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平均点:5.79点 採点数:97件

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採点傾向好きな作家

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No.97 4点 ロンリー・ハートの女- リザ・コディ 2017/04/22 19:38
調査員アンナ・リーシリーズの五作目で、邦訳では三作目となる。
人気ロック歌手の身辺警護をすることになったアンナ。セックスやドラッグにまみれた
ロック業界の裏側を垣間見る中で、ロック歌手に対するストーカーや脅迫状などの不審な
出来事にも遭遇し、やがてロック歌手の愛猫が惨殺されてしまう。

シリーズ前二作は面白かったが、本作は面倒な読書になった。
遠回しで要領を得づらい台詞のやり取りが目立ち、状況が見えづらい。
前二作も同じような文章で、話が複雑だったり細部の説明が多すぎたりで読むのが
面倒に感じられたが、それを補う面白さがあった。本作は舞台や人物こそ華やかだが、
書き方が雑なせいか散漫で緊張に欠ける。

女子プロレスラー、エヴァ・ワイリーのシリーズは面白そうだし、アンナ・リーも
ゲスト出演するようだが、作者のややこしい文章や筋運びを見ると不安になってくる……。

No.96 7点 夏をめざした少女- リザ・コディ 2017/04/22 19:36
女性探偵アンナ・リーのシリーズだが、二作目と三作目は未邦訳で、本作は四作目になる。
16歳で大学に進もうとしている才女の捜索に乗り出したアンナ。やがて少女は保護されるが、
彼女が一時滞在していたとされるホテルで身元不明の男の射殺体が発見されてしまう。

デビュー作ではハードボイルドらしくも華やかな文章が印象に残ったが、
それから五年後に出た本作は、その文章の面白さに磨きがかかっているように見えた。
主人公が特別なスキルを持たない普通の人であることも理由にあるだろうが、
日常的な心理や仕草の描写がリアルだし、また心の病を抱える失踪少女を描く中で
詩的な文章や幻想的な文章も随所で見られ、中盤まではカラフルな読み応えがある。
捜査がスムーズに進まないおかげで後半は話の筋や出てくる情報の意味が分かりづらかったが、
風呂でのぞき被害に遭ってしまう不運から、タクシー車内での真犯人との最後の対決まで、
アンナの泥臭い奮闘ぶりに楽しませてもらった。隣人夫妻の出番が多いのも良い。

No.95 6点 見習い女探偵- リザ・コディ 2017/04/22 19:35
チャンドラーの影響を受けた作者による、CWA新人賞に輝いたデビュー作。
自動車販売業の父のもとで15歳から車の運転を始め、腕のいいドライバーだった
ディアドリが車の事故で死んでしまい、その事実に納得できない両親が探偵事務所に
調査を依頼する。この仕事を任されたのが元警官の見習い探偵アンナ・リー。
映画好きだったディアドリの周辺人物を調べていくうち、事件の背景に映画業界で
起きている不正の影が浮かび上がってくる。

短い一文が連なり、無闇に人物の内面を語らない一方で、物や仕草等のディティールを
巧みに描いて人や場面の実在感を出していく。そんなハードボイルドらしい文体だが、
本作ではそこに女流作家らしい明るさや華やかさが加わっている。
中盤から出来事や人間関係が複雑さを見せ始め、要領を得づらい部分が出てくる上に、
真相も曖昧さを残した地味なものだが、ミステリの定型に囚われないプロットには
サイモン・ブレットのデビュー作と同様の意欲を感じるし、開放的な印象もある。

No.94 5点 邪悪の家- アガサ・クリスティー 2017/04/20 23:14
犯人がかなり分かりやすかったり、ニック以外の登場人物の影が薄かったりの
おかげでミステリ的な緊張に欠けるところがもったいない。
あと本作ではニックの家がタイトルに用いられるほど重要に扱われているが、
それならば家の内外装を詳しく描いて、しっかり実在感を出すべきだろう。
色々と惜しい作品ではあるが、最後の真相解明は次々と意外な事実が明かされて
盛り上がるし、締めくくりもスマートで読後感はわりと良かったりする。
謎も真相もドラマチックで楽しい作品であることは間違いない。

最近久しぶりにポアロを読み直しているが、彼の過剰な傲慢さに驚いている。
とくに9章のヘイスティングズに対する嫌味な台詞には唖然とさせられる。
「ポアロは好きじゃない」「初期のポアロは嫌い」と言う読者の気持ちが今なら分かるかも。

No.93 5点 青列車の秘密- アガサ・クリスティー 2017/04/20 23:12
登場人物たちの魅力は過去のシリーズ作よりも若干上がっていると思うし、
そもそもクリスティーは読むこと自体が楽しいので、本作もまあ面白く読めた。
難点を挙げると、ミステリ的には必然性に乏しい登場人物が多く存在し、
事件が過剰に複雑化していて、そのくせ犯人を絞りやすいところ。
またクリスティーの欠点、ディティール描写の乏しさの問題もある。
駅や汽車、個室の内装や車窓の景色等の描写が足りなくてそれらの画を想像しづらく、
作中での重要性のわりに汽車の存在感が薄いため、最後の汽車内での真相解明の場面も
臨場感に欠け、ハイライトらしい読み応えがない。

No.92 7点 童貞部隊- レスリー・トーマス 2017/04/13 23:58
私のことが小説になっていると聞いて読んでみたが、予想外に面白かった。
大戦後のシンガポールで共産ゲリラの反英闘争に手を焼く英軍駐屯兵らの物語で、
原題『The Virgin Soldiers』は、主人公である19歳の衛兵ブリグをはじめ、
セックスを経験しないまま戦死するかもしれない若い兵士たちを意味している。
作者がかつて兵役義務でシンガポールに二年間滞在していたことが執筆の背景にあり、
巻頭の謝辞で、作中の記述が自身の実際の体験ではないことを妻に断っている。

戦場で命の危険に晒されている状況下で、色恋沙汰から暇つぶしの遊びまで、
駐屯兵らの日常的な出来事がユーモアを交えて脈絡無く語られていくが、
最後は英兵らを乗せた汽車がゲリラ軍に襲撃されてスリリングな銃撃戦が繰り広げられる。
主人公の恋人の母が危機的状況にあっても飼っている熱帯魚に執着し続けるところや、
英兵らが食用ガエルを捕まえて賭けレースを行う場面でカエルに興奮剤を注射する馬鹿が
出てくるところなどをはじめ、本作で時おり出てくる死と隣り合わせのユーモアを見て、
戦争小説をあまり読んだことが無い私は代わりに北野映画『ソナチネ』を思い出した。

No.91 3点 ビッグ4- アガサ・クリスティー 2017/04/12 22:54
ミステリを読み始めた頃に予備知識無しで読んでゲンナリした記憶がある。
この度十数年ぶりに読み直してみたが、やはりついていけなかった。
本作が書かれた事情を考えると、もはやネタとしても楽しめない感がある。

「わたしたちの相手は、その辺の小悪党とは大違いです。なにしろ、
世界第二の頭脳を向こうに回しているんですからね、われわれは」
初期ポアロの派手な傲慢ぶりはドーヴァー警部を思い出させるな。

No.90 6点 人質- ジョイス・ポーター 2017/04/12 22:52
翻訳が小倉多加志氏に戻って多少読み易くなったシリーズ八作目。
ドーヴァーを人質にとり、囚人二人の釈放と一万ポンドを要求した誘拐団に対して、
警察は身代金の支払いを拒否。警察にも誘拐団にも見放され無傷のまま帰還した
ドーヴァーは、雪辱を期すべく誘拐団の追跡に乗り出す。

一番盛り上がるのが冒頭の誘拐シーンで、ここはシリーズ中でも屈指の面白さだが、
その後はおなじみのテンポの良くない事情聴取の場面が長く続いてしまう。
後半、誘拐団が首相の孫を誘拐して身代金の運び役にドーヴァーを指名するという
意外な展開で緊張が高まるが、解決はやはり締まりがない。
マンネリが解消されているプロットは長所で、最後のマグレガーの活躍も嬉しい。

No.89 6点 道の果て- アンドリュウ・ガーヴ 2017/04/10 23:29
マロリー家には二人の幼い息子と十五歳の養女アンがいる。
アンの父親はアル中の乱暴者で、母親を撲殺して投獄され、のちに獄死したが、
マロリー夫人が母親の親友だった縁で、夫妻は当時三歳のアンを引き取ったのだ。
ある日、マロリー家に教悔師のギルが招かれるが、その正体は狡猾な脅迫者だった。
ギルはアンの生い立ちをネタに、夫妻から大金を強請り取ろうとする。

平和に暮らす善人が悪党の罠に嵌められてしまうガーヴお得意のスリラーだが、
本作では悪党二人が途中で仲間割れをして、実行犯が変わってしまうところに新味がある。
これに合わせて、主人公の危機の内容も大胆に変化するのが面白い。
中盤以降、主人公が悪手としか思えない策ばかりとることに面食らってしまうが、
最後まで飽きさせない展開で、スリラーの読み応えを味わうことができる。

窮地に立たされた夫妻が、養女と実の子供の違いについて葛藤するような話を
つい想像してしまうが、そんなことをガーヴが書くわけないかw

No.88 7点 アクロイド殺し- アガサ・クリスティー 2017/04/10 23:21
私がミステリを読み始めた入り口は横溝で、金田一ものを中心に次々と読んでいったが、
その中で本作と同じトリックを使った某作に出会った。真相を知った時は本当に驚いた。
その後ネットの情報か何かのおかげで、本作についてはトリックと犯人を知った状態で
読むことになってしまったが、真相を知って驚く体験自体はできたわけだ。

本作はシリーズ前二作とは語り手が異なり、一変してシリアスなトーンになっている。
ミステリらしい緊張感がある中で、ポアロのユニークな人物造形もより明確に伝わってくる。
無闇に事件をややこしくするだけで大して必然性が感じられない登場人物がいるが、
それでも前二作よりは分かりやすく、最後までテンションを落とさずに読めるのが良い。
鳴き麻雀も笑える。

No.87 5点 ゴルフ場殺人事件- アガサ・クリスティー 2017/04/10 23:20
00年代前半に読んで以来、地味な凡作という印象を何となく抱き続けていたが、
読み直してみると意外に賑やかな内容だった。当時は『葬儀を終えて』で本格にはまって
クリスティーを読み漁っていた時期で、ミステリに本格の面白さを求めていた記憶があるが、
そのせいか、犯人以外の内容を全然覚えていなかった。

序盤で殺人が起きて読者の心をつかみ、道化ながら多少の才気も見せるライバル探偵に
謎めいたシンデレラ、同じく謎めいた第二の死体など、興味を煽る要素は多いが、
謎を複雑に詰め込みすぎだし、読者がろくに推理に参加できない領域で大きな事実が次々と
明るみになっていく後半はテンションが下がってしまう。
事件のほうは今一つだが、ヘイスティングズのロマンスは見所ではある。

No.86 5点 撲殺- ジョイス・ポーター 2017/04/07 21:51
入場料を取って一般に開放している豪華な私邸の敷地で起きた殺人事件の捜査に
ロンドン警視庁からドーヴァーとマグレガーが派遣されるシリーズ七作目。
事件当日のアリバイ調査に加えて、殺された青年が私生児であることから、
その父親が誰であるかが犯人特定の手掛かりとして取り沙汰される。

今作は終盤の盛り上がりに欠け、ドーヴァーの奇行や暴言にもあまり新味が無い。
作者の文章は妙な捻りがあって読みづらいため、その分強いフックを持ったギミックやユーモアで
挽回してもらわないと物足りなくなってしまう。

No.85 6点 スタイルズ荘の怪事件- アガサ・クリスティー 2017/04/07 21:49
私がクリスティーを買い始めたのは、早川の旧版からクリスティー文庫への移行期で、
書店の棚には両方置かれてあった。ポアロやマープルはクリスティー文庫にこだわったが、
その他のシリーズは旧版も結構買っている(のちにポケミス版も増えていった)。
当時はクリスティーやミステリの知識がほとんど無く、書店であらすじを見比べながら
面白そうなものを選んで買っていたので、ポアロの一作目かつクリスティーのデビュー作だった
スタイルズ荘を読むのもわりと遅かった記憶がある。

本作を読むのは三度目になるが、デビュー作ゆえの初々しさがあるのと同時に、
人物描写やトリック、ミスリードにクリスティーらしい特徴がしっかり現れている。
殺人事件に対して関係者らの行動が錯綜しすぎで真相の説明がわかりづらいのは難点だが、
各人物のキャラ立ての上手さはさすがだし、『ナイルに死す』を思い出させる情熱的な犯人に、
ヒロイズムを感じてわくわくしてしまう。

No.84 7点 そして誰もいなくなった- アガサ・クリスティー 2017/04/01 22:11
昨年NHKでBBCドラマ版が放送されたり、先日も日本版ドラマが放送されたりで、
久しぶりに本作を読んでみた。真相を知っていてもわくわくしながら読める小説だが、
中でも今回は、BBCドラマ版のキャストをイメージしながら読めて楽しかった。

私の不幸は、本作の初体験が『サファリ殺人事件』だったこと。
何も知らない状態で本作を読むことができたら……、とずっと思い続けているが、
本作は人物描写がオリ急並みに薄いため、初読では要領を得られなかった可能性がある。
ロジャース夫妻を除く八名については、人物解説のプロローグが欲しいところだ。
(とはいえ容易に読み通せるところも大きな長所ではあるか)

何年か前に見栄を張ってクリスティのペーパーバックを本作含めて何冊か買ったが、
まだ一ページも読んでない……。

No.83 6点 スパイの妻- レジナルド・ヒル 2017/04/01 22:10
ある朝、出勤したはずのモリーの夫サムが家に戻り、スーツケースを手に慌ただしい様子で
再び家を出ていく。その30分後に二人組の男が家に押し入って、サムが東側のスパイであることを
モリーに告げるという一風変わったスパイ小説。

モリーが故郷に戻り、諜報機関やマスコミの監視のもとで暮らしながら夫に関する
知らせを待つというのが一応の本筋だが、その傍流に語られる元婚約者との復縁や
母の病気と手術などの複数のエピソードが、結末にさりげなくかつ効果的に作用しており、
一筋縄ではいかない読後感を生み出している。作者の技術に感服。
巧みな心理描写が売りの文章は、重要な場面をじっくり語るのには向いているが、
全体を通して同じ調子で語られると、やや冗長に感じられてしまう。
もっと緩急や余白を見せてほしかった。

No.82 5点 ダイエット中の死体- サイモン・ブレット 2017/03/25 00:26
パージェター夫人が減量サロン内で起きた殺人事件の調査に乗り出すシリーズ四作目。
以前に登場した私立探偵メイスンや運転手ゲアリに加えて、サロンの経営者や従業員らが
故パージェター氏の元部下として登場するが、企業ぐるみの謀略を匂わせる事件のため、
元部下たちですら敵か味方か判断できないところが一つの見所になっている。
本格というよりはスリラーに近い小説で、いくつかの真相も見当がつきそうなものだが、
前作よりは終盤の見せ方が上手く、きれいにまとまっている。

ブレットの邦訳長編13作を振り返って思うが、80年代半ば以降のシリーズ作品は
仕掛けやユーモアがこれ見よがしに派手なものが多い。
それはそれで面白いのだが、初期の上手い具合に力の抜けた奥ゆかしい文芸にこそ、
ブレットの得がたい個性と魅力を感じる。邦訳が復活しますように。

No.81 5点 手荷物にご用心- サイモン・ブレット 2017/03/25 00:10
ミセス・パージェターシリーズの三作目。
友人ジョイスとパック旅行でギリシャのコルフ島を訪れたパージェター夫人だが、
滞在先の家屋でジョイスが死体となって発見される。夫人が亡夫の部下を頼りつつ
事件の調査に乗り出し、島の住人たちの怪しい事情が次第に明らかになっていく。

パージェター夫人が亡夫の有能な部下たちの協力のもとに事件を調査していくのが
特徴のシリーズだが、今作では旅行客の中に予め部下が紛れ込んでいるという恵まれぶり。
パスポート泥棒から空港のPCのハッキングまで、部下たちが万能すぎるのに加えて、
夫人の脈絡の無いひらめきで無理やり推理が進む箇所もあり、緊迫感が損なわれている。
咀嚼する間もなく次々と新情報が出てくる終盤も段取り不足に感じられる。
作者にしては珍しい冒険スリラー風の小説であるところに興味はわくが、
プロットを煮詰めきれてないせいで、持ち味の文芸も損なわれているように見える。

No.80 6点 奥様は失踪中- サイモン・ブレット 2017/03/24 23:53
ミセス・パージェターシリーズの二作目。
パージェター夫人が入居した住宅の先住者のテレサが、住宅団地を去る前に、
他の住人らの秘密を握っていることを打ち明けて、それが事件を引き起こしてしまう。
住宅団地と失踪人をめぐる事件は『ドーヴァー1』を思い出させるが、
パージェター夫人のほうは情報に乏しい段階から調査に乗り出して事件性を見抜き、
亡夫の優秀な部下たちを頼りながら警察よりも先に死体や重要人物を見つけてしまう。
夫人の洞察力や行動力、亡夫の部下たちの渡りに船な特殊能力はあまりに都合が良すぎるが、
そのおかげで話にスピード感が出ている面もある。

容疑者らの言動にそれほど字数が割かれておらず人物像が今一つはっきりしないため、
推理の愉しみに欠けるところがあるが、犯人が判明する場面はなかなかスリルがある。
いつもの皮肉やユーモアに加えて、新興宗教団体の滑稽さも見所。

No.79 6点 気どった死体- サイモン・ブレット 2017/03/24 23:51
金持ちの未亡人、ミセス・パージェターシリーズの一作目。
シリーズ共通の特徴として、パージェター夫人を助けてくれる亡夫の元部下たちが
不法侵入からハッキングまで万能な活躍を見せるせいで少々緊迫感が削がれてしまう点や、
ただの狂言回しに過ぎない夫人にあまり魅力を感じることができない点などがある。

パージェター夫人は行動力が旺盛で、深夜に施錠された部屋の錠を解いて侵入捜査するなど
怪しい行動を繰り返すため、容疑者として疑われてしまう上に真犯人の標的にもされてしまう。
パリスシリーズの一作目にもパリスがある大物興行師の邸宅に不法侵入する場面があるが、
パージェター夫人の場合、侵入するところを他人に目撃されてしまうのが面白い。
後半、亡き夫の部下たちの協力で操作が進んでいくところは都合が良すぎる感じがして
テンションが落ちてしまうが、終盤のこれでもかという連続ツイストは見もの。

No.78 6点 逆襲- ジョイス・ポーター 2017/03/22 23:39
小さな村を襲った大地震のどさくさに紛れて地元の名士が扼殺死体で発見され、
ドーヴァーとマグレガーが捜査に駆り出されるシリーズ六作目。
今作はわりと本格らしい内容だが、まわりくどい筆致のせいで推理の手掛かりの描写が記憶に
残りづらいところは相変わらず。また犯人の末路がやけに重いところはこのシリーズらしくない。
ドーヴァーの暴言や蛮行の面白さは健在で、中でも9章のマグレガーの扱いはかなり酷くて笑える。
シリーズものとしては満足できる出来か。

9章で「わしはこれまで、復讐してやるぞとおどされるたびに一ポンドずつ貯金しといたら、
今ごろは、富豪になっとるよ、ほんと」というドーヴァーの台詞があるが、
これは1991年公開の映画『ハーレーダビッドソン&マルボロマン』に出てくる台詞の
「銃を向けられる度に5セントもらってたら、今頃大金持ちだぜ」よりもかなり早い。
このジョークの大元が何なのかは気になる。

No.77 5点 アイ・スパイ- ジョン・タイガー 2017/03/12 00:50
テニスプレイヤーの美青年ロビンソンと十一か国語を話す頭脳派スコットによる
“ドミノ”と呼ばれるCIA諜報員コンビが活躍する米テレビドラマのノベライズ版。
全七作のうち、第一作にあたる本作だけがポケミスで邦訳されている。

米国防総省に対して無色無臭の殺人ガスによるテロを仕掛け、それをソ連の仕業に
見せかけることで米ソ開戦を引き起こそうとするファシスト組織の陰謀を阻止するために
ドミノの二人が駆り出される。
ドミノの派手なキャラクターに加えて、敵組織も派手な非道ぶりを見せていて楽しいが、
何度か出てくるアクションシーンは字面を追うだけでは今一つ状況を把握しづらい。
最後の国防総省での攻防も何が起きているかよく分からなかった。

小説のほうはポケミスで150ページ程度とやや短いが、あとがきに14ページにも及ぶ
スパイ小説の近況解説が載っており、また読みたい本が増えた。

No.76 4点 ダウンロード殺人事件- 金沢誠 2017/03/09 20:33
作者は芸能記者から作家デビューして、2014年に62歳で亡くなっている模様。
2007年に倒産した桃園書房から、その半年ほど前に文庫用に書きおろされた本作は、
2003年に廣済堂出版から出た『芸能界マル秘連続殺人』の続編になっている。
桃園文庫のラインナップを見ると、多くが旅情ミステリと官能小説で占められており、
本作も主人公と複数の女性のセックス描写に力の入った旅情ミステリになっている。

殺される人々がみな同じ楽曲をダウンロードしていたとか、被害者に隈取メイクが
施されていたとか謎めいた要素はあるが、多くの人物と複雑な人間関係が描かれた挙句の
手応えに乏しい真相、影の薄い犯人に拍子抜けした。文章も平凡で軽い。

No.75 5点 少年殺人事件- ローレンス・ヤップ 2017/03/09 20:17
しばらく読書から離れてしまったので、リハビリで児童小説を……。
ローレンス・ヤップはサンフランシスコ生まれの中国系アメリカ人作家で、
その出自を生かした児童小説を多く発表している。

主人公ショーンと悪戯好きの親友マーシュが乗った車がブレーキのトラブルで横転し、
運転手のマーシュが死んでしまう。その後、誰かが車に細工を施した可能性を疑う
ショーンが単身犯人探しに乗り出す話。
ハードボイルド風のジュブナイル小説で、謎解きやどんでん返しにあたるものは無いが、
小粋な比喩や心理描写を含みながらのドライな筆致、人物造形を通してアメリカ社会の特性が
浮き彫りになる点など、中編程度のボリュームの中にもアメリカ文学の読み味が詰まっている。
悪戯好きのマーシュと落ち着きのあるショーンという印象のコンビだが、マーシュの死後、
実はショーンも過激な非行少年だった過去が明かされ、彼の旺盛な行動力の裏付けになっている。

No.74 6点 サーカスの怪火- メアリー・スチュアート 2016/10/20 21:04
バネサは知人のレイシーから信じられない話を聞かされた。
商用でストックホルムに滞在しているはずのバネサの夫ルイスが、
オーストリアで起きたサーカスの火事を伝えるニュース映画に映っているというのだ。
バネサは映画館でそのニュース映像を確めてみたが、レイシーの話は本当だった。
しかも映像の中で、ルイスの傍らにブロンドの若い女が寄り添っていた。
夫はなぜ嘘をついたのか。真相を確かめるため、レイシーの息子ティモシーを連れて
バネサはオーストリアへ旅立つ―――


今年に入ってリーダーズ・ダイジェスト社の存在を知った。
ダイジェストの言葉通り要約本なのだが、「名著選集」「世界ベストブックス」の
二つのレーベルの中に、ミステリに分類される小説が数多く収録されている。
同社でしか読めない邦訳も結構あるらしく、例えば邦訳が存在しないと思っていた
アンドリュウ・ガーヴの『The Ashes of Loda』が、『暗い影を追って』という邦題で
収録されていたりする。

メアリー・スチュアートで検索してもスコットランド女王のことばかり出てくるが、
作者は1960年に『My Brother Michel』でシルバー・ダガー賞を獲っているし、
映画『クレタの風車(原題:The Moon-Spinners)』の原作者でもある。
(『The Moonspinners』は昔Oxford bookworms版を読んだことがある)
有能なヒロインが活躍するロマンティック・サスペンスの作風で知られており、
本作でも聡明でアクティブなヒロインが、馬の手術からカーアクションまで大奮闘を見せる。

サーカスで飼われている謎めいた老馬に隠された秘密が事件の鍵となる本作は、
ジョセフィン・テイ『魔性の馬』やドロシー・ギルマンのおばちゃまスパイシリーズを
思い出させる内容で、旅情ものの風情豊かな物語の中で、ハードボイルド的に話が展開したり、
スパイ小説的なトリックが出たり、終盤にスリリングなアクションシーンが連続したりと
盛りだくさんで楽しかった。話が色々端折られてる感じが伝わるので、完訳版を読んでみたい。

No.73 6点 同名異人の四人が死んだ- 佐野洋 2016/10/20 21:00
中央日報の社会部宛てに届いた一通の投書には奇妙な報告が書かれていた。
流行作家・名原信一郎の書いた中編小説『囁く達磨』に出てくる作中人物らと
同じ名前を持つ二人が、最近相次いで死亡したというのだ。
学芸部の米内は、彼に協力を頼んできた社会部の鳥居とともに名原の家を訪ねて
事情聴取するが、名原はまったく心当たりが無いと言う。
そして翌日、またもや作中人物と同じ名前の男が殺害されてしまう―――


あまりに奇妙な事件で掴みどころがまるで無いかと思いきや、徐々に垣間見えてくる
不潔な人間関係。簡潔で読み易い文章もあって、まさしくページターナー小説だった。
謎の数々を納得できる形で回収しているし、ある決断を残したまま終わるラストも憎い。

No.72 6点 ダブル・スパイ- ジョン・ビンガム 2016/10/16 20:39
サグデンはセールスマンとして度々モスクワを訪れているが、あるパーティの翌日、
彼の部屋に警官を連れたKGBの男がやってきて、サグデンが男色家のポリアコフと
情事に及んでいる捏造の証拠写真をネタに、彼にロシアのスパイになるよう要求する。
サグデンは渋々承諾するが、実はこれこそが英国情報部が仕組んだ作戦だった。
サグデンは二重スパイとなり、ロシアの機密情報の略奪に挑む―――


あらすじはキャッチーだが、実際は腹の探り合いの遠回しな会話の数々を中心に
地味に話が展開されていくシリアス系スパイ小説。
テンションや圧力が奥ゆかしく伝わってくる冷静な筆致には独特の趣があって
読み心地は悪くないし、終盤も周到なプロットによる奥ゆかしいエンタメ性がある。
死刑の恐怖、尋問のプレッシャー、人間不信、閉所恐怖症等々に苛まわれるサグデンの
心理描写は緊張感があって引きこまれた。スパイには絶対なりたくない……。

作者はジョン・ル・カレのMI5時代の上司で、ジョージ・スマイリーのモデルだと言われている。

No.71 6点 天国か地獄か- ジョイス・ポーター 2016/09/28 22:08
世界一やる気のないスパイことイギリス諜報員のエディ・ブラウン。
上司のモーリス卿よりアメリカでの任務を命じられ飛行機に乗り込むが、
機内で突然パラシュートをつけて放り出された落下先はロシアの農場だった。
エディはそこで、リュドミラという女を刑務所から救出する任務を与えられる。
殺人の罪で服役中のリュドミラは農場に関するある秘密を握っており、
死刑判決が出た際にはその秘密を暴露して農場の人々を道連れにするというのだ。
リュドミラ救出作戦に乗り出したエディ。その奇想天外な救出方法とは―――


ユーモアをふんだんに織り交ぜた冒険スパイ小説。
宗教集団が暮らす農場が舞台の一つになっているが、神秘性を感じさせる
描写はどこにも無く、人も出来事もひたすら下品で浅ましい。
リズムの良くない文章とスピード感に欠ける筋運びでなかなか集中できないが、
ハイテンションな終盤とユニークなオチで直線一気に挽回する内容になっていて、
ようはドーヴァーシリーズの色違いのようなものだろう。
一番笑ったのは15章の冒頭の6行。もうくだらな過ぎて笑うしかない。

四作の長編が出ているシリーズだが、邦訳が出たのは三作目となる本作だけ。
冒頭で、主人公が今回の任務につく前にフランスの刑務所に六か月もの間
拘禁されていたことが語られ、その後も時おりシリーズものらしい記述が出てくる。
他の三作の邦訳は叶わないのだろうか……。

No.70 6点 ランターン組織網- テッド・オールビュリー 2016/09/24 20:26
KGBの手先らしいとの疑いがある工場主のウォルターズを調べるため、
ロンドン警視庁公安部の警視正ベイリーは彼の住居を訪ねる。
KGBの文書受け渡し場所に使われているパリの画廊でウォルターズが目撃された
件についてベイリーが尋ねたところ、ウォルターズは急に席を外したのち、
トイレの中で剃刀で喉を掻っ切って自殺してしまう。
何の変哲もない男に見えたウォルターズだったが、その自殺の背景には、
第二次大戦中にフランスで繰り広げられたレジスタンス運動の悲劇があった―――


本作は三部構成になっている。
第一部は工場主の自殺、第二部はレジスタンス運動におけるある組織網の回想録、
そして第三部では主人公が工場主の正体を突き止める過程が描かれる。

虐殺、略奪、拷問、強姦等、レジスタンス運動に伴う惨憺たる出来事の数々が
冷静な筆致で語られていく第二部は、史実を題材にした小説である事実も相まって
とりわけ重く印象に残るし、若者らが命がけで戦った遠い過去の回想を経ての
第三部は、終始もの悲しい雰囲気が漂っていて胸に沁みる。工場主の正体に加え、
組織網に関するある真相が解き明かされる話の流れはサスペンス的に楽しめる。
無知な私には細部の描写を味わうことができなかったが、読み応えはあった。

No.69 6点 奮闘- ジョイス・ポーター 2016/09/18 00:15
百年ほど前にダニエル・ウィブリー一世が村に埋蔵された陶土を発見して以来、
ウィブリー家は三代にわたる寝室用便器の製造販売事業によってポットウィンクルの町を
繁栄させてきた。町民のほとんどはウィブリー家の陶器会社に生計を依存して暮らしている。
ある日、ウィブリー三世の一人娘で貧しい出の夫と公営住宅に暮らすシンシアが、
自宅の居間で何者かによって火かき棒で撲殺される。ウィブリー家に関わることを怖れる
地元警察はロンドン警視庁に事件を預け、厄介者のドーヴァーが派遣されることになる。


事件を上手く解決すれば富豪から高給で雇ってもらえる口約束を得たドーヴァーが
目の色を変えて強引な捜査を繰り広げるシリーズ五作目。

一つ気になるのは、シリーズ中5、6、7を担当している乾信一郎氏の訳文。
ドーヴァーの一人称が「ぼく」になっていたり、台詞の語尾が「~だな」ではなく
「~だね」と書かれていたりで、どうにも調子が狂ってしまう。
訳文に目をつぶれば、シリーズの魅力が存分に発揮された楽しい作品といえる。
前作や前々作に比肩するユニークかつハイテンションなクライマックスに加えて、
7章で描かれる容疑者の尋問シーンも見もの。

No.68 7点 切断- ジョイス・ポーター 2016/09/18 00:14
休暇中に夫人の運転する車でドライブ旅行に出かけたドーヴァー。
だがその道中、誰かが崖から海に飛び降りるのを夫人が目撃してしまう。
夫妻が地元のウォラートン警察署を訪ねてそのことを報告したところ、
自殺を図ったのは署長の甥のコクラン巡査ではないかと判断される。
コクランは素行が悪く、裏社会の有力者ハミルトンと関わっていたが、
ハミルトンは一か月前に手足を切断された状態で自宅の庭で死亡していた。
ロンドン警視庁は信頼のおけない地元警察に代わってドーヴァーとマグレガーに
事件の調査を要請する―――


ドーヴァーによる夫人への罵倒と暴力で幕を開けるシリーズ四作目。
マグレガーの扱いも非道そのもので、二人のその後が心配になる。

奇怪な動機も目を引くが、印象深いのは派手なクライマックスだろう。
ドーヴァーの下品な言動以外はミステリらしい地道な調査が展開されるが、
その上で最後になって百人余りの群衆が集う広間で阿鼻叫喚のスペクタクルが
繰り広げられるプロットは痛快で、本作をシリーズの花形の座に押し上げている。

1で走り出して2→3→4でホップ・ステップ・ジャンプという感じなので、
このシリーズに興味を持った方には先に1~3を読むことを勧めたい。

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