないだろうが情緒に欠ける。この小説にふさわしく『長いお別れ』とした清水の訳は素晴らしい。マーロウの独白、科白についても清水は数々の名訳を残している。ただ問題もあり清水訳は完訳ではない。ストーリーは追えるがマーロウの皮肉交じりの軽口が大幅にカットされているのだ。これはチャンドラーを読む楽しみがおおきく損なわれている。まずは清水俊二訳を読んでから補完するように村上春樹訳を読むのが理想だろう。

No.4 10点 孤島パズル- 有栖川有栖 2015/07/13 01:03
有栖川有栖の学生アリスシリーズの二作目。個人的国産フーダニットの最高傑作。
バカンスにきたはずの孤島で連続殺人に巻き込まれたアリス、マリア、そして江神二郎。いわゆるクローズド・サークルであり、第一の事件は密室殺人でもある。また宝捜しパズルもあり(読者の立場でも楽しめ正解に辿り着ける)ミステリマニアとしては読んでいる最中ニヤつきっぱなしである。
しかし白眉はなんといっても解決編、第二の殺人の際に犯人がおかした些細なミス、そのミスとも言えないような出来事から純粋な論理でもって唯一の人物を導きだした江神二郎の推理である。このシーンは探偵江神とワトソン役アリスのディスカッションなのだがこれが熱い。疑問点をあげていくアリスに対して江神はひとつずつそれを潰していく、ロジックには納得したもののまだ犯人がわからないアリスに対して江神が言う「お前には止められんかったな」のセリフ。何度読んでも震えます。

No.3 10点 星を継ぐもの- ジェイムズ・P・ホーガン 2015/07/12 23:50
文句なしのSFミステリの傑作。
「月面で発見された真紅の宇宙服をまとった死体。それは現生人類とおなじ生物であるにもかかわらず五万年前に死亡していた」ホーガンはこのなんとも魅力的な謎の提起から壮大なスケールの物語を紡いでくれた。そのロマン溢れるストーリーはそれがフィクションであることを残念に思ってしまうほどである。
ミステリ要素は少なくなるが続編である<巨人たちの星>シリーズもあわせて読みたい。

No.2 10点 A型の女- マイクル・Z・リューイン 2015/07/12 21:35
ネオ・ハードボイルドの旗手リューインのデビュー作であり、アルバート・サムスンシリーズの一作目。
そもそも「ネオ・ハードボイルドってなに?」ということだが定義は難しい。もの凄いざっくりと説明すれば庶民派の主人公を据えたハードボイルドだろうか。サムスンも健康のため煙草は吸わず、酒やコーヒーよりもオレンジジュースを好み、バスケットボールチームペイサーズの大ファンであり、依頼人を待つ間は昼寝とクロスワードパズルで時間を潰すというなんとも親近感溢れる人物だ。もちろん暴力は怖く事件現場でもすぐ怖気づく。フィリップ・マーロウやサム・スペードのようなタフで孤高を誇る超人的な探偵とは雲泥の差である。
しかしそうであってもサムスンも正統ハードボイルドの継承者なのである、どんなに怖気づいても正義の信奉者であり、弱者の味方であり、自分の仕事に誇りを持っている。
そのサムスンの元にやって来た十五歳の少女の依頼が「わたしの生物学上の父を探してほしい」というものだった。彼女の血液型はA、父親はBで母親はO、少女は両親の元からは生まれることのない血液型だった。サムスンは調べをすすめるうちに大富豪である少女の家の醜悪な争いに巻き込まれていくのだが、結末までよく練られたプロットでありストーリーのおもしろさも申し分ない。
またこの物語は依頼人の少女の成長物語という側面もあり、それを見守るサムスンも同時に探偵として成長していく点も見逃せない。
硬派すぎるハードボイルドはちょっと苦手という人に是非読んでもらいたい一冊である。

No.1 10点 そして夜は甦る- 原りょう 2015/07/12 18:24
早川書房への持ち込み原稿が即採用されたという、和製チャンドラー原りょうのデビュー作。
ハードボイルドファンなら、冒頭の探偵沢崎と事務所を訪れた謎の男とのやりとりを読むだけで痺れてしまうだろう。タフでキザな孤高の探偵がロサンゼルスでもサンフランシスコでもなく新宿にいるというだけで感慨深いものがある。
複数の人間から舞い込む同一人物の失踪探しが、やがて都知事狙撃事件にまで関係していくという綿密なプロットも魅力的。
国産ハードボイルドを読むならばまずはこの一冊からという傑作。