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平均点:6.81点 採点数:43件

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採点傾向好きな作家

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No.43 7点 ブラウン神父の不信- G.K.チェスタトン 2018/04/29 18:32
個人的な好みでいえばブラウン神父は夕暮れのロンドン郊外やイングランドの田園やスコットランドの荒野で活躍してほしい。「不信」の中のいくつかではブラウン神父をハリウッドのTVドラマの中にポツンと立たせたみたいな感じがする。まあチェスタトンのことだからアメリカ文明批評を書いてみたくてブラウン神父を「赴任」させたのだろう。
とはいえ派手目なストーリーはそれはそれで楽しい。
尺は短いが意外と大仕掛けな「ギデオン・ワイズの亡霊」がフェイバリット。
「犬のお告げ」も短編ならではの味わい。
有名な「ムーン・クレサントの奇跡」はトリックだけが突出気味。

No.42 7点 ブラウン神父の秘密- G.K.チェスタトン 2018/04/25 10:08
プロローグとエピローグにブラウン神父とフランボウのそれぞれの「秘密」話を振ってまとめた構成は巧み。しかし中身は「無心」「知恵」から順を追ってにフツーになってくるのはやむを得ないことか。
中では「マーン城の喪主」が舞台設定や宗教観も含めて印象深い。トリックそのものは簡単に推測できるが。
「大法律家の鏡」は「知恵」の同トリックの収録作よりもミステリらしく楽しい。
それにしても「メルーの赤い月」をはじめ時々見られる作者の「神秘の東洋」感にはうんざりする。アメリカ人への偏見もそうだが、この時代のイギリス有数の知識人チェスタトンにしてこれかと思ってしまう。

No.41 8点 ブラウン神父の知恵- G.K.チェスタトン 2018/04/24 09:24
象徴性に満ちた「無心」と比べるとトリック一発の小粒感はあるが楽しい短編揃い。
やはり重厚な「ペンドラゴン一族の滅亡」が読みごたえがある。勝手に芸達者なイギリス俳優をキャスティングして脳内ドラマをイメージするのも楽しい。
とぼけた味わいの「グラス氏の不在」も気に入った。
訳文は生硬で読みにくい創元版よりちくま版がおすすめ。

No.40 6点 瓦斯灯- 連城三紀彦 2018/04/23 10:07
表題作を含め5編からなる短編集。
恋愛小説と評されるが、私は恋愛仕立ての犯罪のないミステリとして楽しめた。
時間のトリックや若すぎる柄の着物など、具体的な要素がある分、ウェストマコットよりクリスティに寄っている。
フェイバリットは「花衣の客」。これに過去の犯罪の要素を加えたら面白い本格ミステリになるなあと考えながら読むと楽しい。
それにしても「親愛なるエス君へ」は異質。「夕萩心中」の中の「陽だまり課事件簿」もそうだったが、統一されたトーンを持つ短編集に全く異質なものを入れる出版社の神経がわからない。
版権の問題もあるのだろうが、短編集はそれ自体が一つの作品であるとの意識をもって編んでほしい。

No.39 6点 美女- 連城三紀彦 2018/04/04 14:48
連城三紀彦らしい反転が楽しめる8編からなる短編集。
共通するテーマは人間の外側と中身(?)の乖離とでもいうか・・・
フェイバリットは「夜の二乗」。もう少し長い尺で主人公の虚無感を丁寧に描いたら「戻り川心中」のような読みごたえのある中編になっただろう。
「美女」は男女の心の綾はとても味わい深いのだが最後のオチが物足りない。
「喜劇女優」は作者らしい技巧の粋を尽くした作品だが、ストーリーがトリックの説明となってしまっているため、読み疲れする。「幻戯」を連想したが中井英夫ならこのテーマで魅力的なダークファンタジーに仕立てただろう。
以上の3編と「夜の右側」が評点8から7。他の4編が評点5から4。

No.38 7点 ブラウン神父の醜聞- G.K.チェスタトン 2017/04/22 17:48
「童心」にみられるような鮮やかなトリックや大掛かりな反転はないが、チェスタトンらしい逆説に満ちた短編集。
多くの短編に共通するテーマは「人は見かけ通りではない」ということ。
(以下ネタバレ)


ロマンチックな風貌の人物は詩人ではなく、カウンターの中にいる人物はバーテンではなく、押し出しのいい紳士は業界の大物ではなく、白髪の聖職者は・・・・・
多くの人が思い込みや錯誤に陥るなか、純真なブラウン神父の目は正体を見抜いて犯罪を暴く。
ワンパターンといえばワンパターンだが、チェスタトンらしさを味わえる。
「共産主義者の犯罪」は一種の社会風刺にまで踏み込んだ異色作。
それにしてもこの読みにくさはチェスタトンの原文のせいばかりではないだろう。「童心」の旧訳と新訳二編を読み比べるとよくわかる。
創元社は文字の大きさやカバーの変更でお茶を濁すのではなく新訳を出すべきだった。創元社には悪いがハヤカワ版が待ち遠しい。

No.37 4点 シャーロック・ホームズの事件簿- アーサー・コナン・ドイル 2017/04/16 14:27
さすがの聖典もここまでくると落穂ひろいのようなもの。トリックで有名な「ソア橋」もストーリー自体は単調。
歴史的価値、資料的価値を度外視すると評点は厳しくなる。
グラナダTVのドラマシリーズも、もともと原作が厳しいうえにジェレミー・ブレットの体調不良で出番を減らしたりと、残念なレベルが多い。
注目すべきは「ショスコム荘」。なんと十代のジュード・ロウが出演している。それもチョイ役ではなく、トリックに絡む大事な役どころ。ドラマの出来は原作同様のレベルだが、ジュード・ロウファンなら必見。

No.36 8点 シャーロック・ホームズの帰還- アーサー・コナン・ドイル 2017/04/09 13:36
聖典第三弾。粒ぞろいの第一弾に比べると玉石混交だが、秀作だけを見ると負けていない。
フェイバリットは「六つのナポレオン」。一見小さな謎が大きな犯罪につながっていくところは「赤毛連盟」にも似ている。
グラナダTVのシリーズではシチリアマフィアの家族模様をうまくフューチャーして見ごたえあるドラマになっていた。珍しくレストレイドの出番も多い。事件が解決し、レストレイドから正面切ってほめたたえられたホームズのひきつった照れ笑いがおかしい。ここはジェレミー・ブレットの名演。
さらにおすすめは「恐喝王ミルヴァートン(犯人は二人)」
平凡な冒険譚に過ぎない原作を、重厚な長編に改変して見ごたえ十分。名優ロバート・ハーディ演じるミルヴァートンの存在感が圧倒的。柔和な表情に決して笑わない目で、モリアティ教授をしのぐ悪党ぶり。その分最後のカタルシスは大きい。
ドラマ二編は評点10。

No.35 8点 死者との結婚- ウィリアム・アイリッシュ 2017/04/07 14:50
50P程度の短編でもまとまるくらいシンプルな構成、そしてよくよく考えると結構都合のいいストーリー。しかしそんなことは気にならないほど甘美でスタイリッシュな文体で、気持ちよく読める。
このエンディングはサスペンスとしては大いにアリなのだが、最後の遺書のインパクトが今一つかな。

No.34 5点 象は忘れない- アガサ・クリスティー 2017/04/07 09:14
(ネタバレします)




数あるミステリのおきての一つに「双子を登場させないこと」というのがある。この場合の登場とは終盤になっていきなり、という意味だろうから本作品はルール違反とは言えない。しかし「双子」が決定的な意味を持つことに変わりはない。その意味でトリックの半分以上は最初からバレている。
あとはフ―&ホワイダニットを追って読むことになるが、真相は解き明かされるというよりは、告白によって最後に開示される。したがってミステリとしての緊張感はあまりない。
一方ミステリ風味の悲しい愛の物語として、あるいは「罪とは何か」を問う物語として読むと味わい深い。この視点から見ると評点7。

No.33 7点 私が愛した名探偵- 評論・エッセイ 2017/04/05 14:03
87人の筆者が自ら愛する名探偵を2Pで語るエッセイ集。名探偵のほうは重複もあるから80名前後。
筆者は業界から宮部みゆき、北村薫をはじめ、みうらじゅん、荻野アンナ、國村隼、西川りゅうじん、異色なところでは不破哲三、平岩外四、今は亡き中村紘子、児玉清などオールジャンル。
探偵のほうもホームズ、ポアロはもちろん、サム・スペイドから小林少年まで、メグレ警視から銭形平次まで、水戸黄門から名探偵コナンまでとなんでもあり。登場しないのは十津川警部と三毛猫ホームズくらい。
エジプト考古学者の吉村作治とインディ・ジョーンズなど、筆者と名探偵の組み合わせの妙を楽しみながら拾い読みするのもいい。
1998年から2000まので朝日新聞コラムをまとめたもの。
装丁も三方黄染めのソフトカバーでミステリマガジン風。

No.32 7点 壜の中の手記- ジェラルド・カーシュ 2017/04/02 17:27
サイトのカテゴリーに「短編集(分類不能)」とあるがまさにその通り。サスペンス、ダークファンタジー、SF、ミステリ等々、むしろ分類することにあまり意味がないかもしれない。いずれも奇妙でブラックな持ち味の12の短編集。
作家自身も成功するまではパン屋、用心棒、賭け屋、レスラーを転々としたというから分類不能な人だったようだ。
メキシコのジャングルを舞台にした表題作「壜の中の手記」と孤島を舞台にした「豚の島の女王」の二編、ともに現代西欧のロジックが通じない状況での奇譚が傑作。
フェイバリットは表題作のほか、「時計収集家の王」。特にブラックではないが実在の王も彷彿とさせて不思議な読後感が楽しい。
ある短編を読んで思い出したこと。、高校時代生物を担当していたスペイン人の神父が、「私の宝物をお見せします」と言って見せてくれた。白い布に包まれていたのは、骨を抜いて乾燥させテニスボールくらいにシュリンクした真っ黒な首のミイラ。それも三個。ニューギニアで少し前まで(当時)作っていたとのことだったが、そんなもの作るほうも作る方だが、それを手に入れて宝物として所持できるカトリック修道士の価値観にも戦慄した。のどかな日本の高校生にはかなりのカルチャーショックだった。
なお、「ブライトンの怪物」は現代のコードからすればNGだろう。

No.31 9点 白昼の悪魔- アガサ・クリスティー 2017/04/01 18:17
読後何年たってもこの作品はクリアに思い出せる。一触即発の三角関係、太陽がまぶしいリゾート、個性豊かな登場人物、シンプルで大胆なトリック、そしてトリックよりも鮮やかな人間関係の反転。
どれも「ナイルに死す」と同じ。違いはあちらが情景描写を含めてゴージャスなのに対し、こちらはシャープに引き締まった物語であること。あとは似ている。
真相開示も鮮やか。読者にではなく犯人にレッドヘリングをぶら下げていおいて、いきなり虚をつくやり口は数あるポアロものの中でも最上位の鋭さではないか。
敢えて難を言えば「死体」発見時がきわどいくらいか。
無駄のない本格ミステリのお手本のような作品。
「忘られぬ死」や「青列車の秘密」でもそうだったが、クリステイは似た構成の短編を先に発表している。習作と本画のような関係で、読み比べてみると面白い。
映画版、TVドラマ版ともにストーリーが整理されていて出来はいい。TVドラマ版で、ポアロの名指しを完全な無表情で聞いていた犯人がいきなり襲い掛かるシーンは名演技。
評価はTVドラマ10、映画7。映画はピーター・ユスティノフがあり得ないことと「地中海殺人事件」という改題がアホらしいから。

No.30 9点 謎のクィン氏- アガサ・クリスティー 2017/04/01 16:37
「愛」「救済」をテーマにした12編の短編集。しかし決してミステリ風味の恋愛小説ではない。12編すべて本格的なミステリの骨格を持っていて当たり外れはない。後の長編に昇華するテーマやモチーフもいくつか見受けられる。
と、ここまでならよく出来た短編集という評価で終わりなのだが、この作品を濃く彩っているのは探偵役二人、クィン氏とサタスウェイト氏。
クィン氏は半ばスピリチュアルな存在として描かれていて、二人の関係はホームズ、ワトソンやポアロ、ヘイスティングスとは大いに違う。普段は社交界のスノッブな老人サタスウェイト氏が、どこからともなく現れるクィン氏に出会った時だけインスピレーションを得て謎を解き明かす。
したがって二人(?)の関係は生身の人間同士というよりは霊と霊媒のようなものか。あるいはクィン氏とはサタスウェイト氏が夢見た理想の自分、若く自由で俗物根性とは無縁の自分自身なのも知れない。
個性の強いキャラ設定だけあって好き嫌いは分かれるかもしれない。しかしいうまでもなく「相性は読者側の都合であって作品の質とは無関係」である。自分の世界観と合わない場合、すぐれた作品であればあるほど論評には客観性と表現力が求められる。したがって極端に好みに合わない場合は論評を差し控えるというのも一つの見識だろう。
いずれにしてもこの探偵役によって優れたミステリがさらに幻想的な持ち味になった。
クリスティの短編集の中でも「死の猟犬」と並ぶ個性の強い名作。
印象に残るフレーズ
「私はまだ一度もあなたの小径を通ったことがありません」(サタスウェイト氏)
「後悔していますか」(クィン氏)
「い、いえ」(サタスウェイト氏)
セリフの持つ象徴性はぜひ本編で・・・・

No.29 5点 バートラム・ホテルにて- アガサ・クリスティー 2017/03/28 18:10
クリスティは「組織」を描くとどうしてこんなにリアリティがないのだろう。個人をあれほど生き生きと描くのに。
古き良き時代風のホテルの役割が面白いのと、セジウィックのキャラが魅力的なのでオマケ。

No.28 5点 パディントン発4時50分- アガサ・クリスティー 2017/03/28 17:53
タイトルからして列車モノかと思いきや、実は館モノ。
オープニングからいきなり事件発生でテンポよく展開する。
ルーシーの活躍も楽しく読めたのだが、最後の解決がミス・マープルが仕掛ける逆トリックだけというのが弱い。

No.27 5点 11の物語- パトリシア・ハイスミス 2017/03/26 12:31
奇妙な味を持った11話からなる短編集。
分類は難しいがあえて言えば生理的サスペンスかな。緩効性の毒が神経をマヒさせるような読後感になる。
全体に好みとは言えないが、あえてのフェイバリットは「もう一つの橋」。
主人公の虚無感がよく描かれている。

No.26 7点 顔のない肖像画- 連城三紀彦 2017/03/25 16:16
七編の短編集。どれも反転に次ぐ反転で連城ワールド満載。表題作以外は短いがどれも最後の反転に向かって精緻に組み立てられている。余分なドラマ性はない分読みやすい。
その点で「夜よ鼠たちのために」より洗練されている。
フェイバリットは「顔のない肖像画」。
もう少し現実的にして長編にしたらきっと面白いだろう。

No.25 6点 ゼロ時間へ- アガサ・クリスティー 2017/03/25 09:40
よく出来たミステリはあとから思い出しやすい。トリックだけではなく全体像が。
クリスティでいえば例の前衛トリック三作をはじめ「白昼の悪魔」「ナイルに死す」「葬儀を終えて」など。いずれもシンプルな構成の中に生き生きとした人間関係、精緻なトリック、大胆な反転が仕組まれているから思い返してみても全体像がくっきり浮かび上がってくる。
「ゼロ時間へ」は読後すぐでも、トリックだけが印象に残って全体はもやっとしたイメージになる。つまりすっきりしない。ここはこうで・・・・と頭の中で再整理したくなる。で、その原因を考えてみると
(以下ネタバレしますよ)





1.結局これは「未遂事件」だったということ
「いやいや二人も死んでるって。」しかし一人目は単なる口封じ、それに殺人といえるかどうか。二人目は富豪の老婦人、しかも惨殺されるのだから申し分のない被害者だ。ところが読者は最後に、この殺人は本筋のたくらみのための材料に過ぎないこと、そしてそのたくらみは結局未遂に終わったことを知る。
二つの殺人を本命と思って追究してきた読者は最後に微妙な納得を強いられることになる。
2.三つの前振り
本命の犯罪は、被害者を心理的な罠に嵌めて冤罪で処刑するというものだが、この罠は被害者の心理描写だけでは弱い。そのため冒頭に同パターンの話を振って補強しておく必要があった。
やむを得ない前振りだったが、目撃者の前振り、法律家の前振りと重なることで構成は複雑になってしまった。
3.心理的な違和感
細かいことだが、第一の殺人(?)は犯人のキャラにそぐわない。この犯人なら危険な証人を偶然に任せることはしない。
というわけで、ほぼクローズドサークル、いかにもな登場人物、巧妙なトリックのわりに地味な出来になってしまった。タイトルのアイデアは面白かったのだが。
トリックはベタだがよく出来ているので、これを追っていくぶんには楽しめる。
なお、この作品はどういうわけかフランスで映画化されている。往年の名女優ダニエル・ダリューが老夫人を演じていて楽しい。映画の出来はいいが原作に忠実な分、残念なところも同じ。

No.24 5点 忘られぬ死- アガサ・クリスティー 2017/03/22 11:04
「六人の人間が、この世を去ってやがて一年になるローズマリー・バートンのことを考えていた。」
そして彼女が死んだ同じ場所、同じ顔ぶれでパーティが企画されていることが明らかになる。
いかにも傑作ミステリらしい予感。ところが・・・・
(以下ネタバレですよ)





私は「傑作ミステリに名犯人あり」だと思う。名探偵ではない。真相の解明は普通の捜査官でもいいし場合によっては自白や事件調書でもいい。しかし犯人はしっかりとした存在感がほしい。それも作品全体を通して。終盤にいきなり現れた殺人鬼なんてのはゴメンである。
この作品は構成も見事、トリックも鮮やか。しかし遠くにいるはずの、登場シーンも少ない人物が犯人となっていた。しかも初めから札付きと分かっている血縁。それが変装して主犯だったなどというのは私は楽しめない。
一方共犯者は冒頭から存在感があるのはいいが、冷静沈着かつ有能な人物が一目ぼれで共犯者になるというのも無理がある。叙述できわどく補強してあるが。
二人の動機が片や金目当て、片や結婚目当てと異なっている点も弱い。
同時期に書かれた二編の傑作では、いずれも抜き差しならぬ共犯者同志が一つの目標に向かって突き進む。そして二人の関係性にも大きなトリックが仕掛けられている。
というわけでこの作品は優れた構成、鮮やかなトリック+弱い犯人という、私にとっては決定的に残念な結果になってしまった。

No.23 10点 終わりなき夜に生れつく- アガサ・クリスティー 2017/03/21 10:41
読み終えた感想は「ヤバい!これ反則でしょ!」だった。
「反則」は例のミステリの作法のことではない。作法でいえば私は「オリエント急行」も「アクロイド殺し」も「そして誰もいなくなった」もOKです。何なら「犯人はいなかった」(そんな作品ないか)でも大丈夫。辻褄が合って面白ければ。
反則とはこの作品が、ミステリの枠を超えて心にというよりミゾオチあたりに「悪を為す人の心」というダークなイメージを残したこと。
「悪」を為す心の弱さ、エゴ、やさしさ、悲しさをリアリティ豊かに、言い換えると意地悪く描き切ることで、読み手の心に自らのものとしてそのイメージが住みついてしまう。なぜなら人は皆「悪」を為すから。もちろん私を含めて。
読み手、読み方によってはその毒が効かない場合もある。その場合は純粋に謎解きを楽しめるだろう。私の場合はかなり効いた。だからうかつに再読もできない。
普通のミステリは読み手のリアルとは切り離されているから、真相が開示されて解決し、あとは安心して風呂に入って寝るということになる。この作品はそうはいかない。
真相が開示されても解決にはならない。終わりなき夜は続いてしまう。

No.22 8点 アガサ・クリスティー完全攻略- 評論・エッセイ 2017/03/20 14:57
クリスティの全作品を取り上げた力作評論集。
最も参考になったのは、「クリスティの傑作はトリックだけを30字以内で取り出すことはできない。」「クリスティの傑作は作品全体が「騙し」である。」という解説。
自分が今までに面白く読んだミステリはすべてこの構造のものだったことが分かった。
もう一つ分かったことは、高評価は人それぞれだが低評価はおおむね一致するということ。
これは当サイトの評点でもそうですね。
クリスティファンならずともおすすめです。装丁もオシャレ。

No.21 8点 招かれざる客たちのビュッフェ- クリスチアナ・ブランド 2017/03/20 13:48
フルコース料理になぞらえた、コックリルカクテルからブラックコーヒーまでの5コース16編からなる短編集。ミステリ、スリラー、倒叙、いずれも切れ味鋭くブラックな味わいに満ちている。読後感は当然「苦い!」
ベストはオールタイム級の傑作「ジェミニー・クリケット事件」。「騙し」の作法はクリスティのある後期長編を思わせるが、あちらが一貫して悪を為す人の心を描き切っているのに対し、こちらは「すべては最後の一撃のための効果的な長い前振り」という趣がある。(評価10)。
「婚姻飛翔」は本格ミステリの骨格を持った傑作。長編にしたらさぞ読みごたえがあるだろう。(評価9)
いずれも深町訳で読みやすい。
フェイバリットは「スコットランドの姪」。毒がやや薄い分、皮肉が効いていて楽しい。(評価8)、
長編すべてを読んではいないので断定する資格はないが、ブランドの切れ味は中、短編で最も発揮されるのではないかとも思う。
好き嫌いはともかく16編すべて外れはない。書誌と北村薫の丁寧な解説までついて、お得感あふれる短編集。

No.20 9点 シャーロック・ホームズの冒険- アーサー・コナン・ドイル 2017/03/19 13:00
いわずと知れた聖典。小学生のころから楽しんで、今もなお楽しめるというのもすごい。
19世紀ロンドン、ワトソン、ホームズという不動のパッケージに多彩な着想の「お話」が盛られているのが楽しい。そしてこの多彩な着想が後世のミステリ、スリラー、冒険小説へと進化していくということだろう。
フェイバリットは元祖ミステリ「赤毛連盟」と元祖スリラー「まだらの紐」
グラナダTVの名作ドラマシリーズではこの二作に加えて、「ボヘミアの醜聞」「青いガーネット(紅玉)」がおすすめ。
このころはまだ美青年の面影が残るジェレミー・ブレットがさっそうと演じている。ドラマは四作とも評価10。

No.19 7点 ジェゼベルの死- クリスチアナ・ブランド 2017/03/19 10:56
「緑は危険」と並ぶブランドの代表作。トリックの精度はあちらのほうが上だが、作者らしいブラックな味が楽しめるのはこちら。
冒頭の「死」から七年後、殺人予告が次々に来て・・・とテンポよく展開する。
そして衝撃のクライマックス。
また本筋とは関係ないが、第二の死体発見のシーンは大いにウケた。
ところがそのあと展開はもたつき始める。ブラックなトリックが明かされる最終盤はさらに「散らかっている」。ここは切れ味鋭い刃物のような真相開示を期待したいところなのに。
コックリルもずいぶんもたついている。ポアロの真似をする必要はないが、何もここで読者をイラつかせることはないだろう。
人物の名前で遊ぶ作者の癖も困りもの。ネーミングに洒落があるのは結構だが、一人の人物を二、三通りに呼び変える癖にはイライラする。
イゼベルとブライアンは別として、ジョージ=マザーディアー、エドガー・ポート=シュガー・ダディなんてどうせ皮肉な呼び名なのだから、紛らわしいカタカナにせずに「ジョージ坊や」くらいに意訳すればいいのに。と訳者に八つ当たりしたくなる。
八つ当たりついでにさらに、例の人物の「訛り」の日本語訳には非常に違和感がある。あれでは訛りではなく別の方向にキャラがイメージされてしまう。
単なる日本語への置き換えではなく、日本語で作品を再創造するくらいの新訳が出たら評価は2ポイントは上がるところだ。
とはいってもブランド一流のブラックなキャラ満開のミステリ。未読の人にはお勧めです。

No.18 9点 そして誰もいなくなった- アガサ・クリスティー 2017/03/18 13:18
いわずと知れたクリスティの三大前衛ミステリの一つ。他の二作同様、ネタバレを食わなかった幸運な人だけが人生に一度楽しめる。
展開は邦題通り、猛スピードで次々に人が殺されていく。推理する暇はあまりないから終盤まではミステリというよりスリラーテイスト。
真相は最後に明かされるが、犯人のダークな心象は後期のクリスティ作品にも通じるものがある。
こんな着想を単なるパズルミステリに終わらせない力量はさすが。
それだけでもう満点だが、最後から二番目の「死」を心理的な可能性に頼った点でマイナス一点。

No.17 6点 緑は危険- クリスチアナ・ブランド 2017/03/17 09:56
陸軍病院という閉じられた空間、限られた登場人物、そして次々に起こる殺人と殺人未遂。
申し分ない本格派ミステリの骨格を持った長編である。にもかかわらず読後の感想は「うーん長い!」であった。
実際には300P(ハヤカワ)だからそれほどの尺ではない。長く感じるのは、最初の殺人が起こるまでと後半の容疑者六人が軟禁される場面。この両方で全体の半分を占める。
特に後半、読者としては六人が軟禁されてお互いが疑心暗鬼になり、じわじわと真相が見えてくるスリルを味わいたいところだが、そうはならない。お互いに遠慮しながらの推理合戦でそこに真相はないことが見えてしまう。そして真相は突然外(警部)からやってくる。直前に荒っぽいミスリーディングを伴って。
四つの事件の関連性、巧みな伏線、複数のミスリーディングなどが精緻に組み立てられているから、フーダニットを最重視する読み手には満足感は大きいだろう。しかし私には高性能のエンジンとシャシーに大きすぎるボディを乗せた車みたいに思えた。前半と終盤をコンパクトにしたら引き締まったいい中編になっただろう。
短編集「招かれざる客たちのビュッフェ」のような毒のある切れ味は感じられなかった。
ミステリを商品としてみた場合の不満もある。人物をその時々で、姓、名、ニックネームで呼び変えるのは不親切である。英語のネイティブはこれでも煩雑ではないのだろうか。もちろん原文がそうなっているのだろうが、ここは訳者の裁量でファーストネームとフルネームくらいに統一できなかったものか。

No.16 9点 オリエント急行の殺人- アガサ・クリスティー 2017/03/16 10:57
採点はむつかしい。
とにかくこのトリックを小説化しただけでもう満点ともいえるし、その分犯行のリアリティや、謎解きの楽しさが犠牲になっているともいえる。
でも読まないより読んだほうが「一度目は」思いっきり楽しいのでこの評価。
映像に向いた作品と見えて、映画もTVドラマもそれぞれ名作になっている。
映画はオールスターの演技合戦が見もの。アルバート・フィニー(ポアロ)の速射砲のような尋問を「食い」ながら返していくウェンディ・ヒラー(公爵夫人)の緊迫感あふれるやり取りが印象に残っていたがDVDでは別テイクになっていた。
TVドラマ版は重厚でシリアスな改変は見事だが、一部のキャスティングが物足りない。
ともに評点9。

No.15 8点 葬儀を終えて- アガサ・クリスティー 2017/03/16 10:10
お屋敷、富豪の死、遺産相続、連続する死者、と絵にかいたような古典本格派ミステリの構成。
しかも開始早々、たった一言のセリフでいきなりミステリモードに突入する。
比較的後期の作品のわりに人間ドラマの要素が少ないので落ち着いてフーダニット、ホワイダニットが楽しめる。登場人物がいささか多すぎるが。
どの作品でもそうだが、現実世界のリアリティとミステリ内のリアリティとの距離をどうとるかによって楽しみ方は変わってくる。現実寄りにリアリティを設定すると、この犯人がフェルメールを換金することは全く不可能だから、この作品は評価できなくなる。同様に入手方法としてこんな仕掛けをするかという疑問もありうる。そして例のトリック、ミステリではおなじみだが、現実ではまず使えない(厳密な意味では)。
私はここでは、いずれもミステリ内のリアリティ基準としてアリとする。ただしクリスティも多用する例のトリックは作品によって、またその前提条件によって評価は変わってくると思う。
なお、デヴィッド・スーシェ主演のドラマ版ではストーリーが若干改変されていて、個人的にはより楽しめた。
細かいところでは、フェルメールがレンブラントになっているし、きわめて礼儀正しい犯人が最後の最後にタガが外れたような壊れっぷりを見せる。鬼気迫る演技で見ごたえがある。
ドラマ版もおすすめ。(こちらは10点)

No.14 9点 ブラウン神父の童心- G.K.チェスタトン 2017/03/14 17:03
初めて読んだとき、ルパンとホームズしか知らなかった中学生は「大人のミステリとはこういうものか!」と感激した。
十分な大人になって再読すると、メルヘンな味わいを持った、とてもよくできたミステリという感じがする。
近年新訳が二つも出たので比較を。
「オリーブとシルバーの色にとざされた嵐模様の夕暮れがせまるスコットランドの灰色の谷、そのはずれにやって来て、なんとも妙なグレンガイル城をつくづく見やっていたのは、これも灰色のスコットランド式肩掛けにくるまったブラウン神父であった。」(創元)
「オリーブ色と銀色の嵐の夕暮れが迫る頃、ブラウン神父は灰色のスコットランドの格子縞羅紗服にくるまり、灰色のスコットランドの谷のはずれへやって来て、奇怪なグレンガイル城を見やった。」(ちくま)
「オリーブ色と銀色の嵐の夕暮れが迫る頃、ブラウン神父はスコットランド風の格子縞の肩掛けをまとい、灰色のスコットランドの谷の外れにやってきて、奇怪なグレンガイル城を眺めやった。」(ハヤカワ)
いずれも「イズレイル・ガウの誉れ」の冒頭。
旧訳が英文の逐語風で読みにくいのに対し、新訳はいずれも日本語としてこなれている。ちくまがあえて漢語表現を多くして、一種の風格を感じさせるのに対し、ハヤカワは圧倒的に読みやすい。(活字もいちばん大きい)
12編中のフェイバリットは「折れた剣」。初めて読んだとき、映画にしたらさぞ見ごたえがあるだろうと思った。
また「木の葉は森に隠す」「森がなければ森を作る」というフレーズなど、その後の行動哲学に影響するくらい心に残った。

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